工場から廃棄されたどす黒い水が流れる用水路を挟んで、同じ金の鎧を身に纏った兵士たちとフラットのメンバーは対峙していた。
鎧の集まりの中に、兵士らしくないスーツのような白い服を纏っている人物が、歯を見せて笑みを浮かべたまま刀を振りかざしてみせる。
その刀身をフラットへ突きつけると、
「んだぁ、お前ら。俺たちの邪魔しに来たつもりかよ、あぁん?」
「暴動を止めるためだ! あんたたちとはちがうやり方でな!」
暴動を起こしているのは法外な納税の義務を怠った罪人たちを主としている。
それらを全員しょっぴけば、暴動は止まると考え、行動している騎士団とは反対に犠牲を出すことなく暴動を止めようとするフラット。
後者は前者に比べて実現するのは難しいのだが、それでもやって見せると全員で決めた。
「そうかよ。俺らの邪魔するってんなら、お前らもまとめて罪人扱いで鉱山行きだぜ!」
「僕たちは負けないさ・・・絶対に」
トウヤの声は彼には届かず、彼は自信たっぷりに高笑いをすると、
「ハハッ、やっぱこうでなきゃ面白くねえ! 俺はマーン三兄弟の次男、イムラン・マーンだぜ!」
この名前、死ぬまで覚えておくがいいぜ、あぁん?
最後に口癖のような意味のない単語(?)を付け加えると、構えを取ったのだった。
「レイドさん、あのキムランってのは召喚師ですよね?」
「ああ。だが、彼は召喚術よりも生身で戦うのを好んでいるから、ほとんど召喚術は使わないと考えてもいいかもしれない」
元騎士団のレイドは、目の前の衛兵たちを見てそう告げた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第28話 激突
合図もなく双方がぶつかり、剣の鋼が甲高い音を立てる。
は刀を鞘から抜き、ピカピカ輝く鎧から目を離すことなく襲いかかる刃を受け、弾く。
腹部を蹴り背後へよろけさせると、刀を振るい持っていた剣を弾き飛ばした。
ハヤトはトウヤと背中合わせに連携し、確実に敵を無力化している。
アヤを背後にナツミはぶつぶつとつぶやくと、緑色のサモナイトを天に掲げる。召喚の光が周囲を覆い尽くし、ゴーグルをつけた小さな召喚獣が具現する。
召喚獣は強く地面を蹴るとそのまま金の鎧へ突進し、ボーリングのピンのように人が宙を舞っていた。
「来い、ディアブロ!!」
キールは周りをカシス、クラレット、ソル、そして彼らの喚んだ小さな召喚獣たちに護られて、杖を高々と掲げて叫ぶ。
すると、大人2人分くらいの大きさのロボットが具現し、その両腕を金の鎧に向けた。
指というものが存在せず、丸い手先が光を帯びる。そして次の瞬間、その腕から2本の光線が発射。敵をなぎ倒していった。
ガゼルは数本の投具を手に、狙いを定めて投擲。
刃のついた先は鎧の間接部分に見事に的中し、痛みに膝を折る。
己の拳を武器とするジンガは、剣や斧のような殺傷力がない代わりに、そのすばやい動きと手数で乱打を繰り返し、よろけた1人を持ち上げて背後のもう1人へ向けて投げ飛ばす。
エドスは大きな斧を横に振り回し、当たった部分が刃であろうとなかろうと込められた力に押されて吹き飛ばされていた。
ナツミに護られるように、アヤは杖を片手に目を閉じてぶつぶつと召喚術を発動させんと言葉を紡ぐ。
「お願いします、シャインセイバー!!」
叫んだ瞬間。宙に5本の剣が具現し、地面めがけて突き刺さる。
それを避けたものの、その刀身がかするだけで金の鎧は砕け散り、剣はひしゃげて使い物にならなくなっていた。
「はぁっ!!」
「ぬぅっ!?」
騎士団仕込みの剣技で敵をなぎ倒し、レイドはキムランの元へ駆ける。
大剣を振り下ろし、キムランは刀でそれを受け止めると、剣撃の重みに表情をゆがめた。
「これはこれは、レイドじゃねえか。兄貴に聞いてはいたけどよぉ、まさかこんなヤツらと一緒にいたとはねぇ」
「私は・・・っ、今の自分に満足している。だから、貴方のこともラムダも・・・私が止める!!」
「ケッ、言うじゃねえか。あぁん?」
互いに剣を弾くと、キムランは懐から紫の石を取り出して叫んだ。
「来いよ、エヴィルスパイク!!」
「っ!?」
