「昨日も言ったけど、実戦形式でな。自己流だから、戦い方の参考にはならないぞ」
「うん。それで問題ないよ」
フラットの庭で、武器を構えた2つの影が対峙していた。
時刻はまだ明け方。
草花についている朝露が顔を出した太陽の光に反射し、その影を照らし出す。
「武器による攻撃、殴り、蹴り、召喚術。何を使ってもいいけど、まわりの迷惑にならない程度にな」
「もちろん、わかっているよ」
光が照らすのはとトウヤ。
互いに武器を手に、向かい合っていた。
「それじゃ、行くよ」
剣道の試合の時のように剣を正眼に構え、トウヤは眉尻を軽く上げた。
対するは、微笑を顔に貼り付けて刀を軽く振ってみせる。左手には黒塗りの鞘を、右手に長刀を持ち、その刃をトウヤへと向けたのだった。
「いつでも」
そう答えたのち、静寂が訪れる。
小鳥のさえずりと吹き抜ける風の音以外、庭から音という音を遮断していた。
建物の壁に寄りかかって、ことの行く末を見守るジンガの表情も普段とは違い、目の前の2人の戦いを見逃すまいと目を見開いていた。
「はぁぁっ!!」
「・・・っ!」
2つの鋼がぶつかり合い、甲高い音が周囲に響き渡ったのだった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第22話 戦闘訓練もとい剣の稽古
両刃の剣を振るい、剣道と同様の動きを見せるトウヤに対し、は刀を自在に操り繰り出される刃を受け止める。
まだ朝も早いフラットの庭には、打ち合う音だけが聞こえていた。
「どうした。君の実力は、こんなものなのか?」
「く・・・っ」
トウヤは両手で剣を握り、渾身の力を込めて打ち込んでいるにも関わらず、はそれを片手で持った刀で受け止めている。
何合も打ち合い、太陽が半分以上姿を現すほどに時間も経過していた。
とてもじゃないけど、自分の攻撃が当たる気がしない。
しかも、さっきから打ち込んでいるのは自分で、はそれを受けるだけ。
まるで子供扱いだ、ここまで違うのか、とそんなことを考えてしまっていた。
「くそっ!」
歯噛み、剣を横に薙ぐ。
しかし、その剣もあっさり止められてしまう。
流れる汗を強引に拭い剣の柄を握り締める。
「せえっ!!!」
「っ!」
剣を掲げて、思い切り振り下ろす。
しかし、切っ先は地面に到達していて。はトウヤから向かって右側に身体を移動させていた。
刀身をトウヤの首元に当てて、不適な笑みを見せている。
「参った・・・っ、降参だよ」
地面にめり込んだままの剣の柄を手放し、からん、と音を立てて横たわった。
は刀を引いて、鞘に納める。
トウヤは地面に手をついて、荒い息を整えようと大きく呼吸をする。
はその向かいに腰を下ろし、トウヤを待ったのだった。
「やっぱり、勝つのは無理だったね」
ちょっと、狙ってたんだけど。
息を整え、と向かい合って座ったトウヤはそう言って頭を掻いた。
「あのな。トウヤと俺だと経験の差がありすぎるんだから、勝てなくて当然だって」
島での戦いにはじまり漆黒の派閥、邪竜との戦い。あてのない旅の中で戦ったはぐれや盗賊たち。
最後のはさておき、どれも死ぬような思いで戦ってきたのだ。漆黒の派閥との戦いで、腹部を刺されて死にかけたのだが。
そのときの傷も、まだ身体に残っている。そこに居合わせた彼の仲間の男性は、
「これは、この先ずっと残っているだろうな」
などと言っていて。腹を貫通したのだから、そのくらいになってしまうだろうなと自身半ば諦めていた。
「若師匠、さすがだぜ!トウヤのアニキがまったく歯が立たないなんてな!」
「その呼び方はやめい」
一部始終を見守っていたジンガは嬉しそうにに詰め寄る。
呼び方を変えることを何度言ってもわかってくれないために少々眉をひそめたのだが。
「なんか、一生かかってもには勝てない気がするよ」
