「Here we GO! ユグドラース!!」

 ナツミの声に、彼女のもつ双剣は淡い緑の光を帯びていく。
 同時に流れ込んでくるのは、力の使い方。
 武器の変化のためのプロセスに変化後の形状から効力、さらには出来上がった武器の名前まで。
 名前自体は『ユグドラース』。
 彼女が出会った四足の獣型召喚獣の名前と同じで、これはトウヤやアヤの時と同じ。
 なら、出来上がる武器の形状は。

「っ!」

 かつん、と双剣の柄の先同士を接触させる。
 緑の光は次第に強まり、彼女の手を中心に伸び始めた。
 2本が1本となり、長さが変わたそれは、剣や杖ではなく。

「弓・・・」

 純白の長弓――ロングボウというヤツだった。
 しなるように曲がった先端からはもちろん弦が張られているはずなのだが、見当たらない。

「ったく、あたしゃ弓道なんかやったことないってのに」

 そんなことを言いつつも、長弓を持った左手の元へ、右手を移動する。
 両の手が触れ合ったところで右手に拳を作り、弓を引くように腕を手前へ引いた。
 すると光の弦が形成され、普通の弓と同じようにしなる。
 同時に光が集まり、1本の矢が出来上がった。
 光が稲妻のように爆ぜ、そのエネルギーが膨大であることが見て取れる。

「いっくわよぉ〜〜っ!」

 射線上の連中! どきなさ〜い!!

 声を張り上げる。
 彼女の狙いは、悪魔の密集地だった。
 そこで悪魔の群れと戦っているのは騎士トリオとジンガ、アキュートメンバーにの9人だった。
 頭数だけでも、向こうの方が圧倒的に上。
 それでも怯むことなく果敢に戦っていたのだが、ナツミの声に振り向くとサーッと青ざめていた。

「ちょ、ナツミ・・・なんだそれっ!?」
「射つわよ! 射つからね!! ・・・いけぇーっ!!」

 引いていた右手の拳を開放した。
 光の矢は一筋の光線となって、一直線に悪魔へと飛来する。
 もちろん、その渦中には仲間もいる。

「おおおぉぉぉっ!?!?」

 声を上げて飛び退いたのはジンガだった。
 元々群れの外側に位置していた騎士トリオとアキュートメンバーは一瞬にして悪魔たちを光に還す光条に、冷や汗たらり。
 中心付近で背中合わせに戦っていたジンガとは、思い切り飛び退くことで何とか事なきを得ていた。

「あああアネゴォッ! 殺す気かよっ」
「あんたたちがどかないのが悪いの! ほら、まだ敵はいるんだから、さっさと戦う!!」

 放った光の矢は。

「・・・・・・」

 悪魔の群れを一直線に分断し、謁見の間の床を軽く抉り取っていた。
 その威力の高さにはぽかんと大口を開けていたが、我を取り戻してふるふると首を振ると分断された片方を片付けるために刀を振るった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第71話  因縁の再会





 白い刀身を一閃。
 複数の悪魔をなぎ倒し、背後から迫る槍をひらりと躱す。
 槍の刃の付け根を掴むと引き寄せて、刀を突き刺した。
 前かがみに倒れてくる悪魔をバックステップで避けて、手に持った槍を悪魔の中へ力いっぱい投げつける。
 先ほどの光の矢に比べると威力は落ちるが、腕を強化して投げつけているのでその速度は高速。
 3体をまるで団子のように串刺しにし、槍の勢いは収まっていた。

「数が多いな・・・」

 軍勢とまではいかないが、悪魔たちは群れ。
 比較的広い謁見の間のほとんどが悪魔の黒で埋め尽くされているが、優勢なのはフラットチームだった。
 ジンガがその場で回転蹴りを放ち周囲の悪魔を吹き飛ばし、レイドが大剣を一閃しイリアスが刺突剣(しとつけん)をもってまるで弾丸のごとく突進を敢行。
 ラムダは『断頭台』という2つ名の通り頭上の大剣を振り下ろして悪魔を真っ二つに両断してみせる。
 狭い室内ではミサイルはマズイということでエルゴの力を使わず、トウヤはカシスとソルの援護の元で悪魔を斬り捨てた。
 アヤは下位の召喚獣を喚び出して悪魔を足止めし、ハヤトとキールで召喚術。
 さらに、ガゼルとクラレットという異色の組み合わせで、見事に連携を取って悪魔を1体1体確実に仕留めているのが意外といえば意外だった。

 ナツミは援護射撃を敢行していた。威力調整が可能らしく、先ほどよりも威力は低い。
 悪魔の群れを分断した光の矢は、威力が強すぎたのだ。
 なんか妙に楽しげに悪魔を打ち抜いているのが、どこか恐怖感を煽る。

