「えー、とですね。これが打粉。これが刀剣油。これが目釘抜き。ケガ対策の手袋・・・」




 ここは薬屋。それなのに。
 純和風の店内に展開されていく刀剣の手入れ道具の数々。
 「こんなものですかね」と額を拭うシオンの表情は、どこか嬉しそうだった。

「お師匠はあれで、刀剣マニアなのよ。だから・・・」
「なるほど」

 刀剣マニアだからこそ手入れは欠かさずと、そういうことである。

「えと、じゃあお金を・・・」
「いえいえ。お代はいりませんよ」

 アカネさんがご迷惑をおかけしましたので、お詫びのしるしということで。

 シオンはそう言って、アカネを見やる。
 アカネはアカネで、先ほどのように滝の汗を流して縮こまっていたのだった。



「今後とも、薬処『あかなべ』をどうぞご贔屓に」





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第20話  薬屋の忍者





「どんな薬を売っているんですか?」
「そうですね、我々はシルターン生まれなので・・・薬草を煎じたものが多いですね」

 打ち身用の湿布や、傷薬も。

 シオンは背後の瓶を1つ手にとって、机に置く。
 緑色の液体が入っており、普通なら塗りたくなくなるような塗り薬だ。
 ほかに湿布や風邪薬、果てには化粧品とよりどりみどり。

「みてくれはアレだけど、ウチの薬は天下一品よ!」
「へぇ・・・」

 もらった手入れの道具を一緒にもらった袋に入れつつ、は並べられた瓶を覗き込む。
 緑とも言いがたいほどに黒ずんでいる。
 ・・・たしかに塗りたくなくなるなぁ、この色じゃ。

「『良薬は口に苦し』とも言いますし。多少の見てくれの悪さはご愛嬌です」
「それじゃあ、傷薬を1つ買いますよ」

 いくらですか、と尋ねながらポケットに手を突っ込んで、まさぐる。
 数枚の硬貨を取り出して、机に置いた。

「100バームで結構ですよ」

 言い渡されたその値段に、は驚きを見せた。
 なぜなら、普通に道具屋で買える薬の類で一番安いのは200バームのFエイドだからである。
 ここにある傷薬は、その半額。しかも塗り薬なので、長持ちもする。
 ・・・見てくれを除けば、お得なことこの上ないのだ。

「安いですね・・・」
「良心的な価格でしょう?」

 商店街のお店に、お客を取られてしまっていますけど。

 シオンはそう言って、苦笑い。

「こんなにカワイイ店員さんもいるのにねぇ?」

 となりでアカネはくるりと一回転してみせる。
 それを見て、はただ口を閉ざしたのだった。なぜなら・・・激しくコメントしづらいから。













「ところで、シオンさんもアカネも。ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「なに?」

 シオンとアカネは表情を緩めて、の言葉に耳を傾けた。
 それとは対称的には少しまじめな表情で、

「2人とも、暗殺者かなにかの類ですか?」

 そう尋ねた。
 2人の表情がみるみるうちに変化していく。もちろん、真剣な方向に。
 シオンはあまり変えてないように見えるが、端から見ても変わっていないように見える。

「・・・なぜ、そのようなことを?」
「強いて言えば、歩き方ですね。音を立てない歩き方なんて、できる人間はそうはいないですから」

 知り合いに鬼忍が1人いまして、と付け加えるように言う。

 シルターン出身だから、忍者だろうか。
 口には出さないが、そんなことを考えつつ答えを待った。

「・・・隠すのは無理のようですね。そうです、我々はシルターンの忍びです」

 目を閉じて、シオンはそう答えると、やっぱりとは息を大きく吐き出した。
 召喚主である召喚師が戦闘で死んでしまうという典型的なはぐれの誕生のしかたではぐれになってしまった、という2人はシルターンに還ることもかなわず、ココで薬を売って生活しているのだと、シオンはに説明を施した。

は、この世界の人間なの?シルターン?」
「いや、名もなき世界出身だよ」

 逆に問われた問いに、はさらりと出身地を述べてみせた。

「召喚術の事故で。なんていうか、強引に喚ばれたんだよ。しかも、主は最初からいないんだ」

 召喚術とは、召喚師がいて成り立つもの。
 そう認識していた2人だからこそ、喚ばれた直後から主のいないに驚きを覚えていた。
 アカネはあからさまに目を丸め、シオンは比較的細めの目をさらに細めて。

「サイジェントにいるのも、実は喚ばれたからなんだ」

 はそう言って、苦笑いを浮かべたのだった。









「それじゃあ、俺もう行きますね。今日はありがとうございました」
「いえいえ。できれば、お店のほうをお仲間の皆さんに教えていただけると。それと、我々のことはくれぐれも内密に」
「ええ、わかってますとも」

 また来ますね、と手をひらひらと振りながら、は店を出た。
 外はもうずいぶんと暗くなってしまっている。
 長居しすぎたな、とつぶやきながらフラットへと急いだのだった。























「実はさきほど、彼の刀を少々拝見したのですが・・・」
「またですか?」

 シオンの唐突なつぶやきに、うんざり、といわんばかりの表情で、アカネはため息を吐いた。
 彼は刀剣マニア。刀を見れば、調べたくなるのはアカネのみ知る事実だった。
 それで今回もマニア心に勝てず、勝手に鞘から抜いてしまったのだろう。

「だいぶ、傷んでいましたね。手入れをするのは当然です。ですが・・・」

 アカネは既に聞いていない。てきぱきと閉店の準備をして、時折聞くふりをしていたのだが、シオンはそんな彼女に気付かず、話を進めた。
 次に発された言葉に、耳を疑った。

「かなりの修羅場を越えてきていますね。刀だけでなく、身体も傷跡が多く見られました」

 私たちには関係ないのですが、と。
 シオンはそう言って、扉に『閉店』の二文字が書かれた札を掛けたのだった。






第20話でした。
主人公とシオン&アカネしか出ません。
そして、シオンさんは主人公の武器が借り物であることを知りません。



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