「シオンさん、こんにちはー」

 刀のメンテナンス道具を譲ってもらおうと思って、は薬処『あかなべ』へと向かっていた。
 先日のアカネとの衝突事件以来ではあるものの、メスクルの眠り以来彼女はフラットに入り浸っている。
 話だけを聞くに、師匠であるシオンはエッライ怖いようだけど。

「あっ、あたしお手伝いに夢中になっちゃって、それでこんなことに・・・」

 ごめんなさいっ!

 店に入った先では、シオンの前でアカネが必死に頭を下げている姿があった。
 その光景に、店の入り口で固まってしまったのだが。

「あぁ、くんじゃないですか。いらっしゃい」
「へっ?」

 シオンの声で我に返っていた。アカネはアカネで素っ頓狂な声を出してはいるのだが。
 なにかと尋ねれば、アカネは何日も店を空けてしまったことについて謝っているらしい。

(ほら、もなんか言ってよ!)
(な、なんで俺が・・・)
(アンタがメスクルの眠りで寝込んでる間、アタシたちどれだけ大変だったか・・・)
(ぐっ・・・)
「アカネさん、人の弱みにつけこむような行為はしてはいけませんよ?」
「ひぃっ!?」

 シオンの背後から、得体の知れない気配が立ち上っていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第63話  師匠と弟子とその気持ち





「アカネは、俺たちのことを手伝ってくれてたんですよ」
「ほう?」

 は、とりあえず彼女の所在を証明した。
 今まで何をやっていたのか、自分たちのことをどれだけ助けてくれていたかなどを話して聞かせたのだが、シオンの表情はなぜか笑みから離れない。

(こっ、怖いっ!!)

 は素直にそう感じていた。

「しかし、アカネさんがお手伝いに夢中になるとは驚きですねえ」
「あ、あっははは・・・」

 アカネは苦笑。
 背後の威圧感に冷や汗が頬を伝っているが、それでもシオンの雰囲気は変わらない。

「もっとも、お手伝いの内容が・・・戦いだというのなら、それも当然ですがね」

 出かけるたびに生傷が増えていたり、今までサボっていた稽古をやり始めたり。
 師として、気になったのでこっそり見せてもらっていたらしい。
 さすが忍びの者というか、まったく気配に気づかなかったが。

「アカネさん。この世界に来たとき、私は言いましたよね?」

 それは、自分たちの正体のこと。
 忍者としての力は、隠していかねばならないもの。
 その力を悪用しようとする人間も少なからずいるのだから、彼がそう言うのも当然で。

「今までは彼らを手伝っていたからこそ、気づかないフリをしてきました。ですが・・・」

 彼の表情から笑みが消えた。
 真っ直ぐにアカネへと視線をぶつけて、

「黙っていられるのもここまでです」

 そう告げた。
 これから先、命がけの戦いが続いていく。
 ただの手伝いというだけの中途半端な気持ちでは、迷惑をかけるだけだから。
 そして、命がけで戦うのは、それだけの価値を認めた主君のためだけだから、と。
 彼は言い聞かせるように、口にした。

「我が弟子、アカネよ。お前はこの人たちのために、命をかけて戦う覚悟があるか!?」

 それは、忍びとしての儀式なのだろう。
 自分が認めた主君のために、これからも戦いつづけていくのか。
 いわゆる、独り立ちと似たようなものなのだ。

「アタシは・・・覚悟とか、主君とか、そんなこと考えたこともない。けど・・・」

 落ちていた眉がつりあがり、頭を上げると視線をシオンに向けた。

「アタシはっ、彼らのことを好きだと思ってる! あの場所にいるみんなのことが好き・・・みんな、アタシの大切な仲間なんだっ!」

 一歩下がった場所ではなく、対等な立場として。1人の友人として。
 アカネはフラットという場所を心から好いている。
 忍びとしては失格なのだろうけど、人間としては大きいと思う。

「それを守るためなら、アタシは自分のすべてを賭けたっていい」

 フラットという場所は、アカネがすべてを投げうってでも守りたい場所なのだ。
 1人の人間として。

「なるほど・・・それがアカネというくのいちが見つけた答えですか・・・その決意がどれほどのものか、この私に見せてもらいましょう!」








 以前、アカネたちが薬草『トキツバタ』を取りに来たらしい場所までやってきた。
 話だけを聞いていたので、詳しい場所は分からないが、今いるこの場所のようなさっぱりとした平原だったようで。
 寝込んでいたには知る由もなかったのだが。

