「・・・ってっ!?」
どすん、という音と共に、どこかへ放り出された感覚。
打ち付けた腰をさすりながら立ち上がると、そこは。
「真っ暗・・・」
いつかのような、一面黒の世界が続いていた。
「ここは」
『気が付いたか』
「!?」
突如、声が響き渡った。
トーンは低く、どこか荘厳な雰囲気。
威厳すら感じ取れる、そんな声だ。
「誰だ・・・」
『怯える必要は・・・ない』
声が、続けざまに言葉を紡ぐ。
『目覚めよ』
その瞬間、辺りが蒼に染まっていく。
幻想的な空間に変化していた。
『我は・・・リィンバウムのエルゴなり』
「エルゴ・・・って、まさか」
エルゴ。
それは、世界の意思。
全ての物の起源を表す、世界に宿る意思。
「なぜ・・・俺を助けた?」
『お前だけではない。仲間たりえる存在もまた、我らが救った』
つまり、フラットのみんなも生きている。
内心で、安堵した。
バノッサの強力な召喚術をもろに受けたはずなのに、自分1人しかいないのだから。
大きく息を吐き出すのも無理はなかった。
『お前の仲間の中に・・・誓約者(リンカー)たりえる者が存在しているからだ』
誓約者とは界の狭間をつなぎとめ、エルゴと誓約を交わす資格をもつ者。
エルゴの王。
誓約者たりえる存在。
それは。
「ハヤトたちか・・・」
『そのとおりだ』
名もなき世界から事故で召喚され、流されるままにオプテュスと対立してきた。
召喚獣という立場であるにも関わらず、召喚術を行使できるその力こそ。
エルゴの王となる資格そのものだったのだ。
「で、なぜに俺は1人なんだ?」
『現在、我がリィンバウムのエルゴを守護する者・・・エルゴの守護者が不在なのだ』
「はぁ・・・」
話が見えてこない。
エルゴの守護者が不在なのが、自分とどのような関係があるのだろうかと。
確かに長い時間を跳び越えて、この場所へ来た・・・来てしまった自分は、イレギュラーな存在なのかもしれない。
それ以外に、自分だけこの場にいる理由が見当たらない。
『。お前に不在である守護者の代行を務めてほしい』
それが、自分だけ隔離された理由だった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第59話 裏の自分
「俺が、エルゴの守護者代行・・・?」
『今この時、彼らが我がエルゴを手にしようとしている』
現在、前のエルゴの王・・・遠い昔の誓約者が張り巡らせた結界が、破壊されようとしている。
原因は、召喚術。
かの術は、結界に穴を穿ち強引に転移させる術。本来なら、エルゴがその穴を修復する役目を担っていたわけなのだが。
サプレスのエルゴが失われてしまったため、結界の効力が薄れているのだ。
そのため、4人が5つの世界のエルゴと誓約を交わし、新しい結界を作り出す必要がある。
「だから、俺をその守護者として抜擢しようとしてるわけか」
『本来、鏡を・・・彼らの鏡像を使い、試すつもりだった。しかし、という存在が現れるまでは』
「俺の・・・存在?」
『そうだ。お前は共界線(クリプス)の力を行使する力を持っている』
万物とエルゴを結ぶ魔力の繋がりである共界線。
不本意ながら手に入れてしまった力だったのだが、この力は見方を変えれば誓約者としての力を手に入れていることになる。
しかし、この力のせいで適格者としては外れてしまった。魔力を引き出すことは出来ても、それを召喚術に用いることが出来ないのがその証拠だ。
『だからこそ、お前に代行を務めてもらいたいのだ』
「サプレスのエルゴがいないってことは・・・その守護者もいないんだろ? そっちはどうするんだ」
『守護者とは、それぞれのエルゴが決定するもの。我らの力を行使するにふさわしい人物を、守護者としている』
つまり、エルゴがいなければ始まらないというわけで。
サプレスのエルゴは4人がそれぞれと誓約を果して結界を張りなおせば、復活するらしい。
なんと都合のいい存在だ、エルゴよ。
「なるほど。それで、俺に彼らの力を試す役割を担って欲しいって分けだな?」
