「ラムダさまっ!!」

 駆け寄るセシルの肩を借り、よろりと立ち上がる。
 セシルの服装は、いつのまにか新品のそれになっていたのが不思議だけど。

「っ・・・やってくれたな、レイド」

 仲間の手を借りたとはいえ、現在の状態はアキュートの企みを阻止したと言うことになる。

「・・・ラムダ、貴方の方法では人々は救えない」

 そして、戦闘前にも言った言葉を、

「犠牲を払うことで得られる平和には、なんの価値もないんだ!!」

 告げた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第43話  我を貫く





「ならば、お前はどうしろと言うのだ」

 自分が、自分なりに考えた答え。
 ラムダも街の人々を案じて、このようなことをしていたのだ。
 元騎士としては、苦渋の選択とも言えるだろう。
 だが、彼にはこれ以外に方法がわからない。誰かの犠牲の上に成り立つ平和しか、彼のビジョンには見えてこないのだ。

「犠牲を作ることなしに街の人々を救うことができるのなら、それを俺に示してみろ!?」

 この問いに、明確な答えはない。
 だからこそ今みたいに考えが拮抗し、互いに剣をあわせていたのだから。
 レイドはこの問いに答えることができず、無言を示していた。

「俺も昔は、お前と同じだった」

 理想を有する者が力を合わせたなら、実現できないわけがない。
 不可能はない。
 そう信じていた、と彼は口にしていた。

「だがな、理想を現実にするためには、絶対に何かが犠牲になるのだ」

 街の人々を扇動したり、今回のように国の要人の暗殺を目論んだり。
 なにか1つのことを成し遂げるためには、誰かの犠牲が不可欠なのだと。
 彼は先刻とは違った言葉を口にしていた。
 その言葉は、あまりに対極すぎるけど・・・間違いではない。
 レイドも、その部分はしっかりと理解していた。

「たしかに、そうなのかもしれない・・・でも、それでも私は目の前で誰かが犠牲になるのを黙って見てはいられないのです!!」

 それは、自分のエゴ。
 自分の考えを勝手に決め付けただけに過ぎない。
 でも、それが彼なのだから。

「・・・どう話をしたところで、無意味なようだな」

 ラムダはあっさりとあきらめの言葉を口にしていた。
 彼は、レイドという男は。
 真の意味で、街の繁栄を願っている人間だったのだから。

「レイドよ。いずれ改めて、お前とは決着をつけよう」

 そう告げて、ラムダは街へと戻っていったのだった。
 もちろん、仲間たちを全員連れて。



























「ふう・・・」

 一行は、フラットへと帰還していた。
 召喚鉄道はそのままだ。
 あんなもの、自分たちでどう処理すればいいかなどわかるわけはないのだから。

 今日も今日とて、一日が濃すぎる。
 ってか、毎日戦っていないか?

 そんなことを考えながら、は刀を鞘から抜いて眺めていた。

 『絶風』

 それが、この刀の名前。
 大きな力を秘めている、なんてウィゼルは言っていたけれど、それがなんなのか、いまいちよく分からない。
 彼は性格上、嘘をつく人間ではないだろうし、万一嘘だとしてもそうする意味がまったくない。
 信じることのできる話なのだけども。

「・・・・・・」

 軽く宙で振ってみる。
 屋根の上にいるので、刀を振ったところで問題はない。
 あるとしたら、屋根が抜けないか位なのだけど。
 白い光が残像となって、夜の空に良く映える。

 この光は、自分が持ったときだけ起こるのだ。
 以前、他の人間に持たせたときにはただ白い刀ってだけだったのに。
 まったく、謎が多すぎる。

「まぁ、使いやすいからいいか」

 なんて、そんなことを口にしていた。












「?」

 ブオン、ブオンと。
 何かが空を切るような音が聞こえ、庭を覗くと。

「っ! っ! ・・・」

 レイドが一心不乱に剣を振るっていた。
 表情は険しく、汗が滝のように流れている。
 いつも着ている甲冑は、今は着ていない。
 そして、最も目を引いたのは、柄にこびりつく血液だった。

「っ! っ! ・・・ふう・・・」
「手、使い物にならなくなりますよ?」

 そう言いつつ、屋根から飛び降りる。
 彼は突然の出来事に目を丸めていたが、苦笑して「そうか」とつぶやいただけだった。
 大剣を地面に刺して、両の手を眺めると、ばつが悪そうな顔をする。
 ・・・自分の手の状態に気づかなかったらしい。

「私は・・・間違っているのかな」
「え?」
「私は今日、ラムダに自分の考えを伝えたよ」

 それは、「誰かを犠牲にしたところで得られる平穏に、なんの価値もない」というもの。
 何度も何度も悩み、自分自身の答えとして彼にぶつけたのだけど。

「もう逃げないと、誓った。でも、それで不安が消えることはない」

 見てくれ、と自分の手をに見せると。
 真っ赤な手の平が、カタカタと弱々しくも震えていた。

「こうして剣を振ってでもいないと、不安を振り払えないんだよ」

 彼は今回の出来事の当事者だから、無理もない。
 自分の考えが推し通るなんて考えてもいなかったのだけど、昼間のように表情を変えることなく遠まわしに拒否されると、正直辛いものがある。

「・・・昔、どんな逆境に身をおいてもあきらめず、最後まで自分の考えを貫きとおして戦った人がいました」

 それは、今と同じ状況だった。
 本当は戦いたくない。ただ、平和に暮らしていきたいだけなのに、戦わざるを得なかった、あの時。
 信じてくれたみんなを犠牲にしないために仲良くしていた友人をも敵に回し、最後まで我を貫き通した人たちがいるのだ。

「あの人たちは友人が敵になっても、自分の心が壊れても、それでも自分の考えを最後まで貫き通しました」
「・・・・・・」
「そんな人たちを見て、ついていった仲間は多いです」

 だから、きっと。
 レイドも自分の考えを貫き通すことができる。
 貫き、あきらめることなく相手に自分の意志を伝えれば、いつかきっと相手もわかってくれるから。

「もっと、自分を信じてやってください」

 そう告げていた。
 すべては、彼の経験に基づいたもの。
 それだけ、は色々な出来事に首を突っ込んできたのだから。





























 ・・・・・・





































 巻き込まれ体質万歳。



























第43話。
レイドとの夜会話投下です。
最後の方、誰のこととか分かっていただけたら嬉しいですね。
分かりづらい上に、なんとなく意味が違っちゃってるような気がしないでもないですが。


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