「そいつを殺したところで、街が元の姿に戻るわけじゃないことくらい・・・貴方にはわかっているはずだ!」

 レイドは大剣を携えたラムダに向けて、声を張り上げていた。
 もはや、その声に迷いはない。

「確かに、イムラン・マーンを暗殺したところで・・・街は更なる混乱に陥るかもしれん・・・だが、少しの犠牲で街は変わるのだ。召喚師が来る前のサイジェントにな」

 ・・・間違っている。
 街の歴史に比べれば召喚師が牛耳り始めた時間など些細なことだが、今の生活が染み付いてしまった街の人間からすれば、混乱の種にしかならない。

 なぜ、街は変わると言い切れる?
 なぜ、戻れると言える?

 レイドはそうは思っていない。

 万一、この暗殺が成功して人々が混乱して。
 それを首尾よく鎮めて平穏を得ることができても、それは仮初めの平穏でしかないと言うのに。
 彼はその仮初めの平穏のために、自らを犠牲にしているのだから。

「何かを犠牲にして得られる幸福なんて、なんの価値もない!!」

 自分が迫り来る重圧に耐え切れず、逃げたことを責められても、反論することなどできはしない。
 でも、もう逃げないと決めた。
 たとえ相手が自分の尊敬していた先輩だろうと、それは変わらない。

「だから、貴方が・・・先頭にたって犠牲になることなど、ないんだっ!!」

 自らの思いを、たどり着いた自分の答えを。
 レイドは声高らかに、ラムダに告げたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第42話  もう逃げない





 互いの刃を弾き、距離を取る。
 機関部は狭いのでたいした距離を取ることはできないが、その距離が、互いに侵すことのない絶対の間合いとなっていた。

「昔、俺は言ったな。『領主の目を覚ましてくれ』と」
「・・・・・・」

 剣を構えたレイドは、無言のまま答えを返さない。
 否、返すつもりなどないのだ。
 自分の意志を、彼に伝えるために。

「しかし、お前は逃げた・・・それはなぜだ、レイド?」

 それは、重圧に耐えることができなかったから。
 日ごとに強まる召喚師の力。
 騎士団の中で唯一、召喚師たちに反発していたラムダの不在。そして、彼を追放させてしまった自分への罪悪感。
 答えを口にすることなどたやすいこと。
 でも。

「今まで、私は逃げていた。でも、これからはもう逃げない。自分の意志を貴方に伝えるためにここに来たんだから!」
「・・・・・・そうか」

 あくまで、邪魔をするつもりか。

 ラムダの視線が、鋭さを増す。
 かつて『断頭台』とまで呼ばれた彼を、本気にさせたのだ。

「では・・・それを証明して見せろ、レイド。お前を突き動かす強い意志を、俺に示してみろっ!!」

 ラムダは、剣を構えて地面を蹴りだしたのだった。













 剣戟が、レイドを襲う。
 渾身の力を込めた一撃だ。
 その威力は、岩をも砕くだろう。
 しかし、レイドはそれを受け止めるために両手で自らの剣を支える。
 ここで躱してしまえば、それは彼の言う『証明』にはならないから。

 ガギィンッ!!!!

 甲高い金属音と共に、レイドの両足が数ミリ地面に埋まる。
 それだけに、重たいのだ。彼の一撃は。

「っ・・・はああぁぁぁっ!!」

 両手に強い衝撃を感じながらも、レイドは受け止めた剣を弾き返す。
 刃が離れて、痺れを残しているがそれを気にする余裕はない。
 相手は『断頭台』ラムダなのだから。

 地面を蹴る。
 残る痺れの中に柄の感触を強く感じながら、レイドは剣を振り構える。
 右側に剣を構え、左足を前に踏み出す。
 ラムダの目の前で、その剣を思い切り振るう。
 その剣速は、今自分の持てる最速だった。

「っ!?」

 予想以上に速い剣速に、ラムダは目を丸める。
 以前、騎士団にいたときに訓練として戦ったときには、自分にまったく歯が立たなかったレイドが。
 自分と対等以上に戦っているのだから。

「私は・・・逃げないっ!!」

 再び、その言葉を口にする。
 自分の意志を、伝えるために。



 レイドはその場ですばやく回転すると、剣を左から薙ぐ。
 剣速は先ほどと同じ。
 確固たる強い意志の中に秘められた強い眼光が、ラムダを射抜いた。
 繰り出された剣を再び受け止め、弾く。

