戦闘が終わり、一行はフラットへと戻ってきていた。
 スウォンを除いた全員が顔をあわせ、深刻な表情を浮かべている。

 スウォンがガレフを討ったことで、一応の仇討ちは終わった。
 彼の放った弓はの頬をかすめて見事にガレフに命中していたのだが。

「まさか、父親が襲われた理由があれとはな」

 あれ。
 それは、ガレフの身体にあったキノコだった。
 見かけはキノコでも、れっきとしたメイトルパの召喚獣。
 ガレフを含む獣たちは全員、その召喚獣から発された胞子によって凶暴化していたのだ。

「で、これからどーすんだよ?」
「え?」

 尋ねたのはガゼル。
 尋ねられたのはスウォンをここに連れてきたハヤトである。

「え、じゃねーだろ。あいつを連れてきたのはお前。あいつが追いかけてたガレフは倒した。つまり、仇は討ったってことだろ」
「でも、ガレフは召喚獣に狂わされていただけで・・・」

 途中まで言いかけたところで、ガゼルは「わかってない」と言わんばかりに頭を掻く。

「だからっ、ここで仇討ちを終わりにするのかを決めるのはあいつだろうが!?」
「そうだな。肝心なのはスウォンがどうしたいかだ」

 エドスの同意を得たところでガゼルはハヤトに向き直ると、

「さっさとスウォンの奴を呼んで来いよ。いつまでもいじけてるんじゃねえってな」
「・・・わ、わかった!」

 ハヤトは1人、言われるがままに居間を出て行ったのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第17話  仇討ちの果てに





「大丈夫ですか?」
「そんな心配することでもないって」

 血も止まり、かさぶたのできた頬眺めて、アヤはとにかく表情をゆがめた。

 まぁ、以前までの戦いで死ぬような傷すら負っても復活したくらいだ。
 頬の傷ひとつくらいではどうってことはない。

「でも・・・やっぱりキールさんたち呼んで召喚術で・・・」
「アヤは心配しすぎ。大丈夫だって。それに・・・」

 口に出そうとしたところで、やめる。
 出したところで、何かが起こるというわけでもないのだ。
 むしろ、いざこざが起きてしまう可能性のほうが大きいのだ。

「・・・いや、なんでもない」

 彼らの召喚術には、彼らには悪いけど頼るつもりはない。

 そう言おうとしていたのだから。

 ウィゼルから聞いて、それ以前にも。
 もしかしたらとは思っていた。

 感じられた魔力。
 紡がれる詠唱呪文。
 そしてなにより、その雰囲気。

 すべてがあの男と酷似していたのだから。
 それを、はガレフたちとの戦闘で理解してしまっていたのだ。








「行きましょう、森へ」

 ハヤトがスウォンを居間に連れてきて早々に、スウォンはそう口にしていた。

「大丈夫、なのか?」

 戦闘によるキズのことではない。
 父親がガレフの手にかかり、復讐にとガレフを倒したのはいいが、そのガレフも実は被害者だった。
 復讐の果てにあった真実を受け入れたがゆえに、スウォンは1人落ち込みまくっていたのだ。
 だからこそ、はそう尋ねたのである。

「ええ、大丈夫です」

 スウォンは笑みを浮かべて、に答えを返したのだった。





「召喚獣はきっと、森の奥に隠れてるはずです」
「どうしてだ?」
「森の奥はほとんど日が差さないから、地面がいつも湿ってるんです」

 キノコは湿った場所に生えているとはよく言ったものである。

「あいつらの胞子には、注意しないとダメだかんね!」
「ガレフたちとおなじように、凶暴化してしまいますから」

 カシスとクラレットはそう言って全員に念をおす。
 第2のガレフが生まれ、それが獣でなく人間ならばもはやどうしようもない。
 「極力気をつけろ」とか「なるべく気をつけろ」ではなく「絶対にくらうな」。
 彼女たちは剣や拳を武器とする人間に難題を突きつけていたのを知る由もない。

「・・・あれね!?」

 ナツミが指差した先。
 そこに、それはいた。

 朱色に白い水玉模様のかさに、肌色っぽい茎の部分。
 まさに、キノコそのまんまである。

 キノコ召喚獣の周囲にはガレフと同様の獣たちが常駐しているのか、数匹が牙を剥いている。

「行くぞ、みんな!」

 トウヤの声とともに、獣たちは一斉に襲い掛かってきたのだった。








 襲い掛かってくる獣たちは、食料でも見つけたかのように口から唾液を流している。
 一度でも捕まったら最後、とって食われてしまいそうだ。

「・・・っ!」

 腰をかがめ、一閃。
 振りぬかれた刃にかかり、数匹の獣がその場に崩れ落ちる。
 ただでさえ身体が小さいのだ。
 カウンター気味に攻撃をしていかなければ攻撃を当てるどころか攻撃する隙すらできないだろう。

