「くそっ!」
薬を探して街じゅうを駆け回ったにもかかわらず、一向に薬の手がかりすら見つからず。
ガゼルは悪態ついて地面の小石を蹴り飛ばした。
「ヤツら、本当に街じゅうの薬を買い占めやがったのかよっ!?」
全員で一致団結して、街へ飛び出してからもう4時間はたっただろう。
それだけの間フラットをあげて探しているというのに、薬はまったく見つからない。
「このままじゃ、子供たちも、も死んじゃうわよぉっ!」
「っ!!」
ぎり、と歯噛み、ナツミはそう口にする。
これから訪れるであろう、最悪のシナリオ。薬が見つかりさえすれば、そのシナリオを回避することができるのだが・・・
「あきらめちゃダメだ、みんな!」
「ハヤトの言うとおりだ・・・大丈夫。みんな治るよ。子供たちも、も」
「トウヤさん・・・」
なにか、策はあるはずだ。
くじけそうな心にそう言い聞かせて、トウヤは全員を安心させるように笑みを浮かべたのだった。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第34話 薬処「あかなべ」
「こうなりゃ・・・盗むしかねえっ!」
「何いってるんだっ!? 相手は城の中なんだぞ」
「無謀だろうが無茶だろうが、チビどもやを助けるためにはやるしかねえだろうが!!」
ガゼルの判断は、ある意味正しかった。
城の人間が病を治す薬を買い占めている。手段を問わないのなら、その城にもぐりこんで盗むなり強奪してくるなりすればいいのだ。
踵を返し、城へと向かおうとしたそのとき。
「うわあぁぁっ!?」
鈍い音を立てて、ガゼルは真正面から駆けてきた少女と見事激突したのだった。
双方ともに尻餅をついて、打ち付けた腰をさすり立ち上がると。
「馬鹿野郎、どこに目つけて歩いてやがる!」
「そっちからぶつかっておいて、そーいうこと言うわけっ!?」
ガゼルをにらみ返し、少女は噛み付くようにガゼルに詰め寄った。
腰は、どうやらなんともないようで。
「ごっ、ごめんね・・・コイツ、バカだからさあ」
「おいっ・・・ナツミ、バカとはなんだよバカとはっ!?」
「バカにバカって言って何が悪いのよっ!!」
ナツミがガゼルの首根っこを引っ張り下がらせると、2人は口ゲンカをはじめてしまった。
そんな光景を見て、トウヤやアヤといった常識ある人間は額に手を当ててため息を吐く。
「もぉっ、今はケンカをしている場合ではないでしょう!?!?」
声を荒げたのはアヤだった。
「ごめんな、ぶつかったのは謝るよ。俺たち、ちょっと急いでたからさ」
許してくれ、とハヤトは懇願するが、
「急いでるのは、アタシだって同じだよっ!」
眉を吊り上げたまま、少女はそう告げたのだった。
「まったく・・・お師匠の言いつけで、これから薬草を採りに行かなきゃいけないっていうのに・・・」
とんだ災難だよ。
ぷんぷん、という効果音が当てはまるかのように口を尖らせる。
『・・・・・・』
彼女は、今なんて言った?
「急いでるのは、アタシだって同じだよっ!」――ちがう
「お師匠の言い付けで・・・」――これもちがう。
「これから薬草を・・・」
・・・
・・・・・・
『そっ、それだぁっ!!!!』
「ぶわっ、えっ、なによ、なにさっ!?」
彼女は商店街の一角に建つ薬処「あかなべ」で働く自称『かわいい』店員さん。
聞けば、店主に言いつけられてメスクルの眠りに効く薬の材料の薬草を採ってくる途中だとか。
もう、アテはその薬屋しかない。
そう懇願して、彼女に「あかなべ」に案内してもらえば。
「まさかこの店が、薬屋だったなんて・・・」
入ってみたガゼルの第一声が、これだった。
内装は正直不気味、といったものに近い。巨大な壷が普通に置いてあったり、文字が書いてあるが読めない旗があったり。
カウンターの奥には骸骨の標本がある始末だ。
これを不気味といわずに何を不気味と言うのだろう。
「失礼ねぇ。まぁ、確かにお店の中の趣味は悪いけどさ」
店員さんでもそれは認めるらしい。
「趣味が悪いというのは、誰のことですかね? アカネさん・・・」
店の奥から出てきた男性は、黒いオーラを漂わせて少女――アカネに笑みを向けたのだった。
「ここに、死の眠りを治す薬があると聞いたのですが・・・」
「残念ですが、今はありません」
答えは即答だった。
店主――シオンが言うには、材料があれば作ることはできるのだとか。
そのために、アカネに材料を採りに行かせようとしていたのだ。
「その薬を、俺たちにも売ってくれ!」
「それは構いませんが、お金はあるんですか?」
「これだけでしたら・・・」
お金の管理をしていたアヤが進み出て、フラットでもらってきたお金の袋を提示する。
シオンは中身を眺めてふむ、と口にすると。
「残念ですが、これでは足りませんね」
あまりに淡白に、貼り付けた笑みを消すことなく、そう告げた。
彼の作る薬は、特別なもの。
彼らは忍ぶ者。その技術を用いて作るのだから、値が張っても仕方がないのだ。
「金は絶対に払う。だから、頼むから薬を俺たちに分けてくれ!」
「お願いしますっ!!」
全員で、頭を下げた。
これもひとえに、家族や仲間を救うためだ。
「ふむ・・・では、こうしましょう」
ぴ、と人差し指を立てて、
「アカネさんと一緒に、薬草を採ってきてくれませんか?」
足りない分は、それでまけて差し上げます。
シオンはそう口にした。
その案は当初のものとは違ってはいるものの、自分たちにとっては願ってもない案だった。
薬草さえ採ってくれば、確実に薬を入手できるのだから。
アカネは、がっくりと肩を落としてため息をついていたのだが。
「お師匠ってば、そんなにアタシのことが信用できないのかな〜?」
「そうじゃない。シオンさんは、俺たちに薬を渡してくれるために、わざとこんな用事を頼んだんだ。君が信用できないわけじゃないと思う」
無理やり付き合うような形になってしまったことを謝りながら、ハヤトはそう言ってアカネを慰めようと肩をたたく。
しかし、その言もあながち間違いではないだろう。
彼らの誠意が・・・本気で家族や仲間を助けたいという確たる願いが、そこにあったからだ。
「・・・そっか」
アカネは落としていた顔を上げて、一息ついた。
「これで、あの子たちもも助かるわね」
よかったぁー、とナツミが何の気なく口にすると。
「あれ、って・・・もしかして黒髪で赤い瞳の彼?」
「知ってるんですか?」
「前にウチの店に来たことがあったのよ。刀の手入れ用具を探してね」
「あー・・・」
ナツミは遠い目をして空を見上げる。
それは先日自分が全部ダメにしてしまって、ごみ箱行きになってしまっていたのだから。
あの店で買ってたのか、などとフラットメンバー全員で思いつつ。
「さて、張り切っていきますか!」
「僕とハヤトで、レイドさんたちを呼んでくるよ」
「アカネ、その薬草はどこに生えてるんだ?」
「ここからちょっと言ったトコにある草原よ。何て言う名前だかは忘れちゃったけど。薬草の名前は『トキツバタ』。紫色の花だから、すぐにわかるはずだよ」
さぁ、れっつらゴー!!
アカネを先頭に、一行は目的地を目指したのだった。
第34話。
シオン&アカネの本格的登場です。
彼女の性格、結構好きだったりします。
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