『ウオオォォォォ・・・ッ!!』

 今、魔王は暴走しているといっても過言ではないだろう。
 受け皿を失い、肉体こそあれ自我など持たず、このまま放置しておけば間違いなく世界を滅ぼす。
 だからこそ、倒さなければならなかった。
 世界に生きるすべての生き物を竦みあがらせるような咆哮。
 荒れ狂う魔力の奔流が、行く手を阻む。
 それを押し返していたのが。

「負けるかあっ!!」

 サモナイトソードを掲げた4人だった。
 それぞれの色に染まりつくした剣は、エルゴの加護によってその光を衰えることなく輝かせ、一行を前進させるサポート役を担っていた。
 一丸となって進む一行に、襲い掛かる大悪魔。
 そのことごとくが槍を持っていて、繰り出される刺突撃は疾い。
 それでも、止まらない。
 今の彼らを止めることなど、できはしない。

 ガゼルは大悪魔の胸元を狙ってナイフを投げる。人型を取っていたのが、幸いしたのだ。
 大悪魔たちが人型であるがゆえに、武器を封じたり急所を狙うこともできる。
 ガゼルの放ったナイフは複数。それほど多く所持しているわけではないので、なくなれば接近戦をせざるを得ないのだが、前衛はレイドとエドスがすでに担っている。
 それでも自ら前に出、今までに培ってきた体術を駆使して連携を取っている。

 ラムダはお得意の大上段からの重みある斬撃で槍ごと悪魔を斬り捨て、スタウトは両手にナイフを持って片方で槍をいなし、片方で大悪魔の心臓を穿つ。
 セシルは彼らの援護。主にストラを用いた常時回復役を担い、彼らの戦いに大きく貢献している。
 ペルゴは同型の武器ゆえに腕力にものをいわせて地面へ叩き伏せ、上から突き刺す。
 放られた槍を手に、槍の二刀流という芸当すらやってのけていた。
 さらに、アカネとジンガの異色の連携。
 アカネのクナイで槍を手放させ、無防備なところをジンガが切り込み殴り飛ばす。
 その勢いで吹き飛ぶ大悪魔は、他の悪魔をも巻き込んで背後へと飛んでいった。

 エルジンとエスガルドは共に銃を持ち、サイサリスは弓を手に味方内の中心から援護射撃。エルジンの持つ銃よりも威力の高い機械兵士用の機銃が、特に大悪魔の数を減らしている。
 サイサリスとエルジンは仲間たちが少しでも戦いやすくなるように、狙いを定めて銃弾と矢を射ち出す。
 前線から言わせれば、最高の援護射撃だった。
 ローカスとカザミネ、そしてイリアス。剣士の2人は一行のしんがりを務め、互いの背中を守りながら敵を掃討していた。
 剣という武器は、槍と比べるとリーチが短い。
 だからこそ、エルジンとサイサリスの援護射撃が最高の効果を上げ、致命傷もなく自分の仕事をきっちりとこなしている。

 エルカとモナティ。メトラルだとかレビットだとか、種族の差で口ゲンカをすることなく、ガウムを交えての三位一体で大悪魔を退けていた。
 相手はメイトルパの獣ではなく、サプレスの大悪魔。自分たちよりも獰猛で、暴虐の限りを尽くす存在なのだから。
 つまるところ、ケンカなどしている暇がないのだ。

 そして、ミモザ、ギブソン、カイナ。
 召喚術を得意とする彼女らは、主に離れた大悪魔を召喚術で退けていた。
 轟音がそこいらじゅうから響き渡り、複数の大悪魔を一掃する。
 とにかく、魔力の続く限り術の行使を続けていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第80話  彼らが望む世界





 彼らは、魔王のもとへたどり着くやいなや、魔王の元へたどり着けないように悪魔たちの壁となっていた。
 決めて来い、と言葉を紡いで。
 残ったのは、ハヤト、トウヤ、ナツミそしてアヤの誓約者組。
 さらにキール、ソル、カシス、クラレットのはぐれ召喚師組。
 そして、
 魔王と対抗するには少々少ないと思われがちだが、誓約者たちはそれぞれがエルゴの力を手にし、行使できる。
 はぐれ召喚師たちは、未だに魔力が満ち満ちている。先ほどまで、温存していたのだ。
 だからこそ、ここで最高の力を行使できる。
 そして、は。

