『よくぞ守護者を倒した。お前たちの力は、誓約者の名にふさわしい』

 カイナと対峙したハヤトとアヤは、ソルとクラレットと自身の火力・・・すなわち召喚術をもって圧倒した。
 前衛をハヤトが務め、しのいでいるうちに召喚術を叩き込む。
 機械廃墟以来2連戦ではあったものの、召喚術を使うことに苦はなかった。

『我が力・・・シルターンのエルゴを受け取るがいい』

 そんな声が聞こえたかと思うと、真紅の光がアヤのサモナイトソードへと吸い込まれていった。

「こっ・・・これはっ!?」

 流れ込んでくる強い力。
 その巨大さに、アヤも以前のトウヤ動揺に思わず剣を取り落としていた。
 純白の雪にとさりと落ちた短剣は赤く輝き、雪を赤く染めていく。
 以前見た『紅の暴君』とは違う、優しげな赤。
 これがエルゴなのか、と。
 思わず嘆息して見せた。

「・・・お見事です。これで私も安心して、お役目を果たすことができました」

 半分以上ハメに近かった。
 召喚師が1人のカイナと、召喚師4人・・・うち3人の集中砲火。
 召喚した鬼神など、まったく役に立っていなかった。

「よかったですねえ」

 モナティの嬉しそうな声が木霊し、

「で、お嬢ちゃんはこれからどうすんだ?」
「・・・・・・」

 スタウトの質問に、カイナは笑顔のまま答えない。
 固まっている、と思っても過言ではないだろう。

「・・・もしかして、さ」

 ナツミの一言。
 考えていることはみな同じのようで、顔を見合わせるとこくりとうなずく。

「なにも・・・考えてない、とか?」

 そんな言葉に、ビクリと肩を跳ねさせたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第67話  剣の峰の侍





 曰く、「ずっとお役目のことだけを考えてましたので」とのこと。
 役目を終えた先のことを、まったくもって考えていなかったらしい。
 しかも、谷から出たことがないというのがこれまた驚きだ。

 このまま寒さ厳しいこの場所で暮らしていくのか、はたまた未知の領域へと足を踏み出すのか。
 どちらにせよ、辛い事はこの上ない。
 しかも、彼女は女性だ。いくら強いとはいっても、危険極まりないというものだ。
 だったら。

「フラットに住めばいいんじゃないのか?」

 そんなの一言が、決定打となっていた。
 元を正せば、自分たちのせいで困らせてしまった。
 その若さで隠居はもったいない。
 私たちがついているから、と。
 食い扶持が増えて大変になるのはすでに慣れてしまい、しかもエルジンやエスガルドまで一緒だったりするので、頭数が増えることを嫌がっていたガゼルも、何も言わなかった。
 戦闘だけでいうなら、カイナほどの戦力を無駄にはできないし。
 むしろ、の場合はこちらが優先だったりする。
 試練を終えて強くなった仲間たちと、来る敵と戦っていくために。

 内心で、確信はできていた。
 バノッサの裏で動いている黒幕。ギブソンを襲おうとしていた黒装束の連中の存在で確信したのだ。
 ・・・無色の派閥。
 新世界を作り上げ、牛耳ろうとする連中だ。
 魅魔の宝玉を用いてバノッサを操り、またなにかを企んでいるのだろう。
 ということは、その奥には『奴』の姿も浮かび上がる。
 時間軸だけでいうなら、約20年ぶりだった。
 代がわりしているかもしれないが、にはそうは思えなかった。












 帰るときには、日が暮れかけていた。
 2連戦。死ぬような思いで戦ってきたので、みんながみんなヘトヘトだった。
 フラットへと帰還すると、待っていたのはたくさんの料理だった。
 どこから仕入れて来たのかさだかではないのだが、それまでの悲壮な表情は消えてしまい・・・

