「あれ、出かけるのか?」
総勢8人で玄関先に集まっているのを見ては声をかけていた。
ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤのはぐれ組とキール、ソル、カシス、クラレットの召喚師組。
召喚師組はを見て表情を少しだけゆがめたが、そんなことは気にしない。
「あたしたちが召喚されたトコまでね」
「彼らは召喚師だから、もしかしたら元の世界に戻る方法もわかるかもしれないだろう?」
話だけ聞いていた、彼ら4人が召喚されたという大きなクレーター。
何かが描かれていた痕跡があったからもしかしたら何らかの儀式を行ったんじゃないか、と以前聞いていたので、彼ら召喚師組を連れて行くのは間違いではないだろう。
の召喚術に関する知識は簡単な誓約の儀式のみ。もともと使えないので、それだけ教わっておいただけなのだ。
だから、一緒に行ったところで意味はない。
「そっか。まぁ荒野にははぐれも出るらしいから、道中気をつけてな」
君たちも、と召喚師組を見ると、カシスだけが笑ってうなずいてくれていた。
・・・そこまで信用ないかね、俺は。
そんなことを考えつつ、苦笑いを浮かべたのだった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第19話 とある薬屋さん
8人がフラットを出て行って。
はふらりと居間に来ていた。
腰の刀の手入れでもしようかと思い立ち、机においたところでふと、気がついた。
「あ、道具がない・・・」
ウィゼルから借り受けたこの刀。使ってみて発覚したことなのだが、かなり長い間手入れがなされていなかったのだ。
サイジェントに来たときは腰に刀とポケットにサモナイト石が3つほどで召喚されたので、道具は草原にホッポリ出した荷物の中だったことを思い出す。
「なぁガゼル。この街に、刃物の手入れとかの道具売ってるところないか?」
「・・・知らねえよ。俺は武器の手入れなんかしたこと無いからな」
「なんで?」
理由を尋ねれば「ビンボーだからな」という答えが返ってきた。
ただでさえ食い扶持が増えているのに、そんなのにまで金を回していられない。
とのこと。ただ、レイドが武器を手入れしていたところを見たことがあったので、彼はおそらくめんどくさがりなのだろうが。
武器の手入れはやらないと役に立たなくなってしまうのだが、知らないならば自分で探すしかない。
「じゃあ、ちょっと街まで出て探してくる」
ヒマそうにイスに座っているガゼルにそう言って、はフラットを出たのだった。
「さて、まずは武器屋だな」
行き交う人々を見やりながら、両手をポケットに突っ込んで武器屋へと歩を向けた。
スラムで遊ぶ子供たち。
世間話をする女の人たち。
向かい合って語り合う恋人たち。
大声で喧嘩をする男の人たち。
そんな人たちを横目で眺めて、のんきに歩く。
気付けば、武器屋は目の前にあった。
扉は開放されており、のれんなどで仕切られているわけでもなく、とことこという効果音が似合うほどに何事もなく中へ足を踏み入れたのだった。
「らっしゃい!」
元気のよい声で商売人としておきまりのフレーズを叫ぶ。
飾られている両刃の剣やフルフェイスで白銀の鎧、杖やフレイルを眺めつつ店主の元へ進んでいく。
「何が入り用で?」
「刀や剣の手入れ道具、あるか?」
目的のものがあるかを尋ねる。
ヒゲの目立つ店主は「おうおう」と店の奥へ引っ込んでいく。
そのまま数分。
「遅いな・・・」
そんなことをつぶやいて、カウンターにもたれた。
さらに数分。
なにやら、
ガシャアンッ!
とか、
ガラガラガラガラ・・・
なんて音が奥から聞こえるが、気にしないことにした。
「お、遅くなっちまったなぁ・・・」
「大丈夫か?」
店主は、頭から血をだくだく流し、肩で息をして奥から姿を現した。
「・・・わりいな、品切れだ」
あれだけ苦労して、品切れ。
店主も苦労人だな、などと苦笑い&頭を掻いて、ため息をついた。
ないなら仕方ない、ということで店から出る。
街の喧騒を耳にしつつ、どうしようかと空を見上げた。
そのときだった。
「うきゃーっ!どいてどいてどいてぇっ!!」
「は・・・っ!?」
ごす。
声の主が持っていた荷物と一緒に、に見事なほどに突っ込んだのだった。
強烈な体当たり。荷物を持つことで出っぱっていた肘が鳩尾に決まり、溜まっていた空気を全部吐き出す。
ぶつかったところで勢いは納まらず、そのまま数メートルにわたり背後へ吹き飛んでいく。
は一瞬、三途の川が見た。
「ったたた。ちょっと、どいてって言ったじゃない・・・の・・・」
往来にぶちまけた荷物を手ですばやく拾い集めつつ、荷物を持っていた少女は叫ぶ。
しかしを視界に入れた途端、その叫びは消えていった。
「・・・・・・」
ざわざわと街の人々が野次馬根性よろしく寄ってくる。
きょろきょろと少女は周囲を見渡して、一言。
「あたし、もしかしてマズイことしちゃった?」
うん。
遠巻きに眺めていた全員が同時にうなずいたのだった。
「う・・・うぅ・・・」
「あ。お師匠、おししょーっ!」
気が付きましたよーっ!!
どたどたという音が嫌でも耳に入ってくる。
ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が目に飛び込んできた。
赤黒い瞳だけを動かして天井以外を目に入れると鏡や襖、浴衣などの服があった。
「っ・・・、ここは・・・」
「私の店ですよ」
「え?」
声の主は、黒い布で頭を覆い、同色の――から見ると古風な服を身に纏った男性が、人のよさげな笑みを浮かべたのだった。
「このたびはこの不肖弟子が、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「うぎゃ!!」
「い、いや・・・」
男性はとなりに座る赤毛の少女の後頭部を手のひら押し出し、敷き詰められた畳にごす、と頭をうつくらいまで下げさせていた。
そんな彼女に同情を抱きつつ、自らの弟子にそこまでしてしまうこの男性に苦笑いを浮かべる。
「私はシオン。この薬処『あかなべ』の店長です」
「あ、あたしアカネ。この店のカワイイ店員さんよ!」
自分でカワイイと言うか、この娘は。
そんなことを考えつつ、も同様に自分の名前を名乗る。
それを聞いたシオンは感心したかのように自らの顎をなでると、声を漏らす。
「あの、俺の顔に何か?」
「いえいえ、特には何も。それで・・・アカネ。あなたはくんと武器屋でぶつかったと言いましたね?」
「はっ、はいぃっ!」
冷や汗を滝のように流しながら、アカネは背筋を伸ばすだけ伸ばして元気よく返事をする。
満足そうにシオンはうなずくと、
「なにか、欲しいものがあったのではないですか?」
「ええ、まぁそうですけど。でも、なかったんで」
「もしかしたら、ウチの店に置いてあるかもしれません。何がお入り用なのか、言ってみませんか?」
薬屋のはずなのに、彼はそんなことを言って笑う。
なにか、無言の威圧に襲われているような気がして、背筋を凍らせる。
ぶるりと身震いすると、
「そっ、それじゃあ・・・刀の手入れ道具を」
「・・・かしこまりました」
「へ?」
シオンはそう言って、店内へと消えていったのだった。
第19話。
シルターン師弟と遭遇です。
シオンが刀剣マニアというのは、勝手な妄想です。
ゲーム内での設定とは異なりますので、ご了承ください。
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