「・・・・・・」

 すでに送還の準備は整っている。
 魔王を超える魔力の供給も、共界線クリプスを介してすでに行われている。
 あとは、魔王を倒し弱らせるだけ。
 そしてその先に待っている別れを思い、苦笑した。


「?」

 声をかけられ、振り向いた先にははぐれ召喚師たちが4人、がん首そろえてへと顔を向けていた。
 誓約者たちはすでにサモナイトソードをそれぞれの形態に変化させ、交戦しているというのに。

「なにやってるんだよ。援護しないと」
「わかってる。でも、言っておきたいことがあるんだ」
「・・・?」

 キールの返答に黙りこむ。
 こんなときに、一体何を考えているのだろう。
 そんなことすら考えてしまうのだが、それでも彼らは。

「今まで、すまなかった」
「・・・・・・は?」
「分かってるくせに、なんでそんな顔するかなあ」

 キールの言葉にぽかんとすると、カシスは苦笑する。
 彼らは、謝りたかったのだ。なぜかといえば、の存在そのものを疑っていたということに対して。
 強大な力を持ち、それでいて力に溺れず、何を考えているのかすらわからなかったから。

「正直な話、俺たちはお前が敵なんじゃないかって思ってた」

 唐突な言葉に、目を点にしてしまう。
 実際のところ、彼らはにとって敵でしかなかった。
 彼らは無色の派閥の召喚師で、は無色の派閥そのものを敵と認識していたから。

「でも、それは違ったみたいだ」

 誓約者たちの力を図りかね、迷っていたところへ現れたオルドレイクに、殺意すらも孕んだ視線を向けている彼を見て。
 自分たちの父親がやっていることが、間違いだということに気づいて。

「答えは得ました。だから貴方に一言、言っておきたかったんです」

 クラレットから放たれた言葉。
 そのまま続くように、

「ありがとう」

 そう告げられた。
 なぜだかわからない。
 彼らに礼を言われるようなことをしてきた記憶などまったくなかったのだから。

「貴方は、私たちに居場所をくれました」
「は・・・?」
「いえ、わからなくてもいいんです。こっちでそう勝手に解釈しているだけですから」

 そう。
 もしかしたら、ある種の嫉妬だったのかもしれない。
 のことについて、談議していた夜のこと。いきなり屋根の上から声をかけられ、本当に驚いたものだが。


 もしあの4人によろしくないことをしてみろ・・・彼らが仲間だと思っている君たちでも、許しはしない。


 うすうす、オルドレイクゆかりの者だと感付いていた彼。
 だからこそ大事な友達を心配し、こんな言葉をかけて凄んでみせたのだ。
 そんな言葉を聞いて、彼が本当に心配しているのが分かったから。
 なんとなく、そこまで思える彼に嫉妬したのかもしれない。
 だからこそ、本気で守ろうと、元の世界へ還す方法を見つけ出そうと決めたようなものだから。
 そばにいようと、決めたから。

「・・・そうか」
「うん」

 それだけを告げて、4人はから視線を外した。
 それぞれが杖を構え、呪文を紡ぐ。
 彼らを助けるために。そして、彼らのそばにいるために。

「いけっ、ブラックラック!」
「来い、パラ・ダリオ!!」
「応えて、ガルマザリア!」
「みんなに、癒しを・・・オーロランジェ!」

 キールが、ソルが、カシスが、クラレットが。
 それぞれが同じ属性から、召喚獣を喚び出す。
 オルドレイクと同じサプレスの力にして、目の前に展開されている魔王の故郷の力。
 それでも、使えるものは使う。
 守りたいと思えるものが、目の前にあるから。

「いくよユグドラース!!」

 ナツミは今まで抑えていた矢のリミッターを自らはずし、最大まで威力を底上げし、放つ。
 飛来していても射ち出された光は爆ぜ、閃光を放つ。
 それは、すでに一つの巨砲と化していた。

「正念場だぞ、ファブニール!」

 トウヤは変化した長剣を振り、ミサイルを作り出す。
 それは今までの比ではなく、小型と言うよりはむしろ細長い。
 今までのような本当に小型なそれでは、もうない。
 普通のミサイルを撃ち出していると考えても、過言ではないだろう。

