広い庭内に、黒が蠢いていた黒装束たちを召喚術でまとめて一掃して。
 一行は城内へと足を踏み入れていた。
 人の気配はまったく感じられず、それなのに誰かに見られているような、いや〜な感じ。
 城の内部構造を熟知しているレイド、ラムダ、イリアスを騎士トリオを先頭に長い長い廊下を駆け抜けていた。
 目指すのは、バノッサがいるであろう玉座の間。

「・・・・・・」

 周囲を警戒しながらも、は以前にも感じた強い重圧と恐怖感を、再び感じ取っていた。
 ・・・いる。
 探していた、というよりは偶然見つけた、と表現するべきだろう。
 はもともと、護衛獣の少女を探して旅をしていたのだ。
 自由気ままな当てのない旅。
 訪れた街々で情報を聞いて回って、観光しつつ次の街へ。
 地図と磁石は欠かせず、なんとか迷わず旅ができていた。
 まさか、召喚されるとは思いもしなかったわけだけど。
 もちろん、因縁の相手のことなど見つけたら、というか不穏な動きをしているのなら止める。
 そんな軽い気持ちだったのだけど。

「・・・やっぱり、ダメだな」

 きっと、対面してしまえば湧き上がる感情を押さえきることなどできないだろう。
 今でさえ、心臓がひっきりなしに強く動いているのだから。

「なんか、薄気味悪いな」
「人がいないせいだろうな。この城は窓も少なくて、光が入ってこないから」

 ハヤトのそんな一言に律儀に答えたのは、イリアスだった。
 振り返らずに答えを口にすると、レンガ造りの壁に手を這わす。

「そのせいか妙に圧迫感があって、僕はちょっと苦手だったよ」

 彼は苦笑すると、見えてきた大きな扉――玉座の間へ続く扉を指差したのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第70話  信頼という名の絆





「クックック・・・ようこそ、俺様の城へ」

 バノッサは悠然と玉座に腰を落としていた。
 右の足を左の足の上で組み、右手の肘を横の部分について、頬杖をしていた。
 隣にはカノンが控え、黒装束の姿もある。

「この前はおかしな邪魔が入って、うまいこと逃げられちまったが・・・今日はそういうわけにはいかねェぜ? はぐれ野郎ども」

 宝玉を取り出しながら、ゆっくりと立ち上がる。
 紫光を帯びていくのを眺めつつ、含み笑った。

「宝玉を返すんだ、バノッサ」

 魅魔の宝玉の持つ力は、強大だ。
 世界全体を揺るがすことすらできるその力を引き出しているのは、他でもない彼自身なのだが。

「世界が滅びるんだろ? 知ってるさ・・・俺様にこの玉をよこした野郎が、そう言ってたからなァ」

 知っているなら、なぜ。
 そう考えるのは、当然だった。
 『オプテュス』の頭目として名を馳せて、自分の考えるままに物事を行ってきた。
 一体、何が彼を世界の滅びへ駆り立てているのだろうか。

「この世界が滅びようが俺様には関係ねえッ! 滅びちまえばいいだろうがッ!!」

 彼は、今の世界に何を望んでいるのだろうか。
 望むものがないから、世界を滅ぼす。
 滅ぼして、新しい世界を作る。
 世界がなくなれば、居場所だってなくなってしまうのに。

「俺様には、居場所なんかいらねえんだよ・・・次の世界に、俺様にふさわしい場所が用意されているんだからなァ」

 一度滅んだ世界を作り直し、新しい居場所を得て。
 そこで、彼は。

「俺様はそこで王になる。誰よりも強い力を手にした、最強の王に!」

 くだらない、実にくだらない。
 王になってどうなるというのだろう。
 滅んだ世界では競争をするような相手も、王として慕ってくれるような人々もいないかもしれないというのに。

「あの連中が作り出そうとしてやがる、新たな世界の王になァ!!」

 『あの連中』。
 それは、黒装束の組織のことだろう。
 世界を壊して、自分たちで再生する。
 彼らの目的が、そこに集約しているから。
 なにを利用してでも成し遂げる。

