「ふああぁぁぁ・・・」
「平和ねぇ・・・」

 ぽかぽか陽気。
 まるで春を彷彿させるその陽気は、ハヤトとナツミに大きなあくびをもたらしていた。
 まさに春眠暁をおぼえず、であった。

「もう、2人ともお行儀が悪いですよ?」
「そう言うなって。昨日は大変だったんだから」

 咎めたアヤに、反省はおろか状況を改善させる様子すら見せない2人だったが、

「レイドもエドスもちゃんと仕事に行ってるってのに、なまけていいわけ?」
「いいのいいの。あたしたちの仕事はみんなの留守を守ることなんだしー?」
「なんだいその『自分たちは悪くない』的な発言は?」

 トウヤは顔を引きつらせながらも、笑みを向ける。
 どことなく怒っているようにも見えなくもないのだが。

「もぉっ! を見てください! 訓練するって言って、出かけちゃいましたよ!」

 少しは見習ったらどうですか!?

 そんな言葉を発しながらも、実はアヤもヒマをもてあましていたりする。
 それはその場にいる全員に当てはまることで。

「はいはいはいはい。ハヤトとトウヤは川で魚捕ってきて。アヤとナツミは私と買い物!」

 ぱん、ぱん、と手を叩いて、所構わず騒ぎまくる子供をなだめるようにリプレはそう口にした。
 現在フラットの食事のすべてを任されている彼女だ。逆らえば食事が抜きになりかねないので。



「い・い・わ・ね?」
『サー、イエッサー!!』





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第50話  来訪者





「迷った・・・」

 は再び迷っていた。
 稽古のために荒野へ出ようと思ったのだけど、なぜか今仰々しい門の前にいたりする。
 領主の住む城の門である。
 参ったな、と頭を掻いていたところへ、

「ねぇ、そこのボク! ちょっといいかしら?」

 トーンの高い、女性の声。
 この年になって『そこのボク』とか言われるとは思わなかったのだが、今のところ門の前にいるのは自分と声をかけた人のみで。
 声の方へと振り向くと、そこには茶髪をショートで切り揃え、丸メガネをかけた女性がニッコリと笑って立っていた。
 背には大きなリュックを背負って、重力にしたがって垂れ下がっている。

「・・・なにか?」

 聞き返す。
 女性は表情を変えず近づいてくると、

「この街で一番物騒な場所って、どこにあるのかしら?」
「・・・は?」

 ・・・・・・

 ちょっと落ち着こう。
 今、彼女はなんて言った?

『この街で一番物騒な場所はどこ?』

 そう聞いただろうか?

 正直耳を疑った。
 一見、普通の人間に見える彼女だが、そんな場所に行って何をするつもりなのだろう。
 武器を持っているようにも見えないし、服装なんかもラフな格好をしているので召喚師にも見えない。
 なので、

「そんな場所。聞いてどうするんです?」

 そうたずね返したのだが、返ってきたのは『ちょっとワケありで』というだけだった。
 内密な話なのか、話したくないのか。
 まぁ、にはさほど関係のない話なうえに、

「だいじょぶよ。ちょっと頼りないけど、連れもいるし」

 なんて言っているので、

「・・・北スラムか、繁華街が比較的危険な部類に入るかと」
「北ね? どうもありがとう」

 それじゃあね!

 手を振ってから離れようとしたところで、

「あ、ちょっと!」
「?」

 立ち止まった女性に追いついて、恥ずかしげに頭を掻くと、

「・・・すいません。街の入り口まで連れて行ってくれませんか?」

 自分、方向音痴なもんで。

 そう告げた。







「あははははは!」
「・・・笑いすぎですよ」

 方向音痴なもんで、と告げると、女性は声をあげて笑いはじめていた。
 目の前に本人がいることなどお構いなし。
 そんなわけで、は笑いこける女性をじとりと見やりつつぶすっとしていた。

