フラットに戻って、事情を説明。
 街が騒がしくなったことを知っていたのか、帰ってきた途端にエドスが声をあげていた。

 いきり立つエドスを制して居間へ移動すると、現在にいたる経緯を順を追って説明した。

 まず、納税の義務を怠った数人の人々が市民公園の中心に集められていたこと。
 騎士団の人たちがその数人を『罪人』と呼んでいたこと。
 その中に、義賊ローカスがいたこと。
 片目を閉じたままだった男性との話。そして、暴動。

 今現在の事態を把握するため、全員が真剣な表情でその話に耳を傾けていた。

「その義賊の男の話は、ワシも知っとるぞ。たしかローカスという名前だったかな。貴族の屋敷から財宝を強奪しては、人々へと配っていたって話だ」
「へえ、気前いいなぁ」

 何気なく答えたジンガだったが、やってることは泥棒と大差ないことは理解できていた。
 自分の得にならないのに、自分がやりたいからやっているのだろう。
 そんな考えが、浮かんでは消えていく。

「それよりも暴動を扇動した連中ってのが、気になるな」
「そうね」
「荒野で会ったあの剣士がリーダーだったんだよ」

 名前はラムダ。
 荒野のクレーターを調べたときに出会った、大剣を巧みに操っていた剣士だった。
 その名を聞いた途端に、

「ラムダだって!?」

 レイドは驚愕の表情をあらわに、声をあげていたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第27話  アキュート





 ラムダとレイドは、以前騎士団にいたときの先輩と後輩。
 剣技に優れ、高潔な心をもっていたというラムダ。
 そんな彼に憧れを抱いていた、とレイドは少し興奮気味に呟いた。

 そして、今なぜ彼が騎士団をやめてしまっているのか。
 がそう問えば、

「辞めさせられたんだ」

 返ってきたのは、そんな答えだった。
 もともと、召喚師たちに煙たがられていた彼は、ある任務が失敗してしまったのを口実に退役させられてしまったらしい。
 邪魔な存在だった彼がいなくなったことで召喚師たちは力を強め、領主までもを手篭めにしているのだ。
 そんな状況に絶望した当時騎士だった彼を含めた騎士たちは次々と城を去った。
 それが、レイドが騎士を辞めた理由だった。

「召喚師に頼るあまり、民衆のことを考えなくなった領主と、それを止められなかった我々のことを、あの人は許せないんだろうな」

 彼が立ち上がる理由もよく分かるよ。

 そう言って、レイドは力なく笑ったのだった。

「・・・しかし、召喚師にもそういう連中がいるんだな。自分のことしか考えていない、器の小さい連中がさ」

 はそう呟く。少なくとも、今までの自分の周りにはそんな召喚師などいなかったから。むしろ、自分よりも他人を優先させてしまうようなお人よしばかりだったから。
 だから、自分のことしか考えていないこの街の召喚師を、は許せなかった。

「なぁ、このまま暴動は成功すんのかな?」
「いや、無理だ。軍隊だけならまだしも、召喚師が出てくればひとたまりもあるまい」

 集団戦での召喚師の存在は大きい。
 だからこそ、エドスはジンガの問いにそう答えていた。

「レイドさん、ラムダさんに会いに行きましょう」
「アヤ・・・?」
「彼が何を望んで暴動を起こしたのか、聞いてみる必要がありますから」

 彼の真意を聞けば、もしかしたらなにかわかるかもしれない。
 小さなことでもいい。どんなことでもわかるなら、と。
 アヤはレイドを見つめてそう告げた。

「どうすればいいのかわからないのなら、それを聞いてから決めてもよくはないですか?」

 軽く笑みを見せると、レイドは目を閉じる。

「そうだな、行こう」

 目指すは、工場区。












「アキュートは最初から、ここを戦いの場にする気だったようですね」
「さすがは先輩ですね。でも、それだけでは・・・」

 工場区の道は狭い。
 そんな狭い道に逃げ込まれては兵士を突撃させることもできず、少数精鋭で戦うには適した場所だった。
 しかし、召喚師がいれば話は別。工場区ごと破壊して道を作りさえすれば、一気に鎮圧は可能だった。

「ええいっ! 何をもたもたしているんだっ!?」
「そうカッカすんあよな兄貴。胃に悪ぃぜ? 所詮、ただの騎士きゃこの程度が限界だったってことさ」

 あぁん?

