「さて。とりあえず北スラムまで来たけど・・・僕たちの話、聞いてくれそうな人っているかな」
「どうかしらねえ・・・正直、誰も聞かずに攻撃してきそうな気がするんだけど・・・」

 トウヤの考えもあながち間違いではない。
 北スラムの住人はそのほとんどがバノッサを筆頭としたオプテュスに所属している。
 だから、自分たちの顔など全員が知られてしまっているのだ。
 ばったり出会えば、眉間にしわを寄せて斬りかかってくるに違いない。

「たぶん、一番話せるのはバノッサだろうなぁ」

 はスラムを見回して、人が誰もいないことを確認する。
 建物の壁は崩れ、地面は荒れ果てているが、南スラムよりも殺伐とした雰囲気があった。

「とりあえず、話せそうな人を・・・」

 トウヤがつぶやいた、その直後のことだった。

「よぉ、はぐれ野郎。血相変えてどうした?」
「バノッサ・・・」

 3人の視線の先にいつの間にやら、バノッサが笑みを浮かべて立っていた。

「てめぇら、ひょっとしてあの騎士崩れを探してるんじゃねェのか?」
「アンタ・・・レイドを見たの!?」

 彼曰く、アキュートの連中と一緒だったのを見かけて、後をつけさせたのだとか。
 ラッキーなのか、アンラッキーなのかはいまいち分からないが、大事な情報だ。
 上手く話を誘導して・・・

「ククククッ・・・どうしてもって言うなら、居場所を教えてやってもいいぜ?」
「!?」

 信じられない。
 あのバノッサが、自分からフラットに協力しようなどとは。
 なにか、裏があるんじゃなかろうか。
 そんな考えが頭をよぎるが、真意は彼にしかわからない。

「頼む、教えてくれ!」

 トウヤが頭を下げてバノッサに頼み込んでいる。

「『どうか教えてください、バノッサ様』だろぉ? それに、そっちのてめぇらも俺様に教えを乞えよ」

 そうしなきゃ、教えてやんねぇぜ?

 くくくく、と嬉しそうに笑い声を上げる。
 ぎり、と歯を噛むが、仲間の一大事だ。
 だから、

『お、教えてください・・・バノッサ、さま・・・』

 歯切れが悪いが、それでも。
 もカシスも頭をそろえて、バノッサに頭を下げていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第46話  己が居場所は





「ひゃひゃひゃひゃ! いいぜ、教えてやるよ」

 3人の対応に満足したのか、上機嫌だ。

「野郎の行った先はな、死の沼地さ」

 死の沼地。
 荒野の果てにある、燃える毒水の沼。
 道具などの無機物はおろか、人間の死体でさえ沼に沈めるだけで勝手に腐って溶け落ちる。

「ククッ、今ごろはどうなっているかねェ?」
「・・・くそっ!」

 眉間にしわを寄せ、怒りを露にするトウヤだが。
 が両肩に手を置いて、なんとか落ち着かせることができていた。
 カシスもバノッサをにらみつけてはいるものの、彼はまったく動じない。

「・・・行こう、トウヤ、カシス」
「ああ・・・」
「うん・・・」

 バノッサに背を向けて、北スラムを出ようとしたのだけど。

「おい、てめぇ」
『?』

 バノッサが誰かを呼び止めていた。
 振り向けば、彼の視線はトウヤでもなく、カシスでもなく。
 に伸びている。

「・・・なんだよ」
「てめぇは残りな。・・・なに、時間はとらせねぇよ」

 なんだろう。
 彼のことだから、からすれば損にしかならないことなのだろうが、場所を教えてもらった手前、無下にするわけにもいかないだろう。
 2人に目配せして、先に行っているようにと告げる。
 トウヤは心配そうな表情をしていたが、すぐに引き締めると。

