短剣を振りかざし、暗殺者たちはすばやいステップで目の前に迫ってくる。
 それは、まるで過去を彷彿させるようで。

「・・・っ」

 今回のような手合いでも何ら問題なく戦える自分が、なんだか嫌だった。

「っ・・・なんだよコイツらっ! 速えぞ!?」
「くっ・・・」

 今までとは勝手が違うのも無理はない。
 相手は今までのようなごろつきとは違い、訓練されたプロなのだから。
 本当に、昔を・・・島での出来事を思い出させてしまう。

「相手はプロだっ! 相手を目で追いかけて、攻撃の軌道を見極めるんだ!」
「そっ、そんなの無理だ・・・」

 のアドバイスに近い叫び声も、キールは弱々しげにそう答えたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第55話  蘇る過去





「ここに召喚の門を開き、敵を貫く槍と化せ! エヴィルスパイク!!」

 サモナイト石から紫の光が飛び出し、小さな悪魔が具現する。
 彼は敵を見やってキシシと笑うと、両手を虚空に掲げた。
 すると、どこからともなく槍降り注ぎ、暗殺者に襲い掛かった。

「・・・くっ」

 しかし、彼らはそれを見事に躱しつづけ、まともに当たることなく光の粒へと消えてしまった。
 確かにここにいる彼らは疾い。
 しかし、以前も同じような敵と戦った経験のあるだけは別だった。

「・・・このっ!」

 繰り出される短剣を受け止め、ひるむことなく繰り出される蹴りを身体の位置をずらすことで躱し、そのまま踏み込んで拳を叩き込む。
 離れたところへ刀を振り下ろし、確実に斬撃を命中させていく。
 さらに、召喚術を躱した暗殺者がの懐に入り込み、すれ違いざまに短剣を振り切る。
 紙一重でこれを躱すと、背を向けている敵に向けて刀を薙ぎ払った。

「あっぶな・・・」

 血を吹き出しながら倒れたのを確認して、胸元に手を当てる。
 白いシャツに軽く血がこびりついていて、浅く斬られたことを意味していた。
 しかしそのことを気にすることなく、は苦戦を強いられているハヤトの援護をしようと刃を交えている暗殺者の背後に回りこんだのだが。

「せいっ!」
「っ!?」

 横に転がり出ることで暗殺者は危機を脱し、今度は標的をに代えて襲い掛かった。
 突き出される短剣を刀の腹で押さえ込み、横からハヤトが大剣を振り下ろす。
 
っ!!」

 今度は背後から。
 ガゼルが交戦していた暗殺者が、味方のほとんどを手にかけたに狙いを定めたのだが。

「シャアァァァッ!!」
「っ・・・!?」

 過去の記憶が、鮮明に浮かび上がる。
 以前にも、同じ掛け声で攻撃をしてきた人間たちがいた。
 今の時間軸から数えれば10年以上も前になるが、の時間からすればまだ2,3年ほど前の話だ。