 激昂するイムランの横で、がっちりとした体格の男性が彼を諌めていた。
 言い方は騎士からすれば酷いものなのだが。

「キムラン殿。今の言葉、無礼ですよ」
「よせ、サイサリス!」
「イリアス様・・・」

 髪飾りをつけた少女の名はサイサリス。
 騎士団を先導していた金髪の男性はイリアスという名前だった。
 そしてイムランを兄貴よ呼んだ男性は、キムラン・マーン。マーン三兄弟の次男である。

「召喚術を使って、工場の一部を破壊する。ゴミと一緒に燃やすのは忍びないがな」

 イムランはそうイリアスに告げると、どこか楽しそうに笑ったのだった。








「へへっ、思ったとおり。連中はここらの抜け道には詳しくなかったな」

 工場区への近道がある、というガゼルを先頭に、一行はアキュートのいる場所へと姿を見せていた。
 アキュートのメンバーは狭い道を利用して大規模の戦闘を避けて戦っていたのだが。

「とはいえ、あまり時間はなさそうだな」

 あまりの数の違いに少数の暴動側は疲労し、劣勢だった。

「手助けは・・・しないほうが、いいんだろうな」

 助けようと思えば助けられるのに、それが今はできない。
 歯がゆいな、とは頭を掻いたのだった。



「ラムダ先輩!! 私です、レイドです!」
「レイドか・・・」

 レイドがラムダを説得しようと、飛び交う剣戟の中を叫ぶ。
 召喚師が騎士団に合流したことを伝えたのだが、彼はそれすらも計画のうちだと言わんばかりに取り乱すこともなかった。

「この暴動が失敗するのは最初から予定通りだってことさ」
「人々を苦しめているのは領主の悪政です。では、領主をそうさせているのは誰でしょう?」

 答えは召喚師・・・ではない。
 確かに彼らも悪いのかもしれないが、本当に悪いのは領主や召喚師たちの好き勝手を許してしまっている、街の人々だと。
 長身の男性はそう告げた。

「私たちはもう、何度もこうして人々を率いて領主たちとたたかってきた。でもね、それだけじゃダメなのよ」
「この街の連中はみんな、戦うことを諦めちまってるのさ」

 自分に火の粉がかからないなら、他人がどうなろうと知ったことじゃない。
 なんてひどすぎる街なんだとう、と。は素直にそう感じていた。
 このまま領主や召喚師の悪政を放っておけば、いずれ街はまちがいなく滅びる。しかも、街の人が全員いなくなるという、最悪の形で。

「まさか・・・街の人たちに危機感を与えるために!?」
「へえ、賢いじゃねえか坊主」
「ひとつひとつの火の粉も、集まれば大きな炎を起こします。彼の言うとおり、暴動繰り返し起こすことで人々の危機感をあおっているんですよ」

 街が滅びることへの危機感。
 の言うとおり、今起こっているのはそれをあおるための暴動だったのだ。

「じゃあ、暴動に参加してる連中はどうなるんだよ!?」
「戦うことを決めたのは連中だからな。死ぬも生きるも、本人の運と実力しだいってこった」

 つまり。

「見殺しにする気か!?」
「必要ならば、な」

 捕まろうが逃げ切ろうが、それは本人の能力次第。
 自分たちは暴動をあおるだけで、それ以外は関与しない。
 それが彼らの言い分だった。

「騎士は弱きものの楯となる存在だと・・・そう教えてくれたのは、貴方じゃないかっ!?」
「俺はもう騎士ではない・・・そして、お前もだ。レイド」

 なぜ、騎士を捨てた?
 楯となることをやめたお前が、どうして騎士を語る?

 ラムダはレイドにそう尋ね返していた。





「気に入らないな、そういう考え」
?」

 隣りで名前を呼ぶナツミの声を聞かず、は眉間にしわを寄せる。

「人は1人じゃ生きていけない。だから、助け合って生きていく生き物だと思っていたのに・・・っ!」

 轟音が響き、黒煙が上がる。
 召喚師が工場の一部を破壊したのだ。これでは道も広がり、この暴動は一気に鎮圧させられるだろう。

「汚い人間ばかりだ、この街は!」

 人間は、きれいな部分だけで存在しているわけではない。
 それをわかっているはずなのに、自分にも汚い部分はあるのだとわかっているのに。
 そう言わずにはいられなかった。

 けして、アキュートが悪いわけではないのだ。
 この街が救われる方法を、こういった形で実現しているだけに過ぎない。
 でも、それでも人を見殺しにするのはどうなんだろう?





「誰かを犠牲にしてまで変革を求めるなんて・・・間違っている!」
「ならば、止めてみせろレイド。止められるのならな」
「止めてやる・・・止めてみせるさ」

 ラムダの声を聞きながら、はそう呟いた。
 熱くなっちゃダメだ、と首を大きく振る。
 確かに犠牲は必要なのかもしれない。でも、犠牲を出してまで変わろうとするその考えは賛同しかねるものだった。

「なんか熱くなってるな、俺・・・落ち着かないと」

 顔をナツミに向けると、笑みを浮かべた。

「考えはみんなと同じ。ただ、深く考えすぎてるだけなんだろうな」
「大丈夫だよ、。1人じゃない。みんないるから」
「ああ・・・っ!」



「犠牲なしに全てが変えられるというならば、証明して見せろ!」



 ラムダの声が、煙の上がる工場区に響き渡ったのだった。 






第27話。
とりあえず、この街の納税の義務は守る必要はないかと思います。
むしろ、払うほどに高くなる税金など払えるわけないです、絶対。


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