「仇討ち?」

 簡単な自己紹介を済まして、それは唐突に発された言葉だった。
 ハヤトがどこからか連れてきた少年が発したもので。
 緑を基調とした服の背に、大きめの弓を背負っている。

 彼 ―― スウォンはサイジェント郊外の森に住む狩人なのだった。

「しかし、あそこの森にそんな凶暴な獣がいるとは初耳だぞ」
「ガレフの縄張りは森のずっと奥なんです」

 彼の仇は、父親を殺した森の主【朱のガレフ】という獣なのだとか。
 元々その森は奥まで踏み込まない限り危険はないらしいが、彼の父親は危険がないはずの森の外側で襲われたのだ。

「まあ、あそこの森には薪とか拾いに行ったりもしてるからな」

 そんなのがうろついてたら困るぜ。

 そう言ってガゼルは武器の手入れを始めていた。

「私たちにできることがあれば、手を貸そう」
「・・・ありがとう、ございますっ!」





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第16話  仇討ちとは





 は、不機嫌だった。
 現在いる場所は森の中。
 スウォンを先頭に、変化のない光景を眺めながらただ歩いていた。

、どうしたんだ?」
「え?」

 背後から声をかけたのはソルだった。
 その隣で、キールがをちらちらとうかがっている。

「あ、悪い。これは俺の問題だから」

 気にしないで、と言ったものの、その言葉で引き下がった2人は未だを横目で見つづけている。
 それを知りつつも、は今回の仇討ちに対して少しながら怒りを感じていたのだ。

 なぜ怒りを感じていたのかといえば、スウォン同様にも片親に死なれた身であるからというのが理由である。
 親を自分が殺した、と考えているためか、矛先は父親が殺されたからという理由で仇討ちをしようと息巻いている先頭のスウォンだった。

「それにしても、さっきから同じところを何度も回っていないか?」
「ええ、僕たちはさっきから、ガレフの縄張りの周りをジグザグに進んでるんですよ」
「おいおい!それじゃ襲ってくれって言ってるようなもんじゃねえか!?」

 彼からすれば、仇討ちのためには自分たちを襲ってもらわねば始まらない。

「一人の時は無理でしたけど、今はみなさんがいます。大丈夫ですよ」

 確信に満ち満ちた笑みを見せて、スウォンは拳を握ってみせた。




「・・・!!」




 呆れた顔をを見せていたハヤトが表情を変えて、こわばる。
 ガサガサと草のこすれる音とともに、無数に現れる青の中に燃えるような朱が1つ現れたのだった。

「どうやら、現れたようだな?」

 レイドのそんな声に応えるように、現れた朱と青の獣たちはそろって雄たけびを上げる。

「かっ、囲まれてるじゃんかよ!」
「大丈夫です。襲う前に威嚇をするはず・・・」

 森の獣をよく知る彼だからこそ、その言葉に従う。
 しかし、彼の思惑は大きく外れ、獣たちは牙をむいて飛び掛ってきていたのだった。

「みんな!この獣、普通じゃない!!」

 飛び掛る獣を見て、叫んだのはキールだった。
 獣たちからかすかに魔力が感じられると、彼はそう言って杖を取り出した。

「コイツら、何かに操られて・・・ッ、その魔力のせいでっ・・・凶暴化してるんだよ!!」

 襲い掛かる牙を杖で防ぎながら、カシスは全員に聞こえるように声を上げる。
 そんな中、復讐に燃えるスウォンだけは彼女の言葉を聞かず、

「今日こそ・・・ッ、今日こそはっ!!」

 背中の矢を番えた弓を大きく引き絞ると、

「スウォン、よすんだ!こいつらはもう普通の獣じゃない!!」
「父さんの仇だ。今日こそ、討ってやるっ!!」

 トウヤの制止を振り切ると狙いを定め、矢を放った。
 その矢は朱の獣をかすめてその背後の青い獣の胴に突き刺さる。
 血を流し、その獣は地面に倒れた。

「ったく・・・みんな、やるしかない!」
「あいつ、バカじゃねえのか。勝手に1人で突っ込んでってよぉ・・・っ!」

 短剣を振るいながら、ガゼルが愚痴をこぼす。

「まあまあそう言わないでください、ガゼルさん。スウォンさんはは元々仇討ちに来てるのでしょう?」
「そんなの関係ねえって。アレじゃ、速攻で死んじまうぞ」

 なんなんだよ、アイツ!

 アヤになだめられつつも、眉間にしわを寄せて短剣で斬りつけていた。

「これだから・・・っ!!」
「グアァァッ!?」

 刀を振り下ろし、飛び掛る青い獣を切り伏せる。
 血が刀身にこびりつくが、そんなことを気にしている場合ではなく。
 次々に襲ってくる獣を視界に納めては刀を振るった。