肉弾戦を好む彼のことだから、召喚術は使わないだろうと踏んでいたレイドはその誤算に目を丸めた。
宙に子供くらいの大きさの悪魔が具現し、両手を天に掲げる。
すると天から5本の槍がふりそそぎレイドを襲う。
「ぐぅ、あっ!?」
「レイドさん!」
突然の強襲に避けるヒマもなく槍の雨を受け、肩膝をつく。
しかし、レイドの側には槍が一本だけ。それ以外は・・・
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
残りの4本の槍の刃を斬り落として、腕や肩、額の至るところから血をしたたらせ息を荒げたの姿があった。
彼の持つ長刀は槍を斬り飛ばした際の衝撃のせいか、キムランの召喚術が強力なものだと物語るように、大きすぎるほどの刃こぼれがレイドの視界に飛び込んできていた。
しかし眼光は鋭く、黒がかった赤い瞳はキムランを射抜いていた。
「なにやってるんですか、レイドさん(怒)」
怒り口調でしゃべるは、未だ息を荒げたままで声をあげる。
「相手は仮にも召喚師なんですから、油断しちゃダメじゃないですか!!?」
敬語ではあるものの、声の質は怒りそのもの。
刃こぼれした刀を両手に握ったまま石造りの地面を駆け、黒い水の流れる用水路に架かる橋を越えてキムランへ向かう。
あっという間にたどり着いた先で、キムランの懐に入り込むと刃こぼれした刀を斬り上げた。
殺傷力のなくなった刃はキムランの身体を斬ることなく、まるで鈍器で殴ったかのようにただ宙へとその身体を飛ばしてみせていた。
背中から地面に落下したキムランは、ぐぐもった声をあげるとげほげほと咳をしつつ片膝をつく。
「そうか・・・お前らが兄貴の言ってた召喚術を使うガキどもか!?」
その後でに視線を向けると、
「それで・・・お前が兄貴に恥をかかせたガキかよ・・・」
俺は、いくつくらいに見える?
そう尋ねてきたキムランだったが、静まりかえってしまったことを確認すると、
「俺を倒したところで、もう手遅れだぜ」
まるで先ほどの発言がなかったかのように改めてそう口にした。
まぁ、イムランよりは確かに若いのだが・・・
「ファミィと比べちゃうと・・・」
どうしても老けて見えると。
口にはしなかったが、はそんなことを考えてしまっていた。
「騎士団の奴らの突撃だ。へへっ、じきにここにもやって来るぜ?」
数多の剣音の中から聞こえる、声の群れ。
そして、地面を踏みしめて走る足音が聞こえ、騎士団がやってくることを示していた。
「やべぇぜ、アニキにアネゴ!」
「でも、あの中にはまだ他の人が・・・」
「・・・」
レイドは数秒、目を閉じて
「引き上げよう」
そう全員に告げた。
騎士団は市民を護るべき集団のはずだから。
「無意味に彼らを殺しはしないはずだ」
「レイドさん・・・」
「さっきはすまなかったな。君に無駄な怪我を負わせてしまった」
あれほどラムダを、暴動を起こす街の住人たちを犠牲を出ないように止めたかったはずなのに。
結局、彼らアキュートの思惑どおりの展開になってしまった。
ここで自分たちまで捕まってしまったら、それこそ彼らを止める人間がいなくなってしまう。
本当は、レイドもつらいのだ。
「俺は残るぞ! 仲間を見捨てられるか!」
「バカ野郎っ! わざわざ捕まりに行く気かよっ!?」
ローカスは剣を振り上げたまま、騎士団が来るとも知らずに戦いつづける仲間の元へ向かおうとするが、ガゼルに羽交い絞めにされ動くに動けない状況になっていた。
「離せ・・・っ!」
「ちょっとあんた、バカなこと言わないでくれる!?」
今足助けに行ったところで、騎士団に捕まっちゃうのは分かりきってるじゃない!!
ナツミは彼に向けて叫ぶが、それでも聞く様子はなくて。
結局、エドスが彼を気絶させることでその場は収まったのだった。
「さあ、戻ろう。長居は無用だ」
そんな彼の言葉に先導され、フラット一行は孤児院へと戻ったのだった。
第28話です。
アキュート登場話、終了です。
次回はゲーム中の8話に続きます。メイトルパのあのコンビが登場するようです。
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