「さ、さすがだぜ・・・」
「ジンガだって」

 2人は、庭に大の字になって寝転んでいた。肩で息をし、流れる汗が地面に染み込んでいく。
 トウヤとの後で行ったジンガとのガチンコ対決に近い組み手の稽古。
 は刀の鞘を持っていたのだが、それをものともせずにジンガは拳を固く握りこんで振るっていた。

「そ、壮絶だったね・・・」

 倒れこんだ2人を視界に収めつつ呟いたのは彼らの勝負を一部始終見物していたトウヤだった。
 最初はお遊び半分で組み手をしていたのだが、時間が経つにつれて振るわれる拳や鞘を握る手にには力が込められ、最終的には本気に近いガチンコ勝負になっていたのだ。
 目にもとまらぬ速さで展開した戦闘ともいえるだろう稽古に、トウヤはただ呆然としていたのだった。

 太陽も全体が姿を見せ、みなも起きだしてくることだろう。

「それじゃ、朝飯食いに行こうぜ!」
「ジンガ・・・君、回復がとてつもなく早いのな」
「鍛えてっからな!」

 よろりと起き上がると、3人連れ立って孤児院へ入ったのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第23話  彼の真意





「お疲れ様」

 居間に入った瞬間のリプレの一言。
 彼女は朝食の支度を始めてからずっと、3人の様子を窺っていたのだ。

 顔でも洗ってくれば、と口にすると、台所へと姿を消していた。










「それで、あんたたちは朝から何やってたのよ?」

 朝食時、全員がそろったところでナツミはそう尋ねていた。
 対象はもちろん、トウヤとジンガ、それにの3人。
 3人は顔を見合わせると、

「別に、たいしたことじゃないよ」
「ちょっとした訓練をな」

 トウヤとで、そう答えていた。

「訓練って、戦闘訓練か?」
「ああ、トウヤのアニキと若師匠と俺っちの3人で」
「だから若師匠はやめろって」

 がそう口を挟んでも、ジンガが聞くわけもない。
 なぜなら彼にとっては、彼が側で学ぶと決めた人間の1人なのだから。
 ナツミはなにやら口を尖らせると、

「なんであたしたちを誘ってくれなかったのよ・・・」

 などとぶつぶつ言っていたのだが。

「俺はトウヤに頼まれたから引き受けただけだし」
、それを言ってしまったらおしまいじゃないですか・・・」

 誘うつもりなどなかった、と遠まわしに言えば、アヤは苦笑いを浮かべつつ呟いたのだった。

「トウヤはこれからきっと強くなる。誰よりも自分が強くなることを望んでいるよ」

 がそう告げると、トウヤは居づらそうに身をすくめたのだった。










 元の世界に戻るための情報を探しに言ってくる、とそう告げて、フラットを出てきていた。
 目的地を繁華街と決めて人もまばらなスラムを歩いていたのだが、ナツミはなぜか未だに口を尖らせていた。

「どうしたんですか?」
「なんかさ、って変わったと思わない?」

 日本にいたころのは人との出会いやその後の関係を大切にする性格で、遊びに行くとなると親しい人間にはたいてい声をかけていたのだが、彼女の見解からすると今の彼はそんな感じに見えない。
 自分たちに対してよそよそしいというわけではないのだが、どこか一線引いているふしがある。
 ナツミは3人にそう口にした。

「う〜ん、僕にはそうは見えないけどな」
「そういやそうだよな。トウヤだけには割と普通に接してるかも」

 ナツミがその考えに行き着いたのは、今朝の朝食時でのことだった。
 トウヤ以外の3人を見ることなく、トウヤだけを評価していたのだから。

「たぶん・・・」
「たぶん、何よ?」

 呟いたアヤの顔をのぞいて、ナツミが問う。

「たぶん、考えが変わったんだと思います。この世界は、日本とは違いすぎてますから・・・」

 どう変わったかは、分かりませんけど。

 どことなく悲しげな表情で、アヤはそう3人に告げたのだった。









 繁華街では見知らぬキレイなお姉さんにやんわりと追い払われ、道具屋の前ではハヤトが女の子とぶつかってその拍子に地面と後頭部を激突させてその場をのたうちまわっていたり、城門を眺めていたせいでいらぬ嫌疑をかけられたり。
 そんなこんなでサイジェントの街を回っているうちに、

