「さ、もうすぐだよ」
「名前は『トキツバタ』だったね?」
「うん、さっきも言ったけど、紫色の花だから。まちがえないようにね」

 草原に差し掛かるなり、アカネはそう告げた。
 紫色の花などたいして多くもないだろうから、間違うことなどないだろうと一行はそう思ったりもしていたのだが。


「あちゃー・・・」


 やはり、現実はそうもうまくいかないようだった。
 草原一帯に広がる白銀の甲冑の群れ。
 所々から聞こえる声は低く、男性のものだというのは明白だった。
 
「サイジェントの騎士団だな」
「なによーっ、あんなんじゃ、薬草どころじゃないじゃない!!」

 うがー、とナツミは声を荒げると、ダンッ、ダンッ、と地面を力の限り打ち付けたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第35話  内なる自分





「あなたたち、ここから先は立入禁止ですよ」

 声を発した少女は先日、税金を払えなかった人々を集めていた騎士団の中にもいた。
 名前は、サイサリス。

「なんでだよ!?」
「この先の草原にある花が、伝染病の特効薬だとわかったのでな。領主さまの命令で採取をしているのだ」

 サイサリスの隣の金髪の男性が、理由を尋ねたガゼルにそう答えていた。
 その答えを聞いて、ガゼルの表情は徐々に厳しいものになって、

「・・・まとめて、持っていくつもりかよ!?」
「そうよ、まるまる独り占めにしちゃうのは、ないんじゃないの?」

 領主に命令された騎士団は、前方にかなりの人数が広がっている。
 『トキツバタ』が全部抜き取られてしまうのは時間の問題だろう。

「俺たちも、その薬草が必要なんです」

 表情こそ、少々こわばってはいるものの、ハヤトは慎重に、爆発しないように2人にそう告げるが。

「なんと言われようと、例外を認めるわけにはいきません」

 見事に一蹴されていた。
 歯噛み、眉を吊り上げる。いつ爆発してもおかしくないというものだ。
 仲間や家族が死ぬような思いをしている。それなのに、彼らは自分たちに薬を採らせてくれないと言う。

「集めた薬草は薬にして、平等に配布される。それまで待つことだ」
「ケッ! 平等ったって、どうせ貴族や金持ちが優先に決まってるんだろうが!」

 はいそうですか、って帰れるかよ!!

 ガゼルはそう言うと、懐から武器を取り出す。
 のこともそうだが、彼からすれば寝込んでしまっている子供たちが心配でしょうがないのだ。

「大事な友人が死んでしまうかもしれないんです。悠長に待ってはいられません」
「そうだね、僕も同感」
「アイツに恩を売って、近いうちに倍返ししてもらうんだから!」
「や、それはダメだろ」

 漫才じみた会話をしつつ、アヤ、トウヤ、ナツミ、ハヤトの順にガゼル同様武器を構えた。
 どんなことをしてでも、薬草はここで手に入れる。
 そんな願いが、5人の心を占めていた。

「イリアス。どうしてもダメなのか」
「レイド先輩・・・」
「騎士だった貴方ならばわかるはずです。規律を守るには、例外は許されないことを」
「・・・そうだな」

 規律とは、守るためにある。
 中には「破るためにあるもんだ」などと言ってすき放題する者もいるのだろうが。
 それは、所詮は平和な世界でのことだった。
 この世界では、領主の決めた規律は絶対。
 そういう訓練を受けているのだ。ここにいる兵士たちは。

「だが、私はもう騎士じゃない」
「・・・っ!?」

 そんな言葉に、サイサリスは眉をゆがめると。

「どうしてもここを通りたいのならば、自分を倒していってください。それが、自分にできる最大限の譲歩です」

 そう言って、イリアスは背中に背負っていた突撃槍を取り出す。
 鋭く尖った先端を中心に、柄に近づくにつれて丸く広がっている。
 突き攻撃のみに特化した白銀の槍だ。
 渾身の一撃を繰り出されれば、強固な盾ですら一突きだろう。
 レイドは腰の大剣に手をかけると、

