「なるほど。お主たちが剣竜に勝てなければ、この世界が危ないのでござるな?」

 剣竜に執着する理由を聞いてきたカザミネに、全てを話して聞かせた。
 バノッサが魅魔の宝玉を使って、サイジェントが――ひいては世界が大変なことになってしまうということ。
 自分たちがエルゴの力を手に入れないと、もう対抗しきれないということ。

「ならば、案内しよう。剣竜の居場所へ」

 この世界が危ないとなると、自分でなにもできず、ただ死ぬことを待たねばならない。
 ならば、何もしないよりは彼らを剣竜の元へと導き、共に戦おうと。
 そう決めたカザミネは一行に背を向けていた。

「本当ですか!?」
「ただし、拙者も剣竜との戦いに加えてもらうことが条件でござる」

 よろしいな?

 そんなカザミネの提案に、快諾。
 全員で足を揃えて、剣竜の元へと向かったのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第68話  わずかな勇気





「なんなんだよ、この地面に刺さった剣の山は!?」

 異様だった。
 急勾配な山の所々に無数の剣が刺さっている。
 剣竜との戦いに敗北した剣士たちのものが、こうして突き刺さっているのだ。
 あまりに多いその剣の数に、

「・・・実は剣竜って、めっちゃくちゃ強かったり・・・」
「最初に言ったであろう。拙者でさえ、いまだ戦う域まで達していないと」

 ナツミの呟きにカザミネは律儀に反応し、言葉を返していた。
 そのときだった。

『グルルル・・・』
「あ・・・!?」

 アヤが声を上げた。
 唸り声の先にいるのは、褐色のうろこを持つ巨大な竜だった。
 そして、中空に浮かび上がる剣群。
 すべて、この峰に刺さっていたものばかりだ。

「・・・これは、ちょっと危険度が高いな」

 あの無数の剣が、自分たちに向かってきたら、どうする。
 全て防ぎきる自信があっても、これは相当に骨が折れる。
 それほど、多いのだ。
 冷や汗が、の頬を伝い落ちる。

「・・・これが、剣竜の力というわけか」
「剣竜の・・・お出ましでござる!!」

 小細工なしの1本勝負。
 それは、高く上がった雄叫びによって戦いへの火蓋が切って落とされたのだった。



 無数の剣群は、その身を武器にして特攻してくる。
 その全ては切っ先こそ錆び付いて使えなくなっているものの、人を突き刺すにはなんら問題はなかった。

「っ・・・早い!」

 一直線に突っ込んでくるそれらを避けることに精一杯で、攻撃などしようがない。
 っていうか、できそうになかった。
 剣の猛攻を受けて、歯噛むのはレイドだった。
 ・・・しかも。

「うおわぁっ!?」

 シャインセイバーやダークブリンガーまで、使ってくる。
 サモナイト石もないのに、なぜ召喚できるんだろう?
 そんな疑問すら浮かび上がった。

「おい、これじゃ近づけないぞ!」

 剣竜は、剣を使う。
 それは剣術を使うわけでもなくて。

「言ったであろう。剣を使うと!」

 剣を使役し、力とする。
 本当に、剣を『使って』いるのだ。
 しかも、その数は多い。

「・・・・・・」

 刀を鞘へ。
 このままじゃ、みんなして危険だ。
 だからこそ、みんなを先へ行かせるための道を作る。
 鉄を斬ることは不可能。
 だからこそ、弾き飛ばす。

「みんな、走れっ!!」

 声と同時に、刀を抜き放った。
 一気に、2振り。
 形成された見えない刃が十字を描き、一直線に飛んでいく。
 本来なら、敵は切り裂かれてしまうはずなのだが・・・

「おおおぉぉぉっ!?」

 1本だけを弾き飛ばして、あとは無傷。
 に狙いを定めて一直線に飛来するのだが・・・

「ぬっ!!」

 カザミネが、すべてを叩き落していた。
 を襲った何本もの剣は地面に転がり、明後日の方向に飛んでいき、壁に近い山肌に突き刺さる。

「油断しすぎでござるぞ」
「・・・悪い。いけると思ったんだけどな」

 力を過信してはいけない。
 それは確かなのだが・・・

「じゃ、次いくか」

 襲いくる剣群を叩き落して、召喚されるシャインセイバーをバックステップで躱す。
 比較的広い足場へ降り立つと、刀を前方上へと掲げた。
 本来なら、使うつもりはなかった。
 でも、今の状況では使わざるを得ない。
 剣竜にもダメージを与え、かつ剣竜までの道を作る。
 アレに打ち勝たなければいけないのは、自分の隣りで剣を振るっている4人のはずなのだから。