「・・・かわいそうだ」

 きっと彼も、利用されているのだ。
 自分を否定されて、自分がなにを望んでいるのかすらもわからなくなって。
 そこにつけこんで、今も利用しているのだろう。
 ・・・そういう連中だ。

「バノッサ・・・そこまでして、お前は力が欲しいのか?」
「居場所のあるてめェにはわからねェよ、エドス・・・」
「違う! お前にだって居場所はあったはずだ!」

 北スラム。
 オプテュス。
 自分を慕って、ついてきてくれているカノンという少年。
 これほどまでに、彼には居場所があったはずなのに。

「俺様の欲しかったものじゃねェッ!」

 彼は今、それらをすべて否定して見せた。
 召喚師の血を引いているから、という理由で。

 バノッサの父親は、召喚師だった。
 才能がないからという理由できり捨てられ、彼自身顔も名前も知らない。
 本来ならそこが俺の居場所だったんだ、と彼は口にした。

「だから貴様は、彼らを目の敵にしていたのか!」
「あァ、そうさ。俺様はそいつらが許せなかったんだよ・・・」

 自分には使えない召喚術という力を、召喚されてきた彼らがいとも簡単に使って見せたことが、許せなかったのだ。

「殺してやるぜ、てめェらまとめて・・・」
「くだらないな」
「!?」

 バノッサの視線が動き、声の主へと向かっていく。
 次第に嫌悪感と共に突き刺すように睨みつけ、

「ンだと・・・俺様の何がくだらねェんだ!?」

 叫んだ。
 声の主・・・はその怒号にまったく臆すことなく、めんどくさそうにコキコキと首を鳴らす。

「全部だよ、ぜ・ん・ぶ」

 王になってどうなる。
 きっと、たくさんの人の上に立つことで優越感にでも浸りたいだけなのだろう。
 そんな子供じみた理由で、自分たちが振り回されていたかと思うと、呆れてものも言えなくなってしまう。

「てめェは、また・・・俺様を否定するつもりかァ!?」
「なんだ、否定されたいのか・・・なら言わせてもらうけどな」

 はバノッサに向き直り、言葉を発し始めた。
 罵倒とは違う、冷たい言葉の刃を。

 召喚術を求めることは悪いわけじゃない。それを持っているというだけで目の敵にするなど、ただの妬みにしかならない。
 人一倍にプライドだけは高くて、ちょっと貶されれば「殺す」の一点張り。とんだ殺人快楽者だ。
 新世界で王になってどうする。人々の頂点に立って、優越感にでも浸りたいのか。
 子供かお前は。

 そんな言葉を、次々に口にする。

「お前はな・・・今、手に入れているはずだった居場所を自ら捨ててしまったんだ。だから、もう1度言うぞ・・・」

 役立たずの仲間なんかいらない。
 だから捨てた。子分たちが次々と去っていっても、気にもとめなかった。
 自分には『召喚術』という力があるから。
 先日が言っていたことを・・・「仲間を役立たずと考えているんだ」という発言に否定しようとしたバノッサは、もういない。
 今目の前にいるのは、バノッサという男を象った、ただのクズだ。

「居場所を・・・仲間を持たないお前に、俺たちは殺せない。どんな手を使っても、誰一人」
「――――っ!!!」

 憤慨した。
 これから殺そうとしているのに、「自分には無理だ」と頭ごなしに否定してみせる目の前の男に。

「はぐれ野郎どもは後回しだ・・・てめェから先に、ブッ殺してやるっ!!!」

 魅魔の宝玉が強い光を帯びた。
 召喚術発動の前触れ。それを見て目を見開いたのは、エルゴの加護を得た3人だった。
 に駆け寄ると、反射的に手をかざす。
 紫の光と、黒赤緑の3色がぶつかり合って、双方とも消え去っていた。

! なに相手を挑発してるんだよ!!」
「どうせ戦うんだろ。だったらわざと怒らせて、さっさとやっつけた方が利口じゃないか」

 我を忘れた敵ほど、簡単に切り崩せる。
 旅をして、たくさんの敵と戦ってきた経験から得た教訓だった。
 実際、はバノッサよりも、その背後にいる黒幕が気になっていた。
 手を貸していたバノッサを撃退して、引きずり出してやらねば。
 そんなことすら、考えていた。

