「みんな、すまない。俺たちのせいで決闘なんかに巻き込んじゃって」
「気にすんなよ」

 もう慣れっこだぜ、と素直に謝罪したハヤトにガゼルは軽く笑いかけた。
 しかし、こんなことに慣れてしまうというのはどうだろうか?

「・・・来たぞ!」
「あ、ナツミちゃん。!」

 オプテュスの到着と同時に、武器屋を物色していたを連れたナツミが合流した。
 かなり急いできたようで息を乱していたのだが、は汗を少しかいていただけで疲れた様子は見受けられない。

「で、今どうなってるんだ?」
「今ちょうどオプテュスも来たところだから、問題ないさ」

 来たばかりであるにもかかわらず、は険しい表情で誰にともなく尋ねると、一番近くにいたトウヤがそれに答えていた。
 到着したばかりというオプテュスのメンバーを見回して、

「ちょっと、多くないか?」
「あぁ・・・ワシもそう思っていたところさ」

 見る限り、20人を軽く越えた数のごろつきたち。
 それに対してこちらは10人と少し。普通に戦えば苦戦しそうなほどに、頭数の差は大きいものだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第24話  彼の『本気』





「覚悟はついたかよ、はぐれ野郎ども?」
「バノッサ・・・」

 バノッサは、どことなく優越感に浸っているかのような表情を見せる。
 まるで自分たちの勝ちを確信しているかのように笑みを浮かべていた。

「どうしても、戦わないとダメなんですか?」
「そういう風にしちまったのは、テメェらだろうが」

 テメェらさえ現れなければ良かったんだよ・・・

 彼はそう言うと、歯噛みして尋ねたアヤをにらみつけた。

「テメェらが現れなければ・・・召喚術へのこだわりを思い出さなくて済んだんだッ!!」

 彼の目的は、4人が持っている召喚術か。
 今の言動から、はそれを確信して眉をひそめる。
 召喚術などなくとも、人は生きていけるのに。召喚術を得たところで、どうなるんだと。
 はそんなことを考えていた。

 は彼同様に召喚術が使えない。潜在的に保有している魔力では、儀式すらできないと言っても過言ではない。
 島での戦いで他から魔力を引き出すなどといった芸当はできるのだが、なぜかその魔力は召喚術に代用できなかったのだ。

 召喚術が主流のこの世界で彼がバノッサのように召喚術を求めなかったのは、考え方の違いゆえのこと。
 バノッサは召喚術さえあればとただそれだけを追い求め、それに対しは自分に召喚術が使えないことをあっさり認めて、今の自分にできることをした。
 そこに、考え方の違いが出てくるのだろう。

「さあ行け、カノン。お前の忠誠を、俺様に見せるんだッ!!」

 エドスは哀れむように彼を見つめるが、それに気がつくこともなく。
 隣りに控えたカノンに、そう言い放ったのだった。

「ボク、本気でいきますから」

 普段から温厚だったカノンが、眉を吊り上げ険しい表情を見せている。

「カノン・・・」
「覚悟してください!!」

 呟くハヤトの声を聞くことなく、カノンはそう言って武器を手にしたのだった。






 は険しい表情のまま、刀を鞘から抜き放つ。
 その視線の先には笑みを見せるバノッサと、武器を構えて自分たちをにらみつける紅い瞳。

 はカノンと表立った面識はない。
 ただ、話だけを聞いていたのだが、その話を聞く限りでは戦いを好まない優しい性格だということらしいのだが。

「なんだよ、あれは」

 何を考えているのかはわからぬものの、向けられる殺気はそれこそ常人の域を越えていた。
 もっともそれを感じているのはだけのようだが、殺気だけでもバノッサより明らかに強い。

