「絶風・・・」

 徐々にその刀身が消えていく。
 消えていくというよりは、むしろ溶けていくと表現した方がいいだろう。
 魔力も充足し、輪郭のみを残す刀身を見、その視線を魔王と化したバノッサへ向ける。

 大丈夫。
 まだ、彼は消えていない。
 自分の中で、魔王の意思と必死になって戦っている。
 だから――

「第二開放」

 声とともに、目の前の異形へ向けて絶風を突き刺したのだった。

『ウウウゥゥゥゥ・・・ッ』

 目の前の異形の苦悶に満ちた咆哮が耳を通り抜ける。
 突き刺した絶風に内包された膨大な魔力が、中で弾けているのだから。

『オオォォォォ・・・ッ』

 爆竹が大量に押し込められているんじゃなかろうか、と思ってしまうくらいに、乾いた音が響き渡る。
 さらに魔王の身体は光を帯び、その背後から。


「うおぉっ!?」


 どさりという音とともに、何かが飛び出てきたことが窺えた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第79話  最後の戦い





「みんな、アレを見るんだ!」

 レイドの声。
 彼が指差した先は巨大な異形で隠れてしまい見づらいが、どこかで見たような姿があった。
 異形の背後から勢いよく飛び出してきたその影は。

『バノッサ!?』

 オルドレイクによって魔王の受け皿とされた、1人の青年だった。


「・・・よし」

 魔王へ突き刺した絶風を抜き出す。
 もちろん、目の前の巨体には傷一つなく、受け皿を失ったことによる苦しげな声が上がっていた。
 第二開放の、一つ目の力。
 それは、憑依された対象を召喚獣から強引に引き剥がすものだった。
 そのための条件として、憑依した召喚獣を超える魔力を引き出さねばならない。
 しかしそれは、の経験が解決していたのだ。
 島での戦いによって得ることのできた、共界線クリプスの恩恵。

「さて、と」

 いきなり現れたバノッサを見て瞠目しているフラットメンバーへと向き直る。
 刀身には未だ巨大な魔力が爆ぜ、瞳は真紅のまま。
 それを見てさらに目を見開くが、それを気にすることなく。

「さ、最後の戦いだ」

 そう告げた。
 バノッサは見てのとおり魔王の束縛を離れた。
 しかし、魔王はそのままの姿を保ったまま、ここにいる。
 だったら、やることは一つだった。

、あんた最初から・・・」
「あのね、俺だって人間なんだぞ、ナツミ。人の死を目にするのはイヤに決まってる。できる限り回避するべきだとも思う」
「でも・・・」

 アヤは表情に一抹の恐怖を残したまま、へと言葉を投げかける。
 無理もないだろう。殺気を篭めた視線を、全員に向けて放ったのだから。

、後ろだっ!!」
「っ!?」

 ガゼルの声と共に、は背後へ視線を向けた。
 魔王が無数の触手をすべてに向けていたのだから。
 しかし、彼は表情を崩さない。

「・・・・・・」

 純白の刀身を魔王に向けて振り切る。
 戦闘の時に、居合を放つように。刃を襲い掛かる触手へ向けて。
 すると、内包されていた魔力が爆発。光を伴った衝撃波が、逆に触手を返り討ちにしていた。
 表面は焼け爛れ、動きも鈍い。
 被害の大きかったものだと、その場で千切れてべしゃりと落ちていくものすらある。
 はさらに一歩踏み込むと、刀を持っていない左手に拳を握る。
 気を纏わせ、渾身の力を篭めて拳を真っ直ぐに突き出した。
 鈍い音と共に魔王の身体がくの字に折れ、そのまま背後へとの距離が空く。
 で左手を痛そうにひらひらとふりながら、再び向き直ると。

「俺は・・・ヤツの送還の準備をしなきゃならない。だから・・・」
「いいよ、言わなくても」
「そうだな。のやろうとしていることは、わかってる」

 答えたのはトウヤとハヤトだった。
 すべてが救われたのだといち早く理解し、希望に満ち溢れた笑みを見せて。

「・・・って、送還なんてできるのか、君は!?」

 声を荒げたのはキールだった。
 彼は召喚師。現在では廃れているはずの送還術を使うことができるのか、と聞いているのだ。
 はそれに「問題ない」と一言告げた。
 第二開放による対象の強制送還。それが二つ目の力だった。
 送還術ではない、でも送還できる。
 元々召喚術を使うことのできないに・・・リィンバウムのエルゴの守護者に使うことのできる『排除』の力。
 まるで、このときのためだけにあるような能力だった。