「カシス、行くよ」
「えっ!? はいいの!?」
なら大丈夫だ。だから、僕たちで一刻も早くみんなに知らせるんだ!」

 声をあげ、2人は北スラムを出て行ったのだった。







「・・・で、俺になにか用事か?」
「あぁ。なに、時間は取らせねェよ。なにせ・・・」

 ぱちん、と指を鳴らすと、どこに潜んでいたのか周囲からゴロツキたちが現れた。

「てめぇはここで死ぬんだからなァ!!」

 少し座り気味の視線で周囲を見回すと、その数はざっと100人近くいるだろうか。
 全員がナイフや剣を持っていて、自信ありげに笑っていた。

「てめぇが悪いんだ・・・てめぇさえいなければ、俺様ははぐれ野郎どもから召喚術を奪えるんだ!!」
「・・・・・・」

 バノッサ自信も剣を抜き放ち、を射殺さんとばかりににらみつける。

「ここでてめェをブッ殺して、次はフラットのヤツら。最後にはぐれ野郎どもを殺し尽くして、俺様は召喚術を・・・この世界で最も強い力を手に入れるのさ!!」

 彼の言うはぐれ野郎ども、というのは、ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤのことだろう。
 フラットでも、誓約の儀式ができるのはあの4人と、あとはキール、ソル、カシス、クラレットの正式な召喚師組だけだから。

「召喚術が使えないからって・・・」
「あ?」

 は地面に視線を向け、絞るように言葉を紡ぐ。
 召喚術が使えなくたって、この世界では十分に生きていける。
 この街の人も、バノッサも、も。
 召喚術がなくても立派に生きているではないか。
 それなのに、この男は。

「召喚術が使えないからなんだっていうんだ!!」

 怒りを露にし、バノッサに言葉を叩きつける。

 力がないからなんだ。
 召喚術が使えないからなんだ。

「自分たちの居場所が欲しいんだろう!? 召喚術がないと、居場所すらろくに手に入れられないのか、お前たちは?」
「そうさ。居場所もなくて、まっとうなことをしようとしても相手にされねェ! だったら力で排除するしかねェだろうが!!」

 バノッサの言は正論だった。
 居場所がなくて、路頭に迷っている存在はどの世界でも敬遠されがち。
 いくら努力しても、相手にされないのは人間の心理だ。

 それでも、には許せない。
 他人の力を利用して、地位を得ようなどと。
 自分には居場所がある。でも、それは彼自身が努力した結果だ。
 街でダメなら、違う場所で・・・自分たちで居場所を作ればいい。

「・・・だから、止まってるんだな」

 昔、同じことを言ったことがある。
 あの時は、自分が彼女の居場所・・・唯一の心の拠り所を無くしてしまった。
 でも。

「ここで止まっていたら、進めない!」

 彼女は努力した。
 自分の言葉を受けて、自分で動いて。
 今では居場所を手に入れているだろう。

「自分の居場所は・・・人に与えてもらうものじゃない」

 頼んでダメなら、奪え。
 間違いではないが、正しくもない。
 自分が満たされるために、誰かを犠牲にするのだから。

「自分自身で・・・創り出すものなんだ!!」

 口で言ってもムダだ。
 だったら、と刀を抜き放つ。

「来いよ。お前ら全員、俺1人で相手してやる」
「なんだと・・・」

 クルクルと刀をその場で回転させ、地面に突き刺す。
 右手を柄の先に置くと、

「自分から居場所を作った俺と、人から与えてもらおうとしたお前たち・・・その違いを見せてやる」
「ケッ・・・上等だ!!」

 行くぞ、野郎ども!!

 バノッサの声に、幾人もの人間の雄たけびが響き渡った。

 ・・・時間がない。今この間も、きっとみんなは戦ってる。
 それに、時間をかけずに終わらせた方が、『違い』というものを理解できるだろう。
 だから。

「・・・行くぞ、絶風」

 地面から引き抜き、右手で柄を握り締める。
 体内を流れる気を練りこみ、刀ではなく身体全体に流し込むイメージ。
 居合斬りは使わない。使えば無力化は可能だが、ヘタをしたら殺してしまうかもしれない。
 身体への負担は大きいが、自らが動く。
 場所的にも人数的にも精神的にも、その方が得策のはずだ。

 周囲を見回して、敵の居場所を確認。
 まぁ、確認の必要なんかないほどに敵は大量にいるのだが。

「俺とお前たちの『違い』を・・・身をもって知れ・・・」

 は腰をかがめ、地を大きく踏み出したのだった。






第46話。
オリジナルエピソード投下。
無理ありすぎです。っつか、長くなりすぎた2章を終わらせたいがためにわざわざ追加しました。
きっと、すぐに終わります。


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