「若師匠!」
「っ・・・その呼び方、やめろってホントに」

 そんな呼び方でを呼ぶのはジンガしかいない。
 ジンガはの忠告を聞く素振りすら見せずに、

「あのキノコって、食えんのかな?」
「は・・・」

 相手はキノコのようなナリをしていても召喚獣なのだ・・・のはずなのだが。

「いやー、旅の途中でハラ減ることが結構あってさ。そこいらの召喚獣狩って食ったことが」
「・・・・・・」

 世界に点在する召喚獣のみなさん。
 ここに君たちを食す存在がいます。

「火ぃ焚いて食ったんだけど、これがけっこーいけるんだぜ」

 ここは、いち召喚獣としてお仕置きを施すべきでしょうか?
 たずねたところで誰も答えるわけないんだけど。

「・・・今戦闘中。ほら、そっち来たぞ」
「よっしゃ・・・!」

 何事もなかったかのように殴る、殴る、殴る。
 時にストラでキズを癒しつつ、戦いを楽しんでいるようにも見えた。

 そんな彼を見て、は小さくため息。

「だいたい若師匠ってなんだよ、若師匠って」

 意味もなく呟いてみる。
 彼にはちゃんとした師匠がいるはずで、他に師匠を必要とはしないはずなのだ。
 仲良くなれたのはまったくよかったのだが。
 そんなことを思いつつ、はただ刀を振るったのだった。






「とどめを、刺すんだ・・・君の手で」

 弱った召喚獣の前に集まり、ハヤトは言った。
 キノコ召喚獣を除いて、獣たちは全て地に伏せている。
 ところどころに召喚術によるクレーターが目立つのは、まぁ見なかったことに。

 みんながみんな満身創痍に近い姿をしており、帰ったらリプレにこっぴどく叱られそうだとガゼルが小刻みに身体を震わせていたのだが、戦闘を行ったのだから、仕方ないと言えば仕方ない。

「僕・・・ですか?」

 スウォンの声に、全員がうなずいた。
 父親の復讐のためと始まった一連の出来事は、目の前にいる弱った召喚獣が原因。
 命を奪うことに対してあまりいい気分ではないは、これから死後の世界が待っているだろうキノコ召喚獣から目を背けていた。

「君には、その資格がある。こいつに凶暴化させられたガレフのためにも、そのガレフに殺された君の父親のためにも・・・君自身のためにも」
「トウヤさん・・・」

 スウォンはうなずくと、弓に矢を番え引き絞る。
 目の前なので狙いを定めるまでもなく、矢は放たれた。




「はぐれとはいえ、命が消える光景はやはりいいものではないな」
「仕方ねえだろ。この森は、俺たちにとっても必要なものなんだぜ?」

 レイドの呟きはガゼルに届いていたらしく、両手を後頭部に回した状態でレイドを見やる。
 表情は真剣なもので、笑みなど浮かべるような場面ではない。

「まぁ、確かにな」

 戦斧を肩に、エドスもうつむきかげんに地面を視界に入れた。

「できることなら、元の世界に還してあげたかったな・・・」
・・・」

 一個人としての願いとして、はそう口にする。
 隣で窺うように彼を見るのは幼馴染であるアヤだった。

「あたしだって、できるならそうしたほうがいいとは思うわよ。でもあの場合、どうしようもなかったでしょ」

 彼は、以前1人の人間を殺めている。
 それを知らないからこそ、そうするしかないという考えに行き着くのだ。
 もし今回の事件の犯人が人間なら、彼らはその犯人を躊躇せずに殺せただろうか?
 そう尋ねれば、みんなが口をつぐむだろう。



「みなさん、本当にありがとうございます」

 お礼ができればいいんですけど、とスウォンが思案顔を見せたところで、エドスはやんわりとそれを断っていた。
 最初から期待をしていたわけじゃない、と。

「損得勘定でお前さんを手伝ったつもりはないぞ」
「え・・・?」

 エドスはスウォンに向けて笑みを見せると、

「友達だから、助けたのさ」

 ぽん、とスウォンの肩に手を置きつつそう言ったのだった。









「その、ありがとうございました」
「?」

 帰り道。
 スウォンはにそう言うと、深く頭を下げた。
 もちろん、なにに頭を下げられたのかは全く理解してないのだが。

「ガレフたちとの戦いでのことです。後ろ向きになっていた僕を、奮い立たせてくれた」
「そんなこと、した覚えはないよ」
「え?」

 スウォン自身、返ってきたのは予想もつかないような言葉。
 思わず、目を丸めていた。

「君を奮い立たせるために、けなすような言い方したんじゃないんだ。俺は・・・君に仇討ちの無意味さを、知って欲しかったんだ」

 ガレフを倒してフラットに戻って、犯人がガレフではなかった。
 そのことによる失意の中で、終わりのない復讐に無意味さを感じ、気付いていた。
 その時は庭にいたので、そのことをは知らないのだ。

 ここで第2、第3のガレフが出ないように、召喚獣と戦おうと言ってくれて、再び立ち上がることができたのだ。

「俺、自分の母親を殺したんだ」
「え・・・」

 それは突然の告白だった。
 直接ではなく間接的にではあるものの、は確かに自分の母親を殺していたのだ。

「その直後は、俺も失意の中にいたよ。・・・憎かった。大事な人を殺した俺が、憎かった」

 の脳裏に、そのときの光景が鮮明に蘇る。
 それだけ、彼の印象に深い事件だったのだ。

「だから、俺は俺を殺そうとも思った。その前に父親に止められたけどな」

 一番悲しいはずなのにな、とは苦笑を見せた。

「『復讐は無意味だ。ましてや自分で自分を殺すなんて、バカのすることだ』ってな」

 これは、島の仲間にも話さなかったことである。
 話す必要がないと、ただ勝手にそう判断してのことだった。

「だから実際に体験してもらって、君にもそれを知ってもらいたかったんだ」

 ガレフにはひどい思いさせちゃったけどな。

 彼はそう言って、眉尻だけを下げて笑ったのだった。







第17話。
サブイベント『復讐の森』終了しました。
けして、主人公は悪役ではございません。
何があっても、悪役にはならないと思います。



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