 そんな声に驚き、目を丸めながらも、は前方に倒れこむようにかがむと、その奥。
 空振った短剣をそのままに、暗殺者はハヤトの待つの前方へ。

「おりゃあぁっ!!」

 再びハヤトは大剣を振り下ろし、無防備な敵を斬り伏せたのだった。
 倒れ、気絶などで動かなくなったのを確認して、はゆっくりと立ち上がる。

 ドクン。
 ドクン。

 心臓が早鳴りをしている。
 以前も感じた、独特の空気、雰囲気。







 ・・・間違いない。



 ・・・この人間たちは―――




























「・・驚いたよ。君たちも召喚術が使えたんだな」

 戦闘が終わり、危険がなくなったのを確認すると、召喚師の男性は唐突にそう口にした。

「ええ、僕は召喚師ですから」
「まぁ・・・それなりに」

 しかし、返ってきたハヤトやキールの答えは、そっけないもので。
 キールに至ってはの胸元の傷に癒しの召喚術をかけながら振り向きもしないので、男性は苦笑。

「君たちの師匠は誰だい?」
「あ、えっと・・・」

 とても、『はぐれです』なんて言えた状況じゃない。
 今の状態をどう打開しようかと、尋ねられたハヤトはしどろもどろしていたのだが、

「師匠なんていねえよ。こいつは、特別なんだ」

 ガゼルが一足早く答えを口にしてしまっていた。

 正式な召喚師なら、上には師と仰ぐ人間がいるはずだ。
 しかし、ハヤトという召喚師には、特別だという理由で、それがいない。

「・・・信じられないな」

 男性が表情を険しくさせるのも無理はなかった。

「でも、ウソじゃないんです」
「ああ、すまない。君たちを疑ってるわけじゃないんだ」

 しかし、すぐに男性の表情はもとの軽い笑みに戻っていた。
 ガゼルが彼に説明を求めると、彼は特に隠すことなく説明を始めていたのだった。

 彼の名前はギブソン・ジラール。
 蒼の派閥の召喚師で、街にはあるものを探しに来たと。
 最初にそう口にした。

「『金』じゃねえのか?」
「とんでもない! あんな金の亡者たちと一緒にしないでくれ」

 ギブソンは、ガゼルの問いにまるで金の派閥を全否定しているかのようにそう口にした。
 『金の亡者』などと言っているところから鑑みるに、彼は金の派閥が嫌いらしい。

「『蒼の派閥』は召喚術を私利私欲で使ったりはしない。むしろ、そういう連中を取り締まるのが役目みたいなものなんだ」

 彼の話から、金の派閥という集団は蒼の派閥にとって捕らえるべき人間たちだと言っているようなものなのだが、

「で、その・・・ある物とは?」
「そのことだが、食事でもしながら説明しよう。助けてもらったお礼だ」

 の問いからまるで逃げるかのように、ギブソンはそう口にして、4人へ背を向けてしまっていた。
 「おごってくれんのか!?」などとガゼルは嬉しそうにしているが、はどうしてもその『ある物』が気になって止まない。

「そのかわり、心当たりがあったら話を聞かせてもらうよ」

 どうやら、その『ある物』については話をしてくれるらしいので、おとなしく後についていったのだった。














「宝玉ですか・・・」

 『ある物』とは派閥から盗み出された大きなサモナイト石の結晶のことだった。
 先刻戦った黒装束の暗殺者たちが盗み出したのだと、彼は確信しているようで。
 さも当然、といわんばかりに事情を口にしていた。

「・・・キール?」
「え!? ・・・あぁ、なんでもない」

 妙にキールの顔色がよくないので、気になっていたのだが。
 なんでもないと言い張るので、話の最初で引き下がっていた。

「ま、それはともかくとしてよ・・・あんたが言ってた仲間ってのは、まだ来ないのかよ?」

 そんなガゼルの問いに、「そろそろ来ると思うんだが・・・」なんてつぶやきながら周囲を仰ぎ見るギブソン。
 そこへ、

「ギブソ〜ン!」
「・・・遅いぞ、ミモザ」

 靴音高く現れたのは、が道を尋ねた緑の服を来た女性だった。

「ごめんごめん・・・あら、貴方」
「・・・ども」

 はミモザという女性に、軽く一礼。
 彼女も、覚えていたようで「これはこれはご丁寧に」なんて言って礼を返してきていた。

「で、この子たちはなんでここに?」
「ちょっとした事情があって、宝玉探しを手伝ってもらうことになった・・・ってなんだ、知り合いか?」
「ええ、城門のところで・・・ね」

 そんな話を2人がしている間・・・

(おい、。あの人のこと、知ってるのかよ?)
(あー・・・道を尋ねた。方向音痴だと言ったら、笑われた)
「はぁっ!? お前、方向音痴だったのむぐぐ」

 声を荒げるハヤトの口を慌てて塞ぐと、ミモザはを見やってニシシと笑った。

「あの時はありがとね♪」
「いやいや・・・こちらこそ」

 は苦笑しながら、そう答えを返したのだった。





 自己紹介を済ませて、早速本題ということになったのだが。
 ぜんぜん召喚師に見えねえな、という召喚師嫌いのガゼルの皮肉もあっさりスルーし、にかっと笑うと、

「お姉さんはもう手がかりを掴んできてるんだから」

 えっへん、と彼女は胸を張った。

「本当か! しかし・・・そうなると、君たちに手伝ってもらう必要がなくなるな」
「・・・・・・いえ、手伝わせてください」
「しかし、さっきのような戦いに・・・」
「なに、大丈夫ですよ。俺たち、戦闘経験豊富ですから」

 ギブソンの言葉を遮って、はそう告げた。
 彼が手伝う理由は、単なる人助けではない。



 ・・・確信が欲しかったのだ。



 先刻の黒装束たちのことや、大きなサモナイト石である宝玉のこと。
 さらに、ミモザが自分に尋ねてきた『危険な』場所。
 これらすべてが、1つにつながるかもしれないから。

「いーじゃないの。せっかくだから、協力してもらいましょ?」
「おい、ミモザ・・・」
「私たちは、この町の地理に詳しくない。道案内は必要だと思わない?」
「む・・・」

 ミモザは渋るギブソンを見事に言い負かして、

「お願いできるかしら?」

 にっこりと笑って、そう告げたのだった。







というわけで、主人公は無色の影に気づいた第55話。
そしてギブミモが表面化です。
ミモザはゲーム内でも結構いい役回りだと思います。


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