「用事があるのはな。あのレイドって野郎だ」
買い物帰り。
リプレの荷物もちを買って出ていたハヤトだったが、スタウトの突然の出現に、表情を引き締めていた。
彼は自称『臆病者』で、敵側であるフラットに入る度胸がないとのことらしいが、そのあたりは良く分からない。
「悪いがよ、呼んできてくれねえか?」
「・・・・・・」
数秒の沈黙。
どこか観察するような視線でスタウトを見やると、
「そこで待っててくれ。今、呼んでくるから」
表情を変えずそう告げて、リプレを促してフラットへ入ったのだった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第44話 彼の用事
「しかし、レイドはあの男と何を話しとるんかな」
立場上『敵』の人間がこうしてわざわざこちらにやってきた理由。
それは、レイドに話があるからというものだったのだが、『敵』である彼がレイドになんの話があるのだろうか?
居間に集まっている全員の疑問だった。
「まぁ、普通に考えればラムダになにか頼まれたと考えた方がいいかもしれないな」
はリプレに淹れてもらったコーヒーを片手に、つぶやくように口にするが。
あまり興味がないようにも見えた。
「あ、どうやら終わったみたいだぜ?」
レイドの部屋から出てきたスタウトは「邪魔したな」と告げて出て行ってしまい、後から出てきたレイドは少し険しい表情をしていた。
ふるふると首を左右に振ると、
「ラムダ先輩が会いたがってるらしい。これから行ってくるよ」
険しい顔は消えていて、居間に入るなり軽く笑みを見せるとフラットを出て行こうとしていた。
「おいおい、まさか1人で行くつもりじゃないだろうな?」
「・・・そのつもりだよ」
・・・無謀だ。
いくら自分の先輩でも、つい先日剣を合わせて戦ったばかりなのだ。
何があるか、わかったもんじゃない。
「心配しなくても、あの人はそんな卑怯なことはしないよ」
「それは、そうかもしれませんけど・・・」
心配だった。
1人の仲間としての直感がそう告げている。
全員の思いは同じだった。
「だったら、誰かを連れて行けばいいんじゃないのか?」
ずずず、とコーヒーを口に入れて、は告げる。
閉じていた目を開き軽くスタウトを見やるが、彼は少し顔を引きつらせると、
「そうだなぁ。そんなに心配だってんなら、誰か一緒に来てもかまわねえぞ」
別にあからさまに脅迫していたわけじゃないのだけど。
けして、1人のところを襲うようなことはしないと信じているのだろう。
スタウトは特に考える時間もなくそう口にしていた。
「どーすんだよ?」
最初に口を出したのはガゼルだった。
俺が行ってもいいんだぜ、といった表情で、彼はそう口にしたのだが。
「アンタじゃダメよ。またあの女の人の服破きかねないし」
「ぐっ・・・あ、あれはっ」
ナツミはガゼルを見つつムフフと笑う。
あの光景は、戦闘をしていた人間ならほぼ全員が見ているだろう。
唯一見ていなかったのは、鉄道や客車の中で戦っていた数人。
彼女は外で兵士たちの掃討をし、レイドを助けるために鉄道に向かって走っていたところだったので、思いっきり目にしていたのだ。
ガゼルがセシルの服を真正面から破いた瞬間を。
「とすると、お前さんたちの中から1人行くか?」
「おい、俺のフォローはなしかよ」
ガゼルの声をあっさり無視して、エドスは告げる。
「お〜い、早いとこ決めてくんねえか?」
こっちは急いでんだ、とスタウトは呆れたように口にするが、そんなものはお構いなし。
「ナツミはダメだよ。すぐに暴走しそうだから」
「な、なによそれー!?」
「まあまあ、落ち着いてくださいな」
「俺は?」
「君もナツミと同じだよ、ハヤト」
「・・・・・・」
いつまでたっても、決まる気配がない。
すでに、いつの間にやら10分ほど経過していた。
「ったく、いつになったら決まるのかねえ」
「悪いな。あんな人ばっかりで」
めんどくさそうに頭を掻くスタウトの隣で、はそんな言葉を口にした。
苦笑を向けるを見て、
「決めた。お前さん、悪いが一緒に来てくれ。もう待てねえからよ」
こっちは人を待たせてるんだから、と。
スタウトはに顔を向けてそう告げた。
目を丸めたはレイドを見やると、彼は苦笑を見せつつ、
「そうだな。じゃあ、悪いけど一緒に来てくれるかい?」
というわけで、はレイドとスタウトに同行することになったのだった。
ちなみに。
「よし、じゃあアヤが行くということで・・・決まったよ」
振り向くとそこにレイドとスタウトの姿はなく。
「あの2人なら、『もう待てない』ってを連れて出て行っちゃったわよ?」
リプレのセリフを聞くや否やぽかんと口を開けたまましばらく静止していたのだった。
スタウトが2人を連れてフラットを出てから、すでに30分が経過していたのは、余談である。
「さあ、ここが俺たちの隠れ家だ」
連れてこられたのは、繁華街のとある酒場だった。
掲げられた看板も別段派手でもなく、地下へ続く階段がただ伸びているだけ。
とてもアキュートの隠れ家には見えないのだけど。
「表向きは酒場になってるのか・・・」
「おう、そのとおり。察しがいいねえ」
なんて、そんな会話をしつつ中へと足を踏み入れたのだった。
階段を下りて、視界が開けると。
「おかえりなさい、スタウト」
「おう」
先日ジンガと戦っていた、ペルゴがカウンターから口にした。
中も外と同様に派手さはなく、木造のイスやテーブルがいくつも並び、地下であるせいでかなり暗いはずの店内をテラス明かりも、ろうそくが何本か並べて置けるような燭台のようなもののようで。
それでも中はかなり明るく、ほんわかした雰囲気が流れていた。
「そっちの坊やは?」
「う〜ん、こちらさんの保護者みたいなもんだ」
「 だ。よろしく」
坊やなんて呼ばれたのは初めてだった。
保護者というのもなんだかおかしな気がするが・・・まぁ気にしないでおこう。
とりあえず、名前だけの自己紹介を口にし、軽く一礼。
「ラムダは?」
入ってすぐにそう口にしていたレイドは、セシルに連れられて奥へと消えていった。
いざこざがあって大きな音がすれば、この酒場からでも聞こえるだろう。
そんな考えから、
「ここ、座っても?」
「ええ、かまいませんよ」
ペルゴに許可をもらって、刀を机の脇に立てかけつつ腰を下ろしたのだった。
「せっかく酒場に来たのですし、何か飲まれてはいかがです?」
「あーそうだな・・・」
「おし。酒くれ、酒!」
どっかりとと同席したスタウトは、遠慮も何もなく「酒よこせ」と口にしていた。
ペルゴは何も言わず、ふうとただ息を吐くと、酒の入ったビンを投げよこす。
ビンにはしっかりと蓋がされていて、宙を舞っている間も中の酒がこぼれることはない。
ぱし、と乾いた音を立ててスタウトの手にビンが納まると、
「おう、お前さんも飲め!」
なんて言われて、どこからか持ってきていたコップを突き出されていた。
第44話。
ゲーム中の11話に入りました。
きっちり数えていませんでしたが、前回の『迷走列車』で10話だったようです。
主人公、酒飲まされます。
きっと、スタウトに勝利することでしょう。
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