「おおおぉぉぉっ!!!」
「はああぁぁぁっ!!!」

 1合、2合、3合。
 衝突する刃は火花を上げ、双方の顔を照らし出す。
 今は昼間だというのに、それだけ強くその火花は光を帯びているのだ。

 10合、13合、20合。
 振るわれる剣速が上がり、瞬く間に刃のぶつかる回数が増えていく。
 その速度は、とても大剣を使っているようには思えない。
 なにか、木の棒でも振っているんじゃなかろうかと思うくらいに、その速度は上がりつづけていた。

 まったくの互角。
 振り下ろされたラムダの剣を、レイドは下から剣を振り上げて相殺。
 左から繰り出されれば、右から応戦。
 お互いに騎士団仕込みの剣技だが、2人はすでにそれを超越しつつあった。

 刃の衝突数は、100を超えた。





「っ!!」

 レイドは内心で悪態をついていた。
 ラムダに、まったく剣が当たる気配がないのだから。
 向こうも汗を流してはいるが、レイドの剣を紙一重で躱し、受け止める。
 自分もギリギリまで見極めて行動をしているが、それもすでに限界に近い。
 彼はあくまでも『断頭台』ということか。

「くそ・・・っ!?」

 その悪態を口にした瞬間。
 レイドの足は安定を崩して、片膝をついてしまっていた。

「っ!」

 好機とばかりに、ラムダは剣を振り下ろす。
 バランスを崩していたレイドに、それを回避する手立てはない。

(・・・ここまでかっ!?)

 内心でつぶやき、ぎりと歯を立てる。
 振り下ろされる刃をその目に映し、その後の未来を案じてしまう。
 しかし。

「レイドさんっ!!」

 ラムダの剣は、2人の介入者によって阻まれ、その速度を失っていた。
 身の丈ほどもある大剣と少し細めの長剣がクロスされ、レイドの顔に影を作る。

「ハヤト、トウヤ・・・」
「っ・・・大丈夫ですか?」
「遅くなってゴメン! まわりの連中を片付けるのに手間取っちまった!」

 に稽古、つけて貰えばよかったよ!!

 なんて愚痴りながら、トウヤの長剣の上からラムダの剣を直で受け止めていた自らの大剣に力を込める。

「あああぁぁぁぁっ!」
「なにっ!?」

 内から湧き出る魔力を、剣に乗せる。
 サプレスの召喚術を行使するのに適した魔力は、剣を紫色に染めて、ラムダを吹き飛ばしていた。


「追い討ち! 行っくわよぉっ!!」

 緑のサモナイト石を掲げ、ナツミは声をあげる。

 誓約の儀式。
 今まで潜り抜けてきた戦闘によって、彼女の実力が底上げされていて。

「主たるナツミが、ここに命じる! ・・・出でよ!!」

 誓約され具現した召喚獣は・・・一言で言えば竜だった。
 両の腕を翼とし、その巨大な身体を宙に浮かせている。
 ナツミはラムダを、ぴっ、と指差して、

「やっちゃえぇーっ!!」

 声をあげる。
 その声を聞いて、竜はばかり、と口を開いた。
 朱色の光が収束し、肥大していく。
 そして、収束が収まったその瞬間。

 その口から同色の炎球が数個、吐き出された。
 炎球は一直線にラムダに向かい、彼の身体を包む。

「ぐあぁっ!?」

 その衝撃に、ラムダは思わず声をあげていた。




「レイドさん、大丈夫ですか?」
「アヤ・・・」
「ええ。どうぞ、私の肩につかまってください」

 レイドに肩を貸したアヤは、レイドを立たせる。
 元々バランスを崩して膝をついていただけなので、立ち上がれれば普通に歩いたりはできるのだけど。

「・・・ありがとう」

 レイドは、彼女に礼を述べていた。

 周囲を見回す。
 ラムダたちと行動を共にしていたアキュートの兵士たちはフラットのみんなが、客車上ではジンガがペルゴを、客車の脇でがスタウトをそれぞれ撃破しているのが見えた。
 ガゼルが頬を真っ赤にして大きな岩を背に座り込んでいるが、気絶自体はしていないようだ。
 きっと、心配そうにラムダに駆け寄るセシルになにかしでかしたのだろう。彼女の服が無残な状態になっているのがその証拠だ。
 立場上では一応敵になるので、彼はセシルに負けたということになるのだが、とりあえずそこには触れないようにしよう。

 まだ戦っている仲間たちがいるが、すでに終局に近い。



 自分たちの勝利を、確信した瞬間だった。






第42話でした。
アキュート主要メンバーとの個別対戦その4
レイドvsラムダ
をお送りしました。
なんとなく、ラムダが超人っぽく見えませんが、すいません。
私の文章力不足ですね。


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