「ぷっ、くくく・・・ご、ごめんね」

 彼女曰く、サイジェントという街ははリィンバウムの中でも比較的狭いらしく、聖王都でならまだしも、この街で迷子になる人間を初めて見たとのこと。

「ってか、あなたもこの街には来て日は浅いの?」
「いえ、もう結構経つんですが、生来からの方向音痴はどうやっても治らないらしくて・・・」

 この街は、入り口から城門までは広いメインストリートで一直線につながっているらしく、迷う方がおかしいのだとか。
 スラムや住宅街へは入り組んでいて迷ってしまうかもしれないが、このという青年は、南スラムのフラットまではあまり迷うことなく戻ることができるのだ。
 人としての本能か、動物ならではの帰巣本能か、よくはわからない。
 ・・・不思議だ。

「で、入り口まで行ってどうする気なの?」
「・・・目的を教えずに危険な場所はどこか尋ねておいて、それを俺に聞きますか?」

 笑われたことも含めてあまり機嫌はよくないので、口を尖らせながら女性に尋ね返す。
 それに対して、彼女は引きつった笑みを見せると、

「そ、そうねぇ・・・」

 なんて口にしていた。

「まぁ、別に言ったところでなにかあるってワケでもないけど・・・剣の稽古に行くんです」
「あ、あぁ・・・その腰のヤツね?」

 女性はの左腰を見やり、指差す。
 普通の剣よりも細く、長い。長剣というのは細すぎる武器だが、

「シルターンのサムライとかがよく使ってるっていう、カタナよね?」
「ええ」

 リィンバウムに来る前から剣術を教わっていたし、召喚されてからもずっと刀を使っていたから。
 もう自分に馴染んでしまっているし、なにより変えるつもりもない。

「前々から思ってたんだけど、そのカタナって普通の剣より細いじゃない? 折れたりってしないの?」
「あー、俺の経験上では折れたことはないですね」
「へぇ〜見た目より強度はあるんだ」

 興味深そうに絶風を見やる女性だったが、

「あらら、もうついちゃったのね」

 街の入り口に辿り着いていた。
 本当に、城門から広い道を一直線だった。おどろきである。
 こんどからこの道に出て街の外に行くことにしよう、と密かに心に決めたのだった。

「ありがとうございました」
「いえいえ。こっちこそ、場所教えてもらったし」

 こんどこそ、それじゃあね!

 女性はにっこり笑顔を浮かべながら、北スラムへ向かって行ったのだった。
 結局、彼女の連れにはまったく会わなかったけど。














「む?」

 颯爽と荒野にやってきた。
 周囲を見渡せばすべてが岩と砂に覆われた世界だ。
 そこに、ひときわ目立つ赤の鎧の姿。

「ラムダ?」

 怪我で失った片目を黒い髪で隠した『断頭台』の異名を持つ元騎士だ。
 彼は一心に巨大な大剣を軽々振り回している。
 その姿は流れるようで、振るった剣の後を風が舞っていく。

「・・・ふんっ!」

 横に一振り。
 ブオン、と大きな風切り音とともに、彼の周囲を砂煙が舞い上がった。


 すごい。
 やるのと見るのでは、やはり違いが大きい。
 やるだけではなくて、見るのもまた強くなるのは必要なのかもしれないと、改めて悟っていた。

か・・・」
「俺がいること、知ってたんだ?」
「ああ。精神を統一していれば、気配の察知くらいできるようになろう」
「そっか」

 互いに向かい合い、沈黙。
 ラムダは元より話すことが苦手で、普段は1人で稽古をしているらしい。
 今日は、いつものように稽古をしていたところへがやってきたとのこと。
 それなら。

「せっかくだから、一緒にやらないか?」
「ふむ・・・」
「ほら、ラムダとは剣を交えたこともないしさ」
「そうだな」

 と、いうわけで。







「それじゃ、行くぞ」
「来い!」






 2人の剣は交じり合い、乾いた風の吹く荒野に高い金属音が響き渡ったのだった。







第50話突破しました。
ゲーム中第12話『蒼の派閥』に入りました。
ミモザがちょっとと、ラムダが登場しましたね。
稽古という名目になっていますが、内容は書かないかと思います。
ぶっちゃけ早くストーリーを進めたいので。


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