「天を穿つ、一子相伝の剣・・・」

 それは、全てを滅する不可視の剣。
 内包する気を根こそぎ使って敵の命を刈り取る、最終奥義だった。
 
「・・・ガイアマテリアルっ!? 、気をつけろ!!」

 形成されたのは、数個の巨大な岩だった。
 それらは全てを対象としており、叫ぶローカスの声が響く。
 しかし、はそれを気にすることなく、

「はぁっ!!」

 形成された巨大な刃を振りぬいた。
 ここは急勾配な山肌だ。味方をすっ飛ばして、浮かんでいる剣だけを狙える。
 さらに、に向けて飛来するガイアマテリアルすらも、真っ二つに斬り裂いてしまう。

 『天牙穿衝』。
 父リクトから教わった、シルターン剣技の最終奥義だった。
 ガイアマテリアルを斬り裂き、無数の剣を全て峰の外へと弾き飛ばす。
 残りは、未だに使われていないままの剣と、剣竜のみ。

「行けっ!!」

 力の抜けていく身体をそのままに、は剣竜を指差した。
 その場に倒れ、目を閉じてしまう。
 歩く分の余力はあるが、動かないにこしたことはない。
 みんなが頑張ってくれれば、はまったり休めるのだ。

!?」
「俺はいいから、さっさと行け! アヤ!!」

 崖の上から覗き込むアヤの心配そうな声を吹き飛ばしてしまうような怒号。
 その言葉に彼をこの場に置いていく決心をしたのか、

「すぐ戻ります! だから、それまで頑張ってください!!」

 そう告げて、崖上から姿を消したのだった。



 …………



 ……



 …




 早く終わらせないと、が危険になってしまう。
 あのまま無防備のままだと、彼自身が弾き飛ばした剣群がいつ戻ってくるかもわからないから、下手したら狙い撃ちとかもあり得る。
 だからこそ、アヤは急いでいた。

(何とか、しなくちゃ!!)

 トウヤは剣を変化させ、無数のミサイルを剣にぶつけている。
 小型のミサイルだが、火薬はたっぷり詰まっているらしく、威力は想像以上だ。

 ・・・・・・

 自分にも、あんな力が宿ったのだろうか?
 そんなことを考えてしまう。

(ダメダメ! そんな大きな力にばかり頼っていたら、意味ないじゃない!)

 ぶんぶんと首を振る。

「お姉さん、危ないっ!」
「!?」

 飛来する1本の剣。
 その切っ先は、アヤに向かっていた。

「っ!!」

 もはや助からない、と目を閉じる。
 しかし、いつまでたっても衝撃が来ないことに気づいて、うっすらと目を開いてみると。

『・・・・・・』

 そこには、エスガルドが立っていた。
 右腕アームに装備されたドリルが突っ込んでくる剣をまとめて弾き飛ばしているのだ。

「エスガルド・・・さん?」
『大丈夫カ?』
「あ、はいっ」
『ナラバ、行ケ。我ラガ、ココヲ守リキッテ見セヨウゾ!』

 右手にドリル、左手にもドリル。
 発掘屋『エスガルド』の出来上がりだ。

「お姉さん、気をつけないとダメだよ」
「エルジンくん・・・」

 エスガルドの背後で召喚術の詠唱を始めるエルジンは、無邪気な笑みをアヤに見せていた。

「みんな、それぞれの相手にかかりっきりだよ。お兄さんが大半を吹っ飛ばしてくれたからいいけどね。今、まともに動けるのはアヤお姉さんだけ」

 つまり。
 ここは我らが守りきって見せようぞ、というエスガルドの声は、アヤを守って戦うと遠まわしに口にしているのだ。
 まともに動けるのが彼女だけだから。
 彼女に、剣竜の相手という一番の大役を任せられたのだ。
 アヤは表情を引き締めると、

「ありがとう、エルジンくん!」

 自分を守ってくれている2人に、背を向けた。



 ・・・・・・



「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 駆けた。
 剣竜のところまで。
 敵に立ちはだかれれば、誰かが必ず助けてくれてる。
 アヤの召喚術を頼りにしているのだろう。
 そして、隣りには。