「な、何だ・・・今のは!?」
「エルゴだよ・・・エルゴの力が、誓約者たちを守っているんだ」

 そう口にしたのはエルジンだった。
 目の前で起こる光の奔流に、驚きすら混ざっていたギブソンの表情。
 エルゴの力が自ら、誓約者たちを守っている。
 伝説級の出来事が、目の前で展開されているのだから。

「お前の力は・・・もう通じない」

 そう口にしたのは、トウヤだった。
 彼も、内心では怒りを通り越して呆れていたのだ。
 子供じみた彼の理由に。
 どのような育ち方をしてきたのかは知らないが、いい年の男がそれでは先が思いやられる。
 誓約者として・・・同年代の人間として。

「お仕置きしちゃいましょうか」

 お仕置きをせねば、ならないだろう。
 アヤはサモナイトソードを杖へと変え、戦闘態勢に入っていた。
 手持ちのサモナイト石は光を帯び、召喚の時を今か今かと待っているようだった。

「うるせェ、うるせェ・・・うるせェェェェェェェッ!!!!」

 魅魔の宝玉に宿る光が強まっていく。

「俺様は、負けねェ!! てめェらをブッ殺して、王になる!! 選ばれたんだっ!!」

 左手に魅魔の宝玉、右手に剣。
 そして召喚されるはサプレスの悪魔たち。
 床からにじみ出てくるように召喚される彼らはそれぞれに武器を持ち、目の焦点が定まっていない。
 正規の手順を踏まずに強引に召喚した結果だろう。
 しかし、指令は最優先で遂行されるようインプットされているようで、いくつもの視線が仲間たちへ向かっていた。
 頭数だけなら、間違いなく負けているが。

「あたしたちは・・・勝てる! 心が折れない限り、負けはしないわよ!!」

 双剣を持った手でぐっ、とガッツポーズを決めるナツミが、どこか頼もしい。
 自分たちを認めてくれたエルゴの力を目の当たりにして得意になったとか、絶対的な自信を持ったとか、そういうわけでもない。
 ただ、自分には仲間がついてる。自分が失敗しても、みんながなんとかしてくれると、再認識したのだ。
 がバノッサに放っていた、罵倒に近い言葉によって。

『仲間を持たないお前に、俺たちは殺せない』

 仲間というものの大切さを良く知っているからこそ、言えた台詞だった。
 一体、この世界でどれほどの戦いを経験してきたのだろうか、と考えざるを得ないような、強靭な意志。
 今までよりも一層、みんなとの距離が近づいたような、そんな気がして。

「あたしたちの力、仲間のいないアイツに、見せ付けてやろーじゃないっ!!」

 そう口にしたときだった。




『いいねぇ、嬢ちゃん。気に入ったぜ』




 ぶわぁっ、と一瞬にして景色が変化する。
 視界はモノクロになり、周囲が凍りついたように止まって見える。
 そして。

「へ? へ? へ? ・・・って、ななななんじゃこりゃぁ〜!?」

 女性らしからぬ悲鳴を上げた。
 なぜなら。

『おいおい、そう驚いてくれるなって。別にとって食おうってわけじゃねーんだからよ』

 目の前に、白く巨大な虎が存在していたからである。
 ナツミ自身よりも巨大で、遠くから見れば彼女がまるで豆粒のようにも見えるだろう、といえるくらいに。

『ま、とりあえず落ち着けって。な?』
「え、あ・・・うん」

 ばっくんばっくん高鳴る心臓を押さえつつ、とりあえずその場に座り込んだ。
 立っているよりは落ち着くだろうと考えたからだ。
 あぐらをかくでもなく、正座をするでもなく。
 膝を閉じた状態で両足を外側へ向けた座り方。