『そのとおりだ』
ふむ、と手をあごに添えて考える仕草をしてみせる。
しかし、それはあまり意味のないことだったりする。
どうせ、自分が首を縦に振るまでここから出してくれないだろうし、っていうか拒否って何されるかわかったもんじゃない。
だからこそ。
「・・・わかった、協力しよう。でも、あくまで代行。もう巻き込まれるのはゴメンだしな」
『分かっている。では、お前が守護者代行の資質として自分の鏡像と戦い、これを示せ』
「・・・は?」
目の前に現れる『自分』。
色は黒、白、グレーの3色で構成されているが、きている服も、装備している刀も同じもの。
『自分』はゆっくりと顔を上げて、まるで自分を挑発するかのようににんまりと笑ってみせた。
『よォ、久しぶりだな。相棒』
「え・・・?」
いきなりしゃべり始めた、目の前の『自分』。
砕けた口調・・・というかむしろ砕けすぎてる気がするが、それは以前にも聞いたことのある口調だった。
メスクルの眠りで、まどろみのなかにどっぷり浸かっていたとき。
いきなり話し掛けてきた、『裏の自分』だ。
「なんで・・・」
『さぁなァ。エルゴのオッサンが、気ィ利かせたんじゃねェの?』
『裏の自分』はそう口にしてケケケと笑う。
とても自分とは思えない。でも、どこか同じ雰囲気をもってる。
『ま。俺はお前を試す役割として、ここにいるわけだな。さ、ごたくはいいからさっさとはじめようぜ』
『裏の自分』は、刀を抜き構える。
も同様には刀を抜き構えるが、その型はまったく同じ。
イヤでも目の前の存在が自分であることを認識させられてしまう。
『さって。そんじゃ、行くぜっ!!!』
互いの刃が、幻想的な空間に響き始めたのだった。
『おらおらっ、どうしたんだ相棒、手が止まってるぜ!?』
「っ・・・」
激しい剣戟。
当然のように火花が散り、互いを照らし出していく。
冷や汗が流れ、はぎりりと歯噛んだ。
反対に『裏の自分』はどこか嬉しそうで。楽しそうに刃を交差させていた。
『ほれほれ。次、行くぜ!!』
「くそっ・・・!!」
互いに距離をとり、同じように刀を鞘に納める。
右足を前に、身体をかがませる。
そして、同時に刀を抜刀した。
『へへっ♪』
発生するのは不可視の刃。
気をまとい、一直線に目標へと向かっていく。
「居合まで・・・」
『たりめーだ。“俺”は“お前”なんだぜ?』
同じなのはトーゼンだ。
そう答えを述べた瞬間、互いの飛ばした刃がぶつかり合い相殺する。
地面を蹴り出して一気に間合いを詰めると、正面で刀を合わせた。
金属音が響き、真っ赤な火花が散っていく。
『よォ、前に俺が言ったコト・・・覚えてるか?』
「・・・・・・」
それは、『いつまでも甘い考えでは身を滅ぼす』というもの。
時には非情になることも必要なんだと。
彼は口にしていた記憶がある。
『アレからずっと見てきたけどよ。ゼンッゼン変わってねェのな』
「当たり前だ。それが俺の生き方だ。誰にも矯正はできないし・・・させない」
『ンなこた知ってるよ。俺はお前だからな。でも・・・』
ギンッ、と刃をはじき、彼は笑う。
自分のものとは思えない、嘲るような笑みだ。
そして、次の瞬間。
「っ!?」
彼の姿は、消えていた。
しきりに目を凝らすが、見えない。
『・・・覚悟がねェから、お前は俺に負けちまうんだ』
絶風・・・第一開放!!
聞こえた声は、の背後。
気配も感じないまま、彼は開放した絶風を振り下ろしていた。
「ちっ・・・!?」
そのまま身体を沈ませて、前方に駆け出す。
しかし、巻き起こった風によって吹き飛ばされ、正面の岩に激突。
肺に残っていた空気を吐き出されていた。
「げほ、げほっ・・・!!」
その場でうずくまって、咳き込む。
すぐ側で、ちゃき、という音が聞こえた。
『言ったろ。いつか思い知るときが来るってよ。それが、“今”だ』
見上げると、笑みを浮かべた彼の姿。
彼の持つ絶風の刀身には緑の光が渦を巻き、を照らし出している。
・・・なぜ、彼は第一開放を苦もなく扱える?
