「私はやっとわかったよ」
彼は、逃げてしまった。
騎士団の大半はラムダの追放を機に、全員やめてしまっていた。
ラムダの騎士団追放のきっかけを作ったのは、レイド自身だったから。
「あの時は、人々はまだ領主のやり方に強い反発を持っていた。いくつもの暴動を、そのたびに鎮圧してきた」
そんなある日のこと。
暴徒によって繁華街の北部に火が放たれた。
暴徒から領主を守るのが先か、無関係な市民を火事から守るのが先か。
悩んで、悩んで。
選んだのは、市民を守ることだった。
命令違反として持ち場を離れてしまった。
そのことに責任を問われ、それをラムダが庇ったことで彼は騎士団を追放されたのだった。
「暴徒たちとの戦いで片目を失っているのに、その原因を作った私を庇ったんだよ・・・」
レイドの選択は、間違っていないと思う。
領主だって人間、市民だって人間。
騎士は・・・弱きを守ってこその騎士だと思うから。
だいたい、暴動の元を作り出したのは領主自身だ。
自業自得と考えても遜色ない。
片目を失ったラムダには酷なことかもしれないが、悪政を布く領主をなぜ守らねばならないのだろう。
元の世界で、民主主義という制度をとっているからなおさらそう思う。
ここが民主主義の街なら、そんな領主はやめさせてしまえばいいのだから。
「追放の日、ラムダ先輩は私たちに言ったよ。領主様の目を覚ましてくれ、と・・・でも」
目を伏せて、
「私はその期待に応えられなかった。日増しに強まる召喚師の力。そんな中で、私は罪悪感で気が狂いそうだった」
そして、その罪悪感に耐え切れず、逃げてしまった。
「逃げてしまったことを責められるのは、仕方がない。しかし、ここから先はもう逃げない」
自分が正しいと思ったこと、やり遂げたいと思ったことから逃げたくないんだ!
レイドは全員にそう告げた。
暗い過去だと思う。逃げてしまうのも仕方ないと思う。
「ラムダ先輩は、全ての汚名を自分たちが背負うことで、人々を救おうとしている」
それも、1つの正義ではある。
誰の犠牲もいとわず、目的を為す。
「だが、それは間違っている」
市民のためにやっていることなのに、その市民を犠牲にすることは。
「何かを犠牲にして得られる幸福なんて、なんの価値もない!」
でも、彼は乗り切ろうとしている。
全てを捨てて、逃げたことから。
「それを、あの人に伝えなくてはならないと思うんだ・・・」
それなら・・・
「力を、貸してほしい。あやまちを繰り返さないための力を、みんなに貸してほしいんだ!」
「もちろんだ。俺も微力ながら、力を貸すよ」
はいち早く、そう口にした。
「ケッ、改まって言うことじゃねえだろ。俺たちは、お互いに助け合うためにここにいるんだぜ?」
あんたも知ってんだろ、と。
ガゼルはむすっとした表情でレイドに告げる。
「ぐずぐずしてねえで、さっさと行こうぜ!」
手遅れにならないうちに。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第38話 鉄道襲撃
「さて、問題はあいつらがどういう計画を立てているかだな」
彼らの計画がわからねば、行動のしようがない。
居間で一同が会して。
エドスがそう口にした。
「イムランは今、鉱山の視察で街を留守にしているらしいぜ」
「とすると鉱山内か、その帰りに襲撃ってことになりそうだな」
今までガゼルがフラットを留守にしていたのは、イムランの動向を探るためだったらしい。
貴族たちの住む住宅街に張り付いて、話を盗み聞いていたのだろう。
帰ってくるのは明日になるらしいぜ、と付け加えるようにそう告げた。
「たぶん、アイツらはそれを狙ってると思うな。街の外なら、余計な邪魔も入らないし」
「しかし、相手は鉄道を使って移動してるぞ?」
「走ってる鉄道を、人為的に止める方法が必要になるわけだな。線路に障害物を大量に置いておくとか・・・」
アカネとローカスの会話に、も加わる。
この2人は不干渉のように見えて、実はちゃっかりフラットに協力している。
特にローカスにそれを言えば、否定されそうだが。
「線路に罠を仕掛ければ・・・」
「時間が惜しい。とにかく、線路沿いに探してみよう」
鉱山への線路を歩いて、罠があるならそれを探す、ということに落ち着き、一同はフラットを後にしたのだった。
線路沿いに、大人数が進む。
レイド、ガゼル、エドスの元からフラットチームに、ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤの召喚されましたチーム。
キール、ソル、カシス、クラレットの召喚師チームにローカス、アカネ、モナティ、ガウム、ジンガ、そしてのあぶれ者チーム。
実に総勢17名。
線路をはさんで半分に分かれて異常がないかを確認していたのだが、それは前方から聞こえた爆音で止められてしまっていた。
