「ぐっ・・・」

 鬼神の斬撃を受け止めて、トウヤは表情を歪ませた。
 腕力に差がありすぎる。
 数度刃を合わせることで、分かったことだった。
 いつまでも受け止めてはいられない。剣道部で鍛えられていたくらいで大丈夫だろう、なんて思っていた自分が恥ずかしいな、と。
 トウヤは汗を流しながらも苦笑して見せた。

 敵の剣は疾く、重い。
 腕力にものを言わせて、トウヤからすれば巨大な長剣を自在に扱っているのだ。

 ・・・このままじゃ、斬られる!!

 そう思いつつも、相手の剣速が衰えることはなく、避けようにも避けきれない。
 突きつけられた現実に、悔しげに鬼神を睨みつけた。

 せっかくエルゴに力をもらったのに、これじゃなんの役にも立たないじゃないか!

 切実だった。
 得た瞬間は、スゴイ力だと思った。でも、身体能力が向上したわけでもなく、ぶっちゃけ何が変わったのか分かっていない。
 敵の剣はもう目の前まで迫っている。

 どうする?

 どうする!?

 自身に問い掛ける。
 答えを出し、行動するのも自分。問いかけの答えが、返ってくるわけではない。

「・・・くっ」

 目を閉じた。


 ・・・・・・


 トウヤと刃がぶつかる瞬間、世界が凍った。
 視界はモノクロになり、周囲の時がぴたりと止まる。

「え・・・?」

 その光景にトウヤは1人、固まっていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第66話  得られた力は





 剣音は聞こえず、鬼神たちの雄叫びも聞こえない。
 時が止まった世界でただ1人、トウヤだけが動きを見せている。

「これは、どういう・・・」
『ここは、貴公の精神世界だ』
「え・・・っ!?」

 目の前に広がったのは、鋼の塊だった。
 巨大な鋼の塊。
 突然現れた巨大な質量に、思わずあとずさってしまっていた。

『驚かせてすまなかった。我が名はファブニール。機界への門を守る守護獣である』
「守護獣・・・?」

 離れてみて分かったのだが、守護獣――ファブニールは、巨大な亀だった。
 巨大な甲羅に、4本の足。さらに、長い尻尾。
 昔なにかの本で読んだ精霊に、それはよく似ていた。

『貴公の得たロレイラルのエルゴ・・・それに宿る者と思えばよい』
「は、はあ・・・」

 なぜ、自分の前に現れたのか。
 そんなことはまったく分からない。でも、目の前の存在が敵ではないということは理解できた。

『強く、なりたいか?』
「え?」

 それは、願ってもないことだった。
 強くなれば、みんなを守れる。みんなを救える。
 トウヤは、自分の無力さを嘆いたことがあった。
 が行方不明になってしまったとき。仲間を人質に取られて、身動きが取れなくなってしまったとき。
 そして、自分自身すら守れない今この瞬間。
 自分に広い人脈があれば、強い力があれば。

 僕は、みんなを救えるんだ。

「強く、なりたい。再会できた彼と同じくらい、強くなりたい」
『そうか・・・貴公の想い、しかと受け取った。我が力、存分に振るうがいい』
「わっ・・・!!?」

 光が爆ぜ、視界に色が戻ってきた。
 目の前には、漆黒の長剣が迫っている。
 しかし、先ほどまでの彼とはどこか違っていた。
 それは。

「っ!!」

 トウヤの長剣型のサモナイトソードが、変化していたからだった。
 両刃の刀身は一直線に剣先に収束し、柄の部分に向かって広がっている。その幅は、トウヤの握りこぶし程度。
 さらに、柄部分には手を覆うように根元から柄尻に向かってシャープなつくりの添え具が備え付けられていた。
 立てていた剣をそのまま敵の剣へ向けると柄に埋まっていた黒い玉が光り、同色の光の盾が形成されたことで斬撃を防いだのだ。

「・・・・・・」

 衝撃はない。
 剣の手前で、黒く淡い光の盾に阻まれているのだから。
 力自慢である鬼神の攻撃をあっさり受け止めてしまう強固な盾。
 そして、なぜか頭に流れてくる情報。
 今の剣の名前や、使い方。

「うわ、えげつないな・・・」

 思わず、口にしてしまった。
 でも、場合によっては敵を殲滅できる、そんな力・・・いや、兵器だ。これは。

 敵の剣が盾に阻まれているうちに、離れて距離を取る。
 盾だけはその場にとどまっていられるようで、いい感じに壁にもなってくれていて。
 これなら、目の前の鬼神にも勝てる。
 そう、確信できた。




