あれから、一ヶ月が過ぎた。

 帰還を果たした直後は、夕暮れの中に4人並んでたたずんでいて。
 端から見ればおかしな集団だよね、なんてナツミが苦笑していたけど。
 服装も、学校の制服になっていた。
 何もかもがそのまま。
 自分たちが異世界に行ってきたなどと思わないくらいにそのまま。
 夕暮れも、頬を撫でる風も。
 あのときと、同じだった。

 夢だったのかな?

 そんな疑問が湧き出てすらきそう。
 でも、それは間違い。
 なぜなら、リィンバウムで過ごした日々は、かけがえのない思い出として刻まれているから。
 だから、私は泣いていた。
 別れのとき、そのままに。

 ・・・

 次の日からは、何事もなく日常が始まった。
 いつもとかわらない、刺激のない毎日が。
 それでも、ここが自分の居場所なんだな、と思う。
 『彼』がここにはいないけど。
 でも、きっと迎えに来てくれると信じているから。



 ・・・



「そかそか。に会ったか・・・ってか、いつの間にそんなトコ行ってきたのかい?」

 私が今いるのは、幼馴染の自宅だった。
 純和風の家で、庭も広い。
 離れには道場まである。実は金持ちなんじゃなかろうかとも思ってしまうが、それは些細なこと。
 ・・・道場の屋根が壊れているのが、なんだか気になるけど。

「えと、そうなんです。信じられないかもしれませんけど」
「まったく、アイツもダメダメなヤツだよなぁ・・・アヤちゃんみたいな娘をフるなんてよ・・・今時いねえと思うんだけどな・・・ってか、俺と結婚しよう!!」
「冗談はほどほどにしましょうね、リクトおじさま?」
「ふぐ・・・強くなったな、アヤちゃんよ・・・」

 黒オーラ満載の笑顔を向ける。
 前は、こんなことできなかった。する必要もなかったけど。
 私自身が変わった証拠だと思う。
 確かに、奥さんに先立たれて、一人息子も帰ってこなくて、とても寂しいんだろうな、とは思うけど。
 でも。

「待ってるんです」
「?」
「私と、一緒にいてくれるって・・・言ってくれたんです」
「・・・そか。あーあーフられちまったよ」

 そう言って、彼は笑った。
 超がつくほど放任主義の彼が。
 どことなく、寂しそうに。

「探し出すって、言ってくれたんです。だから、私は・・・」
「なるほどな。ま、できないことじゃねえだろうな。なにせ・・・」

 そこまで口にして、リクトさんは縁側から外を見やる。
 どこか懐かしそうであり、やはり寂しげに。
 影から漏れる太陽の光を見ては目を細め、何かを思い出しているようでもあった。

「ゴホン・・・とにかく。リィンバウムむこうがらみでなにかあったら、まず俺んとこに来な。警察沙汰になったら、色々と面倒だからな」
「は、はぁ・・・」

 なんでも、以前も同じようなことがあったらしい。
 しかも、が一度帰ってきていたという事実に驚いてしまった。
 リィンバウムの仲間が一緒だったらしいが、まだやることがあるからと戻っていってしまったらしい。
 その名残が、あの道場の穴だったりするらしい。

 本当に、助かる。
 両親に話しても信じてくれないし、むしろ

「お医者さん行ってきたら?」

 とか言われた。
 なんだかショックだったのも、つい一ヶ月前の話だ。
 そのような話はさておき、礼を告げて。
 元々の話をしに来たわけだし。
 私は家を出たのだった。



 ・・・・・・



「そんなわけで、ここの交点が―――」

 先生の声が、ほどよい子守唄に聞こえる。
 すぐにでも眠ってしまいたい衝動に駆られるが、そういうわけにもいかないわけで。
 今は授業中。
 空はこんなにも青いのに。
 この空を見ていると、いつか行ったピクニックを思い出す。
 桜に似た花の周りを貴族の人たちが独占してて、結局川原でお弁当を食べた。
 その後でみんなで貴族の食事をつまみ食いに行ったんだった。
 あれはあれで結構楽しかったな、などと不謹慎なことを思い浮かんでしまう。
 不謹慎なのは、つまみ食いの後に貴族の人に見つかって戦いになってしまったから。

