「・・・っ!!」
は1人、襲いくるごろつきたちの中を駆ける。
表情は怒りを前面に押し出して、眉間には遠目でもはっきり分かるほどのしわ。
身をかがめ、地面に手をついてごろつきたちの攻撃を躱し、刀で受け止め、1人、1人と確実に地に伏せていく。
もう、何人倒しただろう。
もとから数える気などなかった。ざっと見回しただけで、それだけ。
「っ!? ・・・はぁっ!!」
背後から剣に襲われ、軽く斬られる。
背中に一直線の筋が生まれ、赤い滴が白い服ににじんでいった。
しかし、そのことを気にすることなく、は光を帯びた刀を振るう。
一閃された刀はを斬ったごろつきの肩口に吸い込まれるように衝突し、その場に叩き伏せる。
もちろん刃を立てず、峰で。
「・・・・・・」
情けない。
いくら自分だけで勝てないからって周りを巻き込んで、自分は何もしないで。
ごろつきを気絶させながら、バノッサへ視線を向ける。
彼はニヤニヤと口の端を吊り上げているが、それが気に食わなかった。
自分のわがままのために、と戦っているごろつきたちを『使って』いるのだ、彼は。
・・・なんでそんなことができる?
・・・どうすればそんな考え方ができる?
これじゃあまるで・・・
「ヒトをただの道具だとでも思ってるのか」
ヒトは道具ではない。
彼らは、バノッサを慕っているが故に今も自分と戦っているのだ。
そんな人間が、なぜ居場所がないなんていえるのだろう?
・・・・・・
むしょうに、腹が立った。
「こんなんじゃ、ヤツらと同じじゃないか・・・」
つぶやきめぐらすは、忘れられた島。
一振りの剣を巡った、忘れられない戦い。
その中で、ヒトを道具としか思わない、最低の連中がいた。
今の彼は、ソレらと同じなのだ。
「ああぁぁぁっ!!!」
その場で刀を鞘に納める。
体内を巡る見えない力を、刀に流すイメージ。
・・・刀が強い光を放つ。
戦闘前に留めていた力に加え、積み木をくみ上げるように見えないエネルギーを落としていく。
居合斬り。
使わないつもりだったが、使っておかなければ気がすまない。
腰を落とし、柄に手をかける。
強い風がの周囲に発生し、ごろつきたちの勢いが弱まっていく。
黒く赤い瞳を輝かせた、自分たちにとって悪魔のような存在が目の前に居るのだから。
「ば、化け物・・・」
つぶやいたのは、誰だっただろう。
でも、気にしない。
所詮この身は召喚獣。リィンバウム中にごまんといる化け物の1人なのだから。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第47話 仲間と道具と
「ここが死の沼地かよ・・・クソッ、ひでえ臭いだ」
そうつぶやいて顔をしかめたのはガゼルだった。
どす黒く染まった土から生えている木も黒く、葉もついていない。
近くの池には、緑色と茶色を混ぜたような液体がぶくぶくと泡を立てていた。
その様相はまさに、『死の沼地』と言えるだろう。
「おい、あそこにいるのはレイドじゃないか!?」
エドスの指差した先で、黒の騎士と赤の騎士が戦っている。
ともに剣を交わらせ、火花を散らしているのが見えた。
「ラムダとレイドね・・・」
ナツミがつぶやいた通り、黒はレイドで赤はラムダ。
互いに話をしながら、剣を交えている。遠すぎて、会話の内容を聞き取ることはできないが。
「やめさせるんだ! 今、2人が殺しあう必要なんて・・・」
「ない、と思っているのですか?」
「え?」
トウヤの声に割って入ったのは、アキュートのペルゴだった。
険しい表情で、すでに槍を装備して臨戦体勢だ。
「余計な手出しは無用よ」
彼の背後・・・セシルもペルゴ同様、険しい表情をして立っていた。
「あれが、彼らの導き出した決着の方法。彼らの望むものは対極。争いは避けられません。だからこそ、あの2人は決闘という形で決着をつけることにしたのですよ」
なぜ、決闘という形をとったのか。
それは、フラットのためだった。
余計な犠牲を出したくない、という望みどおりに。
2人はどうなる? なんて聞けるはずもない。
今、決闘という名の殺し合いをしているのだから。
「間違ってる・・・そんなの、間違ってます!!」
叫んだのはアヤだった。
今、ここで殺しあう必要はない。
フラットもアキュートも、願っていることは同じなのだから。
「戦う必要なんて、ありません・・・今必要なのは、力を合わせて願いをかなえることではないのですか!?」
どちらの願いも、同じ。
ただ、考え方の違いからそれをなすための行動が対極になってしまっただけなのだ。
「アヤの言うとおりだ・・・俺は・・・俺たちは、2人の戦いを止めてみせる!!」
アヤに同調するように、ハヤトは叫んだ。
争いのない平和な世界から召喚されてきたから、そんな考えしか思いつかない。
この世界では甘ったれた考えかもしれない。
能天気な人間が考えた、ただの幻想かもしれない。
それでも。
「こんな決着なんて、絶対に認めるもんか!!」
敵意とは違う、確固たる意思を乗せ、ハヤトは立ちはだかっている2人に告げた。
それは、ハヤトだけではない。
最初に声を荒げたアヤも、「2人を止めよう」と先陣を切ろうとしたトウヤも、2人の姿を最初に確認したナツミも。
そして、ハヤトの声にうなずいたフラットのメンバーも。
全員がペルゴとセシルに視線をぶつけ、「2人を止める」と目で語っているようだった。
「・・・やむを得ません」
「結局、こういった形になってしまうのね・・・」
険しい視線を声をあげたハヤトに向ける。
「そこを、どけえぇぇっ!!」
「あ・・・れ・・・?」
何か、違う。
やっていることはいつもと同じなのに、どこか違う。
柄を握っている感じ、鞘から漏れ出す淡い光。
そして、吹き荒れる風。
(そんなこと考えてる場合じゃない。今は・・・)
ふるふると首を振って、視線を目の前の『敵』に向ける。
(全員を・・・無効化するだけだ!)
