「どうしたんだよ、ガゼル?」
まだ朝方であるにも関わらず、ガゼルは居間でくつろぎまくっていた。
なんでも、今日は物騒な日らしいのだが。
隣りのエドスが言うには、
「今日はな、税金を納める期限の日なのさ」
ということらしい。
街のあちこちに兵士が出ているから、自称盗賊で通っているガゼルにとっては物騒すぎるということなのだ。
普段から普通に生活していれば、捕まることなどないらしい。
尋ねたハヤトは笑みを浮かべたのだが、彼を含む5人は召喚されてきているので。
「捕まったらいいわけできねえ立場だろうが」
「ぐ・・・」
返す言葉すら思いつかなかったのだった。
結局、彼は「寝る!」と一言言うと、部屋に引っ込んでしまっていた。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第25話 本当の勇気
「私との約束を破るつもりなのか!?」
ちょっと出かけてこようかと玄関に向かった矢先。レイドの大きな声に彼の部屋へ顔を向けると、レイドの部屋へ続く扉になぜかハヤトとナツミがへばりついていた。
顔だけ横を向いているところを見ると、どうやら中の様子に聞き耳を立てているらしい。
「2人とも、そんなところでなにやってるのさ?」
「しぃ〜、黙って!」
「なんか、アルバが剣術道場をやめたいって言ってるみたいなんだ」
そうハヤトがに簡単に説明をした直後。
「待ちなさい・・・!?」
そんな言葉と共に、おもむろにレイドの部屋の扉が開くと、アルバが涙目で飛び出していったのだった。
ちなみに、扉にへばりついていた2人は、そのときに壁と扉に挟まれてぺしゃんこになっていた。
開いた扉の先でレイドがの姿を確認すると、はレイドに向けて苦笑いを見せた。
「聞いて、いたのか」
「正確にはそこの2人がね」
そう言って事の成り行きを尋ねると、さきほどハヤトが言ったことがそのまま答えとして帰ってきていた。
自分の稽古・・・というよりは演舞に近いものだったのだが、それを見て目を輝かせていたり、「大きくなったら騎士になるんだ!」と胸を張っていた彼が。
「道場での稽古は厳しいからな。遊び気分で続くものじゃない」
レイドはそう言ってはいるが、彼は遊び半分で稽古をしてはいないだろうな、と。
それを確信していた。
稽古の際に数度、会話を交わしただけだたのだが、彼の剣術に対する意気込みはとても遊び半分で稽古してます、と言っているようには見えなかったから。
「あの子にはまだ早かったのかもしれんな」
やる気のない者に無理をさせたところで、意味はないから。
彼はどこか悲しげな表情を浮かべて、そう呟いたのだった。
レイドの部屋を出た3人は、満場一致でアルバを探すという結論に至っていた。
自分たちには何もできないかもしれない。
けど、ここまで聞いてしまったから。彼らの問題に関わってしまったから。
彼らの性格上、放ってはおけないのだ。
アルバはすぐに見つかった。
「よう、アルバ」
「男の子が泣いてたら、かっこ悪いわよお」
「泣いてなんか・・・ないやいっ!」
ぐしぐしと腕で涙を拭うと、軽くナツミをにらみつけた。
「事情は聞いた。剣術習うの、やめたいんだって?」
そんなハヤトの問に、アルバは首を横に振っていた。
彼曰く、剣術をやめたいのではなく、ただ道場に行きたくないだけなのだとか。
つまり剣術をやる意欲はあるのだが、道場に問題があるということだった。
「なにか、理由があるんじゃないのか?」
剣術の稽古が厳しいことは、もよく知っていた。それでもアルバは真面目に道場に通いつづけてきたのだから、とはしゃがんで目線をアルバにあわせると、そう尋ねていた。
今まで頑張ってきたのに、理由もなく急にやめたいとは思わないはずだから。
彼が口を開いたのは、自分たちにこれから言うことを誰にも言わないと約束させた上でのことだった。
なんでも一緒に稽古を受けている子供たちが、言われてもいないところに剣を打ち込んだり、稽古といって大勢で殴りかかったり。
いわゆる、
「ずいぶんと悪質なイジメだな」
呟いただけでなく、ハヤトもナツミも同じことを考えていたようで、ほぼ同時にうなずいた。
「どうしておいらのこといじめるんだ、って聞いたんだよ。そしたら・・・」
理由は、『先生であるレイドにひいきされている』から。
アルバからすれば、そんなことをされたつもりはないとのこと。
普段は一緒に住んでいても、道場では『先生』と呼び方を変えるし、稽古だって手を抜いてやった覚えもない。
この言葉にウソはないだろう。今までの彼を見てきたからすれば、彼は暇さえあれば自主的に剣の素振りをやっていたくらいなのだから。
「どうしたらいいの? おいら、剣術はやめたくない。けど、道場に行くのはいやだよう・・・」
再び目に涙を溜めるアルバに、
「我慢するしかないな」
ハヤトはそう答えていた。
アルバがいじめられても仕方ないとか、そう言った理由ではない。
ただ、これはアルバの問題だから。だから、彼自身で解決していかないといけないのだ。
そのための助言ならできるかもしれない。でも、実際に周囲を納得させなければいけないのは彼だから。
「いじめられるのがイヤなら、レイドに相談をすればよかった。でもアルバはそれをしないで、道場をやめたいって言った」
どうしてだい?
その問に帰ってきた答えは、告げ口は卑怯だからというもので。
「そう思ったアルバは立派だと思う。でも、だからって道場をやめるっていうのは、ちがうと思う」
「でも・・・」
「アルバは、自分がひいきされてると思ってないんだろ?」
ちがうと断言するアルバに、満足げな笑みを浮かべると、
「道場をやめるってことは、みんなの間違いをアルバが認めちゃうってことになるんだぞ?」
「・・・・・・」
「間違いを間違いっていえることが、本当の勇気なんじゃないか?」
な? とハヤトはの隣りでしゃがむと、肩に手を置いた。
「本当の、勇気・・・」
「アルバ。もう、これからやるべきこと。わかるんじゃないのか?」
「・・・うん! 勇気を出して、頑張ってみるよ!」
彼がこれからやるべきこと。
それは、イジメをしてくる子供たちに間違いだ、自分は真剣に剣術を習いたいんだということを伝える。
口ではなんとでも言える。だからこそ、自分がどうしたいのかを態度で示さなければならない。
だからこそ、伝えた上で自分が真面目に稽古をしているところを見せ付けて証明すればいいのだ。
アルバはどこか吹っ切れたような晴れ晴れとした笑みを見せると、孤児院へと戻っていったのだった。
「これで、アルバは大丈夫だな」
「そうだね」
しゃがんでいた身体を立ち上がらせ、互いに顔を見合わせると笑みを浮かべのだった。
ちなみに、先ほどから声を発さないナツミは何をしていたのかと言えば・・・
「しかし、1人に大勢でリンチってのは、ちょおっといただけないわね・・・」
道場に殴りこんで、そのひん曲がった根性たたきなおしてやろうかしら・・・
いや、しなくていいから。
今の彼女がもしそんなことをすれば、道場は地獄絵図と化すだろうから。
とハヤトは、ため息をついて両手を横に振り否定の意思を示したのだった。
第25話です。
アルバのイジメイベントでした。たしか、この後8話だかでその結果が聞けたものだと思いますが。
最後のナツミのセリフは自分でなんとなく彼女っぽいとか思いながら書きましたが、どうでしょう?
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