「いやいやいやーっ! いやですのーっ!」

 モナティとガウムの2人に、自分たちはだまされているのだということを伝えるために再びサーカスを訪れた4人。
 しかし、ここでがんばっている彼女たちにそれをどう伝えようかと考えあぐねていたそのとき。

「なに、今の悲鳴っ!?」
「モナティちゃんの声ですよ!」

 声の主はモナティ。
 あからさまな拒絶の言葉が聞こえてきていた。

「裏口からだ!」
「みんな、行こう!!」

 何が起こっているのかわからないまま、4人はサーカスのテントの裏口へと急行したのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第31話  従属と意思





「モナティはここの団員なんですっ! どこへも行かないんですのーっ!」

 テントの裏口。仮設されている建物やテントの脇で、泣きじゃくる少女と金髪の青年の姿があった。

「ハハハ、それはさっきまでの話さ。これからは私が新しい君のご主人様なのだよ」

 彼はカムラン。金の派閥の召喚師で、マーン三兄弟の末弟に位置している青年だった。
 なぜこのような状況になっているのかというと。
 公演での失敗が堪えないモナティに愛想をつかして、彼女をカムランに売ったのだ。
 失敗ばかりの団員より、お金を選んだのであった。

「心配は無用さ。私は君を気に入っている」
「モナティ・・・まだ、恩返しもできてないのに・・・」

 大粒の涙を黄緑色の瞳に溜め込んで、呟くようにモナティはそう口にする。
 自分たちを喚んだ主を何もできないままにみすみす死なせ、拾ってくれた団長にも何もできずに売り飛ばされて。
 悔しさと自分の無力さに、彼女は涙をこぼしていた。

 本能的に彼がイヤだというのも、実は含まれていたりするが、シリアスな場面では場違いなので口には出さない。

「さあ、おいで! 華麗なる私のペットとして、末永く可愛がってあげよう」
「いやあぁーっ!」

 一歩ずつ、カムランが両手を広げてモナティに近づいていく。
 まるで、「私の胸に飛び込んでおいでー!」と言っているように彼は満面の笑みを浮かべた。
 いやがる彼女の手をつかんだそのとき。

「その手を離せ!!」

 ハヤトが2人の間に割って入って、つかんだ手を払いのけたのだった。

「黙って聞いてれば、好き勝手言ってくれちゃって!!」

 彼女にだって、自分の意志がある。
 お金を払ったという理由で彼女のすべてが自分のものであるような言い草に、腹を立てていた。
 それを口にすると。

「ハッ、くだらんな。彼女は召喚獣だよ? はぐれなんだよ?」

 召喚獣は召喚師に服従するのが当然だ。

 それの何が悪い、と。
 カムランは不思議そうにそう口にした。
 それを聞いたからか、ガウムはうなり声をあげて、

「うわっ!?」

 思い切りどついていた。



「これは、戦いになりそうですね。私、みんなを呼んできます!!」

 彼が召喚師の名乗った以上、召喚術が使えるだけの自分たちでは勝ち目がないかもしれないから。
 アヤは身の危険を感じてか、フラットへ走っていた。

「は、はぐれが・・・よくもこの華麗なる私に不意打ちをっ!?」

 広い額の青筋を浮かべ、彼は怒りをあらわにしているが、服装と表情がマッチしていなかったためか。

「ぷっ・・・ヘンな服・・・っ」

 ナツミは噴出してしまっていた。

「だっ、大の大人が・・・っ、まるでガキ丸出しの・・・ぷぷぷっ」
「わっ、笑うなぁーっ!!」

 怒り爆発。
 顔を真っ赤にして、彼はサモナイト石を懐から取り出すと、

「マーン三兄弟の三男! カムランの名に誓って絶対に許しません!!」

 そう叫んでいた。















「みっ、みなさん!」

 手伝ってください、と。
 ばあんっ! と思い切り扉を開きアヤはフラットにたどり着くなり声を荒げていた。

「ど、どうしたんだよアヤ?」
「とりあえず、落ち着いたらどうですか?」

 玄関をちょうど通りかかっていたソルとクラレットに言われて、何回か深呼吸を繰り返す。

「で、どうしたって?」
「あの、他のみなさんは・・・」
「今日は全員居間にいますよ。みなさんお暇ですよね」

 呆れたように口にしたクラレットとソルを引っ張り、アヤは居間へ乱入する。
 フラットに住む全員がなぜか居間に終結しており、に至っては湯飲みを手にお茶をすすっていた。
 なにか話をしていたようなのだが、こちらのことは急を要するので。

「戦いになるかもしれませんから、手伝って欲しいんです」

 昂ぶる感情を抑えながら、アヤは入り口でそう全員に告げた。
 息を呑む声が聞こえ、数人が目を丸めるとすぐにその表情は引き締まる。
 しかし。

「ずずず・・・」

 だけは、落ち着いてお茶をすすっていた。

っ、のんきにお茶してる場合じゃないんですようっ!」
「わかってるよ。落ち着けって。それで・・・」

 場所は?

 湯飲みを片手にそうアヤにたずねると、口をつぐんだ彼女は。

「市民公園でやってるサーカスのテントの・・・裏口です」
「よし、じゃ行こうか」
「ていうか、お前ら説得に行ったんじゃなかったのかよ?」

 なんで戦うんだよ?

 説得に行くだけなら、武器だって要らないはずなのだが。
 ガゼルがたずねるのはもっともで。
 湯飲みを置いて立ち上がっていたは手持ち無沙汰に再びイスに腰かけたのだった。

「実は・・・」

 かくかくしかじか。
 説得に行こうとしたところからをかいつまんで説明する。
 聞く限りでは説得以前の問題だということは間違いなかった。
 むしろ、説得すらできてなかったのだ。

「カムラン・・・マーン家の三男で、金の派閥の召喚師だな」

 マーン家という単語には眉をひそめる。
 長兄のイムラン、次男のキムランにつづいて、今回の出来事。
 どうもこのフラットというチームは、最近なのかは知らないがマーン三兄弟との関わりが大きい。
 レイドは立ち上がると、

「行こう、みんな」
「おう、それがいい。仲間を助けるのは当然のことだからな」

 彼に続いて、エドスは自らの武器を取りに居間を出て行った。

「へへっ、望むところだぜ!」

 ぱん、と両手を打ちつけて乾いた音を鳴らすのはジンガ。
 そのとなりで、しょうがねえなといわんばかりにため息をついてガゼルが立ち上がった。

「やれやれ。君たちはどこまで僕たちに心配をかけるんだか」
「そういうなよ、キール兄」

 しぶしぶ立ち上がり準備をはじめるキールを、ソルがなだめる。

「いいじゃん。楽しそうなんだからさ♪」
「カシス。変なことを言わないでください!」

 茶化すカシスを咎めながら、クラレットは彼女とともに居間を出て行った。
 は湯飲みをテーブルに静かに置くと、壁に立てかけてあった新しい刀――『絶風』を腰に装着する。
 アヤのところまで歩み寄ると、

「じゃあ、アヤ。案内頼むよ」
・・・」

 告げた。



「・・・はいっ!」





第31話でした。
モナティ&ガウム登場です。
カムランて、ヘンな服着てませんか?
なんか、一昔のお坊ちゃまっぽいやつ。


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