「ちくしょう、一足違いだってのかよ!?」
線路の両側を絶壁に囲まれたその地形は、まさに「襲ってくれ」といっているようなもの。
「あんな場所があるなら、先に言ってよ!」
「落ち着けよ、みんな鉄道とは縁がないんだから。知らなくても仕方ないだろ」
無駄に憤慨するカシスをソルがなだめ、一同はうなずいて現場へと走る。
少数精鋭だが、アキュートは地の利を生かして、召喚鉄道を止めていた。
「ななな、何事だ・・・貴様は!?」
「久しぶりだな。イムラン・マーン」
機関部にて、2人は因縁の再会を果たしていた。
騎士団に所属していたときから召喚師たちをよく思っていなかったラムダと、彼を毛嫌いしていた召喚師のイムラン。
再会は必然。
「貴様の命、貰うぞ!!」
大剣を振りかざして、ラムダはそう声を上げた。
「ひっ、ひいい・・・」
生粋の召喚師は、接近戦を持ち込まれれば勝ち目はない。
しかも、今のイムランはサモナイト石も杖も持ち合わせていなかった。
ただ身を守るしかなかったのだが。
「やめるんだ、ラムダ!」
振り下ろされた大剣は、介入者によって止められていた。
「レイド・・・あくまで邪魔をするというのか?」
刃をあわせながら、ラムダは冷たい視線を介入者――レイドに向ける。
もともと、レイド自身もイムランをよくは思っていないのだが。
「そいつを殺したところで、街が元の姿に戻るわけじゃないことくらい・・・貴方にはわかっているはずだ!」
そう声を上げたのだった。
「そこまでだよ、お兄さん」
「ん?」
スキンヘッドのスタウトに、は声を掛けた。
車両内で金の派閥の兵士たちを無力化しているところだったのだが。
「おぉ、フラットにいたカッコイイ兄ちゃんじゃねぇか。どうしたんだ、こんなところで?」
目的くらいわかっているはずなのに、動じずこんな言葉を返す彼は、大物だと思う。
血を滴らせたナイフを両手でポンポンと持ち替えながら、スタウトはにまりと笑った。
「決まってるだろ・・・ってか、わかってるくせに」
「やっぱり、か。どうせなら関わって欲しくなかったんだけどなぁ」
スタウトの目が鋭く変わる。
いつかの人のいいものではなく、人を殺すのにもためらいを見せない目だ。
や
「殺るか?」
「殺し合いをする気はない。あくまであなた方を止めるのが俺の役目だ。他のみんなも、同じように動いてる」
「そうか・・・じゃ、手っ取り早く行くぜ!!」
スタウトは持ち前のすばやさを生かして、未だ得物である刀を抜かないを間合いに捉えていた。
「なっ、なんだ・・・なんなんだ貴様らぁっ!?」
「いいからさ、オジサン。ちゃっちゃと逃げなよ」
「おじ・・・っ!?」
「死にたいの?」
「ぐっ・・・」
アカネはやはり忍び。
相手を射殺すほどの眼光を持ち合わせているようで、にらまれたイムランは身をすくませる。
「貴方を許すことはできない。けど、殺されるのを放っておくつもりはないんだ」
「アンタはお邪魔だから、早く逃げなさい!」
「大丈夫です。私たちの背後に敵はいませんから」
淡々とトウヤ、ナツミ、アヤの順でそう告げる。
ニガムシを噛み潰したような表情で全員に背を向けると、
「覚えておけよっ! 平民どもめぇぇっ!!」
捨て台詞を残して、列車から降りていった。
「貴方たち・・・そう、私たちの邪魔をするのね。それなら、ラムダ様の知己であろうと容赦はしないわ!」
「ケッ、そいつはこっちの台詞だぜ」
セシルはブーツの紐を締めなおしながら、眉を吊り上げてそう口にした。
短刀を構えながら、相対するガゼルは吐き捨てるようにそう告げる。
「レイドがお前らを、街のことをどれだけ心配しているのか、腕ずくでも教えてやる!」
短刀を逆手に構えて、ガゼルは声を上げたのだった。
「さて、アンタの相手は俺っちさ!」
「退く気は・・・なさそうですね」
ペルゴは、車両の屋根上でジンガと対峙していた。
他のメンバーは皆アキュートのメンバーと戦闘を繰り広げている。
ペルゴは車両内のスタウト、車外にいるセシル、機関部でレイドと相対しているラムダを見やり、
「仕方ない」
ごそごそと折畳式の長槍を取り出し、組み立てた。
「準備は済んだか? 俺っちは、強い相手と戦るのが好きなんだ。徹底的に、相手してもらうぜ!!」
「っ!?」
言うや否や、ジンガは地面を蹴り出して自らの拳を繰り出していた。
戦闘が、始まる。
第38話。
次回、アキュート主要メンバーとの個別対戦が始まります。
大まかな構図としては、
レイド−ラムダ
−スタウト
ガゼル−セシル
ジンガ−ペルゴ
となりますね。
他のキャラの活躍を期待していたお方は、すいません。
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