「もう少しだ、頑張ろう!」

 ソルの姿があった。
 召喚術のおかげで、いち早く片がついたのだ。
 だからこそ、1人剣竜の元へひた走るアヤを追いかけてきたのである。


『グルルル・・・』

 巨大な体躯。
 口から吐き出される蒸気のような白い煙と、唸り声。
 それだけでも、人間を恐怖させるには充分だった。

「・・・俺が盾になる。君は召喚術を頼むな」

 実は、ここまで来るのにソルは魔力を使い果たしていたのだ。
 肉弾戦できるが、戦士を本職にしている連中と比べればその実力は月とスッポン。
 だからこそ、自分では剣竜に歯が立たないから、アヤに特大の一発をお見舞いしてもらおうと思っているというわけである。

「わかりました!」

 元気よく返事をしたものの、手元には守りの堅い剣竜に太刀打ちできる召喚術が皆無だった。
 どうしよう、と小さく口にしているが、襲い掛かる剣竜の尻尾を受け止め、弾き返すソルを見てしまってはなにかやらざるを得ない。
 サモナイト石を漁り、取り出されたのは未誓約の石だった。

「・・・! 新しく誓約をすればいいじゃないですか!」

 なんで気づかなかったんだろう、と内心で思う。
 もっと早く気づいていれば、ソルに苦労を負わせることもなかったのに。

「待っててください、ソルさん。今・・・」

 集中。
 ソルが目の前で剣竜を相手に格闘している。
 そればかりが気になって、

「くぅっ!?」

 意識を集中できずにいた。

 大丈夫、大丈夫。
 私は、できる。きっと、剣竜を倒せる。

 そう自分に言い聞かせながら、目を閉じた、その瞬間のことだった。



『よくぞ、呼び出してくれました』
「へ?」

 トーンの高い、女性の声だった。
 周囲はモノクロとなり、みんな凍ったように動かない。

「みなさん! 一体何が・・・」
『ここは、あなたの精神世界ですよ』

 そう言って、現れたのは。

『私の名はアマテラス。鬼妖界への扉を守る、守護獣です』

 目の前に、赤い紅い鳥が姿を現した。
 羽は炎のように真紅に染まっており、神々しさすらも感じられる。

『あなたの得たシルターンのエルゴ・・・そう考えてくだされば』
「そ、そうですか・・・」

 なにがなんだか。
 目の前で起こる展開に、アヤはついていけていなかった。

『今、あなたは1人の仲間の方を犠牲にして、ここに立っていますね』
「・・・はい」

 必死に杖を振り回すソルの姿が、目の前で止まっている。
 ここがアヤの中の世界だからこそ、外の時間は動いていないのだ。
 そんなソルの後姿を見て、視線を落とす。

「私は、バカなんです。目の前でソルさんが必死になって守ってくれているのに、大事なときにしっかりと動けない」

 本番に弱い性格、とでもいうのだろうか。
 だからこそ、今までだって積極的に動いて来れなかった。
 生徒会の役員になったのだって、そんな自分とさよならしたかったから。

「私の力が、少しでも皆さんのお役に立てればと思って・・・今まで頑張ってきたんです。でも・・・」

 やっぱり、変わらなかった。
 大事なときになると、どうしても本来の自分を出すことができない。
 変わりたいと、思いつづけてきたというのに。
 表面だけを見繕っても、ダメなものはダメなのだ。

『あなたは強い人間ですよ。肉体的にではなく、精神的に・・・』

 羽の先から、火の粉のような赤い何かを散らしながら、アマテラスはそう言葉にする。

『少しでもいい。ほんのわずかでも、勇気を出してみましょう。そうすれば、きっと道は開けます』

 なぜだろう。
 目の前にいる守護獣が、自分を励ましてくれている。

『私も、お手伝いを致しましょう』

 それが、なぜだか嬉しくて。

『さあ、私の名前を・・・声にしてください―――』
「あうっ」

 次の瞬間、周囲の音が戻ってきていた。
 相変わらず、目の前でソルが奮闘しており、アヤの召喚術を今か今かと待っている。

「あ・・・」

 エルゴの宿った短剣は、なぜか1本の杖に変化していた。
 先端には刃だった部分が消え失せて、空中に浮かんでいる赤い宝石を直角にゆっくり回転している円環で支えられているよう。

 流れてくる。
 杖の名前も、使い方も。
 真紅の鳳凰が言っていたように、名を呼ぼう。

「・・・・・・」

 瞳を閉じて、内心で呟いてみる。



 ・・・大丈夫。


 ・・・わずかな勇気を、出せばいいんです。


 ・・・どうか、力を貸してください―――




「私に、力を貸してくださいっ! アマテラスっ!!」

 真紅の宝玉が光を強め、同時にポケットに忍ばせていたサモナイト石が光を帯びた。
 誓約済みのものばかりが光っており、取り出してみるとその光が強まっているようにも見える。

