「放しなさいよっ! 放してえぇ〜っ!!」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえよ、コラ!!」

 エルカを拘束していたのはキムランだった。
 元々3兄弟には顔を見られていたので、彼らはそれを口実にフラットに乗り込もうとしていたようで。

「乗り込む前にわざわざ出てきてくれるとは、間抜けなはぐれだ」

 イムランはそう口にした。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第52話  はぐれ





「エルカっ!!」

 フラットから飛び出すと、その目の前で彼女はキムランによって羽交い絞めにされていた。
 いち早く3兄弟を見てハヤトは表情をゆがめる。

「ほう、彼女はエルカと言うんですか。なかなか華麗なお名前ですねえ」
「バカ3兄弟が揃って何しに来やがった!」

 カムランの言葉をあっさり無視して、ガゼルは眉間にしわを寄せながら声をあげた。
 もとから・・・というか花見のときから敵対はしているし、先日の列車襲撃の時だって助けたというのにお礼すらないままだ。
 しかも、彼は個人的に召喚師が嫌いだし。

「聞かなきゃわかんねえのか・・・あァん?」
「重ね重ねの貴方たちの無礼、まとめてお返しして差し上げようと思いましてね」

 勝手にわからないだろうと解釈してか、カムランは今回の目的を口にした。
 花見に始まって、アキュートとの衝突やモナティの件、そして昼間のエルカのこと。
 それらによる無礼を、武力によって返そうとしているのだ、彼らは。

「勝手なことをっ!」
「そうだよな、貴族ならそのくらい笑って許してくれるような寛大さがないとな」
「そーそー」

 が口にしたことに同調したのはナツミだった。
 しかし、ここまで出向いてくるということは、

「ふんっ、なにを血迷ったことを。私たちは貴族としてのプライドを傷つけられたのだ。そのお返しをしなくては気がすまんのだ!!」
「うっわ、大人げないなぁ」
「黙れ小娘っ!!」
「うひっ」

 つぶやいたカシスにむけてにらみをきかせたイムランは、キムランが拘束しているエルカを指差して、

「私たちを攻撃すれば、このはぐれも無事にはすまないぞ?」
「ぐっ・・・」

 エルカはなんとか抜け出そうと奮闘しているが、キムランの力に抗うことすらできずもがいているだけ。
 ハヤトは悔しげに歯噛み、イムランをにらみつけた。
 こんなとき、メトラルの魔眼があったらどれだけ役に立ったことか。

「ふはははは、私たちに逆らった罪をたっぷりと・・・」
「きゅーっ!!!」
「うわあああっ!?」

 身体の小さいガウムの強襲。
 驚き、キムランはエルカの拘束をいとも簡単に解いてしまっていた。
 モナティがエルカの手を引き、3兄弟から距離を取る。
 その間、彼女はぶすっとした表情のままだった。

「お、おのれぇ・・・不意打ちとは卑怯な」
「なに言ってる。そっちだって人質とってたくせに」
「きぃ〜っ! 憎い、憎い、憎いっ!」

 のツッコミに地団駄踏むイムラン。
 とても20代には見えない大人げなさだ。

「やっぱ、20代には見えないわよねえ」
「眉毛もないし、なんか老けて見えんだよな」
「おでこが広いせいか、さらに老けて見えますし・・・」
「っていうか、よく見ると3兄弟全員髪オールバックにしてるんだね」

 すごいぞ召喚師4兄弟。
 すばらしい会話の内容だ。

「むっきぃ〜っ!!!」
「落ち着けよ、兄貴」
「人質などいなくても、華麗なる私たちの勝利は動きません」
「『華麗』じゃなくて『枯れてる』じゃないの?」

 ぼそりとつぶやいたナツミの言葉は、誰にも聞かれることなく終わった。
 もし聞かれていれば、怒りに任せて召喚術を乱射されかねないというものだ。
 なんだかんだいっても、彼らは気の短い兄弟なのだから。

「ハッ、そいつはどうかな?」

 にい、と不敵な笑みを見せたのはローカスだった。
 我らに勝利の策あり、といった、余裕の表情だ。
 そんな彼にカチンと来たのか、表情から笑みを消したキムランとカムラン。
 イムランは元から怒り狂っていていつでも戦闘準備万端になっていたので、2人は顔を見合わせてサモナイト石を取り出した。

「思い知りなさい、わが兄弟の力を!」
「くたばれえぇぇっ!!」





 3人はいきなり召喚術の詠唱を唱え始めた。
 兵士も数人連れてきているようだが、あまり気にしていないようにも見える。
 それぞれの石が光を帯びる。

「まずいっ! 奴ら、召喚術でまとめて一掃するつもりのようだ!!」

 対処の方法は全員がバラバラに散るか、発動前に倒す。
 ここは南スラムだ。
 召喚術など使わせては他の住人たちに迷惑がかかるから。
 向こうはいいかもしれないが、自分たちの住む家もなくなってしまうから。

