「バノッサは、あれからどうしている?」
「それがさあ・・・変なのよ」
城にこもったきり。
主に諜報担当と化していたアカネが、ラムダの発した問いにそう告げた。
なぜ、ラムダを含むアキュートのメンバーがフラットの居間にいるのかといえば。
エルゴの試練を受ける上で行動を共にしていたほうがいいだろう、というレイドの提案だったりする。
元々所持金も少なく人数も多くなっていたのでガゼルはあまり良い顔をしなかったが、実際『告発の剣』から呼び寄せるよりは効果的だ。
「見た限り、街の様子も取り立てて変わってはいないようだ」
「城を乗っ取っただけで満足するような奴だとは思えねえんだがなあ」
ローカスの発言どおり、街の様子は以前から全然変わっていない。
城をバノッサに乗っ取られたなんて、到底思えないほどに、だ。
偽りの居場所を得て満足したか、あるいは。
「誰かに言われてやっていることなのか・・・」
バノッサは、部下に見放されたと聞いた。
召喚術に魅せられて、こうして城を襲ったのだろうか?
・・・答えは否だ。
ギブソンを襲った黒装束と、暫定的にはバノッサの味方である壮年の男性。
黒装束の背後には、おそらく『奴』の影があるはずだ。
世間は狭いと良く聞くが、まったくだと思う。
そう考えつつ、4人の召喚師たちを見やる。
話自体はあまりしたことがないが、表情は真剣そのもの。
疑うべきではないのだろうけど。
「やはり、黒装束たちの動向が気になりますね」
「何を企んでいるかは気になるけど、どのみち今の私たちでは止められそうにないかも」
「・・・あとは、工場で見たあの男」
三角傘をかぶり、顔全体はまったく見えなかった。
しかし、少し見えた肌や低く太い声から察するに、けして若いとは言いがたい。
脅威なのは、彼の圧倒的なまでの威圧感だろうが・・・
「やはり、エルゴを手に入れるのが先決だな」
とにかく、今は力が欲しい。
ギブソンは、今の自分たちに一番必要なもののために、そう告げた。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第62話 心の在り方
「どこにあるのか分かってんのか?」
スタウトの言葉に、全員がうつむいた。
エルゴたちはヒントらしきフレーズを述べていたが、実際まったく理解が出来ていない。
彼らの口ぶりから、街の中ではないというセシルの言葉は間違いではないだろう。
「ハヤトたちは?」
「それなんだけど、おぼろげにしかわからないんだ」
「そそ、なんかねぇ・・・こう、ぼゃ〜っとした感じ?」
つまり、ほとんどわからないのと同じなのだ。
「はどうだい? リィンバウムのエルゴの守護者って立場としては?」
「代行、がつくぞトウヤ・・・わかるよ」
地図はある?
の言葉に従い、レイドはリプレに地図の在処を尋ねていた。
「まず、ロレイラル。朽ちてゆく鋼の棺ってのは、古代の機械遺跡を指すわけで」
地図を持ってきてくれたリプレに感謝の言葉を告げて、机の上に広げた。
あまり詳しいものではなかったが、ある程度の地形などは理解できる。
その中から、森の中に鋼の絵が描かれた場所を指差した。
「・・・と、ここだ。で、次にシルターン。雪深き幽谷の社だから、この辺りで雪に覆われた場所って言うと、ここだけだ」
機械廃墟、鬼神の谷と呼ばれる場所をそれぞれ指差す。
どちらもサイジェントから半日とかからない距離にある場所だった。
「それから、メイトルパ。剣の竜の棲む峰ってことらしいけど、これは地図から見ても分からない。竜の絵なんか地図に描かないだろ?」
この辺りで、竜が住んでるっていう場所ないか?
そう尋ねるに、挙手をしたのは意外にも子供たちだった。
本来、今の話の内容では介入できるレベルの話ではないはずなのだが、
「俺たち、前に広場に来てた旅人さんに話を聞いたことがあるんだぜ!」
「確か、サーカスの後くらいだったかしら?」
「・・・(こくん)」
ずいぶん前の話だ。
子供は・・・特に男の子は、戦いや格好良い竜などといった存在にあこがれるもの。
もっとも、アルバは立派な剣士になってリプレに楽をさせてやるという子供らしくない目標を掲げていたりするわけだけど。
そういった生物には興味が尽きないのだろう。
「この街から東にずーっと行ったところに、『剣竜』っていう竜が棲む山があるんだってさ」
「そこの頂上に、いるらしいわよ」
それを聞いて、はサイジェントの東にそびえる山・・・というか峰を指差した。
それ以降は山はおろか、聖王都への道が続いているだけだ。山の“や”の字すら見当たらない。
「よし、場所がわかってるんなら話は早い。準備が出来次第、順に回るとしようか」
まずは、一番近い場所にある機械廃墟。
その足で鬼神の谷を目指し、明日剣竜の峰へと行くことになった。
「よう、先日ぶりじゃな」
刀の使い心地はどうじゃ?