「アマテラス、力を貸してください!!」

 アヤは指の合間に複数のサモナイト石を挟み持ち、天へと掲げる。
 オニマルや遠異・近異、金剛鬼といった中クラス以上の召喚獣を、涼しい顔で召喚してみせた。
 威力もかなりの高さで、それこそ魔王は為されるがまま、といったところだったのだが。

『オオォォォッ! ウオオォォォッ!!!』

 新たに生えてきていた竜の顔から、灼熱の炎が吐き出されていた。
 さらに、魔王本体は自らの魔力を使って無数の岩群を落とす。
 それらは。

「―――天牙穿衝・・・ッ!!」

 の殲滅奥義によって、粉砕されていた。
 ただし炎だけはどうしようもなく、エルゴのちからによって形成された盾が守ってはいるものの、ダメージは大きい。
 しかし、それらの傷は。

「出番だぜ、アヴァレス・・・!」

 大剣が光り、蒼い光を放つ竜が具現する。
 はそれを見て、思わず笑ってしまっていた。
 ・・・みんな、無事だったんだな。
 そんなことを思って。
 あのときは大樹として封じられ、動くことなどできないのだろうなと思っていたのだが。
 アヴァレスと目が合う。
 どこか、懐かしげに笑ったような気がした。

『それぇ・・・っ!』

 蒼光が雪となって降り注ぐ。
 その光は触れたすべての傷という傷を治しきり、完全に正常な状態にまで戻していた。
 光はあたりにちりばめられ、大悪魔たちとの戦いで傷ついていた仲間たちすらも癒して見せる。
 まさに、最高の治療を実現していた。

『グウゥォ・・・!? グルルル・・・』

 ダメージが蓄積し、動きが鈍る。
 幾ら魔王とはいえ、無限に体力も魔力も持っているわけではないのだから。

「約束したんだ・・・みんなを、守ってみせるって!」

 ハヤトの持つ大剣が光を帯びる。

「そうよ! だからこそ、あたしたちは頑張れる!」

 ナツミが弓を引き絞る。

「守れるものがあるから、人は強くなれるんだ!!」

 トウヤがサモナイトソードを掲げて、一際大きなミサイルを創り出す。

「だから、みんなが力を貸してくれる・・・!!」

 アヤは杖を掲げ、さらに召喚術を行使する。
 具現した召喚獣たちは最上位のものばかり。

「「俺たちは・・・」」
「「私たちは・・・」」

 を見やる。
 純白の刀からは膨大な魔力が迸り、真紅に染まりきった瞳は真っ直ぐに魔王へと向かっている。

 準備は万端だ。

 そう言っているようにも、聞こえて。

「「「「そのために・・・この世界へ、来たんだから・・・!!」」」」

 一斉に、総攻撃をかけた。
 ナツミの矢が魔王に風穴を開け、トウヤのミサイルがその中へ入り込んで爆発を起こす。
 アヤが召喚した言霊呪滅式、鬼神将ガイエン、鬼龍ミカヅチといった最高位の召喚獣たちが一斉に魔王へ向けて攻撃を仕掛ける。
 轟音と共に煙が発生し、全員の視界を遮る。
 その中から。

「うおおぉぉぉっ!!!」

 魔王の前へ、ハヤトが飛び出してきた。
 煙を吹き飛ばし、上段に掲げた剣が魔力をもって肥大し、彼は真っ直ぐに。

「らああぁぁぁぁっ!!!!」

 その剣を、振り下ろしたのだった。



 ・・・・・・



「っ!? ・・・今だっ!!」

 が駆ける。
 体力など、さっきの一撃でほとんどもっていかれてしまったが、ここで送還できねば彼らの行為が無駄になる。
 だからこそ残りの体力を振り絞り、は荒野と化した大地をただ疾った。
 刀身からは魔力が満ち溢れ、流れ出しているように白い帯を作り出す。
 切っ先を地面に向けて、斬り上げる態勢を作り上げると、動きの鈍った魔王の目の前で左足を踏み込んだ。

「大地よ、空よ、世界に住まうすべてのものよ・・・彼の者を、在るべき世界へ・・・」

 べき、という音とともに、地面が軽くへこむ。
 それほどに思い切り力を込めて踏み込んだのだ。
 柄を両手で持ち、地面すれすれを切っ先が残像を作りつつはしる。
 そして。

「送還せよ・・・っ!!」

 天空へと、思い切り斬り上げた。
 その先に具現する、一つの黒い大孔おおあな
 それが、絶風の第二開放によって作り上げられたサプレスへ通じる孔。
 定員はもちろん1人。
 穴に一番近い場所に位置する、というかそこへ飛び込んでいく魔王だけである。