 仇討ちなど、やっても無駄なこと。
 それがわかっているからこそ、先陣きって飛び出していった彼に先ほどまで怒りをおぼえていたのである。

「せぇっ!!」

 同時に飛び掛ってきた数匹を自身の身体ごと回転させ斬ることでなんとか事なきを得ると、


「ウワアァァッ!?」
「スウォンっ!?」


 のすぐ近く、太い木を挟んだとなりでスウォンが朱い獣にのしかかられていたのが見え、斧を大きく振り下ろしたエドスが声を上げる。

「ちっ・・・」

 小さく舌打ちをして、目の前にいる数匹の獣の方へ身体を向け、刀を鞘に納める。
 腰をひねって獣たちに背中を見せると、意識を集中させた。

 居合斬り。

 借り受けたこの刀で放つのは初めてだが、島での戦いで彼も同様に使っていたのだから、大丈夫だと信じ込み、

「はぁっ!!」

 鞘走りとともに抜刀。
 放たれた気の刃が獣たちを切り刻み、その場に伏した。
 敵が無力化したことすら確認せず、は自分の隣へと視線を向ける。
 考える間もなく、駆け出していた。





「くそっ、くそぉ・・・っ!!」
「グルルルゥ・・・」

 赤の獣、自分の仇であるガレフに押し倒され、スウォンは身動きすら取れなくなっていた。

 たかが獣。
 簡単に振りほどけると思っていたのだが、現実にはそうはいかない。
 前足で肩口を抑えられると、動かすことすらできずにいたのだった。

 腕を動かすこともできず、目の前の仇をただにらみつける。

 弓は遠距離だからこそ、その真価を発揮するのだ。
 それすらも忘れ、1人飛び出したことにスウォンは今更ながらに後悔する。

 自分はこれで死ぬのかと。
 父親と同じ獣に殺されるんだと悟り、一矢報いることすらできない自分の無力さに涙を流したのだった。

「・・・っ!!」
「ギャ・・・ッ!?」

 目の前の朱が消え、太陽が視界に入ってくる。
 ぼんやりとそれを眺めていると、

「何してる、死にたいのか!?」
「あ・・・」

 黒髪の青年 ―― が朱の獣であるガレフを相手に戦っているのが見えた。

「今は戦闘中なんだぞ。のんきに寝てちゃダメだろうが!!」

 ホントに狩人かよっ!!

 彼の言葉は狩人である自分の存在を否定するようなものだったが、まったくその通りなので怒る気になれない。
 立ち上がり、周囲を見回す。
 フラットの面々は、未だ青い獣と交戦していた。

 僕も行かないと。

 そう思い駆け出すが、

「お前が行って何になる!?」

 ガレフと戦っている青年がガレフの足を斬りつけ、動けなくなっているところでスウォンをにらみつけた。
 その目に射抜かれ、行動を止めた。

「弓の使い方すら知らない狩人が、あそこへいって何になる!?」

 痛い言葉だった。
 長距離での攻撃が長所である弓で、単身敵の渦中に入り込んでいったのだ。
 そう言われるのも無理はないのだが、口に出されるとそれは胸をえぐっているように聞こえる。

「弓の・・・っ、使い方くらい知ってます!!」
「だったらっ・・・、その矢をなぜガレフに向けない!?」
「そっ、それは。あなたが・・・」
「俺が戦ってるから、何だって言うんだよ。いいか、仇討ちっていうのはな、どんな手段を用いてでも憎い相手を殺すことで恨みを晴らすことをいうんだよ!・・・違うか!?」

 爪を武器に飛び掛ってくるガレフをいなしながら、は叫ぶように言う。
 憎い相手が目の前にいるのに、お前は逃げるのかと。
 スウォンにはそう聞こえた。

「それこそ仲間の犠牲なんて・・・仇討ちするには最高の手段だろうが!!」

 弓の使い方知ってるんなら、俺に当てずに目標だけ当てて見せろ!!

 はすばやいガレフの動きを目で追いつつ、カウンターの要領で刀を振るう。
 しかし、凶暴化しているわりに賢いらしく、繰り出される斬撃を難なく避わしていく。

「くそ、コイツ・・・バノッサより強いんじゃなかろうか・・・」

 そんなことを小さく呟いてみる。
 バノッサがこの場にいれば「俺様を侮辱する気か!?」などと怒り狂うところだが、今彼はいない。

 スウォンは眉を吊り上げて、矢を番える。
 ガレフに狙いを定めた。

 常に動いているので、補足が難しい。
 しかも、ひとつ間違えれば味方であるに当たってしまう。
 どんな手段を用いてでも憎い相手を殺すことが仇討ちだと彼は言っていたが、できるなら犠牲などだしたくはない。

「・・・っ」

 スウォンの腕が震える。

「親父さんの仇をとるんだろ!?」

 バノッサより強いんじゃないか、などとは言ったものの、ガレフを倒すことは今のならば簡単なことだろう。
 しかし、ここで彼が自分の矢でガレフを倒さねば仇討ちにはならない。
 だからこそ、あえて戦っている時間を延ばしていたのだ。

「俺のことはいいから!」
「っ・・・!」

 スウォンは動かない。
 何を躊躇しているんだ、とは思う。
 味方である自分を案じているのか、それとも臆病風に吹かれたか。
 どちらにしろ、彼が矢を放たねばこの戦闘は終わらない。

「撃て―― っ!!!!」
「ああああああ!!」

 叫ばれたその言葉に。
 スウォンは覚悟を決め矢を強く引き絞る。
 流れる汗を肌に感じながら、声と共に矢を放ったのだった。







第16話でした。
なんかスゴイこと言ってます。



←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送