「さて、どこから話したものかな・・・」
孤児院へ戻ってきていた一同は、とアヤを除いて居間に集結していた。
工場区からここまではたいした道のりでもないので、彼が意識を取り戻すことはなく。
「私、彼についてますから」
本来なら聞くべきであろう当事者のアヤが、の看病を買って出ていた。
聞きたいことは、たくさんある。
とりあえずは、【魅魔の宝玉】がどのようなものなのか。
これに限る。
「【魅魔の宝玉】はね。ずっと昔の召喚師たちが作った道具なの」
その効力は、霊界サプレスの世界に住むありとあらゆる悪魔たちを従えることのできるもの。
宝玉が作られた理由は、気の遠くなるような昔に起こった戦争まで遡る。
リィンバウムは、異世界の侵略者と戦っていたのだ。侵略者とは、鬼妖界や霊界の鬼神や悪魔たち。
伝説級に昔の話な上に、召喚師の・・・ひいては召喚術の起源に関わることであったため、派閥によって隠匿されてきたのだ。
「元々、召喚術というのはそういった敵を避けるために生まれたものなんだ」
「呪文と魔力で異世界の生物の意識を支配して元の世界に送り返す。【送還術】と呼ばれる技法を逆利用したものが【召喚術】なのよ」
ギブソン、ミモザの順で、詳しい説明を述べていく。
その話はとにかく壮大な話で。
召喚師嫌いなガゼルでさえ、驚きの連続だった。ましてや、異世界からのはぐれ召喚獣であるハヤトやトウヤ、ナツミはその召喚術によって喚ばれた存在。
この世界にはそのような歴史があったのか、と。
信じられないと言わんばかりの表情で、2人の話を聞いていた。
「【送還術】は、今はもう失われてしまっているけどね」
その理由は、必要がなくなったから。
リィンバウム全体に強力な結界が張られ、それのせいで敵は自力で侵入することが出来なくなってしまったのだ。
つまり、リィンバウムには送還すべき鬼神や悪魔がいない。送還する必要がなくなったのだ。
「【魅魔の宝玉】は、サプレスの悪魔の意識を支配し、元の世界へ送り返す道具なんだ。だが・・・」
送還術を逆利用したものが召喚術。
つまり、宝玉の力を逆利用すれば。
「悪魔たちを無限に召喚するための道具になるっていうわけですね?」
トウヤの声に、2人は同時にうなずいた。
「宝玉の力は、使うものの意思の強さに比例して強くなってしまうの」
「最悪だな・・・バノッサは蛇みたいにしつこい性格だぜ」
ため息をつきながら、ガゼルはがしがしと頭を掻いた。
今、彼がサプレスの悪魔を召喚して暴れ出したら、サイジェントはどうなってしまうか分からない。
その前に、止めなければ!
「それじゃ、バノッサを探さないとだね! みんなで手分けして探すよ!!」
ナツミの声に、メンバーは同時に深くうなずいたのだった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第58話 バノッサの猛攻
「うっ」
ゆっくりと目を見開いた。
もう見慣れてしまった木造の天井。
身体を起こして周囲を見やると。
「あ、。やっと起きてくれましたね」
ベッドの脇でアヤがちょこんと座っていた。
いまだ覚醒しきれていない頭を振って、現状の確認を。
「アレから・・・どうなった?」
「を気絶させた男の方が、バノッサを言いくるめてしまったので、戦いにはなりませんでした。で、今は北スラムで召喚獣たちが暴れているとかで、みんな出かけちゃいました」
アヤは、が心配だからという理由でここに残っていたのだと。
彼女自身がそう口にしていた。
別にいいのに、と思う反面で、嬉しい気持ちに駆られる。
化け物じみた力を使ってしまったのに、彼女の瞳に恐怖が見えないことが嬉しかった。
「体調はどうですか?」
「あぁ、問題ない。加勢に・・・いや」
彼女は北スラムで暴れているのがバノッサだとは言わなかった。
つまり、北スラムに彼はいないということになる。召喚獣を喚び出したのは彼だろうけど。
居場所を捨てた彼が行く場所。望んでいる場所。
それは。
「城だ」
「え?」
「バノッサは、城にいる」
ベッドから這い出て、立てかけてあった刀を手に取る。
腰に差し込みながら扉の取っ手に手をかけると、
「わ、私も行きます!」
「みんなの方へ、行かなくていいのか?」
「私は! 皆さんを信じていますから。それに、今は貴方のことが心配でしょうがないんです。いつか・・・また私たちの前から消えてしまうような気がして・・・」
地球・日本で、『神隠し』に遭ったときのこと。
前の日に普通にさよならして、次の日も「おはよう」という言葉が聞けると思っていたのに。
彼は来なかった。
学校の始業ギリギリまで待っても、来る気配もなかった。
彼の父親はあまり慌てた様子はなかったが、内心では心配しまくっていたことだろう。
嫌だ。嫌だ。
