「わりいが、俺は女が相手でも容赦はしねえぜ?」
「結構よ。どうせ、貴方では私に勝てないのだから」

 セシルは、笑みを浮かべてガゼルに告げた。

 ・・・気に食わない。
 彼女たちがフラットを訪れたときから、この女だけは。

 ハヤトも、トウヤも、ナツミも、アヤも。
 レイドも、エドスも、も。
 みんな、俺の家族だ。

 家族が危険に晒されて、心配しない人間がどこにいる。
 所詮は他人の集まりだけど、俺たちにはそれ以上に強い絆があると信じてる。

 だから・・・

「ケッ、言ってろ」

 怒りを出すことなく、ガゼルは両手に短剣を構えたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第40話  高速の戦い





 牽制がわりに短剣を投擲する。
 セシルはそれを難なく避けると、身を翻して突撃した。
 ガゼル手前で両足をついて、身体のばねを使って右足だけをガゼルに突き出す。
 鋭い蹴り。
 彼女がブーツの紐を締めなおしていたのは、彼女が蹴り技を得意とする格闘家だったから。

「ちっ」

 身をそらして躱し、そのままバク転で距離を取る。

 あの蹴りは、とても危険だ。

 素直に、そう感じた。
 疾く、鋭く、そして、流麗。
 女性特有のしなやかさが生み出した、最高の蹴り技だと言えるだろう。
 彼女からすれば、あまり嬉しくない誉め言葉なのだろうが。

 セシルは地を蹴りだし、駆ける。
 目標を定め、一直線にただ疾走る。

「っ・・・せいっ!!」

 スピードをそのままに、とーん、とステップを踏むと、左足を軸にさらに蹴りだす。
 勢いの乗った蹴撃。
 その威力は・・・

「うおっ!?」

 空気を以って、敵を切り裂く!


 目を見開き、身体を横に移動させてやり過ごすが。
 彼の頬に、一筋の赤糸を作り出していた。

「おいおい、マジかよ・・・」

 身体能力だけなら、超人的だ。
 それ相応の鍛錬を積んだからこそできる芸当なのだろうが、

「ホントに・・・人間かよ?」

 そうつぶやかずにはいられなかった。
 攻撃のあと、地に膝をつけていたセシルはゆっくりと立ち上がる。
 振り向くと、金色の眼光がガゼルを射抜いた。



 ぎり、と歯噛む。

 近づけば、先ほどのような蹴りが飛んでくる。
 かといって距離を取れば、向こうから突っ込んでくるうえ、こちらの攻撃も直線的なものに限定される。
 ぶっちゃけ、今の状態ではとても勝ちを得ることはできそうにない。
 ・・・それなら。

 ポケットに空いた手を突っ込む。
 コツンと当たる、固い感触。
 それを握りしめ、それごと手をポケットから取り出した。

「何を・・・まさかっ!?」
「へっ、気づいてからじゃ・・・おせえんだよ」

 彼が持っていたのは、緑色のサモナイト石。
 保有する魔力の関係上1回か2回が限度だが、そこをなんとかと、獣属性の召喚術を得意とするナツミに頼み込んだのだ。
 誓約したのは攻撃系でも、回復系でもなく。

「来い、クロックラビィ!!」

 それは、自身のすばやさを向上させる、憑依型の召喚術だった。
 緑の光が石から放たれ、ガゼルの魔力を吸い取って。
 ウサギ型の召喚獣が虚空に具現した。そのままガゼルへと吸い込まれ、消える。
 彼の周囲を、緑の光が覆った。

「召喚術ですって!?」
「誓約してあるサモナイト石なら、召喚師じゃねえ俺らでも召喚術が使えるんだとよ・・・気にくわねえがな」

 召喚師が心から嫌いなあのガゼルが、召喚術を使った。
 彼のことを知らないセシルだが、一般人が召喚術を使ったことに驚きが隠せず目を丸めた。

「さあ・・・行くぜ。レイドの思いを・・・お前らにイヤと言うほど味あわせてやる!!」

 ガゼルの姿が・・・消えた。

「っ!?」
「おらぁっ!」

 現われたのは、彼女の目の前。
 屈んだ状態から短剣を振りぬくが、無意識に後退し驚きでたたらを踏んだ。
 短剣は空振ったものの、ガゼルの鋭い眼光はセシルへ。
 そのまま地面を蹴って、這うように疾る。

 それはまさに、地面を駆ける疾風。
 彼女の視界にかすかに映る緑の残像は、しっかりと彼女を捉えていた。

 短剣を右手に、ガゼルは先刻のセシル同様に、とん、とステップし、一回転して左足を突き出した。
 回転力を乗せた、回し蹴り。

「私に、足で勝負するつもり!?」

 セシルは眉を吊り上げて、叫ぶ。
 歯を食いしばり、

「せぇっ・・・!!」

 ガゼルの放った左足と交わるように、セシルの左足が放たれた。

 激突。
 交わった足は空気を震わせ、砂煙を巻き起こす。
 両者の攻撃は、互いにその勢いをなくしていた。

「そらよっ!!」

 ガゼルは足を引っ込めると、衝撃による痛みに顔を歪ませながらも短剣を振り下ろす。
 彼とほぼ同時に足を引っ込めていたセシルは、後退。
 短剣は空を切った。

 後退し、地面に足をつけたその刹那。
 セシルは両の足に力を込めて、飛び上がった。
 体操の選手も度肝を抜くような見事な回転を決めて、ガゼルの元へ。
 彼の肩口を目標に定めて、回転しながら右足を振り下ろした。

「遅えッ!」
「っ!?」

 一歩後退して繰り出された蹴り技をやり過ごすと、

「スキだらけだぜっ?」

 短剣を振り下ろした。
 その刃は、確実に彼女を捉え・・・






 ビリリッ・・・!!!!







 彼女の服を見事に破りきっていた。

「いいっ!?」

 肩口部分から腰まで一直線に切れてしまった服は、はらりと落ちて。

「…………」

 彼女の上半身を露出させたのだった。
 そんな状況に頭の回転が回らず、沈黙とともに時が静かに流れていく。
 時間がたつほどに状況の整理が完了し、セシルの顔に赤みがさす。

「……っ」

 ひく、と頬を引きつらせて、ガゼルはその場から脱兎のごとく逃げ出そうとしたのだが。
 片腕で露出した胸元を隠したセシルが、涙目で立っていた。

「ま、まず・・・」

 行動を起こすが、もう・・・遅い。

「この・・・ヘンタ―――――イッ!!!」




 ばっちーんっ!!!!!!!




「ぐはっ」

 どん、がん、ぐしゃ。

 頬をひっぱたかれたガゼルは宙を舞い、数度地面でバウンドして突き出した岩壁に激突。
 そのまま地面にズリ落ちた。







「私・・・も、もうお嫁にいけないわ〜〜〜〜〜〜っ!!!」








 セシルは、そんなことを叫びながら走り去っていったという。










































「な、なんで俺だけこんな扱いなんだよ・・・?」

 それは察してください。











































第40話。
アキュート主要メンバーとの個別対戦その2。
ガゼルvsセシル
でした。
セシルがチョー強いです。超人です。
ですが、ペルゴ同様その辺は軽く流してやってください。


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