「では、いきますっ!」

 誓約済みのサモナイト石をまとめて、虚空へ掲げた。
 詠唱もしていないのに、石は光を強めて天へと上っていく。
 そして、次の瞬間には数体の召喚獣たちが具現されていた。
 それらの標的は、全てが剣竜に向いている。

 そう。
 エルゴの加護によって得られた力は、下位召喚獣の複数同時召喚。
 そして・・・

「おねがいしますっ!!」

 杖の先端を、剣竜へ。
 すると、その全ての召喚獣たちが一斉に剣竜へ攻撃を仕掛けていた。
 その威力は、中位の召喚術を同等あるいはそれ以上。
 つまり、威力の一段階進化だった。
 粉塵が舞い、剣竜の姿がなくなっていることがわかると。

「やった――――っ!! やりましたよソルさんっ!」
「うわ、こら! 抱きつくなぁっ!!」

 あまりの嬉しさにか、アヤは飛び上がって喜び、ソルに抱きついていた。
 もちろん、ソルは顔を真っ赤にして声を荒げていたのだが。

「う〜ん、青春よねぇ・・・」
「セーシュンですのぉ」
「きゅ―っ!!」

 その光景を眺めていたセシルとモナティ、ガウムを認めて、慌てて離れたのだった。




「複雑?」
「・・・なに言ってるんだか」

 は、今の光景を遠巻きに眺めて笑みを浮かべていた。
 ほとんどの力を使い果たし、戦闘中のはずなのに寝ていたのだ。
 もっとも、みんなの働きで弾き飛ばした剣が戻ってくる前に剣竜を倒せたためケガ1つないわけで。
 余力が少なかったため、たまたま近くにいたミモザに肩を借りていたのだが。

「キミと彼女は、確か幼馴染だって聞いてたんだけど?」
「なんでそのことを・・・まぁいいか。幼馴染だからっていう理由でなにかないといけないのか?」

 そんな言動に、ミモザは眉をひそめ、呆れたように息を吐き出す。

「・・・ま、いいわ。私たちがとやかく言うことでもないし」
「む、気になる言い回しだな」

 1つ、わかっていることは。

「キミはまだまだお子ちゃまだってことよ」




 ・・・・・・ 




『よくぞ守護者を倒した。お前たちの力は、誓約者にふさわしい。我が力・・・メイトルパのエルゴを受け取るがいい』

 そんな声を聞いた瞬間、緑色の光が周囲に立ち込めた。
 若草色に近い緑の光は、ゆっくりとナツミの剣へと吸い込まれていく。
 剣がビクン、と震える。
 強大な力を得て、刀身が緑に染まっていた。

「こ、これはちょっと・・・」

 冷や汗。
 トウヤやアヤも感じた、強大な力に対する恐怖感に近い感情が、ナツミを支配しきっていた。

「大丈夫か?」
・・・うん、だいじょぶ。ちょっとびっくりしちゃっただけだから」

 苦笑し、剣を鞘に納めた。

「まさか、本当に剣竜を倒してしまうとはな」
「カザミネさんの助けがあればこそ、ですよ」

 少々不服そうなカザミネだが、トウヤの応対もあってか、表情が和らいでいた。
 が、これからどうするの? というアカネの問いに、カイナ同様に固まってしまっていた。
 ・・・シルターンの人間て、みんなこんななんでしょうか?
 本気でそう思ったのは、だけではないだろう。

「ふむ、そうだな・・・よし」
「よし、って・・・」

 軽くツッコミを入れたジンガをあっさり無視して、カザミネはへと視線を向ける。
 その真っ直ぐすぎる視線に、思わずたじろいでしまったのだが。

「お主らの、力となろう」

 おもむろに視線を外すと、カザミネはそう告げた。

「・・・い、いいんですか?」
「無論。事情を知ってしまったからには、黙ってはいられない性分ゆえ。そして・・・」

 一度外した視線を、再びへ向けた。
 彼の黒い瞳には、激しく燃え上がる炎が見える。

 ・・・イヤな予感。

殿と申したな。お主に興味が湧いた」
「やっぱりかぁっ!」

 なぜ、といわんばかりにカザミネに尋ね返すが、

「正確には、お主の剣にだ。型にはまっているように見えて、実際はまったく不規則」

 興味が尽きない、と嬉しそうな笑みを浮かべる。



「今から、仕合うのが楽しみで仕方ない!!」



 ひどく、嬉しそうだった。






やっとこさ、ゲーム中の15話が終了しました。
このまま、バノッサのところへ乗り込んで、ついにヤツの登場ですっ!!
・・・・・・多分、ですけどね(笑)。


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