「行こう・・・『ファブニール』!!」




 叫んだ瞬間。
 黒玉が反応するように光を帯び、剣をその場で横に振るう。
 すると、何もないところから現れたのは、1発の小型ミサイルだった。
 さらに剣をその場で振ると、出てくる出てくるミサイルたち。
 トウヤの前方で、そのすべてが盾に阻まれた鬼神へ向いていて。尻からジェットを引き出させてトウヤの指示を今か今かと待っているようだった。
 剣ごと空へ手を振り上げて、

「行けぇッ!!」

 前方、盾が消えて自由になった鬼神へ、一直線に向かっていた。
 そして。

「うわ、やっぱりえげつない・・・」

 度重なる爆音と、吹き上がる黒煙。
 計10発のうち、9発のミサイルは寸分の狂いもなく鬼神へ向かい、残りの1発はなぜかさらにその奥へと消えていった。
 味方がいれば危ないが、敵に当たれば優勢になることは間違いない。っていうか、多分1発で十分倒せると思う。
 煙が晴れれば、そこに鬼神の姿はなくて。

「・・・危ない代物だなあ、これ」

 戦闘を終えて、元のサモナイトソードに戻った自分の剣を見て、ため息をついたのだった。




 …………



 ……



 …




 ナツミは、焦っていた。
 双剣での戦闘もずいぶん慣れてきて、かなり戦える状態になってきてると自分でも思う。
 この双剣をもらった後に、少しからレクチャーを受けたのが本当に役に立っている。
 彼が双剣使いと戦っていなかったら、と思うと、今でもゾッとしてしまうというものだ。
 けど、肝心の勝利への決め手がないのだ。
 手数で押す双剣は、刀身が短いためか殺傷能力が低い。
 相手が人間や小さな標的ならまだしも、少なくとも自分より大きい召喚獣相手では、あまりに無力だった。
 繰り出される斬撃を受け止め、躱し、受け流す。
 ・・・正直な話、もうイヤになってきていた。

「困ったわ。これじゃ2人がカイナを倒してくれるまで動けないじゃない!」

 無数の傷を負ってはいるが、動けないわけじゃない。
 素早く動ける相手だから、召喚術で一発、というのも無理。
 詠唱している間に、間違いなく負けてしまう。

「あ〜、もぉ!」

 振り下ろされた敵の右を受け止め、そのままかち上げる。
 頭上に押し返された剣に視線を向けた鬼神は、それに構わず左を繰り出す。
 剣先を真っ直ぐナツミに向けて、突き刺すつもり。


 だったのだが。


「え?」

 しゅううう・・・という音。
 背後で聞こえた爆音に驚き、つい後ろを見てしまったのだが運のツキ。

「うそっ!?」

 見えたのは、高速で飛来する1発のミサイルだった。
 どこからこんなものが飛んできたのか、などという疑問は今は考えているヒマはない。
 とにかく、アレを避けなきゃいけない。真っ直ぐ、自分たちに向かって飛んできているのだから。

「ひゃああぁっ!!」

 慌てて身を伏せる。
 かさかさかさ、とまるでゴキブリのごとく地面を這って離れようとするのだが、それを好機と見たのか、鬼神は彼女を追いかけようと足を踏み出した・・・

 ・・・のだが。

「きゃああっ!!!」

 その前に、飛来したミサイルが着弾していた。
 爆発音と共に、爆風が彼女を襲う。最も、小さなミサイルだったため吹き飛ばされるほどに強い爆風ではなく。

「も、もう・・・だいじょぶよね?」

 おそるおそる立ち上がり、煙が晴れるのを待っていたのだが。

「い、いなくなってる・・・?」

 鬼神の姿は、きれいさっぱり消えてしまっていた。
 真っ二つに折れた双剣の片割れがあることから、おそらく生きてはいないと思う。


「ったく! 誰よー、こんなところでミサイルぶっ放したのはぁーっ!?」


 危なかったじゃない!!


 だんっ、だんっ、としばらく地面を踏みつけ、怒りを露にしていた。
 そして、それが後から現れたトウヤの仕業だと知り、戦闘中であるにも関わらず、鉄拳制裁。

 進行方向の数メートル先へ、トウヤは遠い目をしながらぶっ飛んでいったのだった。







はい、前話よりも圧倒的に短い第66話でした。
実際、1の主人公たちってエルゴを得た後特殊な力とかが手に入ったわけじゃないんですよね。なので、オリジナル連載とすこしリンクさせてみました。

……どうでしょうか?


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