「僕はエルジン・・・『機界の探求者』エルジン・ノイラームだよ!」

 少年――エルジンは子供じみた笑顔を浮かべた。
 緑の髪の毛の上に大きな帽子を深くかぶり、同色のつなぎを身に纏っていた。

「ノイラーム・・・あの、変わり者だったノイラーム家の関係者なのか?」

 ノイラーム家は、『蒼の派閥』に属していた召喚師一族。
 ロレイラルの研究をして、親子で調査の旅に出たまま、何年も行方不明だそうで。

「で、どうしてそんなヤツが守護者になってんだよ?」
「それはね、彼がボクを助けてくれたからだよ」

 ガゼルの声に答えるように、エルジンは『彼』へと顔を向ける。
 唸り声が聞こえると共に、扉の開いた廃墟の中から出てきたのは。

『・・・・・・』

 赤いボディに、城に近い薄茶色のマントを巻いた機械兵士だった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第64話  機界の探求者





「機械兵士・・・」
「なんだ、知ってるのかい?」

 トウヤの問いに、はうなずいた。
 実際に見たのは初めてだが、『授業』の時に何度か耳にした単語だ。
 昔々起こったロレイラルでの大きな戦争・・・『機界大戦』の際に作り出された、汎用の人型兵器だ。

「調査中の事故で、この遺跡に閉じ込められたボクを、エスガルドは助けてくれたんだ」
「へぇ、機械兵士は命令の遂行を第一に考えるように動くものだと聞いたことあるけど・・・自我があるんだな」

 エスガルドを上から下まで眺めては息を吐いた。
 細かい部分までは分かるわけがない。彼は機械という存在自体が苦手で、通信機などの操作するときなどボタンも1つ2つしかないのにどれを押せばいいのか迷う始末だ。

 エルジン曰く、事故で父親を亡くしてしまった彼をずっと守ってくれていたのだとか。
 まだ小さな子供。はぐれ召喚獣などから戦う術など持ち合わせていない。
 エスガルド自身がエルジンを守ろうと考えて行動したのだろう。

「すると、本来の守護者に当たるのは・・・」

 ペルゴの声に呼応したのか、エスガルドはアイセンサーを光らせて、

「コノ私ダ・・・」

 そう告げた。



「しゃべれるのか、コイツ!?」
「我ガ名ハ、えすがるど。えるごノ守護者・・・」

 エスガルドはローカスを一瞥。そのまま4人の誓約者たちに目を向けた。

「誓約者タリエル者タチヨ。我ト戦イ、ソノ資格ヲ示シテミセヨ・・・」

 元々、ここへはこのために来たのだ。
 彼と戦い、誓約者たりえる力を証明すること。
 そして、ロレイラルのエルゴを手に入れる。

「ああ、わかってる」

 ハヤトはついさっき譲り受けた大剣を構え、剣に魔力を通した。
 刀身が薄い紫に染まっていく。
 使い方は、自ずと分かるのだろう。
 その辺りの原理など、誰にも分からない。

「全力で戦うよ、僕たちは・・・」

 トウヤも同様に、長剣に魔力を通す。
 刀身が彼の魔力に・・・彼の色に染まっていった。
 それは、黒。
 ロレイラルを象徴する、鋼色だった。

「バノッサを止めなくてはいけないんです!」

 アヤの短剣は朱色に染まっていく。
 血のような赤ではなく、炎のような朱。
 溢れ出した魔力は天に立ち上り、炎すらイメージさせられる。

「あたしたちの力、しっかり見極めてちょうだいよ!」

 ナツミの構えた双剣も、緑に染まっていく。
 その輝きは、以前見た『碧の賢帝』にそっくりで。
 懐かしさに、思わず目を細めていた。

「サア、下ガリナサイ。えるじん・・・」
「イヤだよ! ボクも一緒に戦う!」

 手伝いがしたい。
 エルゴの守護者として、エスガルドの友人として。

 これから始まるのは、殺し合いではない。
 危険ではあるが、人の死に目を見ることはないだろう。

「えるじん、無茶ハスルナヨ?」
「うん、わかってるよ」
「デハ、行クゾ。誓約者タリエル者タチヨ!!」

 エスガルドはドリルを、エルジンは銃をそれぞれ構えたのだった。






 …………






 はジンガとガゼル、アキュートメンバーと共に十数体の機械兵士を相手にしていた。
 戦闘が始まったとたんに、廃墟内から姿を現したのだ。
 黒やら紫といったボディカラーの、エスガルドの同型の機械兵士。
 手には銃やドリルといった、機械兵士特有の装備が施されていた。

「銃の攻撃には気を付けろ! 当たれば致命傷だ!」
「マジかよ!? 冗談じゃねえぞ!」
「銃口を良く見て、弾道を見極めるんだ!」
「バカ野郎、ンなことできる訳ねェだろうが!」