「レイドさん、彼はホントに人間なんですか?」

 レイドと背中を合わせて、はそんなことを彼に尋ねていた。
 両手で握った大剣を振り下ろしながら、彼は顔をしかめると、

「今の状況からもわかると思うが、私たちはオプテュスとは不仲なんだ。知っているほうがおかしいとは思わないかい?」

 襲い掛かるごろつきの持つナイフを弾きながら、

「そうでした」

 ヘンなことを尋ねて申し訳ない。

 そう言って丸腰のごろつきの後頭部に刀の峰を打ち込んだ。
 次々と襲い掛かってくる彼らをいなしながら、は思考を巡らせる。

 今まで自分が戦ってきた中で、彼と同じくらいの強い殺気を放てるのは・・・

 無色の派閥の客分だった剣士。
 ヴァンドール郊外で出会った二刀流で戦うシルターンの侍。

 この2人くらいだろう。
 どれも身分、出身、性別と違いはあれど、すぐにでも斬られてしまいそうな殺気を放つ。
 そして、2人に共通することは・・・

(刀使い・・・シルターン?)

 そう。剣士はシルターンの剣術を巧みに操っていた。そして、シルターン出身の侍。
 さらに、彼の使っている武器は・・・剣。

「召喚獣か?」

 そんな結論に至りはしたものの、それはあくまで推測にすぎない。
 答えは本人に聞く以外、ないのだった。




 頭数が多くても、召喚師がいるとココまで違うのだろうか。
 2倍以上の人数がいたオプテュスのメンバーたちだったが、こちらには正規の召喚師が4人と召喚師ではないにもかかわらず召喚術が使える4人。
 召喚術の使えない彼らは召喚術により近づくこともできず、大敗を喫していたのだった。
 そのことに驚愕するのはやはり頭目であるバノッサで。

「なんでだ・・・なんでッ、なんで勝てねェんだよォ!?」
「もうやめておけバノッサ」

 忠告するエドスの声も聞かず、彼はうわごとのように「召喚術さえ使えれば」と呟いていた。
 そこまで召喚術に固執するのにはやはり理由があるのだろうが、こちらが半分以上召喚術で戦っていたのも彼の中ではしっかりした理由になっているのだろう。

「召喚術さえ使えれば、そこのはぐれにだって・・・っ!」

 眉間にしわを寄せて、召喚術も使えないふがいない自分に腹を立てて。

「どうしてテメェらなんだ! どうして俺様じゃねェんだよっ!?」

 召喚術を使う資格なら、この俺様にだってあるじゃねェかよ!!