「ぐち・・・樋口!!」
「へ?」

 気づけば。
 目の前には先生が立っていた。
 こめかみをヒクヒクさせて、いかにも「怒ってます」な雰囲気。

「ああああっ! ごめんなさいっ!」

 慌てて立ち上がり、ぺこぺこと頭を下げてみせる。
 周囲からはくすくすと笑い声が飛んでくるが、そんなことを気にしている場合ではなくて。

「まったく・・・それじゃ、前に出てあの問題を解いてみろ」
「はははははいぃっ!!」

 先生の横を通り過ぎて、黒板の前へ出てくる。
 書かれているのは数式。y=で始まる関数の式だった。
 隣に図が書かれているけど、グラフも書けと言うことなのだろう。
 手に持ちっぱなしの教科書を見やると、同じ問題が出ていることが判明し、それを見ながらグラフを書いていく。
 我ながら綺麗に線を引くことができて満足していた、そのときだった。

「うわぁっ!?」
「な、なんだぁ!?」

 轟音と共に、白煙が舞い上がる。
 クラスメイトが口々に声を上げていて、私は何が起きたのかと慌てて振り向くと。





「やっと、見つけた」





 悲しみに暮れていた自分に、待っててくれ、一緒にいたいんだ、と言ってくれた人が、ボロボロの服をまとって立っていた。
 涙がこぼれそうになる。
 やっと、来てくれた。リクトさんの言う通りになった、と
 本当に嬉しかったのだけど。

「・・・はっ!」
「ん、どうした?」

 目の前には彼がいる。
 しかし、周囲の人たちは彼を知らない。その上、どこからともなくいきなり現れて、混乱している状況。
 ・・・ここにいては、いけない。
 確信した。

「きっ、来てくださいっ!」
「はぁ!? お、おいちょっと・・・」

 手を握り、教室を飛び出す。
 脱兎のごとく廊下を駆け、共に戦った仲間のクラスへ向かうが。



「なっ、何が起きたぁーっ!」
「総員、状況把握に徹せよ! 総員・・・」
「メーデー、メーデー・・・未確認生物降臨! 至急、調査の準備を・・・!!」



 なんだか、妙なことを口走っている人もいるみたいだけど。
 がたん、という音がして、飛び出してきた2つの人影。
 それは、目的に人物だった。

「トウヤ!」
「アヤ!」

 名前を呼び合い、示し合わせたかのようにうなずく。

「あ、アヤだ。やっほぉ〜」
「トウヤじゃないか。元気そうで何よりだ」

 なんて、言いつつ手をひらひらと振っている2人もいるのだが。
 そんな2人を引っ張って、階段を下り、昇降口を出て、校門を抜ける。
 向かうは幼馴染の家。
 2人の携帯電話が同時に鳴り響き、ディスプレイを見ると私のものには『橋本 夏美』と、そしてトウヤのものには『新堂 勇人』と出ている。

「「もしもし!」」

 同時にボタンをプッシュし、耳に当て、社交辞令のように相手に呼びかける。
 すると。

『なんか、クラレットが来た!』
『なんか、キールがいるし!』

 返ってきたのは、ほぼ同じ内容だった。




 結局、目的地として家を指定したのだが、たどり着き、合流したのはそれから十数分後のことだった。







 ・・・嬉しかった。約束を守ってくれた。
 やっと、来てくれたから。
 ずっと、会いたかったから。

 これからきっと、彼らと共に生きていくのだろう。
 この世界で。




 だから、貴方も元気で・・・頑張って生きてくださいね。

































































 あ。






























































 ・・・明日、先生やクラスメイトになんて説明しよう―――

































































    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜


    エピローグ ―前編―  築かれし未来へ




















エピローグ・アヤ編をお送りしました。
展開的には、ゲームのパートナーEDをベースに少々ギャグテイストにしてみました。
この後のアフター話が、お題『ひ』になるわけですね。


←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送