「・・・・・・」





 問題:ここはどこでしょう?























 正解は。



「ま、迷った・・・」



 どーんとそびえたつ巨大な建物。
 眼下には川が流れているが、それはもう細いものでとても川とはいえない代物だ。

 ここは、サイジェント領主邸のまん前だった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第48話  和解と新たな脅威




「参ったな・・・みんなを追って『死の沼地』に行かないといけないのに・・・」

 はあ、と大きなため息をついて、頭を抱える。
 細い川を挟んだ橋の上に、現在いるわけだが、このままここにとどまっていてはなんかヘンな人だ。
 しかも、建物を眺めてぼけーっとつっ立っているだけなので、さらに滑稽だ。

「しょうがない、一度フラットに戻るか」

 ただ闇雲に行動すると、どこに自分が迷い込むかわかったものではない。
 だったら、自分を含めたチームの拠点である孤児院に戻って仲間の帰りを待つのが得策だ。
 こんなときに極度の方向音痴である自分が妙に腹立たしく感じられた。

 というわけで、はフラットへと1人帰還したのだった。















「2人ともやめろ!」

 アキュートのメンバーを打ち倒し、フラットチームはレイドとラムダの元へ辿り着いていた。
 いち早く叫んだのはハヤトだ。
 額の汗を拭うことなく、剣を交えている2人に声高に叫ぶ。
 その声に、2人の注意が彼に向いていた。

 ペルゴもセシルも、とにかく強かった。
 召喚術なしで、まるで超人的な身のこなし。
 ジンガがペルゴに勝ったという話だったが、地球からやってきた4人の男女にはとても信じられなかった。
 実際、召喚術が使えても4人がかりでやっと互角なのだから。

 戦闘中、ガゼルが妙に居心地悪そうにしていたのは、とりあえずスルーしておこう。

「あなたたちがたたかったところで、なんの意味もないじゃないか!!」
「これは、俺とレイドで解決せねばならん問題なのだ」

 部外者は、口出ししないでもらおうか!!

 眉間にしわを寄せ、ラムダは叫ぶ。

 どんな犠牲を払おうとも、街が救えるのなら、それでいい。
 誰の犠牲も出すことなく、今の街を救えるかもしれない。

 たしかに、これは2人の出した結論だ。
 でも。

「部外者? ・・・あんた、この期に及んでなに血迷ったこと言ってんのよ!!」
「ナツミ・・・」

 ラムダの声に反応したのはナツミだった。
 右手に持つ短剣を腰の鞘にしまい、ラムダをにらみつける。
 険しい表情で一気に・・・

「レイドはあたしたちの仲間! 路頭に迷ってたあたしたちを救ってくれた恩人でもあるの! そんな人がピンチだってのに、部外者とは何事よ!?」

 まくし立てた。

「それに、街の問題は貴方たちだけの問題ではないんです。サイジェントという街に暮らす人々全ての問題なんです」

 ナツミに続いて、アヤは一歩前に進み出る。
 表情は険しいものではなかったが、長い黒髪を振り乱して叫ぶ姿は、それはもう必死そのもので。

「どんな犠牲を出してでも、この街を正しい姿に戻すという貴方の意見。厳しいものだけど確かに正しいです。でも・・・」
「・・・・・・」
「そんなことを、街の人たちが望んでいると言うのですか!?」

 そんな彼女の主張にラムダは動じることなく、

「望むか、望まないかではない。俺はこの街が、人々が疲れ果てていく姿を見過ごせなかっただけだ」

 静かにそう告げた。
 彼も、街を想う心は同じなのだ。
 ただ、レイドとは考え方が極端に反対になってしまっただけで。
 2人の望む街の姿は、まったく相違ないもの。

「人々が俺のことをどう思おうと構わん! この街を救えるのなら、それでいいのだ!!」

 激しい戦闘で高ぶっているのか、4人の説得で焦っているのか。
 ラムダは剣を地面に振り下ろして、そう叫んだ。

「以前・・・貴方がレイドさんを庇ったように、ですか?」
「!?」
「貴方が犠牲になることで、確かに街は救われるかもしれない。でも、犠牲になった貴方を大切想う人は・・・救われない」

 かつてのレイドや、アキュートのメンバーたち。
 誰もが、ラムダを想っている。
 今、1人で犠牲になろうとしている彼を。

 そんな人々の犠牲になることで、悲しむ人が少なからずいるのだからと。トウヤは静かに告げた。

「大体、レイドもレイドよ! なんでもかんでも・・・自分1人で背負っちゃってさ」

 あたしたちのこと、そんなに信用できないの?

 はじめこそ声を荒げていたものの、徐々にその勢いはなくなっていって。
 語尾に近づいたときにはすでに話し言葉以下の音量まで下がってきていた。
 腰の部分でぎゅ、と拳を握り締め、ナツミはカタカタと身体を震わせている。

 ・・・悔しかった。悲しかった。
 自分たちを助けてくれて、仲間だと言ってくれたのに。
 肝心なところで、彼は全部1人で抱え込んでしまっているから。

「あんたたちの決闘で、あんたたちの決着はつくかもしれないけどね・・・みすみす2人を犠牲にしたあたしたちが納得できないの!!」

 そんな決着、クシャクシャにしてポイなんだから!!