 ガゼルとスタウトの叫び声とも取れる声に、はしょうがないなと1人、仲間の輪から飛び出した。
 今まで、機械兵士など相手にしたことがない。
 召喚獣や、人間が主な相手だったのだ。無理もない。
 銃の脅威を知っているのは、島で一度撃たれたことがあったからだ。
 一足飛びで間合いを詰めると、刀を横に構えて・・・

「っ!!」

 一閃。
 しかし、繰り出された斬撃は機械兵士の胴へ少しめり込むだけ。

「硬・・・」

 そのまま斬鉄は、できない。
 『断頭台』の異名を持つ、ラムダならまだしも、他のメンバー・・・特に投具を多用するガゼルは傷一つつけることができないかもしれない。

、回りっ!!」

 声に気づいたときには、機械兵士たちの銃口がに向かっていた。
 狙いは、一撃必殺の頭や胸元。


 ジンガが拳にストラを纏わせて機械兵士を吹っ飛ばし、ラムダがその剛剣をもって真っ二つにし、セシルが触れただけでも切れそうな鋭い蹴撃を繰り出し、ペルゴは槍を突き刺して持ち上げ、反対側へと叩き落す。
 投具を使うガゼルや短剣を持つスタウトは、

「こりゃ、硬えな・・・なら!!」
「狙いは、関節!!」

 両腕・両膝を狙って、ガゼルは自らの武器を投擲。
 高速で繰り出された投具はピンポイントで装甲に包まれていない関節部を襲った。
 同様にスタウトは身を屈めて疾走。銃弾を躱しながら懐へもぐりこむと、両の腕を斬り落とした。

 かなり、自分を狙う銃口の数は減った。
 それでも、危険がせまっていることは間違いではない。

 気を纏わせ、刃へ通す。
 巻き起こる強烈な風を自らの武器へと変え、

「おおおぉぉぉっ!!」

 周囲の機械兵士たちを巻き込み、上空へかち上げた。
 重量のある彼らを吹き飛ばすほどの風速。それは街々を襲うハリケーンと同種のものだ。
 つまり、は守護者としての力を放出することで爆発的な風を起こしているということになる。
 さらに、その風に気を乗せて刃を生み出す。
 以前、魔剣『ロギア』が言っていた内に秘められた力。
 轟雷の将とまで呼ばれた父リクトの力を受け継いだ、神秘だ。その力は、世界全体を味方につける。
 吹き飛んだ機械兵士たちは重力によって地面に引き寄せられ、大きな音を立てて落下。
 その機能を停止した。







「来たれ、機界の盟友よ! ボクに力を! ・・・ゴーストショット!!」

 具現した巨大なロボット。
 肩口に淡く光りを帯びた女性を乗せて、右手に装備された砲口を4人へ向けた。
 両手の装備をいつの間にやらサーベルへと変えていたエスガルドと相対する、トウヤとハヤト。
 トウヤは細身の長剣を正眼に構え、襲いくる刃を受け止めては弾き返すを繰り返す。
 受け流した瞬間を狙って攻撃に転じるが、相手はそれを簡単に通してしまうほど甘くない。
 反対に、大上段に大剣を構えたハヤトは、ラムダ同様に力押しによる戦いを主としている。
 自らの腕力と重力にものを言わせ、エスガルドの持つサーベルを折らん勢いだ。しかし、サーベルはまったく折れる気配を見せない。
 それほどに頑丈なつくりをしていた。

 呪文を唱えたエルジンと対峙していたのは、ナツミとアヤだった。
 エルジンはまだ幼い。しかし、武器を手に肉弾戦を挑むような無謀な人間ではない。
 黒いサモナイト石を手に、機界の召喚獣を喚び出した。

「ハヤト、トウヤ! 気をつけて!!」
「そちらに、こちらの召喚術の影響があるかもしれませんから!!」

 砲口は青白い光を収束させ、爆発的なエネルギーを生み出した。

「おいおいおい! 教えてくれるならもっと早く・・・っ!?」
「だってしょうがないじゃない! こっちだって必死だったんだから!」
「エルジンさん、詠唱がとっても早いんですよう!」

 アヤの言うとおり、エルジンの呪文詠唱はとっても早かった。
 本来なら、下準備も含めて堅苦しい言葉が数フレーズ必要なところを、彼はたったの3フレーズ。
 なんのトラブルもなく、召喚してしまったのだ。

 ラピッド・アリア。
 エルジン自身が考え出した、高速召喚の特殊スキルである。
 召喚獣は光の収束を確認して、ついにそれを撃ち出した。
 青白い球体はハヤトとトウヤのいる地点の手前を襲撃し、巻き込むようにナツミとアヤに余波が襲い掛かる。
 しかし。

