エルゴの守護者との戦いを終え、新たな仲間を加えたフラット一行は、本拠地である孤児院へ舞い戻っていた。
 本来ならかなり広いはずの居間が、圧倒的な大人たちで埋め尽くされている。
 イスなどはもちろん役に立たず、そのほとんどが床にぺたんと座り込んでいるか壁に寄りかかっているか。
 新参者であるナやカザミネに至っては、「粗茶ですが」とリプレから受け取ったコップに注がれている飲み物を口に含んで、大層気に入っていた。

「これで4つのエルゴが揃ったわけだ」

 そんな中での、このエドスの一言。
 ロレイラル、シルターン、メイトルパの順で各地を回り、リィンバウムのエルゴも守護者(代行)であると戦ったことですでに入手している。
 つまり、中心にいる4人の男女が誓約者――リンカーになるための準備が、できたことになる。
 ちなみに、サプレスのエルゴはバノッサが『魅魔の宝玉』を使った影響か、不在となっていた。

「よっしゃ、だったらさっさとそいつを済ませちまえよ」
「あ、ああ・・・」

 曖昧に答えを返すハヤトの表情は浮かない。
 それぞれがエルゴの力を得ている中で、自分だけが関わりをもっていないのだから。

「ハヤト、そう落ち込むなって」

 4人は揃ってエルゴの試練に挑み、打ち勝ってきた。
 つまり、それぞれのエルゴに認められ、例外なく誓約を果たしたということに他ならないのだ。
 だから、サプレスのエルゴの試練を受けていないハヤトは、内心で焦りを感じていた。

 トウヤはロレイラルのエルゴを得たことで小型ミサイルを生成することができるようになった。
 アヤは下位召喚術の複数同時召喚を可能とし、さらにその威力を1段階進化させた。
 ナツミは未だにその力を発現していないが、先の2人のその威力を鑑みるに、相当なものであることは間違いないだろう。
 それぞれが戦える力を得ているのに、どうして自分だけ。

 そんな考えが、焦りという形で表情に現れていたのだ。

「君には、君だけの力がある。気にすることじゃないよ」
「でも・・・
「自分の持つ力を信じて戦うこと。それが今の君にできることだよ、ハヤト」

 ぽん、と肩に手を置いて、は笑って見せたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第69話  城へ突入せよ





「大丈夫。難しく考えることはないよ」
「心を澄まして、エルゴたちに呼びかけてみてください」
『・・・・・・・』

 エルジンとカイナによる簡単なレクチャーを受けながら、4人はそれぞれに目を閉じる。
 何かを感じ取ったのか、ぴく、とそれぞれの眉が動きを見せる。
 すると、次の瞬間には居間だった場所が以前エルゴと出会った空間に変わっていた。

『よくぞ、我らの試練を果たしてのけた。見事だったぞ』
『我らは、お前たちを誓約者として認めよう』

 ねぎらいとともに、そんな声が響く。
 本来なら、すぐにでも穴の開いてしまった結界を張りなおさなければならないのだが、結界の綻びはスピードを上げて進行しているという。
 リィンバウムの内側から、強大な力が結界を破壊しようと圧力をかけているらしい。
 水が溜まったダムは、少しでも穴が空けばそこを中心に穴が大きくなっていく。
 例に例えればそんな感じだ。

「バノッサだな」

 ハヤトが口にした通り彼の使っている宝玉のせいで、結界が破壊されようとしている。
 ゆえに、作り直したところで再び破壊されてしまう。
 元凶を何とかしないかぎり、そのループは永遠に続くのだ。

「それじゃ、魅魔の宝玉を取り戻せばいいわけね!」
「行くなら、速いほうがいい。早速行動を起こそうか」

 そんなナツミとトウヤの声がしたかと思ったら、4人はもといた居間にたたずんでいた。
 あの世界に行っていたのはどうやら4人だけらしく、他メンバーは特に驚いた様子もない。
 エルゴに聞いた概ねの事情を説明するや否や、

「魅魔の宝玉の力は、ここまで大きいものだったのか」
「いや、むしろバノッサが宝玉の力をここまで高めたのだろう」

 話を始めていた。
 彼が何を考えて宝玉を使っているのか、城を乗っ取ったのか。
 そんな疑問が全員の頭をよぎっていく。

「でも、なんでバノッサは結界を壊そうとしてるんだよ?」

 核心に近い、ジンガの問い。
 宝玉の力がリィンバウムの結界の綻ぶスピードを加速させるほどに高まっているのは、ひとえにバノッサの影響が大きい。
 つまり、彼が宝玉を使うことで結界が壊れていく。