 大きな瞳に涙を溜め込むと、ナツミは口元を押さえてくるりと2人に背を向けた。
 彼女の涙は、悔し涙。
 頼ってくれなかったレイドと、自分たちが頼られなかった悔しさで。
 その気持ちは、みんな同じだ。

「犠牲・・・か」
「ラムダ・・・さん?」

 つぶやいた言葉に、アヤが首を傾げた。
 彼の表情からは激情が消え、地面に叩きつけていた剣を引き抜いて鞘に納める。

「自分がそうなれば、他に誰も傷つくものはいないと思っていたが・・・どうやらそれはまちがいだったようだ」

 顔を地面に向けて、小さく笑う。

「お前たちの言ったことは、正しいのだろう。ここで俺たちが戦ったところで、決着はつかない」
「それじゃあ・・・!」

 表情をキリリとしたものに変えると、

「もっとふさわしい形で終わらせよう。俺たちの、ではなく・・・『お前たち』との決着を、な」

 犠牲を生み出す力ではなく、言葉という力で。
 言葉は、時に鋭い武器になる。でも、上手く使えばすべてを救う手段となりえる力だ。
 ラムダが、『犠牲』にこだわっていた彼が、そう言ったのだ。

「はは・・・っ」

 これほど嬉しいことはない。
 これで、フラットとアキュートは手を取り合っていける。
 そう、思った。

















「アーッハッハッハ!! とんだ三文芝居だったなァ・・・」

 そのまま2人で仲良く殺しあってくれりゃあ、手間が省けたのによォ。

『バノッサ!?』

 北スラムで、1人に自分のすべてをつぶされた彼が・・・楽しそうに笑い声をあげて立っていた。













「む・・・」

 フラットのまん前で、はイヤな予感を感じ取っていた。
 なんとなくだが、街の外から。

「なんだろう・・・」

 胸騒ぎがする。
 は踵を返し、壊れた壁から街の外へと足を向けたのだが。

「な・・・なんだぁ!? ・・・や、やめろ・・・うわぁっ!! 危な!!」

 急に襲われた。
 先刻倒したばかりのごろつきが数人だったが、まだ気絶しているはずだ。
 しかもよく見ると。

「な・・・」

 彼らの周囲から、紫の光が糸のように立ち上っている。
 これは。

「憑依か・・・!? なんで彼にそんなことが・・・」

 召喚術は使えないはずではなかったか?

 そんな考えが頭をよぎる。
 ただ、今までの彼らよりも強さがケタ違いだということだけは理解できた。

「ちっ・・・!」

 は刀を抜くと、襲い掛かる刃を受け止めたのだった。




















「どいつが街を治めようが、変わらねェんだよ! 犠牲は出るんだよ!!」

 まだ、ココにいた。
 ラムダとは違い、力のみがすべてを支配できるものだと信じて止まない人間が。
 自分たちの言葉に耳を傾けない人間が。

「手前らには任せておけねェ・・・あの街は俺様が貰う。力のある、この俺様がなァ!!」
「お前の力で何ができるつもりだ、バノッサ!」
「・・・クククク」

 レイドの声に、バノッサはただ含み笑う。
 何か策でもあるのか、ただの無謀か。
 まず後者はありえないとしても、仲間すらあまり引き連れていない彼に何ができる?

「できるさ、今の俺様ならな・・・」
「・・・!? は・・・彼はどうしたのですか!?」

 それにいち早く気づいたのはアヤだった。
 彼は、バノッサに呼び止められて1人北スラムに残っていたはずだ。
 それなのに、呼び止めた本人である彼が、ココにいる。

「さァな・・・今ごろ、俺の子分どもにやられてのたれ死んでるんじゃねェかなァ?」

 くくく、と笑いながら、バノッサは答えを告げた。
 ・・・とてもじゃないが、信じられない。
 今までバノッサを一撃で倒してきていたが、そうやすやすと負けることはありえない。
 そう考えていたのだけど。

「ま、今の俺様だからこそ、できるんだがなァ!!」
「なっ・・・」

 紫の閃光。
 彼が持っている玉が光を発したかと思えば、周囲は火のと化していた。

 召喚術。
 今までアレだけ固執していた大きな力を、今彼が使っているのだ。

「はぐれ野郎ども!! 手前ェらのしみったれた力なんぞ、もう俺様には必要ねェのさ!」

 拳大くらいの大きさの玉だが、サモナイト石ではない。
 なにか、違うものだ。
 でも、その玉を介して彼が召喚術を使っている。
 それは間違いようもない事実だった。

「どうせ、手前ェらはここで焼け死ぬのさ。そのあとで、俺様をコケにしたあの野郎を地獄へ送ってやるぜ!」

 あの野郎とは、のことである。
 北スラムで彼1人に完敗し、力が欲しいと願ったとき。
 1人の男が現れたのだ。
 壮年の男性で、鼻に黒メガネを掛けている。
 どこか強い力を、召喚術が使えないバノッサですら感じ取ることができたぐらいだ。

「なにがフラットの連中を殺せない、だ・・・くくくっ、殺してやるさ・・・」

 嬉しそうに、本当に嬉しそうにバノッサは笑うと。

「・・・今、ここでなァ!」

 その玉を虚空に掲げた。







第48話。
1ではありえない憑依召喚術の登場です。
オルドレイクの存在もかなり公になってきましたが、本人はまだ登場しませんね。


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