「アレを送還する条件は二つ。まず、魔力が上回っていること」

 コレはすでに満たしている。
 バノッサを救出するときに、すでに魔力は充足しているのだから。

「そして、対象が弱っていること」

 つまり、戦って倒す。
 そうすれば、送還も可能なのだ。

『ウ、ウオオオォォォォォッッッッッ!!!』

 嵐を起こすほどの咆哮。
 あまりの強烈さに再び膝を落としてしまいそうになるが、己の身体に鞭打ってでもその場に立ち尽くす。

「そっか・・・希望が、見えてるんだね!!」

 立っていられないほどに苦しい状況のはずなのに、ナツミは笑みを見せた。
 自分たちの目の前には、希望が広がっていることがわかったから。

「守って見せます、なにもかも」

 ゆっくりと、アヤも立ち上がる。
 目の前の存在を倒せばすべてが終わると、わかったから。

「ああ、約束・・・したしな」

 ハヤトも立ち上がった。
 希望と自身に満ち溢れ、今なら何でもできそうだ、と言わんばかりに。

「僕たちは、負けられない・・・ッ!!」

 トウヤは叫んだ。
 負ければ、この世界は終わる。
 自分たちも、終わる。
 だから、負けてはいけないのだ。この戦いだけは。

 決めたから。
 守るって、約束したから。

 4人はサモナイトソードを構える。
 同時に、強い光が全体を包み込む。その光は、彼らがはじめて使った『召喚術』に酷似していて。
 仲間たちの窮地を、何度も救ってきた光で。

「力よ・・・」

 言葉を紡いだ。
 自分の中にあるありったけの力で、守りたいから。

「俺に、約束を守らせてくれ・・・」

 ハヤトが言葉を紡ぐ。
 サモナイトソードの刀身から放たれる光が紫に染まり、それがサプレスの力であることが理解できる。

「負けられないんだよ、僕たちは・・・」

 負ければすべてが終わるから。

「バッドエンドなんて、まっぴらゴメンなのよ!」

 最悪の状況だけは、避けなければならない。

「私は・・・私たちは・・・・・・」

 大切なものが、ここにはある。
 幼馴染も、友達も。そして、大切な仲間たちも。
 だから。

「大切なものを・・・守らせてくださいっ!!」

 4人の誓約者たちから、それぞれに光が迸る。
 紫、黒、緑、赤。
 それに加えて。

「そのとおり。だからこそ、俺たちは・・・」

 の放つ純白の光が多いつくし、限りなく白へと変わる。


『お前を倒すっ!!』


 そのために、俺たちは。
 私たちは。

 この世界に来たんだ・・・!!



 光が、爆ぜた。














「ここは・・・」

 目の前に広がっていたのは、一つの空間だった。
 ゴツゴツとした岩で構成され、その最奥には竜を象った魔王の姿が見える。
 そして、それを囲み守るように大悪魔が召喚れていた。
 一面を闇に閉ざされた、禍々しい空間。

「魔王作り出した闇の空間、てところかな」

 エルジンがそんなことを口にする。
 まさに、見たとおり。受けた印象をそのまま口にしたのだ。

「こいつを倒せば、全部終わるんだ。だから・・・」

 ハヤトは、真っ直ぐに魔王を睨みつける。
 バノッサも無事。己を縛るもなんて、ありはしないのだから。

「みんな、力を貸してくれ!!」

 4人だけでは、絶対に勝てない。
 だからこその発言だった。

「たりめーだろ。俺たちは、仲間なんだからな」
「そのとおり。バノッサはが助けてくれた。あとは、ワシらでアイツを葬るだけじゃ」
「世界を守るんだ、私たちの手で」

 彼らが最初に出会った、フラットの初期メンバーが笑みを浮かべ、答えを口にした。
 もちろん、他の仲間たちにも異論はない。

「勝って、みんなで帰るんだ」

 告げたのはキールだった。
 すでに無色の派閥の手を離れ、行き場を失った4人。
 それでも、彼はこの世界にいたいと。側にいたいと思っているから。

「ああ、俺たちみんなで」
「誰一人、欠けちゃいけないんだからね!」
「負けません・・・!」

 ソル、カシス、クラレット。
 みんな、思いは同じ。
 だから。

「行くぞ、みんな!!」

 最後の戦いが、始まった。








すいません、第二開放出ませんでした。
それでもやっと魔王戦=最終戦に突入しました。
エピローグ的には、お題『ひ』に繋がるような終わり方にしました。
・・・スッゴイ強引でしたけどね。


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