城門。
その前にたたずんでいたのは、以前からの知り合いでもある老人だった。
自身の腰につけられている刀も、また彼の作。
以前は敵だったが、今こうして世間話ができることが、には嬉しく感じられた。
「いい刀だよ・・・てか、金とか払わなくていいのか?」
「ああ。ワシのことはあの酔いどれ店主から聞いとるじゃろう。自分で言うのもなんじゃが、ワシは鎚を振るう相手を選ぶ。お前さんはワシのお眼鏡に適った、という訳じゃよ」
そんなことを口にしつつ、軽く笑みを見せた。
「・・・・・・」
同時に、城門を見上げる。
「しかし、ずいぶんなことじゃな」
「?」
「この中のことじゃ。悲しげな道具の泣き声が聞こえるわい」
聞いたこともない話だった。
道具は使われてナンボ。そのほとんどが意思というものはないと思っていたのだが。
「この城の中の声は、とてつもない悲しみに満ちておる」
つらいのう・・・
そう口にして、ウィゼルは悲しげに城門から目を離したのだが。
『!』
突然かけられた声に、も同様に城門から目を離して声のほうを見やった。
その先には、同じ世界の友人たちがいて。
「あれ、なんでがこの人と一緒にいるの!?」
「こんなところでなにやってるんだよ?」
「に頼みがあったから、待ってて欲しかったんだけど・・・」
「もうすぐ出発です。準備は終わってますか?」
4人が同時にまくし立てるものだから、聞いてるこっちはたまったものではない。
聖徳太子のように複数の人間の言葉を聞き分けられることなど、出来はしないのだから。
「わかった。わかったから・・・1人ずつ」
「じゃあ、あたしから。はこのおじいさんと知り合いなの?」
「あぁ、ちょっとした縁でな。この先から、悲しい声が聞こえるって話をしてたんだ」
「声・・・あぁ、前に言ってた道具の声のことですね?」
そう口にしたトウヤに、ウィゼルは嬉しそうに笑ってうなずいて見せた。
なんでも、発作で苦しんでいたところを助けたことで知り合ったらしい。
その後も何度か会って、悩みを相談したことすらあるとかで。
もっとも、その悩み相談以来会っていないとのことなので、今日会うことで数日ぶりくらいなのだという話である。
「この城の中から聞こえてくる声は、とてつもない悲しみに満ちとる。この世界を揺るがしてしまいかねぬほどにな」
魅魔の宝玉。
間違いなく、悲しみの声を上げているものに違いない。
「どうやら、お前さんたちは詳しい事情を知っとるらしいな?」
聞かせてくれんか?
そう口にしたウィゼルは、以前のような鋭い視線をに向けていたのだった。
場所を繁華街に移して、大体の事情を話して聞かせた。
本来の役目が、異世界の召喚獣たちを送還するための道具だということ。
しかし、今はそれらを喚ぶために用いられてしまっている。
つまり、兵器として使われているのだ。
それを今、バノッサという青年が使っている。召喚術という大きな力に魅せられた青年が。
「それほどの力を持った品物なら、この悲しみの強さもうなずける。バノッサという若者のもつ憎しみが、宝玉を責めさいなんでおるのだろう・・・」
バノッサは、召喚術に執着していた。
しかし、それは彼ら・・・ハヤトたちが来てからのことだ。ただの一般人のはずなのに、いともたやすく召喚術を使い、忘れていたはずの召喚術への執着心を思い出させてしまったのがそもそものきっかけなのだ。
この世界にやってこなければよかったんだ、と口にするハヤトだが、ウィゼルは強くそれを諌めていた。
バノッサの持つ憎しみは、もっと強く深いものだと。
「幾年月に積み重なった、強い憎しみ・・・そうでなくては、これほどの強い力は生まれはせんだろうさ」
世界を揺るがすほどの大きな力を行使するだけの憎しみは、君たちだけの責任ではないぞ。
それこそ、子供の時からの辛い体験や、自身に降りかかった災厄。
これらの存在が、今の彼をかたどっているのだろう。
「なあ、少年たちよ」
『?』
そのまま市民公園まで足を運び、ベンチに腰を下ろした。
公園内に人はいない。物騒な話をしたところで、誰にも聞かれることはないだろう。
しかし、宝玉についての話はすでに終わっている。
他に話すことなどなかったところへの、ウィゼルの問いだった。
目標は、を除いた4人。ウィゼルという人間は、島での戦いで彼のことを少なからず理解していたから。
「もしも、世界を滅ぼせるほどの力を持った品物があったとして、誰かがそれを用いて、世界を滅ばしてしまったとしたら・・・」
悪いのはどちらだろうか?