そんな考えが、頭をよぎった。
『今、なんで俺がコイツを使えるか考えたろ』
「えっ・・・?」
目を丸めた。
彼は表情を変えていない。
むしろ、自分の反応を面白がってみているかのようにも見える。
『簡単なことなんだぜ? 覚悟してるか、してねえかだ』
「覚悟・・・」
『そうだ。戦うときは戦う。倒すときは倒す。そして、殺すときは躊躇なく殺す・・・そんな覚悟だ』
お前にそうする“覚悟”はあるか?
尋ねかけるが、すぐに「あるわけねえよな」と口にして苦笑した。
『なんで俺がそういうこと言えるか、分かってんだろ?』
分かっていた。
なぜ“俺”が・・・母が死んだときの誓いを違(たが)えるようなことをしているのか。
『殺す』ことに嫌悪すら抱いていた自分が、戸惑いもなくそれを口にできるのか。
彼は自分自身の黒い部分だ。
『誓い』に縛られ、身動きの取れなかった自分の黒い感情。
それが、彼だ。
『お前が覚悟できねえっていうなら・・・俺はお前を殺して“俺”になるぜ』
「・・・なんだと?」
『なんだもなにもねえだろ。お前がいつまでたってもウジウジウジウジしてっから、俺が代わりに全部ブッ殺してやるって言ってんだよ。あのバノッサとかいうクソ野郎も、【あの男】もな』
バノッサの影に潜む男。
黒装束を見てから、感づいていた。
魅魔の宝玉を渡したのも、黒装束を従えているのも。
【あの男】だと。
「ダメだ・・・奴は、俺が倒すんだ」
『倒すぅ? ハッ、お前にゃ無理だよ。人殺し、できねえんだろ?』
「・・・覚悟、するさ」
『へぇ、覚悟ねえ・・・それなら、その覚悟。俺に見せてみろよ!!』
彼はから離れ、構える。
どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
『仕切りなおしだ』
「絶風・・・第一開放!!」
彼同様、絶風を開放する。
緑の光が刀身を包み、渦巻きはじめた。
・・・身体に違和感はない。これなら・・・いける!!
2人の『』は、同時に地面を蹴り出した。
・・・・
・・・
・・
・
『ンだよ、やりゃあできんじゃねェか』
「君のおかげだ」
倒れ伏したのは、『裏の』だった。
肩口から腰にかけてを深く切りつけられており、そして身体中に無数の傷がついている。
服の所々が破れ、傷が見え隠れしていた。
・・・これが、絶風の第一開放した力だ。
刀身に微小なかまいたちを発生させ、刀自身の斬撃と同時に無数のかまいたちが追加で斬りつける。
魔剣『ロギア』の風の力だ。あのときとは姿が違うが、経験がつまっているというのはあながち嘘でもないらしい。
しかし、この力はかなりの体力をもっていかれるようで。
戦いが終わったあと、息切れとともにぺたんと腰を地面につけて座り込んでしまっていた。
『お前の覚悟、見せてもらったぜ。今の気持ち、忘れんじゃねェぞ』
彼は最後にそう口にして、霧散してしまっていた。
『お前の力、見させてもらった』
「・・・・・・」
座り込んだまま、ぶすっとした表情を作り出す。
まさか、このような形で裏の自分と戦うことになるとは思ってもみなかったのだから。
『お前をリィンバウムの守護者代行として、認める!』
本来、頼んでいるのはそっちなのに。
そんな考えが頭をよぎるが、それも今更だ。
「で、俺はこれからどうすればいい?」
『仲間の元へ送る。そのときに、お前を守護者として送るので、彼らを試して欲しい』
「わかった。もちろん、今の戦いで出来た傷とか・・・治してくれるんだよな?」
『・・・もちろんだ』
その言葉を最後に、の姿はその場から消え去ったのだった。
59話、終了です。
夢主にエルゴの守護者という立場を与えてみました。
代行ですが。結局、このままずるずると本採用という形になってしまうのは間違いないと思います。
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