「はなんでだと思います?」
「は?」
何を唐突に。
は、アヤにそんなことをたずねられていた。
アキュートの面々がフラットを去ってから、既に数時間経っているというのに。
主語もなしにたずねられたところで、わかるわけがない。
「なにがだよ?」
そうたずね返すのも、当然だった。
「ラムダがレイドさんが騎士を捨てたことを、なんであんなに責めるんだろうってことですよ」
「あぁ、そのことか。……ま、なにか深い理由があるんだろうけど」
自分も、アヤも。ひいてはハヤトもトウヤもナツミも。
フラットに来てからあまり日が経っているわけじゃないから、そんなことを聞かれてもわかるわけがない。
「ガゼルとかエドスにも聞いたんだけど、みんなして『わからない』って言うんです」
「てことは、レイドがフラットにくる前のことになるわけだ」
仲間のこととはいえ、あまり詮索するのは正直好ましくない。
だから。
「まぁ、今はレイドが自分から話してくれるのを待つのが得策だろ」
そう彼女に告げた。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第37話 できること、したいこと
「あれ、アカネ?」
「あ、じゃない」
広間には。
自称『かわいい店員さん』のアカネがいた。
「自称は余計」
「なににツッコんでるんだよ。それより……」
先日のこと。
自分がメスクルの眠りという病気にかかっていたことは、復活を遂げてから聞いた。
しかもそれを治す薬を調合してくれたのは、彼女の師匠であるシオンだと言うではないか。
「シオンさんに薬のお礼、言っといてくれよ」
「そんなの自分で行けばいいじゃない」
「まぁ、そう言わずにさ。近いうちにちゃんと行くから」
アカネは、そうが口にしたことで不承不承にうなずいてくれたのだが。
彼女の性格からして伝えてくれるかどうかわからない。
あとで必ずお礼言いに行こう、と内心で誓ったのだった。
「そういやの刀、こないだのと違うじゃない」
「あぁ、この間のは借り物だったんだ。借りたのがいい刀だったのはいいんだけど、長い間使ってなかったらしくてさ」
だから、手入れの道具を探していた。
そんな説明に納得したのか、「なぁるほどね」とつぶやいていた。
その視線が向かっているのは、やはりの刀。
「なんか、妙な力を感じるのよねえ」
「やっぱ、わかるか?」
「え!? ……う、うん。まぁね」
手にとって、感じたこと。
この刀を鍛えたウィゼルは、
「お主の経験・体験したことが詰まっている」
などといっていたが、正直な話あまりよくわからない。
たいしたことはないだろうけど、とアカネに告げて、はその場を後にしたのだった。
「さて」
どうしよう。
今後のフラットの行動もわからないし、何かしようと思っても何もすることがない。
旅から旅で休むヒマがなかったせいもあるのだろうか。
仕方ないので、
「薪割りでもするか」
鍛錬がてら、ということで。
「…………」
右手に薪。
左手を刀の鞘へ。
その脇には、大量の薪。
太さとしては、の腰くらいのもの。
リプレに聞けば、
「6等分くらいに割ってくれればいいからーっ」
とのこと。
太さからして、6等分がちょうどいいだろう。
隣に同じ太さの薪が大量にあるから、数的にはそれこそここ数ヶ月は保つだろう。
どこからこんなに持ってきてるのかは、謎だけど。
「縦に、6等分……よし」
太さはともかく、長さはちょうどの手先から二の腕くらいまで。
切り口をしげしげと眺めると、
「ん!」
ぽーん、と放り投げた。
薪は高々と宙を舞う。その間には柄に手を掛け、
「っ!!」
一気に抜き放ち、振り切った。
刀を鞘に戻す。
カシン、と鍔鳴った瞬間、ぱか、と見事6等分。
「お見事!」
ぱちぱちぱち。
拍手が聞こえて振り向くと、そこには。
「よ」
ハヤトが立っていた。
「なに、やってんだ?」
「見てのとおり、薪割りだ」
刀を見せて、にまと笑う。
ハヤトはさらにの背後に置いてある太い薪の束を見て、苦笑してみせる。
「頼みたいことがあったんだけど・・・今、大丈夫?」
「ああ、いいよ」
彼の頼みは、以前のトウヤ同様。
簡単に言えば、「稽古をつけてほしい」のだとか。
「街で知り合ったじいさんに聞いたんだ。仲間が悩んでるとき、俺がどうすればいいか」
「うん」
「そしたらさ。どうしたらいいかってのが問題じゃなくて、俺がどうしたいのかってことが大切なんじゃないかって」
刀の先を鞘ごと地面に立てて、ハヤトの言葉に耳を傾ける。
彼なりに、今日の出来事を重くみているのだろう。
騎士を捨てたレイドを責めたラムダ。
彼の言葉を聞いたレイドの表情。
「今、俺がしたいこと。それは、今よりも強くなること。強くなって、みんなの力になりたいんだ」
強い意志。
彼の眼差しは、鋭くを射抜く。
「じゃ、早いトコ終わらせるか。悪いけど手伝ってくれるか? 薪割り」
「! ・・・あぁ!!」
ハヤトは嬉しそうに笑い、大量に置かれた薪に駆け寄ったのだった。
「はぁ、お前って」
やっぱりすごいんだな。
ハヤトが言うのは至極最もなことだった。
たくさんあった薪を1つずつハヤトが放り、それをが刀で斬る、斬る、斬る。
普通なら半日かけて終わらないだろう量の薪を、全て割ってしまっていたからだった。
薪割り、というよりは薪斬りになるのだろうけど。
「さて、じゃあやるか。これから・・・」
「ほんとかーっ!?」
よっしゃー、と両手を突き上げたまではよかったのだが。
「ハヤト、ー? レイドさんが来てくれってー!」
ナツミの声に、ガックリと肩を落としたのだった。
「・・・・・・」
「厄介ごとを片付けてから、な」
ぽん、とハヤトの肩に手を置いて、苦笑したのだった。
第37話。
ゲーム中の09話も佳境ですが。
ハヤト結構ついてない人です。
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