「だあぁぁっ!!」
「甘いっ!」

 クナイが宙を飛び交い、金属の衝突音が響き渡り、たまに爆音。
 規模自体はそれほど大きくないのだが、アカネとシオンが戦っていた。
 シオンはアカネの師匠。実力的にはシオンが上と、は判断していたのだが。
 アカネは奮戦していた。
 友を思う気持ちが、彼女を奮い立たせているのだろう。

 シオンは細身の刀を逆手に構え、地面を蹴り出した。
 初速から最高速度まで数歩で達し、目にもとまらぬ速さでアカネとの距離を詰めていく。
 その一方で、アカネは両手のクナイを握りしめて、どこからくるのかと気配を探っていた。

「そこぉっ!」

 右手のクナイを投擲。
 高速で繰り出されるソレをシオンは刀で弾き落とし、一瞬でアカネの目の前へ。
 待っていたかのようにアカネは刀を左手のクナイで受け止めると、開いた右手の袖口を軽く振るとクナイが飛び出てきていた。
 そのままシオンに向けて振るうと、彼は刀を手放して背後へと飛んだのだった。

「・・・強くなりましたね、アカネさん」

 キリリとした表情から打って変わったように笑みを見せて、シオンはそう口にした。
 ぱんぱん、と身体についた埃を払い落としながら、アカネが投げたクナイを拾い上げる。

「正直に言えば、あなたはまだ、忍びとしては未熟です」
「ふぐっ」
「・・・けれど、あなたの仲間を大切に思う気持ちが、未熟な力を補ってくれている・・・」

 今の手合わせで、それが分かりました。

 アカネの言葉を、行動で示したのだ。
 仲間を守るためなら、自分のすべてを賭けても構わない。
 その気持ちを、シオンに伝えることができたのだ。

「それじゃあ!」
「あなたの大切な人たちのために、頑張ってみなさい。それがきっと、あなたをもっと強くしてくれるはずです」
「は・・・はいっ!」

 満面の笑みを浮かべたアカネから視線を外し、シオンは立ち会っていたへと顔を向ける。

くん。不肖の弟子を、どうかよろしくお願いします」
「わかりました」
「それから・・・」

 シオンは音もなくの前に立つと、ずいと顔を近づけた。
 その威圧感に、ごくりと息を呑む。

「あなたの刀。新調されたのでしょうか?」

 ちょっと・・・見せてもらってもいいですか?

 シオンはそんなことを言って、笑ったのだった。















「うげ、何だよこれは?」

 一行の目の前にそびえたっていたのは、巨大な鋼の建造物だった。
 剥き出しの崖にへばりつくように立っているそれは、よく見るとところどころが欠けていて。
 廃墟というにはふさわしいものだった。

「荒野の果てに、こんな代物が転がっていたとはな・・・」

 リィンバウムには、機械技術は存在しない。
 ということは、この建造物は昔からこの場所に存在しているということになる。

「朽ちゆく鉄の棺、か。エルゴの言っていたのはこいつのことだな」

 中に入って調べてみよう。

 ギブソンは、中へ入ろうと建造物に近づいていったのだが。



「!?」



 プシュー、という空気の抜けるような音が聞こえたかと思えば、中から現れたのは。

「いらっしゃい。キミたちが、エルゴの試練を受けに来たって人たちだね?」
「子供・・・」

 そう。
 現れたのはの口から飛び出た言葉どおり、頭に帽子とゴーグルを装着した少年だった。


「人を外見で判断しちゃいけないよ、リィンバウムの守護者のお兄さん。こう見えても、れっきとしたロレイラルのエルゴの守護者なんだからさ」

 のこともすでに知っているらしく、彼を守護者と呼んだ。
 もちろん、世界の名前も付け加えていたが、内心で「代行だ」と突っ込んでみる。






「僕はエルジン・・・『機界の探求者』エルジン・ノイラームだよ!」




 少年・・・エルジンは、「よろしくね?」と言いつつにか、と笑って見せたのだった。








第63話。
はい、シオンイベントとエルジン登場でした。
エスガルドは次回登場します。
ってか、しゃべって動くロボってすごいですね。


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