「あ、若師匠! ハヤトのアニキにナツミのアネゴ!」
「いいかげん若師匠はやめ」
「アニキたち、ヒマかい?」

 アルバを説得した後、特にやることもなかったのでフラットへ戻ってきたのだが。
 扉を開けて玄関に入ったところで、ジンガに呼び止められていた。

「ヒマよぉ。いま、キング&クイーンオブ暇人よぉ〜」

 なんだそれは。

 だるそうに答えるナツミだが、たしかにやることもなくなぜかダルダルなので突っ込むのはやめておく。

「だったら、俺っちと一緒に市民広場まで行かないか?」

 トウヤのアニキとアヤのアネゴも誘ってるんだぜ!

 居間から出てきたトウヤとアヤに遭遇し、ジンガは歯を見せて笑う。
 なんでも、彼らもとにかく暇だったらしく時間つぶしになればと同行することを決めたのだとか。

「なんか知らないけどさ。この街の騎士たちが集まってるんだ」
「アルバが飛び上がって喜びそうな話だな」

 はそんなことを呟いてみる。
 先ほどまでそのアルバを諭していたところだから出た言葉だろう。

「まさか・・・お前、騎士に勝負挑むつもりなんじゃないだろうな!?」

 戦いが好きなジンガだからこそ、とハヤトはそんな考えに行き着きそう尋ねてみたのだが、

「なんでトウヤのアニキと同じこと言うかな」

 トウヤも同じ不安を抱いているに違いない。



 きっと・・・今も。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第26話  クーデター発生





 というわけで、やってきました市民公園。
 いつもなら人はまばらなのだが、今日だけは違っていた。

「うわぁ・・・」
「す、すごい数の騎士さんがいますね」

 アヤの呟きのとおり、公園の周囲を埋め尽くさんと言わんばかりの数の騎士たちが、同じ甲冑に身を包んでいた。
 その中心を背伸びをしながら覗き見ると、

「あ、あれは・・・」
「なにかいたの?」
「ほら、城門で僕たちを怪しいって疑って来た人・・・」

 トウヤの声に、3人は思い出したかのように両手をぽんと叩く。
 知り合いなのかと尋ねれば、ナツミが眉を歪ませて、

「あたしたちに濡れ衣をかぶせた張本人がいるのよ」
「ナツミちゃん、言いすぎですよう・・・」

 そんな問答を聞きつつ、もジンガも背伸びをして公園内を覗き見ると、そこには1人の兵士と話をしている少女の姿が見えていた。
 背が小さく、表情に抑揚はない。黒い髪をうしろで結わえ上げ、クマだかネコのような髪飾りで止めていた。

「罪人の点呼は済みましたか?」

 少女の口からそんな言葉が聞こえ、一同は目を丸める。




「罪人だって・・・?」
「なぁ、あの人たち本当に罪人なのかなぁ」

 そんなジンガの問いに再度背伸びをして中を除き見る。
 たくさんいる騎士たちの中に、普通の服を着た人が一塊に集められているのが見えた。
 体格のいい男性や、老人。挙句の果てにはとても罪人には見えないような女性や子供まで見て取れた。

「たしかに、あの人たちを見ていても罪人とはとても思えないけど」
「・・・罪人ですよ」
「「えっ?」」

 公園の眺めるアヤとトウヤの横で、1人の男性がジンガの問に答えるように呟いた。
 全員が一斉に声の咆哮を見やる。茶色の髪をオールバックにし左眼を閉じており、年齢は20代後半という印象を受ける男性だった。

「彼らは税金を払えなかった罪で、捕まった人たちなのです」
「なんだよそりゃ!?」

 ジンガが驚くのも最もである。
 ただ税金を納めなかった、という理由だけで捕まって罪人扱いされてはたまったものじゃない。

 そして、罪人として扱われている彼らはというと。

「この広場で見せしめにされた後、足りない分を労働奉仕で払うことになります」
「ずいぶんだな、それは」

 日本では、そう言った習慣があるわけがない。
 しかしこのサイジェントという街ではそれが当然なのか、周囲を見回しても数いる野次馬の中に疑問をもっているような人間は誰一人としていなかった。