『ギャアアァァァァッ!!』

 光が奔った。
 穿たれた結界を塞ぐわけではない。
 魔王を吸い込んだ黒い孔は収束ゆっくりと収束していった。



 ・・・・・・



『誓約者たちよ・・・』

 そこは、いつか行ったエルゴの世界だった。
 周囲を見回せばそこには誓約者である4人と、リィンバウムの守護者であるの姿がある。
 目の前には黒、赤、緑、白の光が浮かんでいる。
 彼らはそれぞれの世界のエルゴたちだった。

『魔王はサプレスへ還された。お前たちは、勝ったのだ』
「勝っ、た・・・?」

 白の光が言葉を紡ぐ。
 が作り出した世界を穿つトンネルを通って、魔王は還された。
 リィンバウムには平和が戻り、さらに。

『それだけではない。お前たちは、失われたはずの力を蘇らせたのだ』

 その声と同時に、聞いたこともない声が。
 目の前に浮かんでいる光に加え、新たに紫の光が浮かび上がる。

『我は、サプレスのエルゴなり』
「「「「!?」」」」

 4人の召喚により失われたはずの最後のエルゴ。
 それが、復活を遂げていたのだ。
 その間、エルゴの力は4人へと分散されて取り込まれ、特にハヤトにはサプレスの適正が大きいこともあってか強く取り込まれていた。
 だからこそ、アヴァレスがハヤトに声に応えたのだ。
 つまり。

『お前たちが使ってきた力は、我がサプレスの力。我はずっと、お前たちと共に在ったのだ』

 つまり、彼らの力は魔王の力ではない。
 エルゴたちに認められた、エルゴの王――誓約者にふさわしい者だった。

「そうだったのか・・・」

 ハヤトは息を吐き出した。
 あれだけの力、普通の召喚師たちならあの状況で魔王の力と考えるのは普通のことだったから。
 だからこそ、蒼の派閥に連れて行かれそうになったのだ。

『そして、守護者よ』
「ああ」
『よくぞ、リィンバウムを守ってくれた』
「ああ・・・」
『ここに5つのエルゴは揃った。新たな結界を紡ぐための準備は整った』

 完全なエルゴが存在すれば、穿たれた穴も修復できる。
 さらに、誓約者たちがいることで完全に世界への干渉を行えなくできる結界すらも張り直すことができる。
 あとは望むだけでいいはずだったが。

「いや、待った」

 がそれを止めていた。

「今のリィンバウムは、召喚獣たちの存在で成り立ってる。それをなくせばどうなるか・・・」

 分かってるだろ?

 誰にともなく、はそう尋ねる。
 確かに、そのとおりだった。これは、が世界を旅して回ったからこそ言えることでもある。
 行く先の街々で、召喚獣たちは人々と共存していた。
 召喚獣たちがいるおかげで成り立っている街だってあった。
 だから、この世界から召喚術をなくすことは。

「世界全体が、混乱に陥るはずだ」

 急に召喚獣がいなくなり、召喚術が使えなくなれば。
 人は少なからず動揺する。
 人の中には、確かに悪さを働くものだっている。
 そういう連中だって、召喚獣をパートナーとした人間によってしょっ引かれることがほとんどだ。

『しかし、もし今回のような事件が起これば・・・』
「そのときは、俺が責任もって対処するよ」

 真っ直ぐにエルゴを見据え、告げた。
 数瞬の間の後、

『そうか・・・ならば、結界の修復を行うこととしよう。二度と、事故で召喚される者がいなくなるように』

 時間が経てば、人は変われるかもしれない。
 でも、できうる限り今までのままで。その世界のままでいるべきだと、は考えて。
 進言したのだ。

『さあ、望むがいい・・・新たなる誓約者の名のもとに、結界の修復と強化を・・・』
「俺は・・・」
「僕は・・・」
「あたしは・・・」
「私は・・・」

 世界は、白く染まっていった。








魔王戦&第二開放。
1話で終わらせてしまいました。
さすがに、2話3話にまたがるのはちょっと無理ッス(苦笑)。
さらにゲーム中のパートナーEDの展開を無理やり2連載へ続くようにしちゃいました。
というわけで、81話後エピローグになります。


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