「ここが・・・そうなのか?」
「ええ、最近このあたりに不信な連中が出入りしてるって話なのよ」

 やってきました工場区。
 場所の確認をするギブソンに対し、ミモザはえっへんとうなずいた。
 周囲は工場から廃棄される黒い煙に覆われ、薄暗い。
 昼間でも薄暗い不気味な雰囲気に、汚れた空気。
 よからぬことを企む人間が隠れるにはうってつけの場所だった。

「・・・・・・」

 眉間に眉を寄せ、周囲をきょろきょろと見回すのはだった。
 
 ・・・なにかいる。

 いるのだが、気配が微弱なものであるせいかそれが人間なのかそうでないのか判別がつかないでいた。

「おっ、誰か来たみたいだぜ」

 ガゼルの声に、全員が彼の視線の先を見やる。
 その先には。

「・・・バノッサ」

 やっぱりだ、と。
 の中で疑惑が確信へと変わり、彼が姿を消した先で起こりうるだろう出来事を予測する。
 今、モナティがフラットのメンバーを呼びにいっているから、戦闘が起こったところで何とか対処は可能だろう。
 しかし“あの組織”が介入しているのなら、話は別だ。

「・・・っ」

 軽く歯噛み、彼が消えた先をにらみつけたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第56話  間違った答え





「しっかたねえな、あのタヌキは。俺がひとっ走り行ってみんなを呼んでくるぜ」

 モナティが行っているはずなのだが、まったく来る気配がないので。
 彼は一目散にフラットへと駆けていってしまっていた。

「やれやれ。あまり騒ぎを大きくしたくはなかったのだがな」
「すいません。でも、俺たちにも事情があるんですよ」

 そんな会話から、自分たちが置かれた状況をハヤトは簡単に説明した。
 曰く、彼――バノッサを筆頭とする『オプテュス』という北スラムの組織に目をつけられていること。
 曰く、ハヤトを始めとする4人の異世界の人間たちの持つ召喚術を奪おうと躍起になっていたこと。
 それらを説明すると、ギブソンはあごに手を当てて、納得したかのように軽く数度うなずいてみせた。

「なるほどな。それで私のことをつけていたわけだ」
「疑ってごめんなさい。多分、ガゼルの言ったとおりだと思います」

 ガゼルが言ったこととは、『彼が中にいる人間たちから召喚術を教わった』という事実だ。
 先ほどまではただ疑っていたことだったのだが、それは先ほどのバノッサの出現で事実へと変わっている。
 だからこそ、彼を止めるためにもガゼルは仲間たちを呼びに行ったのだ。

「そうかしら・・・」
「え?」

 ミモザの否定的な言に、ハヤトは目を丸めた。

「キミの話を聞いてると、バノッサって子は突然召喚術が使えるようになったんでしょ?」

 そう。
 先日のアキュートとの戦いのときに単身で介入して、召喚術を乱発して行ったのだ。
 以前までは使えなかった彼が、アレだけの召喚術を一度にやってのけたのだから、おかしいのは確かだ。

 普通ならば、修得には幾年もの年月を必要とする力だ。
 それなのに、彼が突然使えるようになったということは。

「まさか・・・」
「ええ、アタリねっ!」

 2人は互いにうなずき、バノッサの消えた先めがけて突進していったのだった。

「ええっ!? ちょ、ちょっと!」
「・・・ハヤト。俺たちも行こう」
「はぁっ!? 、お前なに言って・・・」
「俺の考えがアタリなら、あの2人・・・死ぬぞ」

 の発言は、あまりに突拍子の無いものだった。
 しかしその表情には焦りが浮かび、しきりに中へと視線を向けている。

 彼は、今まで一体何を見てきたのだろう?
 どのような体験をしてきたのだろう?

 今の状況を気にすることなく、そんなことを考えていた。
 の頬に汗が一筋伝い、あごから地面に落ちていく。

 そんな中。

「・・・行こう」
「キール!?」

 の提案に賛成したのは、今まで一言も言葉を発することのなかったキールだった。
 普段からを気にかけていたのは知っていたが、彼も何を考えてと同じ答えを導き出したのだろうか?
 とにかく、今はこの場をまとめないといけない。
 多数決なら2体1で可決してるけど、自分たちの生死を多数決で決めるのもどうかと思う。

「・・・いいや。俺は勝手に行くから」
「ちょっ、!?」

 思考を巡らせているうちに痺れを切らしたのか、は刀の差してある左腰に手を当てて、いつでも抜刀できるような態勢を取って走り出した。
 その速度は速く、あっという間に建物の中に消えていってしまう。

「・・・ごめん、僕も行くよ。ハヤトは後からみんなと一緒に来てくれ」
「キールまで!?」

 何を思ったのか、キールも同様に走り出した。
 ほどではないが、その速度は速い。

「っ・・・くそっ!」

 ハヤトは軽く舌打つとキールに続いて走り出したのだった。
















「へえ、あいつらを追ってきた召喚師ってのは、てめェらのことかよ?」
「宝玉を渡すんだ! それは、君の手に負える代物じゃない!!」

 バノッサは、中にたたずんでいた。
 右手には光を帯びた『宝玉』を持ち、あくまで悠然と。
 余裕に満ち溢れた表情で、その場に立ち尽くしていた。

「聞けねェな、おっさん。コイツは俺様のモンだぜ? 便利な玉だよなァ。念じただけで召喚術が使えるなんてよォ・・・」

 ギブソンの叫びに、バノッサは嘲笑を浮かべた。
 嘲笑なのに心底嬉しそうで。どこか禍々しい雰囲気すら感じる。

「こんなふうになァ!?」

 叫んだ瞬間。
 右手に持っていた宝玉が光を増した。
 紫の光が狭い空間内に溢れ、ギブソンの視界を閉ざす。

「やめろ、バノッサ!!」
「よお・・・待ってたぜ、クソ野郎がッ!!」

 叫んだを視界に入れて、バノッサは声を荒げた。
 まるでがここに来ることを予測していたかのような口ぶりだった。
 それに構わず、は彼の右手に収まる紫の玉を見やり、それがギブソンとミモザの追っていた『宝玉』であると理解する。