「仕方ないんですよ。そう領主が決めたのですから」
「いくらなんでも、酷すぎますよ。これは・・・」
「この街の領主は、一体なに考えてんのよ!?」

 眉を吊り上げたナツミは、ぶつけようのない怒りを地面に向けて蹴りつける。

「決めているのは領主ではなく、正確には召喚師たちが決めて領主を利用しているのですよ」
「は・・・」

 なんという茶番だろう。
 そんな領主なんかいなくたって変わらないではないか。

『このサイジェントの街の政務をとりしきる、イムラン・マーン様とは私のことだ!』

 以前戦った金の派閥の召喚師のとても20代とは思えないような顔が思い浮かび、頬の筋肉が引きつるのを感じる。
 彼が政務をとりしきっているのだから、このバカげた納税制度を決めたのも彼の一派だろう。

「召喚師の力が怖くて、泣き寝入りをしているんでしょう」

 先日のオプテュス戦でもハッキリしているように、召喚師の力は非常に大きい。
 暴動を起こしたところであっという間に鎮められてしまうことが分かりきっているからこそ、誰も反乱を起こさずに従っているのだろう。

「ですが・・・全員が全員、そうしているわけでもないようですね?」

 男性が、先刻のように公園内を覗き見る。彼は背が高いので、背伸びは必要がないのだ。





「もう我慢できん! 俺たちが、一体なにをしたって言うんだ!?」

 働けば働くほどに高くなっていく税金。
 そんなもの払えるわけがない、と赤い髪の男性が1人声をあげた。

「あの者は?」
「はっ、義賊をきどっていた盗人の頭目です」

 それを聞くと、兵士と話していた少女はてくてくと男性に歩み寄ると、

「人の富を盗んだこと。それが貴方の罪ではありませんか?」
「ハッ、だったら貴様らの親玉も同罪だろう? 市民から税金を力で奪い取ってる、立派な盗人様だろうが!?」





「ある意味、正論だな」

 男性の声を耳にして、はそう呟いていた。
 自分はこの街を治める領主なのだから、何をしたって許される。もしかしたら、そんな考えを持っている人なのかもしれない。
 そうなれば、その領主は権力を盾にした立派な泥棒だ。

「言っていることは分かりますが・・・」
「気持ちも、わからんでもないね」

 兵士と言い合う男性は、自分が正しいといった余裕の表情を前面に貼り付けて、剣を抜いた兵士をにらみつける。
 さらに追い討ちをかけるように、兵士に向けて暴言を吐いていく。
 兵士の表情は、すでに怒りまくって顔を真っ赤にしつつ、剣を振り上げた。

「アニキ、アネゴ、若師匠!」
「「ああ(ええ)!」」
「お待ちなさい!」

 助けようと駆け出す足は、男性の一声で止められてしまう。
 なぜ止めるのかと、彼を見やると、

「貴方がたが行かなくても、大丈夫です・・・」
「え?」

 尋ね返そうとした次の瞬間。

「あ・・・」

 剣を振り上げた兵士は、赤い甲冑に身を包んだ男性が割ってはいることで腹部に拳をもらって悶絶していた。
 彼に見覚えがあるのか、とジンガを除く4人が目を丸める。

「あの人・・・」
、ジンガ! あの人が『謎の剣士』よ!」

 荒野の召喚陣を調べに出かけた際に、オプテュスの襲撃から助けてくれた剣士。
 そのときにナツミが『謎の剣士』さん、と安直なネーミングをしていたので、それが定着してしまっていた。





「ラムダだ! 【アキュート】のボスのラムダだぞっ!」

 野次馬のうちの1人が、そう叫んだ。
 それを聞いたところで、サイジェントに来て間もないやジンガにはよく分からない話だったのだが。

「ラムダって言うのか・・・」

 唯一分かった彼の名前だけをしっかりと呟いたのだった。





「罪なき人々よ! さあ、今こそ立ち上がるのです!!」

 叫んだのは、先ほどまで会話をしていた男性で。
 いつの間に移動していたのか、彼は今公園の中心に位置していた。
 その隣りには、金髪の女性が。反対側には、スキンヘッドの目立つ男性が。
 「領主を許すな!」とそれぞれ声をあげていた。

「あの人、反乱分子だったのか・・・」
「前に繁華街で会った、きれいな女の人もいますよ!?」

 アヤが指差したのは金髪の女性で。
 城門で濡れ衣を着せられたのと同じ日に繁華街で出会ったのだとアヤはその時のことを知らないやジンガに説明を施したのだった。

「ちょっとちょっと。感心している場合じゃないわよ、アンタたち!」

 あたしたちも早く逃げないと巻き込まれるわよ!

 ナツミのそんな一言で、一行はその場をそそくさと離脱したのだった。






第26話です。
アキュートチームが登場しました。
私は、セシルの武器がブーツっていうのが不思議でなりません。


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