あのときのような思いは、もうしたくない。
そんな思いが、彼女を支配していたのだ。
「よし。それじゃ、行くぞ」
「はい!」
・・・・
「! 城はコッチですよ!」
「え、だって・・・大通りを真っ直ぐ行けば城だってミモザが・・・」
「大通りはこの道を真っ直ぐです! こんな方向音痴っぷりじゃ城まで1人でいけるはずないじゃないですか!」
彼女の心配は、ものの見事に的中したらしい。
・・・・・
・・・
・
城門前で、北スラムでことを終えたフラットの面々と遭遇した。
本来ならフラットから直接ここへきたとアヤの方が早く辿り着くはずだったのだが、そんなときにの方向音痴っぷりが発揮されて、結局同じ時間という形になってしまったのだ。
軽く2つ3つ言葉を交わして、敷地内へ突入。
その先では壊滅状態の騎士団と、マーン3兄弟がかろうじて応戦していた。
騎士団の中でも、立っているのは金髪の騎士団長イリアスと、その補佐サイサリス。
以前名前は聞いていたので、覚えていたのだが。
彼らはもう満身創痍の状態で、立っているのがやっとだった。
「ヒャーッハッハ! 噂ほどの力じゃねェな。マーン3兄弟ってのもよォ」
「くっ・・・力の差がありすぎる」
カムランの言うとおり。
使用者の意思で無限の召喚を可能とする魅魔の宝玉と、魔力に限界のある一介の召喚師。
力の差どころか、根本的な部分からして違うのだが、それは些細なこと。
「あきらめるんじゃねェ、カムラン!」
キムランが叱咤を飛ばすが、戦況は変わることはない。
「平民が・・・にわか仕込みの召喚術で我々に勝てると思っているのか!?」
「その平民様を相手に、さっきから手こずってるのは、どーなーたー様だよ?」
「きぃぃぃっ・・・」
歯を立て、悔しがるイムラン。
金の派閥の頭目である彼らは、自信に満ちていたのだが。
それをどこのごろつきかも知れない男に潰されて、メンツは丸つぶれ。
だんっ、だんっ、とその場で地団駄を踏んでいる。
本来なら、そんなことしている状況ではないのだが。
「くたば・・・ッ!?」
3兄弟にとどめを刺そうとしたバノッサに斬りかかったのは、騎士団長イリアスだった。
突然の介入に、召喚の手を止めてしまったのだが。
「勇ましいことだなァ、騎士団長様はよォ?」
「これ以上の狼藉は、自分が許さない!!」
「クククッ、騎士道ってヤツかよ・・・反吐が出るぜッ!!」
宝玉に意思を込める。
紫の光を帯び、召喚術が発動する!
「たった2人ぼっちで、この俺様に勝てるってのかよ?」
ここでくたばっちまいな!!
宝玉にから強い光がこぼれ、悪魔が具現する、その瞬間。
「2人じゃないぞっ!!」
「!?」
ガキン、と金属音が響き渡る。
ハヤトが先行し、バノッサに剣を叩き込んでいたのだ。
もちろん、彼も空いた手に剣を持っていたので、ダメージを負うことはなかったのだが。
剣が受け止められたのを確認すると、ハヤトはすぐに距離をあける。
もともと、召喚術を防ぐことが目的だったので、彼の行動は最適な選択。
「そこにいる野郎なんかに、俺たちの街を好きにされたくねえんでな」
きょとんと眺めているサイサリスに、武器を構えたガゼルがそう告げた。
「苦労をかけたな、イリアス」
「力にならせてもらうぞ。この街のためにな!」
「レイド先輩、ラムダ先輩・・・は、はいっ!!」
希望が見えた。
イリアスの表情に笑みがこぼれたのだった。
「クズどもがァ・・・とことん俺様をなめやがって!!」
マーン3兄弟を領主の救出に回し、城内に消えたところでバノッサは怒りを露にした。
宝玉が今までにないくらいに強い光を帯び、紫が天へと立ち上っていく。
「思い知らせてやるッ! 手前ェらに、絶対的な力ってものをなァ!!」
そう叫んだ瞬間、宝玉が周囲を覆い尽くすほどに強い光を放った。
まるで、新たに太陽が誕生したかのような、強い光。
彼の意思は、フラット・・・ひいてはハヤトたちやに対する憎しみだけでここまで強いものとなってしまった。
「・・・マズいぞ」
もう、発動まで時間がない。
この光では、最上位の召喚獣が現れてもおかしくない。
「みんなっ・・・下がれ!!」
「遅えぇぇぇぇっ!!」
ギブソンの声。
それに重なるようにバノッサの叫びが響き渡り、召喚術が発動した。
・・・ダメだ。
・・・防ぎきれない、躱せないっ!!
バノッサの放った召喚術は、自身以外を例外なく巻き込んだのだった。
はい58話でした。
またしてもすこし短めですね。
ですが、キリが良かったものでここできりました。
実際、これでゲーム中の13話は終了です。
城門のところで本来なら戦闘になるわけですが、今回は除外しました。
・・・長くなりそうだったので。
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