「おいっ、ハヤトてめえ!! 俺の肉取っただろ!!」
「はぁっ!? 知らないよ!! 大体、俺とガゼルの間はこんなに離れてるのに、どうやって取るんだよ!」
「リプレ、酒がなくなってしまったんだ。どこにあるか教えてくれないか?」
「あ、それなら私がとってくるよ。レイドは座ってて」
「よ〜うお嬢ちゃん、いいケツしてんな〜・・・へっへっへ」
「うひゃっ!?」
「やめなさいスタウトぉ!!」
「ぐはぁっ!?!?」
「ぎゃはははははは!」
「ふっふっふ。義賊と歌われた俺に、適うと思ってんのか?」
「これでも、数いる酒豪たちを負かしてきた。ナメてると痛い目みるぞ?」
「さあ、どうぞ。私の自信作です」
「わあ、美味しそうですね♪」
「ちょっとアンタたち、暗いわよっ! もっとはっちゃけなさい!!」
「いや・・・僕たちは」
「なんていうか、ついていけないというか・・・」
「テンションがなぁ・・・」
「ええ・・・」
「・・・っ! ええい女々しい! 女々しいぞお前たちっ! おいトウヤ、エルジン! 手伝わんか!」
「ぼ、僕!? え、エスガルドお願いっ!」
「・・・・・・」
「彼らに酒を飲ませて、酔わせようとしてるんだよ」
「・・・ナルホド、了解シタ」
「うるっさいわねえっ! 少しは静かに食事できないの!?」
「え、エルカさあ〜ん・・・」
「きゅうぅ・・・」

 自身の前の肉を取ったということでガゼルがハヤトにいちゃもんをつけたり、ラムダとイリアスと共に酒盛りをしていたレイドがリプレに酒を頼んでいたり。
 ちなみに、イリアスの副官サイサリスは、今もイリアスの側に控えているが、酒は一滴も口にしていなかった。
 スタウトが下心丸出しでナツミの臀部に触れて、セシルに蹴り飛ばされたのを見てジンガが爆笑。
 ローカスとは大きなジョッキになみなみと注がれた酒を一気にあおり、ペルゴが自慢の一品を振舞い歓声を上げるアヤ。
 キール、ソル、カシス、クラレットの召喚師4人衆が暗いとアカネ。
 そんな彼らにしびれを切らしたのか、オレンジ色の酒の入ったコップを片手にトウヤとエルジンに協力を要請するのは無礼講ということではっちゃけまくりのエドス。
 エルジンは隣りのエスガルドに責任をなすりつけて、説明を受けつつ右アームでコップを掴み取った。
 そんな場の騒がしさに声を上げたのは、こともあろうにエルカで。その彼女を見て涙をちょちょぎらせているのがモナティとガウムだった。

「あのぉ・・・いつもこんな感じなんですか?」
「さぁねえ・・・あたしたちは新参者だし」
「みんな、まだまだ子供だということだな」

 騒がしさに呆気に取られるカイナと、そんなフラット+アキュート+αのメンバーを眺めつつ我関せずを貫くミモザ。
 そして、ついに始まったドンチャン騒ぎに苦笑するギブソン。
 明日も早いからという理由でお開きは早かったのだが、居間で雑魚寝している者がほとんどだったことを、ここに記しておこう。




 ……



 …




「こりゃまた、険しい山だなあ」

 高くそびえる『剣竜の峰』を見て、声を上げたのはエドスだった。
 斜度の大きい絶壁には無数の剣が刺さっていて、錆び付いて使い物にならなくなっている。
 駆け抜けるつむじ風は異様に冷たくて、寒いのが苦手なモナティはぶるりと身震いをして見せた。
 ちなみにここは、剣士たちの間に昔から伝わっている話に出てくる地名らしい。
 『剣の奥義を極めし竜、彼の地にて眠る。数多の剣士が挑むも、未だ帰らず・・・』
 そんな一節すら存在するほどに有名なのだとか。

「なんだか物騒な話ね」

 エルカの一言だった。
 もしその一節が本当なら、人数がいたところで相当苦労するだろう。
 剣竜がエルゴを守護する者なら、という条件がつくわけだが。

「なあアニキたち。剣の奥義を極めた竜って、なんのことだろ?」
「う〜ん・・・」
「あたしらこの世界の住人じゃないしねぇ・・・」
「それはそれで、あんまり理由にならない気がするんですが・・・」
「まさか、竜が剣を使うわけないし・・・」

 ジンガの問いにハヤトがうなり、ナツミが考えることを放棄し、アヤが苦笑し、トウヤが本来ならあり得ないことを口にする。
 剣とは人が作り出し、人が鍛え、人が使うもの。
 召喚獣としての『竜』が、使えるなんてこと、普通ならまずありえない話なのだが。