「発動前に・・・できる限り倒してやる!!」

 は叫び、地を駆けた。
 刀を抜き放ち、手を掲げるのを見つつ焦りを覚える。

 最初の動きが遅すぎた。
 このままでは、召喚術が発動してしまう。
 ・・・それは、こまる。
 住むところがなくなってしまうのももちろんだが、なにより彼らの思うつぼになってしまうのが嫌だ。

「おおぉぉぉっ!!」

 ハヤトがキムランに斬りかかり、詠唱が止まっている。
 彼は元々肉弾戦に特化しているので、召喚術自体はあまり得意ではないはずだ。
 そうすると、問題は残りの2人。
 正面にはイムランが、背後でカムランがそれぞれ詠唱しているが、カムランについては仲間が向かっているので問題はイムランだ。
 もう光も強くて今にも発動しそうだ。

「間に合え・・・っ」

 は刀を鞘に納め、腰をひねって抜刀の体勢を取った。
 走っていては間に合わない。

 だったら、斬撃だけ飛ばせばいい!!

「行けェッ!!」

 すばやく抜刀。
 発生した斬撃は空気を切り裂き、今にも発動しようとしていた紫のサモナイト石を弾き飛ばした。
 弾かれた石は宙を舞い、急激に光を失いながら地面に着地する。
 は走る速度を落とすことなくイムランまでの距離を詰めると、彼の顔を掴んで引き倒した。

「ぐぅっ・・・」

 うめき声を発し、痛みに表情をゆがめている。
 しかし、そうでもしなければ再びサモナイト石を手に召喚術を使うだろう。
 倒したままそっと顔から手をのけると、背後に振り向いて剣を振りかざしていた兵士に刀を振るった。
 狙いは兵士の手元。
 無意味な殺人は本意ではないから。

「ぐあっ!?」

 刃の根元から力任せに剣を弾き飛ばし、右足を踏み込んで左手を突き出す。
 拳は吸い込まれるように兵士の鳩尾へと吸い込まれ、背後へ吹っ飛んだ。

「くっ、くそ・・・ぶえっ!?」

 起き上がろうとしているイムランにチョップを叩き込んで黙らせると、周囲を見回す。
 1人対数人でキムランとカムランもすでに倒しており、兵士たちも統率をなくして混乱してしまっていた。













「くっ・・・」
「この落とし前、きっとつけるぞ!」
「華麗なる復讐を、次こそっ!!」

 よろりと立ち上がった3兄弟は、捨て台詞を吐いて去っていった。
 兵士たちは置いてけぼりになっているけど、いいのだろうか?



「どうして、エルカのこと助けたのよ?」

 モナティに助け出されたエルカは終始無言だったのだが、ここでハヤトに話し掛けていた。
 表情に怒りはなく、目尻に涙をためている。

「助けてくれなんて、言ってないのに・・・」

 ハヤトはそんな彼女を見て笑みを見せる。

「気にしなくていいよ。恩に着せるつもりじゃないから。ただ・・・」

 言葉を切り、彼女の肩に手を置くと、

「助けたかったから、助けたんだ」
「な・・・」
「とにかく。信じるかどうかはさておき、さっき説明したことは本当だからね」

 召喚獣は、自分を召喚した召喚師にしか還すことはできない。
 彼女は先刻それを信じることができなくて、ハヤトたちを痺れさせてフラットから逃げ出したのだ。
 きっぱりと言い放ったハヤトを見て、表情も暗くなっていく。

「ハヤトマスターはウソをついてないです、エルカさん。だって・・・」

 マスターたちもエルカさんと同じなんですから!

 そんなモナティの言葉に、エルカは目を見開いた。
 ハヤトとその背後にいる3人の男女、トウヤとナツミとアヤだ。
 トウヤは表情も変えずただ腕組みをしていて、ナツミとアヤはというと苦笑してエルカに向けてひらひらと手を振っていた。









「で、結局フラットで面倒見るってことになるわけな・・・」
「アイツが私を熱心に誘ったからよ!」

 一時の間を置いて、エルカがフラットの住人となることが決定した。
 ガゼルが「また食費がかさむ」なんて愚痴っているが、

「あら、いいじゃない。よろしくね、エルカちゃん?」
「ちゃんはいらない。エルカでいい」

 リプレの一言であっさり陥落したのだった。









第52話でした。
51話のあとがきにも書いてあるとおり、エルカメインのストーリーがココで終了しました。
正直な話、エルカを介入させるつもりはなかったんですけどね。
せっかくなので書ききってしまいました。


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