流れてくる。

 ウィゼルに鍛えなおしてもらった、刀の使い方が。

 まるで滝のように、とめどなく流れ込んでくる。


 どのような力も何も、この力は・・・



「絶、風・・・っ、第一、開・・・放」



 苦しい。

 身体中が悲鳴をあげてる。

 どこにも異常はないはずなのに、なぜ?



 ・・・でも、今それを考える必要はない。

 この力なら・・・





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第57話  化け物





「なんだ・・・なんなんだコイツは!?」
「なに、だと・・・? そんなの決まってる」

 狼狽するバノッサに真紅の視線を突き刺し、言い放つ。
 魔力は刀を介して暴風に変換され、その廃工場を吹き荒れていく。



「化け物、だよ」



 告げ、笑みを深めた。
 正直、身体中が非常に良くない状況だ。
 第一開放でこれほど身体に負担をかけるのだから、第二開放は・・・いや、今はやめておこう。

 刀を振り構える。
 身体は軽い。風と同化でもしてしまったのではと錯覚してしまうほどに。
 今なら、サイジェントの街をきっと十数秒で回りきれる。
 そんなことを考えつつ、地面を蹴・・・ろうとした。





 リィン・・・





 鈍い音と共に鈴の音が聞こえ、風が消えていく。
 気づけば。

「感情に身を任せ、己を見失うから・・・我を捉えられない」

 目の前には以前見た『秋雨』と焼き入れされた白木の刀を持った男性が、腹に拳を突き入れていたのだ。
 薄れゆく意識の中で見えた、刀の先の金色の鈴。

「な、ぜ・・・」
「・・・我は、主の命に従っただけのことだ。『ここでヤツを殺されてしまうと計画が狂う』と」

 主。
 計画。

 深くまで探りきれない単語を並べられながら、は前のめりに倒れていく。
 男性――『松楸の烏』は倒れ伏すをそのままに、腕を袖の中に隠してしまう。

「あ、あなたは・・・」
「この男を・・・介抱してやることだ」
「え・・・はっ、はい!」

 倒れたに駆け寄るアヤを視界に納めて、バノッサへと振り向く。
 バノッサの目には一瞬怯えの色が浮かぶがすぐに消え去り、

「・・・ケッ! んだよ、アレだけハデな演出しておいて、オッサンの一撃で終わりかよ」

 額の汗を拭って、フラットのメンバーを見やる。
 手の宝玉は依然強い光を帯び、いつでも召喚術を行使できることを如実に示していた。

「さて、余計な邪魔は入っちまったが・・・見せてやるぜェ? 宝玉の力・・・」

 眉間にシワを寄せて、

「この俺様の・・・」
「よせ、バノッサ」

 召喚術を使おうとしたところで、止められていた。
 声の主はもちろん、松楸の烏。
 口の端が切れんばかりにぎり、と歯噛むと、彼を鋭くにらみつけた。

「ンだと!?」
「お前は、まだその宝玉を完璧には使いこなせまい・・・やるだけ無駄だ」

 つまり、負けは確実だと。
 彼はバノッサに向けて、遠まわしにだがそう告げているのだ。
 工場も先刻のの力で崩れてしまいそうだし、ヘタをしたら騎士団が駆けつけて厄介なことになるかもしれない。

「・・・ちっ」

 面倒くさいことが基本的に嫌いなバノッサは、煮え切らない表情のまま舌打ちをした。

 せっかく、召喚術を手に入れたのに。
 フラットのヤツらを潰して、いい気分に浸ろうと思っていたのに。

「運がよかったなァ、はぐれ野郎ども! だがな、次で終わりにしてやるぜ・・・そこのクソ野郎も一緒になあっ!」

 ヒャーッハッハッハッハ!!!

 高笑いを浮かべて、バノッサは工場を出て行ってしまった。
 残ったのは、壮年の男性とフラットのメンバーのみ。
 男性からは戦意すらも感じられず、その場に立ち尽くしているだけのようにも見えた。

「・・・貴方は」
「・・・・・・」

 それは、フラット最年長のレイドの声だった。
 ちらと倒れていると、癒しの召喚術をかけるアヤを視界に入れて、再び男性を見つめなおす。

「貴方は・・・敵なのか? それとも・・・」

 味方なのか?

 そう口にした。
 ほとんど暴走に近かったを止めてみたり、バノッサとの戦闘を回避してみたり。
 さらにはバノッサをそのまま行かせてしまったり。
 とにかく、分からないことだらけだった。

「敵も味方も無い・・・ふむ、立場的な話をしているのなら、我は敵、ということになるのだろうな」

 その言葉に、その場の全員が息を呑む。
 なにより、を一撃で倒してしまうほどの実力の持ち主だ。
 しかも、工場内にいつ入り込んだのかすらも気づけないほどに隠密行動に長けている人物だから。

「アタシ、自信なくしちゃうかも」

 その様相は、とても忍びと言うには程遠い。
 なのに、それを本職としているアカネですら気配に気づけなかったのだ。
 あからさまに落胆するアカネだったが。

「しかし、我は貴様らと戦るつもりはない」

 そう口にして意識のないを見やると、

「我はただ・・・心ゆくまで死合いたいだけだ。この男と・・・な」

 嬉しそうに笑みを浮かべた。
 その表情に、思わず背筋が凍りついてしまう。
 なにか深い理由があるのか、あるいは根っからの戦闘狂なのか。
 今の彼を評価するならば、後者だろう。
 でも。



「アイツ・・・桁違いだわ」



 口にしたのはミモザだった。
 そう感じていたのは彼女だけではないだろう。
 まるで、ギラギラ光った抜き身の刃のような雰囲気。
 近づいただけで斬られてしまいそうな、そんな錯覚さえも覚えさせられた。



「我を倒したくばかかってくるがいい。刃を向けたところで、敗北は目に見えているだろうがな」



 そう告げると、フラットの面々のすぐ横を通り過ぎて、工場の外へと消えていったのだった。







ちょっと短かったですね。
ですが、オリキャラさん再登場です。


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