「あ、北スラムに来ちゃった」

 そう。4人は気付くことなく北スラムまでやってきていたのだった。
 北スラムも南と同様に建物は中途半端に壊れ、地面には小さな瓦礫が散乱している。

「北スラムも、見た感じは南とそれほど変わらないのね」

 ナツミがそう呟いた直後。



「あれ、みなさん。なにしてるんですか?」
「あ、カノン・・・」

 ハヤトの言葉どおり、オプテュスでバノッサの義弟であるカノンがニッコリ笑って立っていたのだった。

「前にも言ったでしょ。あんまりバノッサさんを刺激しないでほしいって」

 最初に見つけたのがボクだったからよかったですけど。

 眉をハの字にして、カノンは4人にそう注意する。
 彼は義兄のバノッサとは違って好戦的、と言うわけではなく、根が優しい少年だった。

「ここのところ、ほら・・・あの刀使いのお兄さんに負け続きで、いつも以上に気が立ってるんですよ、バノッサさん」
「あ、あぁ・・・」

 まるでその光景が浮かんでくるようだと。
 カノンの忠告を聞いた誰もがそう感じていた。

 戦闘に参加すると、今のところほぼ確実にと対峙しお腹に一発もらって気絶、というパターンばかりで彼のプライドはズタズタなのだろう。
 バノッサはオプテュスという一組織の頭目。
 だからこそ、一撃で負けてしまうという事実に耐え切れず、彼は今とにかく手がつけられない状態なのだと、カノンは4人にそう説明づけた。

「そんなわけですから、早いところ退散しちゃってくださいね」
「それはわかってるんだけど、君と話がしてみたいんだ」
「ボクとですか?」

 実は君に聞きたいことがあるんだよ、と告げたトウヤは、人当たりのよさそうな笑みを浮かべる。

「なりゆきで僕たちと君たちは対立してしまっているけど、これ以上君たちとは争いたくないんだよ。少なくとも、僕自身は」
「それは、あたしだってそうに決まってるじゃない!」
「出会っては対立しあうなんて、悲しいじゃないですか」
「そうだよな。俺だって、できるならみんなと仲良くしたい」

 4人の主張を聞いたカノンは一度視線を地面に落とすと、

「ボクも同じですよ」

 そう答えた。

「けど」

 そう。彼だけが戦いたくないと叫んでも、オプテュスはごろつきばかりとはいえ1つの組織。
 だからこそ、

「バノッサさんはそうじゃない」

 頭目であるバノッサの意見は絶対で。

「バノッサさんは、南を縄張りにするためにフラットの人たちを狙っていました」

 あなたたちがフラットに入るまでは・・・

 悲しげな目を4人に向けて、カノンはそう告げたのだった。
 4人が使える不思議な力。ソルやキールたちは『召喚術』だと言っていた。

 あいつらに使えて、なぜ俺には使えない?
 だったら、あいつらからその力をぶんどってやる。俺にだって、素質はあるはずだと。

「今のバノッサさんは、それを狙っています。召喚術を手に入れるために、そして・・・あの刀使いのお兄さんを倒すために」
『・・・!?』

 4人の表情に、驚愕が走る。

「それがかなわない限り、あの人はあなたたちをつけ狙います」

 そういう人なんです・・・

 カノンは悲しげな表情を浮かべて、4人にそう告げたのだった。















「みっ、みみみみんなぁっ!!」

 ナツミはばぁんッ!と音を立てて孤児院への扉を開けた。
 走ってきたのか、息が荒く顔も赤みがさしている。

「おう、どうしたどうした。血相変えて」

 石工の仕事を終え、ナツミの後から入ってきたエドスは彼女の後ろから声をかける。
 振り返り、エドスの肩を掴むと、

「お願い、力を貸してほしいの!」

 前後にゆすりながら、そう告げた。
 声に驚き、居間を出てきたレイドとジンガも合流し、3人はフラットを出たのだった。


「そう言えば、は?」
「さぁ、ワシは見ておらんぞ」
「私もだ」
「若師匠なら、なんか武器見に行くって出て行ったのを見たぞ!」
「よっしゃ、武器屋ね!」

 みんなは先に行ってて、と促し、ナツミは商店街へと足を運んだのだった。

 ほどなくして武器屋に辿り着くと、ナツミは中をのぞきこむ。

「・・・いたいた!」

 先ほど同様、ばぁんっ!と壊れんばかりの勢いで扉を開けると、

っ!!」

 中でなぜか刀を吟味していたが驚きを前面に出して振り向いた。
 手には白い柄で銀色の鍔で、長さ的には地面から丁度彼の腰くらいの一振りの刀が握られていた。

「なにも言わずに一緒に来て!」
「お、おいナツミ・・・」

 慌てて刀をやはり白い鞘に戻して元あった場所に戻すと、ナツミに手を掴まれて引きずられていく。
 転ばないようにとバランスをとりながら、

「ちょっ、ナツミ!どうしたんだよ・・・」
「バノッサたちが戦いを挑んできたの!」
「は?・・・ずいぶんと急な話だな・・・っとととと」
「カノンも一緒なのよ!!」

 最後に放たれたその声に、は表情を変えたのだった。






第23話でした。
ゲーム中の第6話、カノンが鬼神の力を使う話です。
彼の生い立ちを聞くと、結構波乱万丈というか悲しいですよね。



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