「あれが・・・宝玉?」
「ええ、そうよ。悪魔を自在に召喚する力をもった宝玉」
「『魅魔の宝玉』だ!」

 悪魔。
 それは、サプレスで天使とその大地を二分する生き物たち。
 の戦友にも悪魔の存在はあるのだが、彼は宝玉に支配されてしまうような弱い存在ではない。
 『狂嵐の魔公子』の二つ名を持つ、高位の悪魔なのだから。

「テメエをブッ潰すために、力を手に入れてきたんだぜ?」

 感謝してくれよな、と。
 先ほどの嘲笑をに向けた。

「ハヤト、キール、! 無事か!?」

 ばあんっ! と扉を開けて入ってきたのは、フラットの面々だった。
 慌てて出てきたようで、表面には軽く汗が光っている。
 それを横目にはバノッサを視界には入れるが、にらみつけるわけでもなく。

「・・・・・・」
「どうした、俺様の力にビビったか?」

 自信満々に言葉を口にするバノッサを呆れた目で見つめた。

「・・・答えろぉっ!!」
っ!?』

 答えを返さないに向けて、召喚術を放つ。
 紫の閃光が襲うが、彼は目を閉じて刀を抜刀。
 一瞬にして真っ白な刀身をもやが覆い、刃を作り出す。
 迫る紫の奔流に向けて静かにその刃を振り上げると、

「らあぁぁっ!!」

 声と共に振り下ろした。



 轟音。
 さらに停止されたままの装置の破砕音と共に光が収まり、全員の視界がクリアになっていく。
 そこには。

・・・」

 つぶやいたのはアヤだった。
 白いシャツが煤で汚れてしまっているが、は刀を振り切った状態で立っている。
 召喚術をその身に受けたはずなのに、彼は無傷。
 その瞳は・・・真っ赤に染まっていた。

「召喚術を・・・斬り裂いた?」
「いや、違う。巨大な魔力をぶつけて相殺したんだ!」

 ソルの声と共に、さらに白い刀身を覆い尽くした気の刃がうなりを上げる。





 ・・・本当なら、使いたくなかった。



 ・・・でも今だけ、今だけなら使わせてもらってもいいよな?





 今はいない島の仲間たちと、力の元だった存在に告げる。
 口には出さず、穴の空いた屋根からのぞく蒼穹を視界に入れて。
 目を閉じた。

「バノッサ、お前はなにもわかっていない。俺の言ったことを何一つ・・・」

 “今の君じゃ俺だけならおろか、フラットのみんなだって殺せない”

 先日。襲い掛かるごろつきたちをすべて打ち倒して、バノッサに告げた言葉。

 きっと、わかる。わかってくれる。
 そう、思っていたのに。

「何一つ・・・」

 確かに「どんな手を使ってでも殺してみろ」とは口にした。
 しかし、その言葉がこんな形で形になるとは思ってもみなかった。

 できるなら。
 彼は『彼の居場所』と共に・・・カノンと、彼の仲間たちと共に。
 ここにいて欲しかった。
 でも、それはもう叶わない。
 彼は『居場所』を拒絶してしまった。
 『召喚術』という強大な力を得てしまったがために、すべてを捨ててしまった。

「ど、どういうことなんだ?」

 エドスの声が聞こえる。
 彼を含むフラットメンバーはがバノッサに告げたとき、同じ場所にいなかったから。
 知らないのだ。

「わかっちゃいないっ!!」

 同時に、真紅に染まった瞳を見開く。
 それと共に立ち上る魔力の奔流は風となり、小さな空間に吹き荒れた。

「ちょ、ちょっとちょっと・・・」
「な、なんて魔力だ・・・!?」

 ミモザとギブソンの言は当然だった。
 は“共界線”から、無限に近い魔力を引っ張ってきているのだから。

 本来なら、その魔力は召喚術には使えない。
 しかし・・・代わりに、彼の刀“絶風”が咆哮を上げた。


 ・・・完全に、化け物だな。


 今の自分に対し、は自分を嘲け笑う。
 でも、そんなことは今はどうでもいいことだ。






 わかる。





 わかる。







 今ならわかる、この刀に秘められた力が。

 ウィゼルが・・・伝説の魔剣鍛冶師が言っていた、

“どのような力を秘めているかわからない”

 という力の正体。

 まるで、刀自体が教えてくれているようだ。

 滝のように頭の中に流れ込んでくるそれは・・・




「絶、風・・・っ、第一、開・・・放」




 苦しげに放たれる声に呼応し、絶風が更なる咆哮を上げた―――。








はい。
また強くなっちゃいそうですね。
しかも、第一開放。つまり、第二、第三とあるかもしれないわけで。
能力インフレ、こわいですねえ。


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