「使うのでござるよ」


 会話に介入してきてたのは、1人の男性だった。
 黒に近い色の羽織と袴を身にまとい、黒髪を1つに結わえている。
 腰には黒塗りの鞘が見え隠れし、彼が剣士であることが伺えた。
 これまた黒に近い長マフラーが、妙に印象的だった。

「あなたは?」

 怪訝な表情を向け、名を尋ねたのはだった。
 男性は1度目を閉じて、息を吐き出す。
 再び開くと、

「拙者はカザミネ。この山で修行しておる、剣士でござるよ」

 男性――カザミネはそう口にして、腰の刀を引っ張り出して見せた。
 ちょうど腰から足の先までの長さ、刃渡り2尺3寸程度の打刀のようで。
 シルターンに存在する『侍』なのだろうと、には容易に推測できていた。

 彼曰く、剣竜は不思議な力で触れることなく剣を操ることができるという。

「それでは、貴方がエルゴの守護者なのか?」
「えるご・・・? そのように面妖な名前のものなど知らぬが」

 ギブソンの問いに、間を置くことなくカザミネが答えを告げていた。
 なにも知らないということは、彼が守護者ではないということで。

「貴方のほかに、ここに来ている剣士とかは・・・いないですよね?」
「左様。ここに修行に来ているのは拙者のみ。あるいは、剣竜の守るという宝のことかも知れぬな」

 の問いにも間をおかず答えを返し、プラスアルファとしての情報をももたらしたカザミネ。
 彼の言葉から察すると、やはり剣竜を相手に戦わねばならないということだ。

「お主ら、まさか剣竜と戦うつもりか?」
「そうですけど」
「やめておけ。生半可な腕では、絶対に勝てはせん」

 剣竜に挑むという人々を前にして、カザミネはそう告げた。
 その場にいる全員の剣を侮辱したわけでもなく、自分が剣竜を相手に戦って、感じた真実を語っているだけ。

「うあっ」
「・・・納得したか?」

 剣を侮辱したのかと激昂したイリアスの槍を難なく弾き飛ばし、刀の切っ先を突きつけたカザミネが、告げた。
 未だ剣竜と戦う域に達していない自分にすら勝てないようでは、剣竜を相手にしたところで勝ち目はないと。
 イリアスを睨みつける彼の目がそう告げていた。

「剣を抜くのが、見えなかった・・・」
「こいつ、シルターンの侍だよ!」

 リィンバウムにおける、騎士に当たる人間たちを総称した呼び名が『侍』。
 独特の剣術を身につけており、彼はそのうえでかなりの訓練を重ねてきたのだろう。
 抜刀するモーションすら見えない剣技。

「・・居合か」
「ほう、我が剣を見極めるか」
「俺だって剣士だ。そのくらいわかる」

 失敬な、とは唇を軽く尖らせて見せると、カザミネは不敵に笑い、

「そなたとは、近いうちに一度仕合ってみたいものだな」

 なんて、口にしていた。



「・・・ともかく、拙者の腕を持ってしても、剣竜には未だに勝てぬ。ましてや・・・拙者ごときに負けるようでは、剣竜を倒すことなど夢のまた夢」

 そんなカザミネの物言いに、武器を失ったイリアスは悔しげに歯を立てた。
 しかし、こちらには色々と事情がある。
 剣竜に打ち勝って試練を突破しなければ、この先の戦いで勝つことはできない。
 だからこそ、

「あたしたちは、先に進みたいんだ!」

 ナツミがそう声を上げていた。
 カザミネは主にナツミの・・・ひいてはその後ろにいる3人の顔を流し見て、目を閉じた。

「どうやら、それなりの事情があるようでござるな」

 詳しく、話を聞かせてはもらえぬか?

 そんなカザミネの一言で、話の組み上げが得意なアヤが代表して自分たちの置かれた状況を簡単に話して聞かせたのだった。






少し短めの67話でした。
やっと、3つ目の試練に突入することができました。
カイナのトコの最後があっという間だったとおもいますが、仕様です。
っていうか、そんなトコまで書いていたらいつまでたっても終わらないので、
省略してしまいました。


←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送