「はぁ〜・・・」

 エルカの騒動が治まって、はアキュートの住まう酒場『告発の剣』亭へと足を向けていた。
 理由は・・・実に簡単。

 逃げてきたのだ。
 フラットにいると、エルカがモナティを一方的に怒鳴ったり、それを見てエルカとナツミが口ゲンカしたり、それを納めようとアヤが黒くなったり。
 ガゼルは早々に退散してしまったし、エドス、レイドは仕事に出かけており、召喚師組はすでに我関せず、の状態で部屋に引っ込んでしまっている。
 極めつけは、フラット最強であるリプレが子供たちをトウヤとハヤトを連れて出かけてしまったのだ。
 そんなワケで止める者はおらず、ただはその光景を眺め、

 とばっちり喰らう前に退散しよう。

 というわけなのだ。
 商店街を抜けて繁華街へやってきたら、その平和さに思わず冒頭の安堵のため息を吐いてしまったほど。
 それほどに、アヤの黒オーラは強烈だったのだ。
 元の世界にいたときには感じたことのなかった、黒いオーラ。

 ハヤトやトウヤの話では彼女のアレはリィンバウムに来てから発現しだしたものだとか。
 なにか、色々はっちゃけてしまっているようだが、その辺りはもうスルーすることに決めた。

「平和だ・・・ここは平和すぎる・・・」

 まるで自分たちがバノッサを筆頭とするオプテュスに狙われているとは思えない発言だった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第53話  近づく脅威





 活気づいているここは、繁華街。
 夜は不良や酔っ払いの巣窟であるこの場所も、昼間は露店や屋台でにぎわっていた。
 最も、屋台については夜も営業しているのだろうが、は夜は基本的に出歩かないのでそんなことは知らない。

 改めて、出かけてよかったと思う。・・・いや、ほんとに。

「なにか、面白いイベントないかな」

 特になにかするわけでもなく、ただ徘徊し『告発の剣』亭を目指していたのだが。










 リィン・・・










「・・・?」

 ふいに、音が聞こえた。
 よくはわからないが、召喚術ではなくただの鈴の音に近い。
 普通の鈴の音なのだが、この活気ある繁華街でなぜこんなにもはっきりと音が聞こえるのだろうか。

 立ち止まり、きょろきょろと首を左右に振る。
 周囲を観察するためだ。
 行き交う人間たちには気にもとめていないのか、特に表情の変化もなく往来を闊歩していた。

 こんなにはっきり聞こえるのに、なぜ。
 みんなは気づきもしないのだろう?

 まわりの人間には聞こえていないのか、自身の聴覚機能がおかしいのか。
 考えられるのはこのくらいだろうか。
 あるいは、に『しか』聞こえていないのか。

 周囲を2、3度見回したところで、あきらめて前方へ顔を戻すと。










 リィン・・・リィン・・・










 の隣を、何かが抜けていった。

 一陣の風とともに駆け抜けていく、なにか。

 駆け抜けていく、というには、語彙がおかしいだろう。
 その存在は、の隣でたたずんでいたのだから。
 同時に、周囲から音という『音』が消えうせる。
 そんな光景に、は眉間にしわを寄せた。

 ・・・あり得ない。
 ・・・こんな感覚、今までで初めてだ。

 隣を見ると、たたずむ得体の知れない存在がたたずみ、動くことはない。
 黒いローブを羽織った首元に深い緑のマフラーのような布を巻き、さらに黒に近い紫の三角笠を頭からかぶっているため、表情はまったくうかがえない。
 そして、腰に帯びている白木の棒。
 これはおそらく『刀』だ。柄の部分に鈴がある。先刻の音はおそらくコレだろう。
 柄には『秋雨』と焼き入れされていた。
 そんな完全武装の中でわかったのは、唯一肌を露出している腕部分と顎。
 肌色よりも灰色に近いその様相は、壮年の男性をイメージさせることに苦労はしなかった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 並んだ2人を、しばらく無言が支配した。

 まるで周囲から隔離されているようにも感じられた。
 周囲の人間たちはそんな2人を見ることもなく、ただ自らの目的のために足を動かし、その姿を消していく。
 そんな動きがゆっくりに、さらにぼやけて見えた。

「鈴の音(ね)が・・・聞こえたな?」

 沈黙を破ったのは男性だった。
 を見ることなく抑揚のない声で紡がれた低く太い声が、一直線に耳に入ってくる。
 言葉を返すことなく、自身も前方に顔を向けたまま瞳だけを動かして隣を見やると。

 そこに、表情は存在していなかった。

「我が名は、墓場と在りし烏。『松楸』の烏なり」
「・・・何が言いたい?」

 何を言っているのか、いまいち理解できない。
 ただわかっていることは、名前が『松楸の烏』ということだけ。
 『墓場と在りし烏』という言葉が何を意味しているのか、理解することができなかった。
 むしろ『松楸』なんて言葉も聞いたことがない。
 は高校課程の途中でリィンバウムに召喚されたのだから、無理はないというものなのだが。

「・・・それもよい。所詮私は異界のもの。名など些事にすぎん」

 軽く笑んだと思えば、

「また、合い間見えることもあるだろう。そのときは・・・」

 つぶやくように口にし、再び強い風がを襲った。
 思わずまぶたを閉じ、風が止んだことを確認して再び見開くと。

「心ゆくまで・・・死合おうではないか」

 そんな声が聞こえ、隣の存在は掻き消えていて。
 隔離された空間が元に戻っているかのように、ぶれて見えていた人々がはっきりと視界に映り、音が戻ってきた。



 気づけば流れる川のような繁華街の中で、今、だけがその場にたたずんでいた。
 眉間にしわをよせたまま険しい表情でたたずみ、人々がちらちらとそんなを見つつ避けて通っていく。

「・・・・・・はっ!?」

 なんだったんだ、今のは?

 今まで感じていたのは殺伐とし、ギラギラと光る抜き身の刃のような視線と、今にも斬りかかられそうな強い殺気。
 そして、去り際に見せた『烏』と名乗った男性の笑みは、思わずゾクリと背筋を凍らせた。

 あれは、関わってはいけないモノだ。
 間見えれば最後、何が起こるかわかったものではない。

 それは、恐怖に近かった。

「・・・・・・」

 冷や汗が頬を伝い、風の吹き抜けた先を眺める。
 もう背筋の凍るような感覚はなく、喧騒だけが聞こえてきている。



「あれ、?」
「っ!?」



 振り向けば。
 驚きと共に目を丸めたリプレだった。
 その背後には疲れた表情のハヤトとトウヤと、なぜか縮こまっている子供たち。

「どうしたんだい? こんなところでボーっとしてさ」

 尋ねてきたのはトウヤだった。
 ハヤトとともに両手にぱんぱんに膨れた買い物袋を携えている。
 自分を見るいくつもの視線にそれぞれ返して、ばつが悪そうに頭を掻いて。

「・・・いや、なんでもないよ。ちょっと考え事」

 そう口にして、苦笑したのだった。






第53話でした。
といあえず短い上に文章おかしいです。
戦国時代風の堅っ苦しい言葉遣いにしたかったんですけど、なかなかうまくいかないですね。


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