「あれ?」

 余波は、まったくと言っていいほどにこなかった。
 風自体は吹き付けてくるものの、少し強めの風というくらいなもので。
 少し離れたところで薄緑の、竜巻のようななにかが発生しているのが見えた。
 それがゴーストショットの余波を押し返していたのだ。

「まさに、九死に一生って感じですね」

 これがもし余波と同じ向きに発生していたとすれば、ゴーストショットの威力は倍以上に跳ね上がっていたことだろう。
 自分たちの運のよさか、竜巻を起こした存在が上手く戦っていたからか。
 そのあたりは本人の解釈次第だ。

「なんであれ、チャンスよ、アヤ!」
「はいっ!」

 ナツミは双剣を構え、切り込む。
 緑に染まった刀身は、確実にエルジンを捉えて・・・

「えるじん!」

 振るわれた双剣は、駆けつけたエスガルドによって阻まれていた。
 2人が揃った所で、アヤが手のひらに乗せているサモナイト石が強く明滅。

「お願いします・・・ジライヤさん!」

 召喚された巨大カエルと鬼忍によって、2人は戦闘不能となっていた。






 …………






『よくぞ守護者を倒した。お前たちの力は、誓約者の名にふさわしい』

 我が力・・・ロレイラルのエルゴを受け取るがいい。

 そんな声が頭に響いたかと思うと、青い光が具現した。
 その光は、すーっと移動し、トウヤのサモナイトソードへ吸い込まれ、強い光を帯びた。

「すっ・・・スゴイ力だ・・・」

 サモナイトソードを取り落とし、自分の手を見つめる。
 カタカタと震えが止まらない。

「これが、エルゴの力か・・・」

 意を決してサモナイトソードを手にとり、鞘へ納めたのだった。



「なんで、トウヤだけなのかしら?」
「貴方たちが、4人だからかもしれません」

 ナツミの呟きに答えたのは、戦闘を終えたクラレットだった。
 エルゴの王というのは伝説上の人物で、四界の力すべてを行使できたという。
 もし4人がエルゴの王なら、その力も4分割ということになる。

「なるほどな。それなら簡単だ」

 分割の方法も、その振り分け方も。
 彼らはそれぞれ、行使できる召喚術に違いがあったから。
 ハヤトは霊、トウヤは機、ナツミは獣、アヤは鬼というように、得意としている属性が違っていたのが、トウヤがロレイラルのエルゴを得た証拠となりえるだろう。

「ということは、あたしはメイトルパ、アヤがシルターンのエルゴがそれぞれ宿るってことよね」
「これが本当なら、そういうことになります」
「じゃあ、俺は・・・?」

 サプレスの召喚術を得意としているハヤトは、どうなるのだろう?
 霊界のエルゴは存在しない。なら、彼のエルゴはどこにあるのだろう?

 そんな疑問が湧き出てくる。
 その疑問を破ったのは、リィンバウムの守護者(代行)であるだった。

「大丈夫。近いうちに、サプレスのエルゴもハヤトに宿るよ。それに、それがなくても君は十分強い。それに、俺たちもいるんだ」

 気にすることはないよ。

 ぽん、とハヤトの肩を叩いて、そう告げたのだった。



「エスガルドっ! しっかりしてよ!!」

 アヤの召喚術から身を呈してエルジンを守ったエスガルドは、ボロボロになっていた。
 最も、彼曰く「自己修復機能ガ働クタメ、問題ナイ」らしいが。
 そんな話を聞いて、エルジンは安堵の息をついていた。

「ドウシテ・・・オ前タチハ、手加減ヲシタノダ?」
「どうしてって・・・簡単なことだよ」

 答えたのはトウヤだった。
 これは、戦いであって殺し合いではない。
 エルゴの試練を受けたかっただけで、殺し合いをしたかったわけじゃない。

 エルジンが本気で攻撃してこようが、召喚術を使おうが、それは大切な存在を守りたいがための所業。

「エスガルドはそれだけ、君にとって大切な存在なんだろう?」

 笑みを向けて告げたイリアスに対し、エルジンはうつむき、うなずいた。


「守護者としての役目を終えて、戦う必要はなくなった。どこかでさ、2人で休むといいよ」
「・・・ううん」

 気遣ったつもりなのだろう、ナツミの言葉にエルジンは首を横に振った。

「ボクたちには、新しくやることができたから。休むには早いよ」

 ね、エスガルド?

「誓約者タリエル者タチヨ。貴方ガタを守ルコトモマタ、我ラノ使命ナノダ」
「そういうことだからさ。よろしく頼むねっ!」

 エルジンが4人に向けて手を差し出す。
 最初は驚いていたが、次第に顔が綻び、1人ずつ握手を交わしたのだった。







第64話でした。
エスガルド登場。そして戦闘。
夢主と誓約者'sに視点をしぼりました。
そんなに長く書いていられないので。
他の方については、いろいろと察してあげてください。


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