「そんな事ないって。経験を積めば、イヤでも強くなるさ」
刀を抜いて、手入れによる具合を確かめる。
刃こぼれもなく、太陽の光に反射して目がくらんでしまっていた。その光はトウヤにも少なからず反射していて、口には出さないが眩しそうに目を細めていた。
「そうだ。トウヤ」
「ん?」
汗を拭い、晴れ晴れとした表情のトウヤは顔をへと向けた。
はトウヤの使っていた剣を指差して、
「これ、重くないか?」
「え・・・」
それはトウヤにとって致命的な質問だった。
レイドに気を使ってもらって分けてもらったお金で、最初は重たくて威力がありそうだと軽い気持ちで買った剣だったのだが、いざ使ってみると、自分の筋力と剣の重さが全くつりあっていないことにショックを受けていたのだ。
せっかく買ってもらったのにという気持ちから今までずっと使っていたのだが。
周囲の仲間にも悟られていなかったのに、一度剣を交えただけで見破られてしまったのだ。
「・・・やっぱりな。なんか剣に振り回されてる感じもしたし」
「ぐぐ・・・」
勝ち誇ったかのように得意げな表情を見せるに少し腹を立てたが、事実なので反論できない。
はトウヤの剣に手を伸ばすと、高々と持ち上げてみる。
すると、すぐに顔をしかめて、
「こりゃ重いな。とてもじゃないけど俺にも使えない」
持ってみ、とは自分の刀をトウヤに投げ渡す。
それを鞘ごともってみると、
「あ、軽い・・・」
けして羽のように軽いわけではないのだが、今まで持っていた武器に比べると明らかに軽い。
その軽さに、トウヤはただ驚きの声をあげていた。
「誰にでも、自分に合った武器っていうのがあるんだよ。俺には刀、ジンガにはナックルっていうようにな」
「俺っちの師匠は生粋の格闘家だったからな。弟子の俺っちも成り行きでそんな感じになっちまったんだけど」
横からジンガが言葉を挟む。自分のことなのだが、今まで格闘の技を磨いてきた彼だから。
嫌味のように聞こえて、そうでもないようにも聞こえた。
「俺だってそうさ。父さんが刀使いだったから、俺もその剣を教わってたわけだし」
もともと身体を鍛えていたから、そこそこに筋力もあるのだが。
トウヤの使っていた剣は、とにかく重過ぎた。
「トウヤも剣道、強かったんだしさ。刀みたいな細身の剣に買い換えてみたらどうだ?」
こんな剣、エドスぐらいしか使えないよ。
そう言って、はトウヤの剣を地面に横たえたのだった。
「よし、若師匠!俺っちとも勝負してくれよ!」
「えー、俺疲れちゃったしなぁ・・・」
「そんなこと言うなって。どうせウソなんだろ?」
「やっぱ、わかるか?」
そんな会話が続き、ジンガとは立ち上がった。
ジンガはナックルを手に装着して、は刀を手に持って。
2人は向かい合って立つと、ジンガは無邪気な笑みを浮かべて両手を叩きあわせる。
は刀を鞘から抜くと刀は地面に突き刺し、鞘だけを手に持った。
「実戦形式とはいえ、稽古だからな」
「俺っちは別にどっちでもいいんだけどな」
鞘をやはり先ほどトウヤと戦ったときと同様に右手に持ち、2,3回振って構えた。
「相手が剣士じゃないからな。少し戦い方を変えるぞ」
「いいぜ。そのほうが俺っちも楽しめるだろうしな」
ジンガは口の端を吊り上げて、笑って見せた。
彼は東から旅をしてきているから、トウヤに比べると実戦経験は豊富。
だからこそは表情を引き締めて、鞘に練りこんだ気を流し込んだのだった。
「行くぜっ!!」
「来いっ!!」
2人の拳と鞘が、互いにぶつかり合ったのだった。
第22話。
トウヤ贔屓の稽古の回でした。
この時間帯は、ゲーム中6話の朝方と思っていただければ次回に繋がりやすいかと思います。
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