 負けた言い訳のように叫んだ。
 召喚術を使うための資格。は今までたくさん学んできた中で、そんな資格など聞いたこともなかったのだが。

「まだ、です・・・」

 思考は、顔を真っ赤に染め上げて口から白煙を吐き出すカノンの声に止められてしまっていた。

「まだ、終わりじゃ・・・ありません」
「おいおい、マジかよ!」
「ど、どうしちゃったの!?」

 ソルが確信したかのように叫ぶと、仲間全員を見渡して、

「あいつ、シルターンの鬼神だ!!」

 そう叫んだと同時にカノンの身体が大きく、たくましくなっていく。
 髪の間からは2本のツノがのぞき、鋭くなった目からは紅い瞳が消えうせていた。

「ぐル、グルるる・・・」
「よせカノン、『本気』にならなくてもいいんだ!!」

 そんなバノッサの声を聞くことなく、カノンの身体から白煙が噴出していく。

「彼が使っているのは、召喚獣の能力だ。なんで・・・」
「キール兄、そんなことで悩んでる場合じゃないでしょうが!」

 変身、と言っても過言ではないだろう。
 先ほどの華奢な彼の身体は影も形もなく、すでに常人の2倍以上の体格を誇る鬼と化していた。

「がアァァっ!!」

 咆哮が、響き渡る。
 今の彼が暴れ出したら、それこそサイジェントは廃墟と化してしまうだろう。

「カノン、カノン! 俺様の声が聞こえねェのかァ!!」
「ガアァァァっ!!」

 右手に拳を握り、近くにいたハヤトに目標を定め、地面ごと殴りつける。
 轟音とともに砂煙が上がる。ハヤトは尻餅をついたおかげで九死に一生を得たのだが、

「なんて力だ・・・地面がえぐられちまうなんて!?」
「逃げろ!」

 バックステップで後退しようと試みるが、鬼神化したカノンの動きは身体の大きさと関係なく、早い。

「あぐぅっ!?」
『ハヤト(のアニキ)!!』

 巨大な拳が地面に突き立ち、はじき出された瓦礫の1つが一直線にハヤトの膝へと直撃した。
 地面に膝をつき、カノンを見上げる。その瞳には、恐怖が映りこんでいた。

「ガアッ!!」

 は刀を鞘に戻して、駆ける。

 『気は、身体の強化もできる。覚えておくといいぞ』

 以前そう教えてくれた自らの師に感謝しながら、両腕に気を集めた。
 拳が振り下ろされる直前にハヤトの前に辿りつくと、両腕を前にかざす。開いた手のひらに強い衝撃が走り、拳の勢いは止まっていた。

っ!?」

 真後ろで座り込んでいるハヤトが、思わぬ乱入者に目を丸める。
 数倍以上の拳を両手で受け止めているのだから、驚かないほうがおかしいのだが。
 は伴う強すぎるほどの痛みを堪えて、顔を歪めた。

「そ、そんな驚いてないで・・・なんとかしろって・・・っ!」

 そんな声で我に返って、よろりと立ち上がる。
 怪我した足を引きずりながら、剣を拾い上げると、

「殺されて・・・」

 彼の身体が光に包まれ、剣にまとっていく。
 光を帯びた剣を掲げ、

「たまるかぁっ!!」

 振り下ろした瞬間に、光は刃とばなってカノンに向かって一直線に飛んでいく。
 轟音と共に、カノンは衝撃で仰向けに倒れこみ、動かなくなったのだった。





「ひとつだけ、聞かせてくれませんか?」

 身体が元に戻ると、バノッサは無言で彼の身体を抱え上げる。
 背を向けたところで話し掛けたのは、クラレットだった。

「彼は、はぐれ召喚獣なんですか?」
「はぐれじゃねェよ。コイツは人間だ・・・」

 そこまで口にするとバノッサは表情を歪める。

「少なくとも、半分は人間のはずなんだ!」
「!?」
「召喚獣との混血・・・なんですね?」

 クラレットの問いにバノッサはうなずいた。

 彼の父親は、シルターンの鬼神。それだけの理由で母親に捨てられて、スラムに来た。
 それでも、人間以上の力を持った彼は迫害されつづけた。
 人よりも力を持っているのに、彼は優しすぎた。だからこそ、迫害されつづけていたのだ。

「おかしな話だとは思わねェか・・・?」

 力を持っているのにその力を使うことはなく、彼は居場所を奪われたのだから。

「ひどい話だな」
、お前・・・」

 痛みの残っているにもかかわらず、は強く拳を握り締める。
 主もいないままに召喚され、たくさんのはぐれ召喚獣を見てきた彼だからこそ、強い怒りにかられていたのである。

「だから、俺様は教えてやったのさ。居場所が欲しけりゃ、力ずくで奪え、ってな」

 バノッサはそう言うと、笑みを浮かべた。

「こいつと俺様は同じなのさ・・・居場所をもらえない俺たちには、力しかないんだよ!」

 彼が召喚術を追い求める理由。
 それは、自分たちの居場所を手に入れるためだったのだ。

「違うだろう、バノッサ!」

 首を強く横にふり、エドスはそう彼に向けて叫ぶ。
 お前には居場所があったじゃないか、とまるで呼びかけるように、彼は叫んだ。

「知った口を聞くんじゃねェよ、エドス」

 エドスをにらみつけ、バノッサは呟くように言うと、

「テメェに、なにがわかる!!」

 そう叫んだ。


「俺様は絶対にあきらめねェ・・・死ぬまで、絶対にあきらめねェ!」

 さらにそう叫び背中を向けると、バノッサはスラムの中へと消えていったのだった。






第24話です。
カノンの鬼神化ですが、これはオリジナルです。
本当は姿はそのままで、単純に腕力だけが向上している感じですね。
サモンナイトプレイした人はご存知だと思います。



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