選択肢もないまま、そう告げた。
しかし、問題の内容から選択肢など理解は可能だ。
世界を滅ぼすことの出来る品物か、それを用いる人間か。
その2つの選択肢のうちの、どちらが悪いのか。
それが、彼の尋ねている内容だった。
『・・・』
一時の沈黙。
ウィゼルは、彼らを試している。
そう考えたのはだった。
正確な答えなどない。道具に強い力が宿っていて、それが猛威を振るっているなら、道具が悪い。
しかし、その道具を使っている人間も、悪い。
それを破ったのは、
「使った方だと思います。みんなも、同じように考えているはずです」
アヤだった。
表情は真剣そのもの。嘘偽りのない、真っ直ぐな意見だった。
「なぜ?」
「強い力を持ったとしても、道具は自分でそれを使えません」
「所詮、物は物だもんね。人に使われなければ、その力を発揮できないわけだし」
ナツミが続いて、言葉を口にした。
所詮物は物。
手足が生えているわけでも、意思を持っているわけでもないから。
「その力の善悪を決めて、それを使うのは他でもない・・・人間なんだ」
トウヤが、続く言葉を紡いだ。
ウィゼルの頬が満足そうに緩んだのを見逃すことなく、は苦笑して見せた。
心を砕かれ、それでもなお『守る』ために立ち上がった人がいた。
仲間のために自らに降りかかる危険を省みず、盾になった人もいた。
人間に絶望し、より集まった召喚獣たちもいた。
彼らは大きな力を持ち、己が望むままに振るってみせた。
正解などありはしない。なぜなら、彼らの中では、その行動が正解なのだから。
つまり、道具を使う人間次第で、その道具は救う力にも、滅ぼす力にもなる。
使い手次第で、その存在が変わっていくのだ。
「世界を滅ぼしたのは、道具の力じゃない。それを使ってしまった、人間の心の弱さだ」
俺たちは、そう思う。
最後にハヤトが、そう告げた。
答えはみな同じ。大きな力を持つ者としての、責任感だろうか。
似たような存在として、は共感を覚えていた。
「道具を使うのは人間か・・・なるほど、そのとおりじゃな」
「実際のところ、人間の心なんか簡単に壊れてしまう。強くあろうと思っても、そうならないのが人間だ」
心が常に強い人間など、いるわけがない。
実際、戦いたくないけど戦わねばならない状況に陥った人を知っている。
迷いが強いほどに心は弱り・・・砕けた。
それでも仲間に助けられて、今も元気に笑っていることだろう。
「実際、僕たちの心だってそう強くはないだろうし」
「心って、不思議だと思う。考え方によって、強くも弱くもなるんだから」
「でも、私たちは・・・強くありたいと思います」
この答えによるものだろうか。ウィゼルはどこからか取り出した4本の剣を差し出した。
ハヤトの前には両刃の大剣。
トウヤの前には片刃の細剣(レイピア)。
ナツミの前には二の腕くらいの双剣。
そして、アヤの前には短剣。
それぞれに軽い装飾がなされ、太陽の光に反射してそれぞれの顔を照らし出した。
「ただの剣ではない。あんたたちになら、その剣が何でできとるかわかるだろう?」
それぞれの剣からにじみ出る大きな力。
それは、のもっている刀ともよく似たものだった。
刃こそ真っ白ではないが、それぞれが手にしたことで刃が色を帯びていた。
その色は、彼らがそれぞれに特化している、サモナイト石の色と同じもので。
「サモナイト石の剣・・・?」
「そのとおりじゃ」
昔、ある召喚師に頼まれて、作り出したのは黒く細身の長剣だった。
しかし、それを作り上げ、渡したところで気づいてしまった。
これは、使い方次第で世界を滅ぼしかねないものだということに。
後悔した。
だからこそ、あのような剣はもう作らない、と心に決めた『はず』だった。
長い年月が経っているにも関わらず変わらぬ風貌を持った、かつて剣を交えた1人の青年に再会するまでは。
「ウィゼル・・・」
そう告げたところで、ウィゼルは一度目蓋を落とした。
『1人の青年』というのが誰なのか、4人は知る由もない。
でも、その青年が彼の希望となったことは確かだった。
そして、彼と・・・その友人であるこの4人なら・・・強い魂を持った、彼らなら。
自分の尻拭いをさせてしまうことになる。でも、今の自分ではもう何もできない。
だからこそ彼らを試すことでその心の在り方を図り、託したのだ。
きっと、自分の間違いを正してくれるから、と。
初めて会ったときから、分かっていたのだろう。
彼らが召喚獣という存在であることも、今のように大きな騒動に巻き込まれてしまうことも。
そして、『1人の青年』と親しい友人であることも。
「彼らを正しく使ってやってくれ」
「でも・・・」
「あんたたちなら大丈夫じゃと、ワシは思うておる」
すでに、確信すら持てるその言動。
4人は真剣な表情を彼に向け、うなずいたのだった。
ウィゼルイベント最終話でした。
今までに何度かあるフラグを立てていかねばならなかったので、
ぶっちゃけあるかどうか分かりませんでした。
まぁ、無事イベントを終えることができたので、
誓約者’sにサモナイトソードを渡すことができたわけですが。
ちなみに、それぞれに渡ったサモナイトソードですが。
私独自で考えた、オリジナルです。特にナツミの双剣なんか、ゲームにはないかと。
←Back Home Next→