「みなさん、早く逃げてください!!」
「ロッカ!?」

 立ち上る炎は赤々と闇に染まった空を照らし、周囲の森へと飛び火していく。
 ここは、レルムの村。
 聖女の噂で人が押し寄せ、一躍有名となった村だった。
 しかし、村人や村を訪れていた冒険者、聖女を一目見ようとやってきた人間たちは、1人残らず焦げた大地にその身体を伏していた。

「くそっ、なんなんだよあいつ等はっ!?」

 そう。
 今、村は何者かによる襲撃を受けていたのだった。


「あいつは僕たちがここで食い止めます。ですから・・・」

 愛用の槍を手に目の前にたたずむ黒い甲冑を身に纏った男をにらみつけながら、

「アメルを! その子を連れて、逃げてください!!」
「あたしはいやですっ! おじいさんたちを置いて逃げるなんてできません!!」
「聞き分けのないことを・・・っ!?」

 緑髪の男性が背後から忍び寄っていた黒い鎧の攻撃を大剣で受け止め、

「あっぶねえなっ!!」

 そう口にしながら刃をはじき返し、無防備になったところへその大剣を振り下ろした。

「くそっ、これではキリがないぞ」
「「・・・・・・」」

 2人の男女は両の目をぎゅっと閉じた。
 胸元には、同じ×の字のレリーフが刺繍されていて、それがどこぞの制服であることは明らかだった。
 2人はポケットに手を突っ込んで、今所持しているありったけのサモナイト石を取り出すと。

「「なんでもいいから、でてこ〜いっ!!」」

 無差別に魔力を注ぎ、石は光を帯びていく。

「きっ、君たちはバカか!? そんなことをしたら、暴発どころじゃすまないぞっ!」

 眼鏡の男性が叫ぶ。
 しかし、時はすでに遅し。サモナイト石は強い光を帯び、召喚術が発動していたのだった。

「暴発するぞっ!!」
「お前ら、全員地面に伏せろっ!! デケエのが来るぜ!」
「ひゃわわわっ!?」

 子供の姿をした悪魔が叫ぶ。
 それに従って、全員がその場に身を伏せる。1人、緑を基調とした服を着た少年だけはパニックに陥っていたが。
 そして、発動した召喚術は膨大な白煙を発生させて、その場を覆い尽くしたのだった。
 ・・・特に、危険はなさそうだ。

「ラッキー!! みんな、奴の視界がふさがった。今のうちに行くぞっ!」
「ちょっと、フォルテっ!」

 いち早く立ち上がったフォルテという緑髪の男性は、全員を逃げるように促す。
 彼を呼んだ巫女服を纏った女性も、慌てて立ち上がると近くの仲間の背中を押した。
 2人はフォルテとケイナ。冒険者である。
 こういった状況には慣れているのか、彼女もフォルテも、慌てた様子は見られない。

「そっ、そんなっ!」
「大丈夫だよ、アメル。ちょっとお別れするだけだから」

 必ず迎えに行くから。

 ロッカはアメルという青を基調とした服を来た少女を安心させるように微笑んだ。
 彼女は目尻に涙をためて、納得がいかないかのように、とにかく叫ぶ。

「ロッカ、リューグ、おじいさぁぁんっ!!」

 いまだ消えない白煙で顔すら見えなくなっていた自らの家族を案じて、フォルテに抱えられながらアメルは叫ぶ。
 一行は敵の目をかいくぐって、必死に森の外を目指したのだった。









「逃げたか・・・」
「うるせえよ。村を・・・俺たちの大事な故郷をよくもここまで壊してくれたな!!」

 赤い前髪なびかせながら、青年は叫ぶ。
 背格好、髪型、顔つきすらも隣のロッカと酷似している。
 彼の名はリューグ。青い前髪のロッカとは双子の兄弟という間柄。
 重そうな戦斧を両手で持って、憎しみの炎をその目に宿して。
 リューグは叫んだ。

「許さねえ・・・許さねえぞっ!!」
「よせっ、リューグ!!」

 ロッカの声を聞かず、リューグは焼け焦げた大地を駆ける。
 目の前の黒い騎士を視界の中心で捉えて、戦斧を振り上げるが。

「っ!」
「ぐあっ!?」

 騎士は彼の戦斧を片手に持った大剣で受け止めて、弾き飛ばした。
 渾身の力を込めたのに、通じない。
 リューグは弾き飛ばされ、背中から地面に落ちて咳き込むものの、内心では自分の無力さを嘆いた。
 歯噛み、唇の端から一筋の血液があごへと流れていく。

「『鍵』がいないのなら、ここにはもう用は・・・っ!!」

 そのとき。
 発生した白煙が晴れ、闇が覆い尽くした空から、『それ』は落ちてきた。





「ぅゎぁぁぁあああああ!!」







 どがぐしゃぁっ!!!!





 激しい音を立てて、ロッカやリューグに比較的近い場所へとそれは落下した。
 そのあとすぐに、とす、という小さな音がしたのだが、周囲の雑音にかき消されて誰も気づくことはなかった。

「な、なんじゃ・・・」

 炎がそこらじゅうから立ち上っているにも関わらず、リューグ同様に巨大な戦斧を携えた壮年の男性が声を漏らす。
 彼はよほど鍛えていたのか、全身の筋肉が盛り上がっいる。
 どうすればそこまで筋肉がつくのか、それはよくはわからない。


「いったたた・・・」


 ちょうど比較的やわらかい土の上だったからか、落ちてきた『それ』は腰をさすりつつ立ち上がる。
 少し汚れのついた白いシャツに、紺色の長ズボン。茶褐色のベルトを左右にゆるく巻いた腰には、棒状のものが1本差し込まれている。
 まだ少年に近い顔つき。黒髪で、額の真ん中から前髪を分けており、瞳は炎に照らされて真っ赤に近い。

 顔を上げた青年は周囲を見回して。




「もっ、燃えてるっ!?」


「遅せええぇぇっ!!」





 ようやく現在の状況に気づいたのだった。







    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    プロローグ −前編−








というわけで。
やっちまいました2連載プロローグ(前編)です。
名前変換一切ありません。時間軸は、2をプレイ済みの皆さんならピンと来るかと思います。
はい、事件の発端となった、あの場面ですね。


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