『まずは、自己紹介だな。俺はユグドラース。メイトルパの守護獣だ』
「しゅご・・・じゅー?」
『そこ伸ばすな。しゅごじゅう、だよ。』

 ぶっちゃけた話、今のはどうでもいい話で。

『んで、ここはお前さんの精神世界。ま、心の世界・・・心象世界だと思ってくれ』
「は、はあ・・・」

 もはや、なにがなんだかさっぱりだ。
 こちとらそう言った知識なんぞありゃしないのに、向こうが勝手に話を進めてしまっている。

『俺は役職的にはメイトルパへの扉を守護する守護獣って立場でな。ま、お前さんが手に入れたエルゴの象徴みたいなもんだ』
「エルゴ・・・じゃあ、あの緑の球体が?」
『そ。それだ』

 剣竜を倒したときの声と、出てきた緑の光が。
 あれが、今目の前にいる四足の獣だというのか。
 遠めで見ればわかるのだが、白い体毛に覆われた虎なのだ。

『で。ここからが本題な。俺は、さっきのお前さんの発言を気に入ってこうして出てきてるわけだ』

 心が折れない限り、負けはしない。
 誰かが失敗しても、信頼できる仲間がいる。
 絶対に、勝てる。

 彼・・・ユグドラースは気合の入ったその一言に感化され、目覚めたのだ。

「う゛・・・今それ言われると、ハズいわね・・・」
『おいおい、気にすることでもねえだろ。俺は立派だと思うぜ?』

 ナツミの顔に赤みが走る。
 火照り始めた顔を両手で包んで、うつむいてしまった。

『仲間を思うその気持ち。信頼という力を持つお前さんに・・・』

 頭の中に響いてくるような声が、ただただナツミに向けられる。
 口調こそ砕けすぎてバノッサに近いものがあるが、彼とは違い威厳というか荘厳な雰囲気というか。
 深みみたいなものがある。

『力を、貸してやる』

 借りといて損はねえぞ、と。
 ユグドラースはその大きな目を細めて、笑っているように見えた。

『その力に溺れない限り、俺はお前さんに力を貸すぜ』

 周囲のモノクロに光が灯る。
 ゆっくりと色付き、精神世界そのものが終わりを告げようとしていた。

『おっと、時間だな。元に戻ったら、俺の名を呼びな・・・それから』

 光が強まり、もはやユグドラースの姿を確認することすらできない。
 声にもノイズが走り、聞き取りにくくなり始めている。
 それでも。

『アイツに・・・のヤツに、よろしくな』
「えっ!?」

 どっ、どーゆーことよ!?

 爆弾発言に近い一言に、再びナツミはこんがらがっていた。
 しかし、時間はいつまでも止まってはおらず、

「ナツミ! しっかりするんだっ!!」

 キールの声が、彼女を現実に引き戻していた。
 モノクロの世界に色がつき、現実へと帰還したことがわかる。
 すでに戦闘は開始されていて、ハヤトやトウヤ、やジンガといった前衛組が悪魔を相手に奮闘している。
 が居合斬りで一気に数体の悪魔を戦闘不能へ持ち込み、ハヤトの重さのこもった一閃が武器ごとなぎ倒し、トウヤの斬撃が敵を地に伏せる。
 バノッサの召喚術にはクラレットやカシス、ソルに加えてミモザやエルジン、カイナといった召喚師メンバーが援護の意味も含めて代わる代わる召喚術の詠唱を開始していた。

 ・・・あ、騎士トリオが三位一体攻撃。ずっこ。

 そんなこと考えている場合ではなかった。
 実際、実戦にずるいも何もあったものじゃないわけだし。

「早く来てくれ! タダでさえ頭数が違いすぎるんだから!!」
「ゴメン! 今行く!!」

 駆け出した。
 ついさっきまで感じていた感覚は、嘘ではないだろう。
 幻覚でも幻聴でもない。
 だから、きっと使えるとナツミは思う。

 トウヤやアヤも、きっとこれを体験したんだ。

 そんな答えに行き着いて、双剣を抜き放った。





「Here we GO! ユグドラース!!」







次回、黒幕登場です。
なんていいますか、最近戦闘描写がめんどk(自主規制。
夢主悪役っぽいです。


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