最初は、謝罪の言葉から始まった。
 一部屋に8人が会し、その半分が頭を下げている。
 それは、ついさっきオルドレイクが口にしていたことがすべて真実であることを物語っていた。

「僕たちは、彼の子供。そして僕を含めた4人が、召喚儀式の責任者だったんだ」

 オルドレイクの目的は、新世界の創造主になること。
 それは、が言っていたことそのままだった。
 だからこそ。

が言っていたこと、そのままだよ」

 カシスがキールの言葉に付け加えて、そう口にした。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第73話  分かたれた道





 リィンバウムのすべてを滅ぼし、世界全体をまっさらな状態にして。
 自分に必要な召喚獣を、改めて召喚する。
 自分による自分のためだけの世界を、彼は創ろうとしていたのだ。

「狂ってる・・・そんなの、おかしいよ!」
「そうかもしれません。でも・・・あの人は、真剣なんです」

 真剣に、世界を滅ぼそうとしている。
 真剣に、自分だけの世界を創ろうとしている。
 それはとても・・・

「さびしいな、それは」

 ナツミの一言に対し発されたクラレットの肯定的な言葉を聞いて、トウヤはさらに呟いた。
 自分だけの世界。
 そこは、自分を頂点とする召喚獣たちの世界だ。
 人間は、すべて滅んでいるのだから。
 言葉の通じる者は、存在しない。

「なんでそう思うようになったのか、わからないんですか?」
「ああ。俺たちが生まれる前から、オルドレイクはそればかりを考えていたみたいだからな」

 組織全体の願い。
 それだけのために動いているのではないか、ともソルは口にした。
 無色の派閥という組織の始祖が何を体験し、何を思い、新世界を創るという答えに行き着いたのか。
 それは、今ここではまったくわからないことだった。

「続けるよ。世界を滅ぼすために、彼はサプレスの魔王の力に頼った」

 そのために必要な2つのもの。
 それはサプレスのエルゴと、彼ら4人の肉体という名の『生贄』だった。
 魅魔の宝玉はあくまで代用品。儀式が失敗しなければ、必要のないもの。
 サプレスの魔王の力は、罪もない人間1人分の生贄では収まり切らず、4人でやっと同等だったのだ。
 だからこそ、何人もの子供たちの中から飛びぬけた力を持った4人が選ばれた。
 それが、キール、ソル、カシス、クラレット。
 魔王降臨のためだけに育てられた、4人。

「哀しいな・・・」

 人としての愛を受けることなく、彼らは育てられたのだから。
 両親に恵まれ、のん気に学校へ通い、ただなんとなく勉強していた彼らにはわからない。
 想像すらも絶する環境で、彼らは育てられたのだ。
 だからこそ、ハヤトは哀しいと言葉にしていた。

「だけど・・・」

 迷ってしまった。
 自分たちは、この世界に生を受けた1人の人間だから。
 自ら死のうとは、普通思わない。
 死にたくないと考えるのが、普通といえた。

 その迷いによって、儀式は失敗。
 サプレスのエルゴごと爆発し、消えてしまった。

「ここから先は、前に君たちに話した通りだ」

 力を確かめるために、近づいた。
 魔王の力かどうかを、確かめるために。
 でも。

「あたしたちにはわからなかった。キミたちの使う力が、魔王のものかどうか・・・」

 わかったのは、ただ強大だということだけ。

「これから、どうするつもりなんだい?」
「「「「・・・・・・」」」」

 そんなトウヤの問いに対し、返ってきたのは沈黙。
 彼らの力が魔王の力かどうかわかりかねているのに、オルドレイクの言うとおり殺すことなどできはしない。
 彼は4人の力が魔王の力だと決め付けているけど、母こそ違うものの、兄弟姉妹の関係だからだろうか。
 そうではないという自分たちがいる。
 それに、ヘタに危害を加えれば、それこそどうなるかわかったものじゃない。

「もしあの4人によろしくないことをしてみろ・・・彼らが仲間だと思っている君たちでも、許しはしない」

 今でも、あの時の彼の言葉が蘇ってくる。
 もし目の前の4人に何かがあれば、彼は自分たちを戸惑いなくその手にかけることだろう。
 そんな恐怖感すら、彼らをこの場に押し留めていた。



 そのときだった。



「ちょっといいかな」

 ノックと共に入ってきたのは、纏ったローブのフードを深く被った、1人の召喚師だった。



 …………



 ……



 …



「なんだよ・・・まったく」

 ギブソンの師匠に当たるグラムス・バーネットという男性が、蒼の派閥の代表としてやってきたのだ。
 その目的は、魔王の力を持つという4人の男女と世界を滅ぼそうとする4人の男女。
 彼らに会い、派閥の判断に従って拘束することだった。

 魔王降臨を阻止するために戦おうと蒼の派閥が準備をしているから、その戦いが終わるまでおとなしくしていて欲しい。

 それが、グラムスの用件だった。

 日を改めて迎えに来るといっていたのだが、彼らはそれについていってしまった。
 「逃げない」と。自分たちのことも、今でさえ迷っている彼らのことも信じているから。
 そう言って両腕を拘束されて、フラットを出て行ってしまった。

