ジンガの拳が唸りを上げる。
装着されたナックルは空を切り裂き、対峙するペルゴに向けられていた。
しかし、ペルゴも槍の扱いには自信がある。
騎士団の連中を相手に互角の戦いができるほどに、彼の自信は絶対のものだった。
ジンガの拳をいなし、刃先をジンガに向けて振り下ろす。
槍は突きに特化した武器なのだが、彼の持っているそれには刃が側面にもつけられている。
突くこともできれば、薙ぐことも可能。
その切っ先はジンガの頬を掠め、赤い線をつけていた。
「いいぜ、アンタ。俺っち、ワクワクしてきたぞ!」
「私としては、無用な戦闘は避けたいのですが・・・」
「へっ、ダメだぜ。俺っちにつかまったからには、とことんまで付き合ってもらうぜ!!」
ガツン、と拳を打ち合わせて、再度構えを取った。
すると、彼の腕を白い光が纏い、一本の糸のようにその光が天へ立ち上っていく。
ペルゴは目を伏せて、ふう、と息を吐く。ため息にもとれないことはないのだが、ジンガはそんなことを気にすることなく。
「さ、行っくぜぇっ!!」
再び、地面を蹴ったのだった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第39話 負けない、負けられない
拳が走る。
槍が宙を切り裂くように軌跡を描く。
その攻防は、見ているものがいれば圧倒されてしまうほどにすさまじいものだった。
懐に飛び込んだジンガをものともせず、槍の柄を無理やり天に向けて振り上げることでペルゴは常に自分の間合いにジンガを置いて、ジンガは自分が彼の間合いに入っていることを知りながらも果敢に攻める、攻める、攻める。
トン、トン、と軽やかなステップと共に地面を蹴ると、次の瞬間には強引にペルゴとの距離を詰めているのだ。
突き出される槍を手の甲につけられた鋼で受け流し、渾身の一撃を加えるために右足を踏み出す。
「っ!!」
格闘家は、近接戦闘の際に最もその本領を発揮する。
手数も、威力も自由自在。
しかも、ジンガは戦っている時間が長いほど、そのスピードも攻撃の重みも増していっているのだからタチが悪い。
「実戦は、強くなるための最高の近道だ。アンタには悪いけど、俺っちの踏み台になってもらうぜ!」
ジンガは、サイジェントに来る以前からもはぐれ召喚獣や盗賊を相手に戦ってきた。
・・・とは言ったものの、今までに手応えのあった戦闘など指で数えられるくらいだ。
頭数の違いから苦戦することもあったが、それでも彼にかなう人間などいなかったから。
「俺っちは、運がいい。アンタみたいなヤツに出会えた! ここには、強いヤツがいっぱいいる!!」
「貴方のっ、踏み台になるつもりはありませんし、っ・・・ここで負けるつもりも・・・ありませんよ!」
懐に入り込んだジンガの顔面を膝でかち上げた。
ジンガは一直線で、戦い方にまだまだ単調な部分がある。
だから、しばらく続けた戦法を急に変えれば、その急激な変化についてこれないと、ペルゴは何回か武器を合わせたところで悟ったのだ。
脚力も、腕力も、柔軟性も。
ジンガはどれも秀でたものがある。しかし、その一直線な性格が、彼の行動を狭めているのだ。
「うっ・・・ぐ」
ペルゴの膝はジンガのあごに命中し、彼の身体が軽く宙に浮き上がる。
それは10秒・・・いや、3秒にも満たない時間だったが、彼はそれを見過ごさない。
「これで、終わりですっ!!」
自分の目の前にいるので、切っ先で斬ることはできないが、地面に叩きつけて気絶させることは可能。
もとより殺すつもりはないし、殺したいとも思わない。
だから、ペルゴは槍の棒部分をジンガの肩口に当てて、
「んんっ!!」
地面に振り下ろした。
ジンガの身体はその勢いに逆らうことなく、客車の屋根に叩きつけられる。
ペルゴの腕力とリィンバウムの重力がプラスされて、その屋根は少し凹んでいた。
「ふう・・・」
額の汗をぬぐい、息をつく。
周囲を見回してみると、他の仲間たちはまだ戦闘中。