 確実に数は減っているはずなのに、悪魔たちはまったく減っているように見えない。
 なぜかと言えば、バノッサがとにかく召喚しまくっているからだった。
 彼を止めないと、いつまでたっても戦闘が終わらない。

「ジンガ、ペルゴ、スタウト! ここは任せた!」
「若師匠!」
くん!?」

 は悪魔を蹴散らしながら一直線にバノッサの元へと向かった。

 彼を無力化してしまえば、戦闘は終わる。

 そう考えた結果だった。
 幸いなことにバノッサは召喚に夢中で、着々と近づいているに気づく様子はない。
 体勢を低くして突き進んでいるのだから、近づいていることはわかってもそれが誰なのかはわからない。

 悪魔の群れを抜けたは、階段を飛び越えて玉座へ。
 その前で魅魔の宝玉を掲げているバノッサを視界に納めて。

「らあぁっ!!」

 大上段に刀を構え、バノッサが彼に気づいて剣で受け止めようとする前に、構えた刀を振り下ろした。
 視線は彼をきっちりと捉えて、これで戦闘は終わりのはず……


 ……だったのだが。


「…………」
「あ……」

 いつの間にかバノッサの前での攻撃を受け止めていた壮年の男性。
 三角傘を深く被り表情は見えないが、その様相は以前街中で見たもので。

「まだ、こやつに死んでもらうわけにはいかないのでな」

 白木の柄に、鍔なしの刀。
 その刀身には一切の曇りはなく、鋼の輝きがの目を覆い尽くしていた。

「っ!?」

 慌てて2人から距離を取る。
 自分を射殺すような視線と、強く禍々しい、いつか感じた威圧感。

 黒装束たちの集団の頭目にして、きわめて高い魔力を持つ召喚師。
 広い空間の中でも影となっていたその闇の部分からにじみ出てくるように、その男は現れた。

「くそっ、これほどまで多くの悪魔たちを召喚してるってのに……なんでヤツらを殺せねえっ!?」

 自身への接近を許したことに腹が立ったのか、あるいはいつまでたっても、どれだけ悪魔を増やしても倒れない敵にイラついているのか。
 バノッサはぎりりと歯を立てていた。
 ヤツらも疲れているはずなのに。
 有利なのは自分のはずなのに。
 なんで、いつまでたっても倒すことができないのか。
 彼をイラつかせているのは、それらが原因だった。
 忌々しげにを睨みつけ、激昂する。
 それを止めたのは。

「取り乱すのではない、バノッサよ」

 影から現れた、1人の男だった。
 初老ともいえる風貌だが、感じる威圧感はとてもじゃないけど普通とは思えない。

「我らの王となるお前が、これしきのことで取り乱してどうする?」


 オルドレイク・セルボルト。




「ハハハハ・・・」




 悪魔たちは、忽然と消えていた。
 「今のお前では手に余る」と現れた男がバノッサをこの場から退却するように命じたからだ。
 そして、は自分が考えていたことがあまりにも的を射ていたため、思わず笑い声を上げていた。
 本来なら笑う場面ではないというのに。

・・・?」

 どうしたのか、と彼の名前を呼んだアヤが肩に手を置こうとした、そのときだった。

「ハハハハハハッ!!!!」

 刀を持たない空いた手で左目だけを隠すようにし、指の間に前髪が入るように顔を覆い、声を上げて笑い出した。

 ・・・まさか、ここまで予想が当たるとは。
 ・・・まさか、奴が未だに現役だったなんて。

 やっと、島のみんなの無念を晴らすことができそうだ。

 『採集』と称して島の召喚獣たちを襲ってまわり、激戦で疲れ果てている帝国の兵士たちを虐殺して。
 赤く長い髪の女性を心が砕けるまでに追い込み、敵だった少年に消えない傷を残していた、無色の派閥の頭目。

「・・・ど、どうしたってんだよっ!?」
・・・っ!!」

 の隣にいても状況の掴めないスタウトや、彼とは飲み仲間だったローカスが声を上げても。
 それでも彼はことの可笑しさに笑い、それが収まったかと思ったら。

「よう、俺のこと覚えてるよな? オルドレイクさんよ」

 赤黒い瞳を殺気立たせて、オルドレイクを睨みつけた。
 表情には微笑が貼り付けられ、全身からは仲間ですら恐怖を覚えるくらいに殺気がにじみ出ている。
 そんな彼を見て、オルドレイクの表情に驚愕が宿る。

「きっ、貴様・・・ッ!」
「久しぶりだなぁ。でもって・・・」

 溢れんばかりの白いオーラ・・・『気』を刀に纏わせて、にか、と歯を見せて笑うと。

「・・・さよならだ!」

 一瞬にして間合いを詰めて、オルドレイクの目の前に移動し刀を振り上げていた。
 濃密な気を足に纏わせて強化し、爆発的な加速を得たのだ。
 渾身の力の篭もった刀身がオルドレイクを捉え、途惑いなく振り下ろされる白刃。
 何がなんだかわからないフラットメンバーはただその光景を眺めているだけしかなく、実際に動いているのは。

