『ただいまぁ』


 4つの声が、フラットに響き渡る。
 声の主は朝に召喚師組を連れて出かけた4人で、居間に姿を現したときには全員がそろいもそろって疲れた表情をしていた。

「おう、おかえり」
「なにか、成果はあったのかい?」
「もぉ、それどころじゃなかったわよぉ!」

 レイドの問いに、ナツミは怒ったように声をあげる。
 彼女の後ろで、残りの3人が苦笑いを浮かべた。

「元の世界の手がかりもなかったし!帰りにオプテュスのヤツらに絡まれるし!街の入り口で盛大にコケるし!!」

 ダンッ、ダンッ、ダンッ!!

 床に足を打ちつけて、私怒ってます、をナツミは強調している。
 しかも最後のは彼女だけに舞い降りた不幸だ。額にFエイドを貼り付けてある。

「ナツミ、床を打ち付けるのはやめろ。打粉がこぼれる」
「なんですってぇ!?」

 ダンッ!!

「うあああぁ〜っ!!!」

 白い紙の上に乗っていた白い粉がひっくり返り、床を真っ白にしてしまった。
 すでに打粉は使い終わっていたからよかったものの。
 せっかく用意してもらった打粉が全部おじゃんになってしまっていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第21話  彼女の怒り





「せっかくもらったのに・・・」

 まだ結構量があって、この先何度か使うことができたはずなのに、全てが台無し。
 刀を刀身と柄、鍔に分解したまま、は目の前の惨劇に涙したのだった。

「ご、ごめん・・・」

 先ほどとは打って変わってナツミは表情を曇らせた。
 ホコリがたまった床にぶちまけてしまっては、もはやこの粉は使えない。
 大きく肩を落としたまま、はホウキとチリトリを取りに行くために立ち上がった。

「まぁ、いいけどね」

 一通り終わったところだったし。

 ホウキで床を掃き、白い粉をホコリごとチリトリに入れる。
 刀を組み立てて鞘へと戻すと、腰の左側のベルトに差し入れた。

「言ってくれれば、私のものを分けたのだけれど・・・」
「次の機会があれば、そのときは分けてください」

 ナツミも、気にしなくていいから。

 そう言って、はナツミの肩をぽんぽんと叩いたのだった。



「それより」

 今日、出かけてきた成果はどうだったんだ?

 レイドの問いに対する先ほどのナツミの答えでは、どう考えても答えになっていない。
 改めて、後ろのトウヤに尋ねると。

「いや。ナツミの言うとおり、なにもなかったんだ」

 4人が召喚されてきたという大穴。
 その中心に4人は喚ばれたのだという話も、その喚ばれた理由も事故だという話だけ聞いていたのだが。

「大規模な召喚陣はあったのですが、欠如も多くて、しかも私たちの知識では解析もできず・・・」
「ってことは、無駄足だったってことかよ?」

 ガゼルの問いに、4人の召喚師たちはほとんど同時にうなずいたのだった。

「そこで、なにをやってたのかもわからないのか?」
「ああ。術式が複雑すぎてな。俺たちはもともと見習いだったしな」
「でも、それだけ複雑だったということは、それだけ高位の召喚術を行使するところじゃないかとは思うんだけど・・・ね」

 力になれなくて、ごめん。

 キールは、深々とハヤトたち召喚された組に頭を下げた。
 そんな彼に目の前で頭を下げられたハヤトは慌てて首を横に何度も振って見せる。

「さっきも言ったけどさ。俺たちのために一緒に行ってくれたんだから、気にするなよ」

 な?と、ハヤトは頭を下げたままのキールの身体を起こしつつ、微笑んだのだった。



















「で、ナツミが怒ってるのはなんでなんだ?」

 エドスが尋ねたのは帰ってきて早々に怒りだし、がもらってきた白い打粉をひっくり返したその理由。
 行くときは特に普通だったはずなのに、帰ってきたらこの有様。
 気になるのは誰でも同じだった。

「それが、帰りにオプテュスの人たちに襲われまして」
「!?」

 改めて服装を見れば、少し汚れているのが見てとれることから、オプテュスと戦ってきたのだろう。

「バノッサもいたのか?」
「いや、彼はいなかったよ。部下の何人かが、僕たちのせいでいつも機嫌が悪いってなりふり構わず襲い掛かってきたんだ」

 こっちだってそうしたくてしているわけではないのに、むこうで勝手にお怒りになっちゃったりしているのだ。
 謎の剣士(カシス命名)の力を借りてなんとかそれを撃退するも、街の入り口で瓦礫につまずき見事に転倒。おでこを強打したのだ。
 あまりの不運。ナツミの怒りもごもっとも。
 しかし、その怒りをぶつけられてはたまったものではない。

 ナツミを見やると、ばつが悪そうにうつむいたのだった。

「まぁなんにせよ、大事にならんでよかったじゃないか」

 エドスが漏らしたこの言葉。8人を除く全員が同様に考えていたのだった。

















!」

 解散し、すでに夜も深くなってきていた時分。
 話し合いを終えて部屋に戻ろうと居間を出たところで、はトウヤに呼び止められていた。

「トウヤ、どうしたんだ?」
「実は・・・」

 儀式跡へ向かう途中でのこと。
 謎の剣士(カシス命名)に対して、無防備に自分たちの目的を話してしまったことでキールたちに怒られた、とトウヤは説明した。

「万が一、彼が敵だったとしたら、今の僕じゃきっと勝てない。だから・・・」
「まぁ、もといた世界とは違うからな。この世界は」

 気兼ねなく知らない人に自分たちの目的を話して、あとで回りに迷惑をかけるのは嫌だ。
 それが、トウヤの考えだった。

 リィンバウムは、日本とは全く違う。
 治安がいいとはとてもじゃないけど言えないし、街を取り仕切っている連中も自分らの利益のことしか考えていない。
 街の外にははぐれも出るし。日本と比べたら、ずいぶんと危険が身近にあることは今までの旅の中で十分にわかっていた。

「だから、この先なにが起こっても生き抜いていけるように、僕に戦い方を教えて欲しいんだ」

 剣道で培ってきた剣では、この世界では生きていけない。
 それがわかっていたからこそ、トウヤは戦い方が似通っているに頼ろうとしたのだ。
 は頭を下げたトウヤを見て頭を掻くと、

「まぁ、実戦形式でなら付き合ってもいいけど」

 その言葉に、トウヤは少し頭を上げる。

「でも、俺だって戦い方はほぼ自己流なんだ。あんまり参考になるとは思わないけどな」
「それでもいいさ。経験が積めるなら大歓迎」

 ありがとう、とトウヤはに向けて笑みを零したのだった。


「お、アニキたち。なんの話をしてるんだい?」
「やあ、ジンガ。実は・・・」


 トウヤが話してしまったが最後。
 「俺っちも混ぜてくれよ!」といって聞かないジンガを抑えるために、は場所と時間だけを指定して、部屋に戻ったのだった。






第21話でした。
アヤとかクラレットとか、セリフ全然ありませんでした。
人数が多いと、大変です。



←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送