スタウトのいる客車内は見ることはできないが、振動が止んでいるところを見ると、戦闘自体は終わっているようだった。
天井に穴が空いているため、なんだか不安にかられてしまったのだが。
そして、機関部。
我らがリーダー・ラムダは、レイドと刃を合わせていた。
しかも、その近くでフラットのメンバー数人がレイドと合流しようとしている。
「マズイですね・・・」
戦況は、芳しくない。
ラムダ1人に対して、向こうは数人。
いくら『断頭台』と呼ばれたラムダでもさすがに、1人では少々辛いものがある。
「彼の加勢にでも行きましょうか」
つぶやき、動かないジンガから離れ、機関部へと歩を進めたのだが。
「へへへ・・・」
背後から。
先ほどまで気絶していたはずの少年の声が聞こえた。
最後の攻撃は、人1人くらい気絶させることくらいなんら問題なかったはずなのだが。
「まだ・・・勝負は、ついちゃいねえぜ・・・?」
振り向くと。
少し凹んだ屋根の上で、ジンガはふらりと立っていた。
満身創痍でとても戦える状態には見えないのだが、彼の眼光はまだ死んでいない。
「もうやめなさい。これ以上戦えば、君は壊れてしまう」
「へっ、そんなことねーさ。俺っちの身体は自分が一番よく知ってる。他人のアンタにわかるワケねーよ」
白く淡い光が全身を駆け巡り、先ほどは腕の先からだった白い糸のような光が今度は頭上から立ち上っている。
無数にある傷は、彼が手を当てるとみるみるうちに消えていく。
「ストラですか・・・」
本来、男性は女性に比べてストラの力が弱いという話を聞いたことがあったのだが、今の彼が使っているストラの力は、今のセシルよりも早く、強い。
ジンガもストラの力を大きく消費しているので、疲労はピーク。
でも、倒れるわけにはいかない。
ここで、こんなところで、負けるわけにはいかない。
「俺っちは、まだ戦える。俺っちは・・・」
飛び上がり、拳を引く。
白い光は彼の利き腕である右腕に集まり、収束していく。
何があっても倒れない、強靭な肉体を。
何者にも勝る、最強の拳を。
それを目指して鍛錬をつんできた、1人の格闘家として。
目の前にいる強いヤツと戦って、勝ちたい。
『力と強さは違う』
師の言葉は、未だに理解不能だけど。
勝ちにこだわるつもりもないけど。
強く、強く。
誰にも負けないほどに、強くなりたい。
だから―――
宙を舞う彼を見上げ、ペルゴは槍を再び構えた。
しかし、そのまま突きを繰り出すつもりはない。繰り出せば、一点に集中してしまうため避けるのが容易になってしまうから。
「それでは、もう一度・・・叩き落してあげましょう!!」
槍を振り上げ、彼が近づくのを待つ。
飛び上がると簡単に身動きが取れなくなってしまうので、相手が銃などの飛び道具を持たない限りは無駄なことなのだ。
タイミングを計る。
しかし、そこに彼のミスがあった。
「ぐっ!?」
それは、光。
ジンガは、太陽の光を背にしていたのだ。
まぶしさに目がくらみ、彼は行動をできずにいる。
「負けて、たまるかァ――――ッ!!!」
無防備なペルゴの身体へ。
「らああぁぁぁ――――っ!!」
全身の力を込めた一撃が、放たれたのだった。
拳は腹部へ吸い込まれ、その場に伏せてもなお、勢いは止まらない。
メキッ
ジンガの全身を使った一撃は客車の屋根を大きくへこませ、今に破れてしまうのではないかと思うほどに深さを増していた。
「くっ・・・」
ばたん、とジンガは背後へ。
ストラを使いつづけた上に、ペルゴから大きな一撃を貰っているのだから、無理もないのだが。
空を視界に入れ、
「へ・・・へへっ」
力の入らない身体をそのままに、
「はははははっ!! 勝ったァ!!」
嬉しそうに笑い転げたのだった。
第39話。
アキュート主要メンバーとの個別対戦その1。
ジンガvsペルゴ
でした。
ペルゴが、妙に強い設定になっていますが、その辺は軽く流してやってください。
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