「俺はもう大丈夫だって、言ってるのにさ・・・」
「いいじゃない。せっかくなんだから、久しぶりの平穏を満喫すれば」

 居間の机に突っ伏したを見つつ笑って見せたのは、朝食の片づけをしていたリプレだった。
 今、この孤児院で戦えるのはしかいない。
 他のメンバーはみんなして、連れていかれた8人を迎えに行くと言って出て行ってしまったのだ。
 も一緒に行くと言ったのだが、病み上がりだからという理由であっさり却下。
 ヒマを持て余していたのだ。

「信じてあげなよ。仲間なんでしょ?」
「そりゃ、そうだけど・・・」
「たしかに、仲間を助けに行くのも1つの方法かもしれないよ。でも、彼らを信じて待ってることも、大事なことだと思うの」

 必ず、帰ってくると信じて。
 そのために、リプレはいつも戦いに出かけた彼らを信じて、帰ってきたときのためにとおいしい食事を用意して待っているのだ。
 自分は戦うことができないから。
 彼らの居場所を守り、癒すことが、彼女の戦いだった。

は昨日大ケガして帰ってきたんだもの、ゆっくり羽を伸ばすことも大事だよ?」

 いつまで張り詰めていても、仕方ない。
 戦うときは戦う、休むときはしっかり休む。
 そうしなきゃ身体が保たないよ、と彼女は言い聞かせるように言葉を紡いだのだった。







 …………








 結局、みんなしてその日の内に帰ってきた。
 蒼の派閥の連中と戦いを繰り広げて、打ち勝って。
 「信じる道を進むがいい」というグラムスの言葉のままに、彼らは意気揚々と帰って来た。
 リプレの作った料理をほおばり、

「あー、やっぱ戦いのあとはこうじゃなくっちゃなぁ!!」

 なんて言っているガゼルの姿に苦笑してしまった。
 その日は仲間内で宴会。
 最終決戦に向けて英気を養うという名目の上で、盛大に行われた。
 はそんな中でお茶の入ったコップを持ち、居間の壁に寄りかかって傍観していた。

 目の前は大惨事だった。
 酒に酔ったスタウトがリプレにセクハラかましてお玉で思い切り殴りつけられたり、顔を真っ赤にしたガゼルが彼に詰め寄ったり。
 悪ノリしたジンガがラムダにどついて制裁されていたり。
 イリアスは泣き上戸で、サイサリスが彼のグチを真剣に聞いていたり。
 そんな光景を眺めて、は踵を返すと外へと出てきたのだった。

「えっと・・・」

 たしか、これだ。
 壊れたらマズいと思い、あてがわれた部屋に置いたままになっていた通信機のボタンを押す。
 以前向こうから呼び出されたときに押したボタンをそのまま押すと、

『あら、どうしたの? ユエルちゃん、見つかった?』

 数度のコール音の後、1つの声が聞こえてきていた。

「いや、今日はちょっと報告があってさ」
『報告? ・・・なにかしら。悪い知らせじゃなければいいのだけれど』

 の声から雰囲気を察したのか、彼女のトーンも低くなっている。

「どちらかといえば、いいようで悪い知らせ・・・かもしれないな。いろんな意味で」
『へぇ。貴方がそんな風に口を濁すなんて、珍しいじゃない』
「そんなときだってあるって・・・で、内容なんだけど」
『ちょっ、ちょっと貴方たち!? なにするのっ、やめなさいっ!! ・・・って、ふぐむぅっ!?』

 ドタバタと通信機の向こう側が慌しい音が響く。
 大の大人が格闘でもやっているのではないかというような盛大な音がガンガンと聞こえているのだが。

「だ、大丈夫か〜い?」
!!』
「うおっ!?」

 突如聞こえた声に、思わずスピーカから耳を離してしまう。
 久しぶりに聞く、彼女の声。
 しかしその声は、今にも泣きそうで。

『ケガとかしてませんか!? ヘンなとこで迷ってませんか!? 知らないおじさんについていったりしてませんかっ!?』

 言ってることがなんだか子供じみている。
 っていうか、子供を心配する母親のような言葉の内容に、思わず苦笑する。

『カゼとか・・・っ!!』
「おいおい、俺だって子供じゃないんだからさ。大丈夫だって・・・久しぶりだな、アティ。声が聞けて嬉しいよ」
『う・・・』

 言葉のマシンガンが止まり、涙を堪えているようで鼻をすすっているらしい。
 ずずず、という音が妙にリアルに聞こえてしまった。

『心配したんですよ』
「うん」
『私の知らないところで、苦しいんでいるんじゃないかって』
「ああ」
『私もう、心配で心配で・・・うくっ』
「大丈夫だよ、俺は元気。ユエルのことは聞いているよな。色んなことがあったから、もう少し・・・」
『私は……っ!! 貴方に戻ってきて欲しいんです!!』