「・・・すまない。そうさせてもらうぞ、イリアス!」

 そう言って、構えを取ったのだった。



























 は、まどろみの中にいた。
 あたりは一面真っ黒で、何も視認することができない。
 上も下も、右も左もないこの場所で、ただふわふわと漂っていた。

「ここは、どこだ?」

 声に出したところで、答える者は誰もいない。
 この果てのない暗闇には、自分ひとりしかいないのだから。

「・・・・・・」

 ガシガシと頭を掻くが、そんな感覚はまったくない。
 五感のすべてが遮断されたような、そんな感覚だった。
 自分がなぜこんなところにいるのか、今どんな状態なのか。
 それすらも、わからない。

『よぉ、しけたツラしてやがんな』
「っ!?」

 聞こえた声は、

「俺・・・?」
『そうだよ、”俺”? お前は俺、”俺”は”お前”だ』

 顔も見えないが、声でわかる。
 これは、自分の声だと。
 でも。

「君は、なんだ?」

 そう聞かずにはいられなかった。
 『俺』は、どこか考えているような唸り声を上げると、

『あえて言うなら、”お前の中の一部”だ。俺は』
「俺の・・・一部?」
『そうだ。お前が表なら、俺は裏ってことだな』

 わかんねえだろうな。

 ”俺”は、そう口にした。

『お前が死の眠りにかかってくれたから、俺がここに出てこれたんだぜ』

 死の眠り。
 それが、自分がかかっている病気の名前なのだろう。
 近いうちに『死』に至ってしまうような。

『お前のことは、”島”を出たときからずっと見てきた。お前の考え方、生き方には共感を覚えることができるがな・・・』

 内なる裏の自分ならば。
 表の視界を介して、今の状況を知ることはたいした労力でもないのだろう。

『そんなんじゃ、いつか自分の身を滅ぼすぞ』

 時には非情になることも必要なんだ、と。
 ”俺”はそう告げた。

「そんな・・・っ!?」
『今はわからなくてもいいけどな、いつまでもそんな甘っちょろい考えをしてんなってことだな』

 戦うときは戦う。
 倒すときは倒す。
 そして、殺すときは躊躇なく殺す。

 今までのの考え方、行動原理からすれば、それはすべてを根本から覆されるような言動だった。

『いつか、思い知るときが来る。もっとも、それが死んでからじゃ、何を言おうが遅いんだけどな』

 ケケケ、と。
 どこかの悪魔よろしく”俺”は笑い声をあげる。

『まぁいいや。今回はもう時間切れみてえだし』
「時間切れ?」
『お前の意識が戻っちまうんだよ』

 あーめんどくせ、とつぶやきながら、正面から現れたのは。

「手っ!?」

 手だった。
 にゅーっと暗闇の向こうから伸びてきて、浮かんでいたの身体を押し出す。

「うわっ」
『じゃーな、次があればまた会おうぜ、相棒♪』

 その言葉を最後に、の意識はまた深く落ちていったのだった。




























「ははっ・・・やっぱり先輩は強いな。自分よりずっと・・・」

 負けたのになぜかうれしそうに。
 イリアスは笑った。
 取り落としていた突撃槍を拾い上げるとサイサリスに向き直り、

「退却だ、サイサリス」

 そう命令を下した。
 当の彼女は不承不承それに従い、兵士に命令を伝えると。
 白銀の甲冑の大群は、すべて街へと引き返していったのだった。
 そして、目の前に広がるのは赤や黄色、青など色とりどりの花々だった。

「ほらあっ! ぼーっとしてないで、さっさと薬草を集めなさいってば!?」

 呆然と騎士たちを見送っていた一行だったが、アカネの一声で薬草摘みをはじめたのだった。












「ん・・・」

 むくり、と上体を起こして、周囲を見回すと。

・・・」
「アヤに、トウヤ・・・」

 の寝ていたベッドの脇のイスにもたれていたアヤと、さらに後ろの壁にもたれていたトウヤに気づき、2人を見比べた。
 2人とも本当に嬉しそうな表情で、を見ている。
 一度目を伏せると、

「・・・悪い、心配かけた」

 そう言って、笑みを浮かべたのだった。







 結局。
 アカネがくのいち――シルターンの忍びであることを口にしてしまって、ばつが悪そうに顔を自身の手で隠してあきれたように首を数度横に振ったのだった。






第35話。
オリジナル要素の登場です。
ぶっちゃけ、コイツをどう動かそうかと書き終えてみてから考えてたり
そして、主人公復活しました。


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