「意識して壊しているのではないでしょうね」

 実際、バノッサは宝玉を使うことによる世界への影響など知りもしないだろう。
 むしろ、教えようとしても聞かないかもしれない。

「きっと魅魔の宝玉は召喚術同様、サプレスへの道を作るために強引に穴をあけているんだろうな。バノッサはそれを知らないまま、大量に悪魔たちを召喚してる」

 つまり、穴をあけることが結果的に結界の崩壊につながっているのだ。
 が言うように、結界に毎度毎度穴をあければ、それはもう綻びは早いだろう。
 しかも、1度に大量の悪魔たちを召喚している。
 穴を通りきれない者たちも影響している可能性が高いというものだ。

「・・・おかしいわね」

 そう口にしたのは、セシルだった。
 眉間には軽くしわが寄っていて、綺麗な顔が台無しだ。
 しかし、今の状況のせいでそうせざるを得ないところが、なんとも言いがたい。

「黒装束の召喚師たちは、結界のことに気づいていないのかしら?」
「!?」

 『黒装束』という言葉を聞いて、の肩が揺れる。
 彼が考えている『黒装束』がもし『あの組織』なら、そうしようとしているのにも説明がつく。
 だからこそ。

「いや、むしろ俺には知っていてバノッサの好きにさせているようにも思える」

 このラムダの発言には、大いにうなずけるものがあった。
 彼らはこの世界――リィンバウムを破壊し、新たな世界を創り出そうとしている。
 その方法の1つとして、『忘れられた島のフル活用』が挙げられた。

「待てよ。それじゃ、黒装束たちは結界を壊そうとしてるっていうのか? そんなことをして、なんの得があるんだ!?」
「そうだよ。結界が壊れたら、この世界が滅びるかもしれないっていうのに」
「滅ぼす気で、いるとしたら?」

 そんなローカスとハヤトに言葉を返したのは、クラレットだった。
 彼女を含めキール、ソル、カシスも同様の表情をしていて、それが冗談じゃないということを物語っている。

「馬鹿な・・・いくらなんでも・・・」
「いや、俺もそう思うな」

 ギブソンの否定的な発言をさらに否定したのは、だった。
 ほとんど、確信はしていた。
 黒装束の正体や、その背後にいる組織。その目的。
 島での戦いを経験しているからこそ、彼女たちと同じ考えができていた。

「黒装束たちは、間違いなく世界を滅ぼそうとしてる。そして・・・」
「そして?」

 言葉を返すエドスを見やって、眉間にしわを寄せる。
 いかにも「怒ってます」といった形で。

「世界を創りなおすつもりなんだ」
『!?』

 その言葉に動揺を見せたのは、ついさっき発言したばかりのクラレットを含めた召喚師たちだった。

「理由はよく知らない。でも、あの連中はきっと、そう考えているに違いないさ」
、なんでそんなこと・・・」

 知ってるんだ?

 キールはそう尋ねようとしていた。
 しかし、向かってくる彼の視線は「言うつもりはない」と言っていて。
 聞こうとしていた口は止まってしまっていた。

「なぜ、君はそう断言できるんだ?」

 やはりというかなんというか。
 ギブソンは怪訝な視線をに向けて、そう尋ねていた。
 キールたち4人は止めることができても、彼を視線で止めることは不可能だろう。
 ただでさえ慎重な上に、疑り深い。
 だからこそ、

「昔、同じような組織に関わったことがあったんだよ」

 と、組織名を明かすことなくそう告げた。
 間違いではない。
 そういった組織と関わってきたのは確かだし、実のところはその組織も今回の組織も同じものだ。
 嘘というのは、半分真実を混ぜ込むことでその嘘の質が格段に上がる。
 この言葉で納得するかどうかは彼次第だが、そうとしかいいようがなかった。

「とにかく、奴らが何を企んでいようが、宝玉を取り返せば問題ねえだろ」

 早いとこ、バノッサのいる城へ行こうぜ!!

 ギブソンは何か言いたそうに顔をしかめていたのだが、ガゼルの言葉でそれは見事に押さえ込まれていた。
 そんな彼に感謝しつつ、は共に城へと向かったのだった。






「・・・うわ」

 そこには、いっぱいいた。
 城門をくぐった、広い庭内に。
 黒装束や、黒いローブに身を包んだ召喚師たち。
 美しい装飾の施された噴水や、四角に切り揃えられた植木の間に散らばるようにして配置されていた。
 緑の中に、まるで黒いウイルスが蔓延しているようで、なんだがイヤな感じ。

「バノッサは・・・」
「城じゃないのか? この辺りにはいないみたいだし」

 はトウヤの声に返すように周囲を見回し、答えを口にする。
 頭数だけなら、向こうの方がはるかに上。
 っていうか、庭広すぎだと思う。

 どこにこれだけいたのだろうか、と不思議で仕方ないのだが、それを言ったところでバノッサの元へたどり着けるわけじゃない。
 刀を抜いて、表情を引き締めると。

「みんな、行こうっ!!」

 音頭を取ったのだった。





ゲーム中の16話へ突入。
やっと、終わりが見えてきました。
今回はちょっと短めですが、このまま最後まで突っ走っていきます。


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