「なぁ、モナティ。そのご主人様っていうの、何とかならないかい?」
「どうしてですの? ご主人様はご主人様じゃないですか」

 そんな彼女の答えに、トウヤは苦笑を浮かべる。
 元の世界にいたときから『ご主人様』などと呼ばれたことなど一度だってありはしない。
 そんな言葉を発する人間がいるような豪勢な家柄でもなかったのだから、慣れないのも当然というものだ。

「とっ、とにかく・・・別の呼び方にして欲しいな。ハヤトたちも、きっとそう思ってるはずだから」
「ま、呼ばれ慣れないのは確かよね」
「ちょっと恥ずかしいです・・・」
「び、微妙だな・・・」
「・・・わかったですの」

 心底残念そうに、モナティはそう口にする。
 しかし、彼女はめげない。
 少し考えて何を思いついたのか、ぱっと表情が明るくなったかと思えば、

「それじゃあ、これからはマスターって呼ぶですのっ!」
『いいっ!?』

 驚きにまみれて、そんな声をほぼ同時に4人が発すると。

「・・・言ったのに。他の呼び方だったら、何でもいいって言ったのに・・・」

 涙ぐんだ表情で、モナティはそう口にした。
 『ご主人様』以外だったらなんでもいい、と告げたのは間違いなく自分だ。
 返す言葉もなく、

「わ、わかったよ。もうそれでいいから、泣かないでくれよ」
「じゃ、じゃあさ。マスターが4人って言うのもヘンだから、名前の後にその・・・マスター? ってつけて呼んでね」
「わかりましたの〜」
「きゅーっ!!」

 嬉しそうに飛び跳ねるモナティとガウム。
 それを見かねてか、

「アニキ、アネゴの次はマスターとはねぇ・・・ずいぶんとお偉くなったもんだよなあ?」
「ガゼルさん、なんでそんなにニヤついているんですか!?」
「べーつーにー」

 妙にニッコニッコしているガゼル。
 口篭もる4人とガゼルの間にモナティは立ちふさがり、

「ガゼルさんっ、マスターたちをいじめたらダメですのっ」
「へいへいっ」

 ごめんなさいね、と。
 モナティの言ったことを鵜呑みにするまでもなく、ガゼルは笑顔のままで引き下がったのだった。

「・・・気にすることないって。呼び方ぐらい」
「そんなこと・・・」
「本当は嬉しいんだろ?」
「ちっ、ちがうわよぉっ!」

 の言葉にボッ、顔を赤らめて、ナツミの声がフラットに響き渡ったのだった。
 この後、モナティにはリプレの手伝いをするように頼んだのだが、



 がしゃーんっ!!

「う、うにゅうぅ〜っ!」



 気をつけてと忠告されていたにもかかわらず、彼女は見事にバケツにつまずいて中の水をぶちまけていたのだった。


















    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第33話  メスクルの眠り


















「ど、どうしちゃったかな・・・」

 昨日の戦闘あたりから、妙に身体の調子がおかしい。
 ちょっと動くだけで息切れはするし、夜も寝た気がしない。しかし、その割に妙に眠たい。
 熱も上がりつづけているようで、身体全体が熱っぽかった。

「・・・どうしたんですか?」
「え・・・」

 話し掛けてきたのはクラレットだった。
 少し怖いもの見たさのような感じがするが、今のにはそこを指摘する余裕はない。

「君、顔が真っ赤じゃないか!」
「風邪か? 悪いことは言わないから、ちゃんと寝とけよな」
「そうだよ。でなきゃ、治るものも治んないし・・・」
「ああ・・・す、すまん。そうさせてもらう・・・」

 そう言って、踵を返すように4人に背を向けたのだが。

「あ、あれれ・・・」
(さん)!?』

 息を荒げて、はその場に倒れてしまっていたのだった。











「チビが熱を出したってのは本当か!?」

 ちょうど出かけていたガゼルは居間に入るや否やそう叫んでいた。
 眉間にしわをよせていて、本当に心配しているのが見て取れる。
 声が大きいぞ、とエドスが注意しなければ、子供たちの部屋へ直行しそうな勢いだった。

