「兄ちゃん。俺もな、あんまりヒマじゃねえんだよ。だから、速攻で片付けてやるぜ!!」

 スタウトはそう口にすると、走り出した。
 両の手には短剣が一振りずつ。
 ある意味、双剣と言っても間違いではないだろう。
 しかもここは狭い客車内。
 おいそれと刀を振るうことすらできない状態だった。

「俺は、別に貴方に勝つつもりなんてないけど・・・時間稼ぎはしておきたいので」

 徐々に近づいてくるスタウトを目で追いながら、は口にした。
 ・・・刀は抜かない。
 ここが広い場所なら何とかなるのだが、あいにくと客が座るためのイスが陳列されている。
 普通より長い刀だからこそ、余計に無理というものだった。
 斬ろうと思えば斬れないことはないのだろうが、それでも狭いことには変わりない。

「・・・参ったな」

 バックステップし、振るわれた短剣を躱しながら、そんなことをつぶやいた。
 相手はより身体が大きいにも関わらず、狭い車内を縦横無尽に駆け回っている。
 もとより、退路が自分の後方しかないため、あっという間に追い詰められてしまっていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第41話  ちょっとしたお茶目





 次の車両へと続く扉を背にする。
 すでに退路はない。
 次で詰みだろうか、とそんなことを考えるが、詰ませるわけにはいかない。

 ちらと車窓を見て、その先でガゼルが戦っているのが見える。

「おっとぉ、余所見はダメだぜ!!」

 スタウトは、そんなを見逃さない。
 短剣を振りきろうと、腕に力を込めたのだが。

「・・・・・」
「なんだと?」

 は、目を閉じていた。

 あきらめたのか、なにか企みがあるのか。
 あるとしたら、後者だと。
 スタウトの直感がそう告げていた。

 の身体は柳のように揺らめき、スタウトが短剣を振りぬいた瞬間。

「っ!?」

 彼の身体はスタウトの視界から消えていた。
 スタウトは振り向き、背後にの姿を捉える。
 彼はしゃがみこみ、扉を蹴ってスタウトの背後へ水泳で壁を蹴り出す要領で、すべるように移動していたのだ。
 おかげで、服は埃で真っ黒だが。


 そして、はなにか思いついたかのように笑みを浮かべ、

「時間稼ぎなら、他の方法でもできるか」

 そうつぶやき、刀の柄に手を掛ける。
 刀を使うなら、自分を斬るか周囲を戦いやすいように平たくするかのどちらかだと思うのだけど。

 どうするつもりなんだ。
 彼の笑みが、なにかイタズラを考えついた子供のようで、どこか不安だ。

「へへ」
「・・・な、なにをするつもりだ、兄ちゃん?」
「聞きたい? やっぱり聞きたい?」

 面白いこと見つけた。

 スタウトの背筋に冷たいものが走る。
 恐怖ではない。
 目の前にいる人間が何をやらかすつもりなのか、図りかねているのだ。
 はにか、と歯を見せて笑うと、

「この天井を・・・斬りくずーす!!!」

 そう口にした瞬間。
 は刀を抜刀していた。

 しぱぱぱぱ、かかか。
 かしん。

 何かが斬れる音と、鍔鳴り。
 抜刀の瞬間が見えず、スタウトは目を丸めた。
 自分にこれからなにが起こるのか、理解できないまま。

 そして。

「ま、マジ・・・」
「ああ、大マジ♪」

 ごごごごご・・・という音。

「ぎゃーっ!?!?」

 スタウトの悲鳴と共に天井は見事に崩れ出し、狙ったかのように彼の真上に落ちてきていた。
 比較的細かく刻まれた天井は雪崩のようにスタウトを襲う。
 ぶわ、と埃がたち、は思わず咳き込んだ。




「うんうん、上出来上出来♪」

 埃の晴れた先には天井の山に埋もれたスタウトと、穴のあいた天井から太陽がのぞいていて、ちょうどその山を日光が照らし出す。

 これで、しばらくは時間が稼げるだろう。

 そんなことを考えていたのだが・・・





「ムキーッ!!」


 どかーん!!





 スタウトは山を吹き飛ばしていた。
 あきらかに、怒っている。
 なにせ、額にいくつも青筋が浮かんでいるのだから。

「ちっ・・・」

 小さく舌打ち。
 時間を稼げる&ちょっとしたお茶目だったのに、まったく役に立たなかった。
 仕方ない、と言わんばかりに腰をかがめ、刀に手をかける。
 集中。
 体内に流れるエネルギーを一点に集め、刀へと伝える。

 蜃気楼のように刀が揺らめき、強い威圧感が怒り狂ったスタウトを襲う。

「なっ・・・」

 スタウトの怒りは、巻き起こった風で冷やされていた。
 ここは車内。天井はなくなっているけど、今日はこんな強風が吹き荒れるほど強い風は吹いていなかったはずだ。
 なら、なぜ。

「・・・・・・・」

 答えは簡単だった。

「天井攻撃がダメなら、しばらく眠っていてもらうからな」

 黒がかった赤の瞳が日の光で軽く光り、威圧感が増す。
 動かねば。
 避けなければ。
 今に、攻撃が来る。
 冷や汗を流して、スタウトは自分の置かれた状況を理解する。

 今、自分は窮地に追いやられているんだと。
 今までの行動が全部、アイツの布いた布石だったんだと。

「ちぃっ!」

 舌打つ。

「来いよ・・・お前が上か、俺が上か。勝負どころだぜ?」
「いや、残念だが・・・すでに勝負は決まってる。悪いな」

 が答えを告げた瞬間。
 鞘から、真白い刀が抜刀された。

 発生した見えない刃はイスを斬り裂きながら、スタウトへ一直線に向かっていく。

「あまいぜ。これは確かにスゲエが、あんな攻撃の仕方じゃあ避けられて当然だろ!!」

 が放ったのは、居合斬り。
 飛ぶ斬撃なのだが、イスを一緒に斬ってしまっていてはそれがどのようなものなのかも、その軌道も丸分かりだ。
 普段おちゃらけていても、戦闘に関しては頭の切れるスタウトはそれがなんなのか瞬時に見極め、最適な行動を取る。
 それは。

「そらっ!」

 頭上。
 先刻が空けた穴から、外へと跳び上がったのだ。

「お前があけた穴が仇になったな、兄ちゃんよォ!」
「そんなこと、最初から分かってたさ」
「!?」

 そう。
 は、最初からここまで考えた上であえて居合斬りを放ったのだ。
 彼の目がその斬撃に向いているうちに、自分が彼を追いかける。
 の布いた布石はここまでだった。

 は、スタウトの目の前。
 気絶させるなら首筋が最適なのだろうが、あいにく今彼は正面にいる。

「!!」

 だから、はスタウトの腹部に拳を押し込んだのだった。

「が・・・」

 たまった息を吐き出し、意識が薄れる。
 はスタウトの腰に手を回して彼を抱えると、地面に降り立ったのだった。




「まだまだだな」




 遊ばれた。
 これでも、戦闘経験は結構あったつもりだったんだがなぁ・・・

「上には、上がいるもんだ・・・」

 そんなことを口にして、スタウトは意識を断ったのだった。






第41話。
アキュート主要メンバーとの個別対戦その3
vsスタウト
でした。
彼、スタウト相手に遊んでいます。
ですが、天井を斬ったりとか、スゴイですよね。
つくづく、そう思います。


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