・・・なんとなく、わかる。
今の居合の技とは違う、何かが。
その全貌も、使い方も。
「・・・っ!」
・・・これなら。
バノッサに向けていた視線を細め、睨みに変えると。
「はぁ・・・っ」
抜刀。
その瞬間、風が彼を中心に竜巻を起こす。
スラムに蔓延する塵が吹き荒れ、崩れた建物を巻き込んで吹き飛ばす。
『うあっ・・・ああぁぁぁ〜……!?』
今まで無事だったごろつきたちをも飲み込み、そのことごとくを空へ。
あるものは建物に叩きつけられ、あるものは宙を舞う。
風が止んだときには、ごろつきたちは例外なく意識を失っていた。
「な、なんだと・・・てめぇ」
「よう、バノッサ。あとはお前だけだ」
抜き身の刃をバノッサに向けて、は告げる。
彼は目を大きく丸めていたのだが、ひとすじの汗を流しながらも怒りを露に唇を噛む。
「よくも・・・」
「よくも、なんだ? 『俺の子分を』とでもいうつもりか?」
彼は、必死で戦っていたごろつきたちを見ていたのだ。
自分が動かず、何もせず。
その場にたたずみ、仲間がやられていくさまを見ていたのである。
「・・・お前は、俺の大嫌いな人種だ」
居場所は誰かに与えてもらうものじゃない。
自分で創り出すもの。
それ以前に、仲間を道具のように扱うことが許せない。
「居場所がなくて力を欲してる。それだけだと思っていたのに・・・」
もう、やるだけムダだ。
そう告げて、刀を鞘に納めていた。
「なに言ってやがる!? 俺様は、てめぇを・・・」
「お前じゃ俺だけならおろか、フラットのみんなだって殺せない・・・誰一人な」
「なんだと・・・」
は周囲で気絶しているごろつきたちを見やり、再びバノッサに視線を向ける。
ごろつきたちを倒したのはだが、そう仕向けたのはバノッサだ。
だけがけして悪いわけじゃない。
彼は、正当防衛として戦っただけなのだから。
「お前はこのごろつきたちがやられていくのを見て、何を思った・・・何を感じた?」
「なにって、そんなこと決まって・・・」
「悲しいのか? 怒っているのか? そりゃウソだな」
「っ・・・!?」
彼は、頭では思っていなくても人間を道具として扱っている。
無意識上のこととはいえ、それでもには許せない。
「役立たずだ、とか考えているんだろ?」
「なっ・・・!?」
絶句するバノッサをそのままに、は背を向ける。
こんなところで時間をかけてはいられない。
今も、仲間たちが必死になって戦っているかもしれないのだから。
「違うと証明したいなら・・・どんな手を使ってでも俺を殺してみろ。・・・ま、無理だろうけど」
スタスタと歩き出す。
こんなところにいても、もう意味はない。
「早くみんなと合流しないと・・・」
小さくそうつぶやいて、は北スラムを後にしたのだった。
「くそ・・・」
この俺が・・・ヤツらを殺せない・・・?
子分たちをやられて、悲しくないだと・・・?
「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソォ―――――ッ!!!」
膝立ちになり、ガツン、ガツンと、灰色の地面に拳を叩きつける。
全部、つぶされた。
プライドも、今持てるだけの力も、全部。
「俺にフラットの連中が殺せないだと・・・? 子分たちを役立たずだと思っているだと・・・!?」
周囲に疎まれ、蔑まれてきた自分を慕ってくれた彼ら。
今は気を失っているが、今まで役立たずなどと思ったことは一度だってありはしない。
それなのに。
それなのに、あの野郎は・・・!
「・・・っ!!」
何度も殴りつけて血だらけの拳を振り下ろし、顔を上げる。
「俺はバノッサだ! どんな野郎でも、絶対に負けねェ! ・・・負けちゃいけねェんだ!!」
が姿を消した先をにらみつけ、
「俺は・・・っ、絶対に・・・負けねェ!!!!」
第47話。
オリジナルエピソード終了です。
とりあえず、全国のバノッサファンの皆様、本当に申し訳ありませんでした。
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