「今、ようやく眠ったわ」
「そうか・・・」

 安堵したように、ガゼルはイスに腰かける。
 がたん、という音が妙に耳に響いていた。

「あの子だけではありません」
も・・・」
「えぇっ!?」

 これに驚きの声を上げたのはアヤだった。
 とは幼馴染で、小さいころから彼のことを見ていたのだから、

は、ここ数年カゼなんて引いたことなかったのに・・・」

 母親と死別して、剣術の鍛錬をはじめたころに遡る。
 真剣に訓練をはじめてからというもの、病気らしい病気をしていなかったのが彼の密かな自慢だったのだ。

「子供たちは?」
「ラミのそばにいるって聞かないのよ」
「無理に連れ出すわけにもいかんだろう。好きにさせてやろう」

 そんなレイドの言葉でその場はとりあえず解散となったのだが。
 アヤだけは、どこか嫌な予感を感じていたりしていた。

 解散ということで、の寝ている部屋へ行って見ると。

「・・・・・・」

 顔の赤いが、ベッドに横たわって寝息を立てていた。
 表情だけをかんがみるに、とても病気にかかっているようには見えないのだが。

「いったい、何があったんですか?」

 眉をハの字にして、アヤはそう口にしていたのだった。





 そして、過ぎていくこと数時間。

「コイツも、も・・・どうして、目を覚まさないんだよ!?」

 ガゼルの言うとおり、ラミもも。
 熱は下がって穏やかな表情をしているにも関わらず、いまだに目を覚ますことはなかった。
 リプレはラミを心配するあまり、涙を流している。
 そんな中、

「みんな、ちょっと広間まで来てくれないか」

 大事な話があるんだ・・・

 床に伏せる人間を残して広間へと足を運ぶと、『大事な話』の内容がレイドから明かされたのだった。



「『メスクルの眠り』?」
「ああ、死の眠りとも呼ばれる伝染病だ。2人は、それにかかっていると考えられる」
「街では、もう何十人も死んでいるそうだ」

 ローカスの言葉に、一同は耳を疑った。

 死ぬ?

 誰が?

 なんで?

 あの2人が、何をしたというんだ?

 この病気は『死の眠り』。
 つまり、この病気にかかったことで『死』を宣告されたのと同じ意味を持っていた。

「街の医者を手当たり次第に当たってみたが、治療に使う薬はなかった」
「なっ、なんでよっ!?」
「買い占められたんだ。城の召喚師たちにな」

 声を荒げるナツミに、ローカスは憮然とした態度で受け答えをして、顔を伏せた。
 薬がないということは、ラミとは『死の眠り』から逃れられないということになる。
 つまり。

「死んじまうのは確実、ってことかよっ・・・くそっ!!」

 ジンガは悔しそうにパン、と拳をたたき合わせた。


「たっ、大変ですのーっ!!」
「きゅきゅーっ!!」


 ばたばたと広間に入ってきたモナティたちは。
 状況をさらに悪化させる一言を口にしたのだった。






「そ、そんな・・・」

 リプレは呆然と床に膝をつく。
 移動した先は子供部屋。

 ラミについていたアルバとフィズも、同じ病に冒されてしまっていた。

「みんな、あきらめちゃダメだ。できることをするんだ!!」

 そう口にしたのはソルだった。
 治療する方法を調べてみるから、と彼を先頭にキール、カシス、クラレットの順番で自室へと姿を消した。
 持ってきていた書物を漁るつもりだろう。

「エドスは私といっしょに、医者を探しに行ってくれ」

 君たちは薬を頼む。

「わかりました!!」

 レイドの言葉に真っ先に応えたのは、アヤだった。





、みんな・・・待っててくださいね。必ず、薬を見つけて見せますから」







第33話。
夢主、病気になりました。
彼だって人間だということを、ここで皆さん(主にフラットメンバー)に再認識させたかったんですよね。


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