 の言葉を遮り、アティの涙声が響き渡る。
 通信機の繋がった先で、彼女はきっと泣いているのだろう。
 仲間に多大な心配をかけてしまっていて、申し訳ない気持ちにさせられてしまう。

「俺は・・・」
『でも、貴方はまだ戻ってこないでしょう?』

 わかってます、と。
 彼女はの声をさらに防いで、言葉を紡いだ。

『貴方は仲間思いだから・・・ユエルちゃんが見つかるまで、戻ってこないつもりなんでしょう?』
「・・・うん」

 うなずいた。
 でもきっと、もうすぐ見つかる。
 そんな気がしてならないのだ。
 今はまだ、この場所を動くことはできないけど。

「もうしばらく、いろんなことが起こると思うけど・・・必ず帰るから」

 正直な話、ヴァンドールを出た時点で彼の旅の目的の大半を達成していた。
 負けられない戦いで、夢の中とはいえ世話になった父へのお礼をすることを。
 かわりに、いなくなった護衛獣の少女をさがすという目的が追加されてしまっていたのだけど。

 でも、きっともうすぐ見つかる。
 そんな気がして、ならなかった。
 証拠も何もあったもんじゃない、ただの当てずっぽうな答え。

『私、待ってますから。この島で・・・貴方の、もうひとつの故郷で』
「ああ。ありがとう・・・アティ」

 もうすぐ、ここでの戦いも終わる。
 それが終わったら、自分はどうなるのだろうか?
 内心で問うてみるものの、答えなど帰ってくるわけもない。

 ……

?』
「・・・!? っと、今度はレックスか、久しぶり」

 話し手が変わり、トーンが低めの男性の声へと変わっていた。
 穏やかでいて、どこか凛とした声。

『こっちは変わりない。みんな元気だよ』

 みんな君に会いたがってる。

 声は、そんな言葉も付け足していた。
 自分を受け入れてくれた、島の仲間たち。
 その全員の思いを、響く声が代表して伝えてくれていた。

「そりゃよかった。こっちもとりあえず元気にやってるよ」

 みんなによろしくっって、言っておいてくれ。

 なので、こちらも自分の気持ちを伝えた。
 今は帰れない。でも、必ず帰ると。

「それじゃ悪いけど、アルディラに代わってくれないか?」
『ぁ・・・・・・』

 答えが返ってこない。
 それどころか、どこか焦りすらも含んだ声が詰まり気味。

「レックス?」
『ん!? ・・・あああいや、なんでもないさ。今、彼女はちょっと外出しちゃったんだ。何かあるなら伝えておくけどっ!』

 語尾を強くして、なんだか苦し紛れな言い訳に聞こえないでもない。
 気を取り直して、今回の目的だった『報告』をしようとしたのだが。

「・・・・・・あー、なんでもないんだ。ちょっと、声が聞きたくなってさ」

 やめた。
 今平和なんだから、無用な心配をさせる必要はない。
 タダでさえ彼女に特大の心配をかけているわけだし。
 自分の心の内側だけに、留めておこう。
 そう決めた。

『そうかい? ・・・それじゃあ、他に伝えておくこととか』
「いや、大丈夫だよ。ありがとう、2人とも。話ができてよかった」

 最後にそう告げて、通信機のスイッチを切ったのだった。


「大丈夫、必ず帰るよ」


 夜空に浮かぶ満月を見上げて、は微笑んだのだった。



























「・・・・・・」

 孤児院の入り口。
 そこには、1つの影がたたずんでいた。
 誰かと話をしているのが聞こえて、思わず隠れてしまったのだ。

 影――アヤは居間にがいないことに気づいて、探しに来ていたのだが。
 庭で偶然彼の声を聞き、知らない女性の声に嬉しそうに受け答えしていたことに、胸に軽い軋みを覚えていた。
 今の声は、誰なんだろう? とは、どういう関係なんだろう?
 そんな疑問が、頭の中を渦巻いていく。

『私、待ってますから。この島で・・・貴方の、もうひとつの故郷で』
「ああ。ありがとう・・・アティ」

 アティ。
 それが、声の主の名前。
 彼女の声は、本当にを心配していて、どこか自分と似た強い思いすら含んでいる。
 それの受け答えをしているの声も、いささか弾んでいるように感じられる。
 そして極めつけは、ちょっと覗き見たときに見えた、うわべだけではない本当の微笑み。



「・・・そっか」



 彼はもう、自分の届かないところへ・・・行ってしまった。
 もはや、自分が介入する余地などないと、確信してしまった。

 幼馴染だからと安心しきっていたのがいけなかったのかもしれない。
 自分はいつでも行動に出ることができると、思っていたから。
 でも、もう遅い。
 彼は・・・自分の知る彼はもう、どこにもいない。


「貴方と私の道はもう、交わることはないのですね・・・っ」


 そんなことを小さく口にして、アヤはその場を離れたのだった。






はい、日記の通りゲームの17話をぶっ飛ばしました。
そして、久しぶりな3キャラ登場……声だけですけどね。
さて、ストーリーも終わりが見えてまいりました。
あと数回の更新で、完結まで持っていければいいんですけどねぇ……


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