「いたた」

 両腕に極力刺激を与えないように、そろりそろりと帰り道を歩く。
 それは、誰が見ても滑稽に見えて。
 少なからず、笑いを堪えている者も見受けられたのだが、両腕の痛みが悪化するとイヤなので、怒るに怒れない。

「さっきから変な歩き方をしているが、何かあったのか?」

 結局、そう尋ねたのはエドスだった。
 歩みを止めずに顔だけを彼に向けると、

「さっきので、腕の筋がやられたみたいでさ」

 苦笑いを浮かべた。


 鬼神化したカノンの拳を受け止めたのだから、普通ならばそれこそ見るにたえない光景になっていたのだろうが。
 彼は気で少し強化していたので、筋が切れるだけで済んだのだ。

「しっかし、お前無謀なことするよな。あんなのの前に立ちはだかっちまうんだからな」
「大切な友人を助けるためだ。仕方ないだろ」
・・・」

 ガゼルの呟きにしっかりと答えながら、は「今治しますから!」とアヤに手を取られ悲鳴をあげたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    閑話  敵か味方か





 孤児院にたどり着いたときには、すでに空は暗くなっていた。
 太陽は地平線へとその姿を隠し、代わりに月が顔をのぞいている。
 道すがらアヤに召喚術で腕を治してもらったのだが、それでも完治はせず「最低でも一晩は腕を酷使しないでくださいね」と彼女の隣りにいたクラレットに釘をさされてしまっていた。

 そして、今は夜中。
 みなはすでに眠ってしまい、あてがわれた部屋の窓を開けたは微風を肌に感じながら星空を見上げていた。
 こうしていることには特に意味はないのだが、なぜかそうしたかったのだ。

「混血、か・・・」

 思考を昼間へと戻す。
 自分が召喚獣との混血だからという理由で周囲に馴染むこともなく、孤立し、居場所を失ったカノン。
 そんな彼に居場所は奪ってでも手に入れろと教えたバノッサ。

 召喚術を手に入れるためならどんなことでもやってのけようとする彼も、どこかで居場所を失っているのだろう。
 戦闘でも召喚術は大いに役立つのは、昼間の戦闘で実証されている。彼が欲しがるのも無理はないと、は思った。



 そんなとき。



「彼は、一体何者なんだ・・・?」
「わかりません。ただ、あの4人の大事な友人なんだということくらいは理解できます」
「でもさでもさ。あのカノンの攻撃を両腕で止めちゃうなんて、いくらなんでもおかしすぎるって」
「あんなナリしてても召喚獣なんだ。もしかしたら、俺たちの想像もつかないような化け物なのかもな」

 4つの声が、頭上から聞こえてきていた。
 話から察するに、話題はのこと。身体の大きさからして違いすぎる敵の攻撃をいとも簡単に防いでみせた彼に、やはり疑問を感じていたのだ。

 おそらくソルのものだろう、低くよく通りそうな声から化け物、という言葉を聞き取って、そうなのかもな、と自嘲してみる。
 島の戦いでディエルゴに取り込まれかけて、父の教えとはいえ召喚術とは違う『気』という名の不思議な術を使えるし。極めつけは普通の人間とは思えない戦闘力の高さ。
 化け物といわれても、それは偽りではないだろう。

「まぁ、そう思うのも仕方ないよな」
『!?』

 だからこそ、頭上へ向けてそう声をかけていた。
 驚いたように押し黙り、4人は見えない自分の下へ顔を向ける。

「俺も色々と経験してきたから、化け物とか思われても仕方ないと思う。疑ったって別に構いやしないさ。でもな・・・」

 言葉を切り、息を吸い込む。
 4人と同じように見えない頭上を見上げると、天井を思い切りにらみつけた。



「彼らは俺の大事な友人だ。もしあの4人によろしくないことをしてみろ・・・彼らが仲間だと思っている君たちでも、許しはしない」



 殺気をも込めて、低い声でそう言い放つ。
 息を飲み込む音が、聞こえたような気がした。

「それに、君たちのこと・・・いや、君たちの雰囲気だが。俺の大嫌いな男によく似てる」

 窓に手をかけて、呟くように口にした。
 島の仲間をその手にかけた、無色の派閥の大幹部。現在の時間からすればかなり昔の話になるのだが、生憎とからすればそれほど長い時間ではない。

 過去へと思考を飛ばす。
 彼の所業で傷つき、涙する2人の男女の姿。
 それは見るに耐えないもので。自然とあのときの怒りが込み上げる。

「君たちが俺のことをどう思おうが、今の俺のこの気持ちだけは・・・変わることはない」

 そう告げて、窓を閉めたのだった。





 前々から、気になっていたことがあった。
 自分のフラット加入とほぼ同時期に孤児院に住みはじめた4人の男女。
 彼らは召喚師らしいのだが、どこの派閥に所属しているのだろうかと。
 金の派閥は1人の女性以外に召喚師を見たことがないし、蒼の派閥の召喚師に限っては見たことすらないのだ。

 ベッドに飛び込んで、顔をうずめる。
 ちょっときつい言い回しだったかな、などと後悔しながら頭上へ意識を向ける。
 4人はまだ屋根の上にいるようだ。

「なにも、起こらなければいいんだけど」

 そんなことを呟き、眠りに落ちたのだった。






と、いうわけで閑話でした。
主人公ちょいと性格おかしいですが、それも大事な友人を大切に思ってのことです。
そして、無色の派閥の影に主人公気付いています。



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