「・・・・・・っ」

 と、つい先刻彼の剣を受け止めた男性だけだった。

「無事か、オルドレイク」
「・・・あぁ、変わらず剣は冴え渡っているようだな」

 の姿を認めつつも、彼の剣を受け止めている彼・・・『松楸の烏』にオルドレイクは告げる。
 殺気の篭もった視線をオルドレイクから松楸の烏に移すと、

「お前・・・奴の仲間か」
「いかにも。我は『松楸の烏』・・・オルドレイクは我を召喚せし主」
「そうか。なら・・・」

 刀に力を込める。

「お前もまとめて斬り捨てるまでっ!!」
っ!!』

 ようやく状況の掴めてきたフラットメンバーは、こぞって彼の名を呼んだ。
 。自分たちにとっては信頼のおける仲間で、いつも冷静にことを見つめている彼が。
 オルドレイクを見た途端に殺気を露にして、止める間もなく斬ろうとしたのだ。

 ・・・きっと、なにか裏がある。
 ・・・自分たちの知りえないなにかを、彼は背負っている。
 ・・・だから、今は。


 彼を止めなければ。


「うっ・・・ぐあぁっ!?」

 動こうとしたところで、彼のうめき声が上がっていた。
 松楸の烏を相手に、彼の背後にいたオルドレイクに隙を見せたことがいけなかった。

「ふん、どのようにして年老いずにここまで来れたのかは知らぬが、我らに挑むには些か早計だったな・・・哀れなはぐれよ」

 オルドレイクがの右肩を、いつの間にか手に持った黒い剣で突き刺していた。
 刀身から鍔、柄までもが漆黒に染まり、周囲を闇色に染め上げるほどのオーラを放っている長剣。
 それは。

「・・・ウィス、タリアス・・・?」
「否。久々の再会なのだ、教えてやろう・・・この剣はヘルハーディス。我が狂気を喰らい力へ変える『常世の狂王』、ヘルハーディスである」

 ―――ワシはオルドレイクに言われるがままに剣を創った―――

 そんなウィゼルの言葉が蘇る。
 この漆黒の剣が、『彼女』の剣の再生の際に構造を理解した結果。
 狂気を糧とし力に変える、魔剣。

「ヘル、ハー・・・ディス・・・がぁっ!」

 刀を握り締めたまま、貫かれた肩口から剣先を強引に抜く。
 だくだくと血が吹き出し意識が途切れかけるが、目の前に敵がいるからと気力を振るう。

「・・・っ!!」

 すぱん。

 松楸の烏が、無防備になったの身体へ刀を振るう。
 その刃は浅く身体を斬りつけて、を階段下へと突き落としていた。
 貫かれた肩口を守りながら階段を転げ落ちる。

・・・っ!!」

 勢いの止まったを見て、アヤは涙を流しながら駆け寄ると。

「今回復かけますから! 目を開けて・・・!!」

 赤い絨毯に赤黒い液体が広がり、池となっていた。
 紫のサモナイト石を持ち、アヤは必死になって呼びかける。
 の肩口には小さな穴が空いて、さらにそこから左わき腹にかけて、斜めに斬り傷がつけられている。
 いずれも、普通なら重症。
 それはも例外ではなく、激しい痛みと階段を転げ落ちたことで意識を飛ばしてしまっていた。

「「っ!!」」

 ハヤトとナツミ。
 同じ世界出身の2人が、アヤを追いかけてに駆け寄った。
 しかし、トウヤだけは。

「・・・許せない」

 血が出そうなほどに拳を強く握りこみ、怒りを露にしていた。
 事情はわからない。
 とオルドレイクの間に何があったのか、今の時点では知る由もない。
 でも。


 ・・・あいつは、僕の大事な友達を傷つけた。


 普段から冷静沈着な彼が今。
 湧き上がる感情を爆発させようとしていた。
 眼前でサモナイトソードの刀身を立てて持ち、目を閉じる。

「・・・ファブニール」

 守護獣の名を呼ぶと、剣がその形状を変えた。
 細身の長剣が、鍔元に行くほど太く剣先に収束するような刀身へと変わっていく。
 自らエゲツナイと口にしていた、ロレイラルは守護獣から得た力。
 それを。

「・・・・・・」

 何度も剣をその場で振り、無数のミサイルを出現させた。
 弾頭はすべてオルドレイクと松楸の烏に向かっており、尻からはジェットを吹き出している。
 す、と剣先を2人へ向けると。




「いけ」





 なんの戸惑いもためらいもなく、そう口にした。








黒幕登場&夢主負傷。重症です。
久しぶりに戦闘を比較的細かめに書いてみました。
そして、オリジナル要素。
オルドレイクが魔剣を装備しています。
名前考えるのに、少々苦労していたり。


←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送